第32話 【Sideアンリ】緊急事態
アンリ視点のお話です!
「『戦鬼の大剣』の方々ってまだ王都にいるはずですよね?」
「ええ。冒険者ギルドの本部からの処分を待っている身だから、残ってもらってるのよ」
「そうですか」
私は直属の上司にして、第六班の副班長であるシーナさんと一緒に城下町の巡回に勤しんでいる。
先ほど、私が『戦鬼の大剣』と言う同じ班の一員であるリュウトさんが所属していたパーティの冒険者二人が路地裏に入っていく姿が見えた。
何故って思いもしたが、深追いしよとせず、仕事せんばかりに気持ちを切り替えた。
「そう言えば、『戦鬼の大剣』の皆さんはともかくですけど、合同調査プロジェクトに参加されていた冒険者パーティの方々は既に王都を発ったのですか?」
「Sランクパーティ『夜天の宝剣』の皆様は聖女のソアラ様が王都周辺の結界を張り直す際の護衛に同行しているからまだ残っているけど、他のAランクパーティ数組はもう出ていると思う」
「そうなんですね。Sランクパーティ『夜天の宝剣』の方々については私も耳に挟むことは何回かありますけど……」
「Sランクパーティ『夜天の宝剣』はあたしが冒険者になってすぐの頃だったかな?リスクレベルSSのブラックドラゴンを倒したとかでSランクに昇格したんだよ!その時の話題性や勇名なんてそれはそれは!」
「は、はぁあ……」
かつては冒険者だったシーナさんがいつになくテンションを上げながら、私に語っている時だった。
「「「「「うわぁあああ!」」」」」
「「「「「キャァアアアア!」」」」」
「「ッ!?」」
「今の爆発音?アンリ!行くわよ!」
「はい!」
私はシーナさんと一緒に爆心地へと駆けて行った。
それから間を置かずに二度目の爆発音が響いた。
少し走った後に目に飛び込んだのは……。
「これは?」
「な、何ですか?これ……?」
城下町の中心地にある繁華街のような場所でいくつかの建物が滅茶苦茶に破損し、大なり小なりだけど、多くの怪我人や恐怖に惑う人たちの悲鳴で溢れ返る現場だった。
一部の建物は火災に見舞われ、叫び声を響かせながら逃げ惑う国民たち、正に阿鼻叫喚の状況だった。
「何にしても、これは?」
「シーナ副班長!」
「あっ、皆!来てたの?」
「はい!何事かと思って来てみれば、このような状況になっていまして……」
そこには同時刻で私たちとは違う場所を巡回していた遊軍調査部隊の別班の隊員たちもいた。
爆音や騒ぎを聞いて駆けつけたらしい。
「まずは逃げ遅れている人たちの避難誘導をして!それから騎士団に応援要請と、怪我人を受け入れるための要請、可能な限りでいいから怪我人の応急処置もお願い!」
「「「「「ハッ!」」」」」
「アンリ!あたしたちもやるわよ!」
「承知しました!」
この場にいる隊員の中では年齢も地位も一番上であろうシーナさんは迅速に役割分担をしながら、他の隊員たちに指示を飛ばしていった。
一班の副班長としてもあるだろうけど、かつては冒険者をやっていたキャリアから、イレギュラーな場面や目まぐるしく変わる現場を経験したこともあってか、スムーズに対応しているのが分かる。
シーナさんを中心に私を含めた隊員たちも淀みなく行動できている。
その時だった。
「え?」
「アンリ、どうしたの?」
「いえ、この人たち……」
「うぅ……うぅ……」
「ぐぅう……」
ふと見つけたのは傷を負って呻く男女一人ずつの冒険者らしき人物であり、よく見てみると、私もその顔には覚えがある。
「この二人、『戦鬼の大剣』の戦士と魔術師じゃない!」
シーナさんの言う通り、倒れているのは『戦鬼の大剣』に所属している冒険者だった。
二人共ボロボロで……特に男性の方は身体に裂傷だけでなく、左腕が千切れそうなほどに一刻を争う状態だ。
女性の方も頭部から血を流しており、こちらは男性ほどのダメージを負っていないものの、すぐに応急処置しないと危ないのが分かる。
「大丈夫ですか?」
「うぅ……あんたたちって、騎士団?」
「はい!エレミーテ王国騎士団遊軍調査部隊の一員です!」
「大変なの。ガルドスが……ウチのパーティのリーダーが……」
女性が消え入りそうな声を絞り出していた時だった。
「「「ハッ!」」」
(このプレッシャー。まさか?)
「アンリ!他の隊員と協力して、倒れている二人を安全な場所へ!」
「は、はい!」
異質と言っていい殺気を気取ったシーナさんは険しい表情で私に指示を飛ばすと同時に、ロングナイフを抜いて構えた。
舞い上がる土煙から現れたのは……?
「ハァア……」
「ガルドス……」
「え?」
女性が呟いた名前を聞いて、リュウトさんがかつて在籍していた『戦鬼の大剣』のリーダーをしている人物であると思い出した。
その女性が向いた視線の先に一人のいるのは、魔物って一瞬だけ思った。
「あっ。あれって……?」
「リュウト……」
だけど、ダンジョンや森林とかで遭遇するような魔物じゃないのは一目見て分かった。
私も勇者譚や騎士団で保管されている資料で読んだことはあるけど、間違いない。
黒を基調に染められた髪と肌、暗闇のような禍々しさを感じさせる眼、肌のあちこちに不規則に散らばる赤くくすんだ紋様。
目の前にいる存在を確認できた瞬間、魔族と直感させるには十分過ぎた。
(この姿は?)
「リュウト……どこにいやがる?」
「くっ!」
私は咄嗟に弓を引きながら構えたけど、魔族となったガルドスさんが私たち睨んだ時にこう思った。
恐い。ただ、恐い。
必死で抑え込もうとした腕の振るえがほとんど止まらず、足もすくんでしまう。
武器を構える他の隊員たちも恐怖を植え付けられたかのように身体が硬直してしまっている。
逃げ出したくても、身体が思うように動いてくれない。
「ハァア!」
「むぅう!」
「コイツはあたしが引き付ける!全員!撤退しなさい!」
「シーナ副班長?」
瞬間、シーナさんが炸裂弾を投げ付け、続いて私たちに撤退を進言すると同時に自らが殿を買って出ようとしたのだった。
「そんな。でも、それだと———」
「でもじゃない!これは命令よ!あなたたちは逃げて騎士団にこのことを伝えなさい!あたしは上手くやるから!」
「うぅう……」
シーナさんだって分かっている。
まともにやっても勝ち目が無いことくらい。
それでも、部下たちを守り、逃がして情報を騎士団に持ち帰らせて増援や対策を講じる道を選んだ。
「スクロールリリース!プロバケーション!」
「ぐぅう!」
(俺の意識があの女に!)
「早く行って!」
私の懸念をよそに、シーナさんは挑発効果のあるスクロールでガルドスさんの注意を一身に惹きつけていく。
そこから振り回す剣による攻撃をシーナさんは辛うじて躱し、捌いていく。
「シーナ副班長……。必ず応援を連れてきますので、それまでご無事でいてください!」
私は叫びながら、涙を呑んでその場を走り去った。
前だけを見て必死に走っていたからよく分からなかったけど、現場を去ることができたシーナさんの表情は少しの微笑みを見せていた。
まるで、「あなたが逃げられて良かった」って伝えたいかのように……。
◇———
「はぁ……はぁ……」
「おいクソアマ!さっきから炸裂弾や煙幕を交えた狡い攻撃ばかりしやがってよぉお!めめっちぃいんだよ!」
「いいのよ。部下を逃がして応援を呼び出せれば御の字だからね」
私が逃げて一分が過ぎようとした頃、シーナさんはガルドスさんを釘付けにするために粘ったものの、戦況は相当悪かった。
炸裂弾や煙幕を交えた搦め手でダメージを与える作戦も、魔族と化した相手には大した効果が見込めなかった。
頬や腹部をザックリ斬り裂かれ、身体中には多くの剣傷が刻まれているシーナさんは既にボロボロだった。
「リュウトはどこだ?教えろよ」
「知らないわ。仮に知っていても、教えてあげる義理は無いわね」
シーナさんは強がりながらも、口から血を流している。
「ならば、お前を人質にしてリュウトを炙り出してやるよ。そうすりゃあの野郎、嫌でも飛び出てくるぜ!」
「くっ!」
卑劣な方法でリュウトさんを誘き寄せようとするガルドスさんは悪辣さを滲ませるような醜い顔を覗かせる。
「まずはお前の身体の一部でも落とそうかな?抵抗されるのも面倒なのと、あの野郎を煽る意味でよ!」
「ッ!」
シーナさんが凶刃を受けようとするその時だった。
「グッ!グガァアア!」
(何だ?爆発?これは一体?)
「シーナ副班長!」
「ッ!?」
不意に二本の矢がガルドスさん目掛けて飛来し、受けた剣を通じて爆発が起き、硝煙が辺りを包み込んだ。
すると、一人の男性の声が響き、シーナさんを抱え上げる形でガルドスさんを引き離した。
「いない?どこに?うぉ?」
少しすると、弓を持った一人のレンジャーが立っている。
「ハハッ!まさかお前の方から来てくれるとは運が良いぜ!人質を取る手間が省けたぜ!」
それを認識したガルドスさんは歓喜したような表情を見せた。
そこにいたのは……?
「なぁあ!?リュウト!」
他でもない、リュウトさんだった。
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