第27話 破魔光の矢
「む~~~」
「どうしたの?トロン?」
「おぉ、アンリか?」
遊軍調査部隊の隊舎のデスクで書類を作成しながらどこかぼんやりしているのはトロンであり、声を掛けたのはアンリだ。
現在、エレミーテ王国騎士団遊軍調査部隊の一部メンバーは数組の冒険者パーティと合同調査に出向いている。
そのため、隊舎に残っている人数の数はまばらであり、いつも以上に静かな空気になっている。
「選抜メンバーに選ばれた人たち大丈夫かなって思ってたんだ。分かるだけの話だと、かなりハードな要素もあるとかでさ……」
「それは私も知ってる」
参加するメンバー以外に直接伝えられてこそいないが、その面々から噂話の意味で不参加の隊員たちにも漏れ聞こえてしまっているようであり、単なる噂だと一笑に付する者もいれば、本当なのではないかと考えている者までいる。
アンリとトロンは後者のようだが。
「だとしても、今はおね…ソフィア副隊長やモーゼル隊長らを始めとする参加している面々の活躍とか、無事に戻って来ることを祈るしかないよ。現場に行っていない私たちがいちいち気にしていても、仕方ないよ」
「そうだけどさ」
「それに……」
「それに。何だよ?」
「うぅん。何でもない!」
アンリは他にも何かを言いたそうな素振りを見せたものの、それ以上は言わなかった。
「ふぅう……」
(お姉ちゃんやモーゼル隊長もだけど、何かトラブルが起きたとしても、きっと大丈夫よ。Sランクパーティを始めとする冒険者の皆だっているし、何より……。リュウトさんだって、一緒にいるんだから!)
そんな風に思いながら、クーフェに注がれているマグカップに口を添えるアンリだった。
◇———
二体のキメラが咆哮を放ったのを皮切りに、戦闘へと雪崩れ込む。
「これは?」
「またヤバそうなのが出てきたわね」
「ふふふふ。そう、この二体のキメラは私が改造を施した作品の中でも最強レベルなのです!魔族の魔力による能力の底上げされたキメラの力、とくと味わって下さい!」
「「ギギャァアアア!」」
辺りが震えそうな迫力だ。
一体はリスクレベルSのケルベロスを基に、もう一体は同じくリスクレベルSのカイザーオークを基にしたおぞましい風貌をしており、心胆を否応なしに寒がらせる。
特にケルベロスの方は中遠距離攻撃のレーザーまで放ってくるため、厄介さに拍車を掛けてくる。
あえて名前を付けるならば、ケルベロスキメラやカイザーオークキメラと称するのが分かりやすいだろう。
少なくとも、リスクレベルの高さで言えば、S以上があるのは間違いないだろう。
実際に苦戦を強いらされていた。
身体中のあちこちが強力な魔物のセールスポイントとなるであろう一部のそれぞれが一つのキメラになったその恐ろしさは想像以上だった。
俺たちが不利の意味で均衡が続くと思った。
だけど……。
「スクロールリリース!ホーリーシールド!」
「むっ!?」
「スクロールリリース!ライトバインド!」
「グゥァアア!?」
「何?」
(何の準備も無いままで挑んだらの話だけどな!)
次々と響くのは聖属性を伴ったスクロールの発声であり、キメラの攻撃を防ぎ、その身体を拘束させて留めんばかりの魔法だった。
「何だ?キメラたちの動きが止まった?何故だ?」
「俺たちとて、魔族が絡んでいるって話を聞いている時点でいくらか対策や準備しっかり整えているんだよ!」
「何だと?だが、ここまでの対抗策をこうも揃えているなんて情報は聞いてないぞ!」
「仮にも科学者を名乗るんだったら、天敵になるかもしれない要素の対抗策の一つは講じるべきだったな!」
そこからは俺たちに戦局が傾いていった。
魔族の魔力を纏っていたキメラ二体は抵抗をし続けていたものの……。
「「ゲギャァアアア!」」
「くっ!」
(しまった!聖属性を伴った魔法の耐性についてまでは考えきれなかった!勇者や聖女以外で明確な対抗策を一介の戦闘者がそれを備えていることまで想像すらしていなかった!しかも、一人一人がそのスクロールを使うだと?とんだ計算違いだ!)
ゲルデズは「しくじった!」と言わんばかりの厳しい表情を見せながら、物陰に潜んで何とか打開策を見出そうと策を巡らせている。
「動きが止まった!一気に攻めろ!」
「「「「「ハッ!」」」」」
ゾルダーさんの指示でレンジャーは弓矢を、シーフは炸裂弾の付いた投擲用ナイフを駆使して二体のキメラに確実なダメージを与えていく。
冒険者パーティの魔術師たちもそれぞれの魔法で加勢している。
「リュウト!」
「はい!」
トドメを刺すには頃合いと判断したゾルダーさんの指示で俺は“破魔光の矢”を取り出し、弓を引く。
ゾルダーさんも矢筒から“爆撃の矢”を早撃ちでカイザーオークキメラの身体の鳩尾部分を撃ち抜くと、その中心で爆発させた。
「ガァアア!」
「ここだ!」
「ギィアアアアア!」
放たれた矢はカイザーオークキメラの心臓部に当たるコアに命中した。
すると、矢が刺さった箇所からカイザーオークキメラの身体を包み込んでいくようにどんどん広がっていった。
そして、数秒に渡って響くけたたましい悲鳴と共にその身体は塵と化すのだった。
「お前にもな!」
「ゴギャァアアア!」
「おぉお!キメラが!」
俺は他に相手取ってくれているケルベロスキメラのコアにも“破魔光の矢”で射貫き、こちらも同様に散っていった。
「ば、馬鹿な?いくら聖属性を伴った魔道具があるとは言え、私の作品がこうもあっさりと……。有り得ない……」
信用に足るだろう配下の魔物を想像以上に容易くやられてしまっている状況を見て、顔を随分と青くしている。
それから次の刹那。
「ウォオオオ!」
「な!?」
そこに現れたのはモーゼル隊長やソフィア副隊長、Sランクパーティ『夜天の宝剣』を始めとする冒険者パーティの面々だった。
その中には、途中で分断されたセアラ様の姿もあった。
「形勢逆転だな!ゲルデズ!」
「あっ。あぁ……」
(他の魔物はあの二体の生命維持の意味で餌にしてしまったし、手駒となるキメラが手元に無い。奥に戻って他のキメラを補充しなければ!)
「うわ~!助けて~!」
自慢の配下であっただろう二体のキメラがやられてしまい、状況の悪さを悟ったゲルデズは奥の部屋に逃げ込もうとした。
「逃がさねえよ」
「ぐわぁあああ!」
俺の速射で放たれた矢はゲルデズの右大腿部を深々と貫き、その身体はうつ伏せに倒れ伏した。
ゆっくりと歩み寄る俺を見たゲルデズは最初に出会った時に見せた余裕そうな振る舞いから一転、酷く怯えた表情を見せるのだった。
俺は淡々と弓を引き、狙いを胸に定める。
「や、止めてくれ。命だけは……」
「これで終わりだ。じゃあな」
「ギャァアアアアアア!」
そして、俺はゲルデズの命乞いの言葉を一切聞こうとしないままに、心臓を“破魔光の矢”で貫き、断末魔の後にその身体は塵となって消えるのだった。
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