第22話 【Side選抜メンバー】それぞれの備え
モーゼル⇒ソフィア⇒ゾルダー⇒シーナ⇒リュウト目線のお話です!
エレミーテ王国騎士団と冒険者ギルドとの合同調査プロジェクト。開始前日。
「よし。基本的なフォーメーションはこれで良しってことでいいな?」
「はい。本番に備えて用意されている備品の最終確認を済ませておきました」
「じゃあ、明日は頼むぞ」
「承知しました」
最終チェックを行っていたのはエレミーテ王国騎士団遊軍調査部隊の隊長を務める俺と同部隊の副隊長であるソフィアだ。
隊長専用の執務室で必要事項を見直している俺とソフィアは今回のプロジェクトにおける総司令のポジションを担う。
故に、その責任は重く大きい。
「ソフィア。気負い過ぎるなよ。お前はいかんせん、何かと背負いがちなところがかなりあるからな。手加減していいなんて言うつもりは無いが、要所で力を抜くことも大事だぜ」
プレッシャーがのしかかっているのは確かだが、四六時中ピリついた空気を張りっぱなしでいるとここぞって時にベストなパフォーマンスを発揮できない。
俺はなるべくフランクな物言いでアドバイスした。
「可能な限り努めます。では、私自身の最終調整もしておきたく思いますので、これで失礼します」
「おう」
そう言ったソフィアは部屋を後にするのだった。
「私自身の最終調整ねぇ。それじゃ、俺もやるとするか!」
俺も仕上げに掛からんばかりに奮起するモーゼルもまた、自分の部屋でトレーニングに励むのだった。
◇—————
「ふぅう……」
ソフィアは屋外の訓練場で弓矢を射ており、弓術の稽古に励んでいる。
既に数十発撃っているものの、的を中心点から少なからず離れているところに当たっており、どこか精彩に欠けている。
緊張していないと言えば、嘘にはなってしまう。
「魔族が絡んでいるからかな?」
そう、明日潜るダンジョンは魔族特有の瘴気が確認されており、最初にそれを知った時は驚くしかなかった。
有象無象のならず者ならばともかく、人類の敵と言われる魔族の力や恐ろしさはその比ではない。
そんな恐ろしい相手を前に、引き連れる部下や協力してくれる冒険者を守らなければならなくなる義務が生じる。
Sランクの冒険者パーティもいるとは言え、私の方にその重圧が圧し掛かる。
そんな時だった。
「お姉ちゃん!」
「アンリ?」
訓練場に響いたのはアンリだった。
私が所属する遊軍調査部隊の一員であると同時に、年の離れた私の妹だ。
「お姉ちゃんが訓練場にいるって他の人から聞いたの。これ、差し入れ」
「ん?」
アンリが差し出したのは飲み水と滋養強壮に良く効く干し肉だった。
「ありがとう。これを届けるためにわざわざ?」
「うん!あれ?」
「何だ?」
するとアンリが屈託の無い笑顔を見せたと思えば、何かに気づいたような仕草も見せた。
「お姉ちゃん。明日のことで緊張しているの?」
「え?そんなことは別に……」
アンリにそう言われて自分で自分の身体周りを咄嗟に確認すると、自分の手が僅かに震えているのに気付いた。
「緊張ではない!武者震いだ!」
「その割には当たっている矢が中心から外れているけど?」
「ぐっ!」
アンリも私と同じレンジャーだ。
矢の当たっている場所で私がどんな状態で撃っているかくらいは想像できてもおかしくないか。
「あのね。私の前だけでも素直になって欲しいよ」
「え?」
するとアンリが私にそう言った。
「いつもは強くて気丈なお姉ちゃんだけど、今なら分かるよ。明日のプロジェクト、凄く大事で命も懸かっているんだよね?漏れ聞こえている噂や今のお姉ちゃんを見ていたから」
「……」
「本当はね。凄く危険な場所に潜り込むんだって分かると、本心ではそんなところに行って欲しくないって思っているの。でも、お姉ちゃんは遊軍調査部隊の副隊長。やるとなったら、どこへでも行っちゃうんだよね?」
「うん」
「でも、きっと上手くいくよ。モーゼル隊長もいて、Sランク冒険者パーティもいて、聖女様も付いてくれるなら、心強いって思える。何より、リュウトさんもいるんだから、できるよ!後はお姉ちゃんが自分を信じればいいだけだよ!」
「アンリ……」
アンリの言葉に少しずつ、私の中にある決意が固まり出していく。
明日のためにしっかりと計画を練り上げ、陰で鍛錬も重ねてきた。
頼もしい仲間や同志が一緒ならば、恐れる必要なんてどこにもない。
私は徐に、アンリの側に寄り添って抱きしめる。
「ありがとう。お陰で、私の中にある自信が芽生えてきたよ。明日は良い結果を持って帰るだけでなく、生きて戻って来るよ」
「うん!頑張ってね!お姉ちゃん!」
私は再び稽古を再開し、弓を構える。
集中して放った矢は吸い込まれるように、綺麗に中心へと突き刺さった。
◇—————
「いよいよ、明日は重大なプロジェクトか……」
俺は騎士団の寮の自室で弓の手入れと必要な消耗品の整理をしている。
いつもならば遊軍調査部隊の第六班の班長として班のメンバーを束ねるのだが、今回は俺自身が一メンバーとして参加する。
班を束ねて率いるプレッシャーが無いのは確かだが、それでも、別のプレッシャーはある。
「魔族との戦闘も考えなければな……」
潜ろうとするダンジョンの調査において、魔族が関係していることが判明した。
魔族はそんじょそこらの魔物よりも相当強く、個体によっては遊軍調査部隊の全員でかかっても勝てる望みが低いのもある。
もしもやり合うことになれば、どんな被害が生じるか分からない。
命も危ないだろう。
「俺ならば、いや、俺たちならばできる」
俺は息を整えて、本番に向けての準備を再開するのだった。
◇—————
「久しぶりの大型プロジェクトか~。緊張するわ」
あたしは自分の部屋で得物のロングナイフを磨いていた。
それから不意に自分が着ている遊軍調査部隊の隊服に視線を送った。
「今思うと、このあたしが騎士団の一員になっているとはね。冒険者時代のあたしが見たら、どんなリアクションをされていたことやら」
あたしは五年前までの二十一歳、Bランク冒険者だった。
当時のあたしはBランク冒険者パーティの中でも、「Aランクに最も近いパーティの一つ」なんて言われていた。
だけどある日、イレギュラーな形で当時のあたしたちでは手に負えない魔物と遭遇してしまい、そのせいであたしの他の仲間たちが大怪我を負った。
報せを聞いたエレミーテ王国騎士団が冒険者と合同でその魔物は倒したものの、あたし以外のメンバーは怪我が元で酷い後遺症を残したり、トラウマとなったことを理由に冒険者を引退してしまった。
実質、パーティは解散となってしまった。
これからどうするかに悩んでいた時、懇意にしていたギルドの職員からエレミーテ王国騎士団遊軍調査部隊の仕事を紹介された。
「今のあたしも悪くないんだよね」
冒険者時代の実績もあって、何とか合格して入隊した。
遊軍調査部隊には冒険者の経験がある者も結構いただけに、馴染むのに時間はかからなかったけど、最初は苦労した。
だけど、当時第六班の班長だったソフィア副隊長から仕事のやり方から礼節まで、徹底的に仕込まれた。
今思い出しても、冗談抜きでスパルタだった。
それでも、指導してくれたお陰で水準くらいの礼儀作法を覚え、実力を高めるための鍛錬も欠かさずに励んだ。
必死で仕事を覚え、強くなっていったあたしは去年、第六班の副班長となった。
その時の嬉しさは今でも鮮明に覚えている。
かつては冒険者だったあたしがお国のために頑張る騎士団の一員、それも一つの班を束ねる立場になったのだから。
「そんで今回は、冒険者たちと合同調査ってか。やってやろうじゃん!」
あたしは愛用の隊服の前に立ち、自分を奮い立たせるのだった。
◇—————
「騎士団に入って一カ月にして、でかい仕事が回ってくるとはな……」
俺は窓に映る月夜を眺めながら呟いた。
明日は遊軍調査部隊と複数の冒険者パーティで件のダンジョンに挑む。
今回は魔族も関係しているかもしれないとして、エレミーテ王国が誇る聖女の一人であるセアラ様も同行することが決まっている。
心強い限りだと思っている。
「冒険者から騎士団の一員になって、大仕事に携わると思ったら、あいつらと再会するなんてな」
今回のプロジェクトに参加する冒険者パーティの中にはかつて俺が在籍していたAランクパーティ『戦鬼の大剣』も参加しており、ガルドスやリリナを含む元メンバーと再会した。
その中には俺の後任であろうシェリーと言う女性レンジャーもいた。
リリナと久しぶりの会話でパーティ事情が大きく変わってしまったことも知ってしまっただけに、複雑な気持ちを抱いている自分もいる。
本番で厄介なことが起きないことを祈りたくもあると同時に、無事でいて欲しいと願う自分もいる。
「まあ、これも数奇な運命ってモノなのかね?けど、俺は俺のやるべきことを……成すべきことをやるだけだ」
今の俺はAランクもとい、一介の冒険者ではない。エレミーテ王国騎士団遊軍調査部隊の一員であるリュウト・ドルキオスだ。
明日は大仕事になるから、ベストを尽くすことだけは忘れない。
そう決心した俺は部屋の明かりを消し、明日に備えて就寝するのだった。
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