第18話 【Sideリリナ】本音と後悔
リリナ視点のお話です。
リリナの過去も明かされます。
「はぁあ……。シェリーが加入してから、悩みが尽きなくなってきたな。降格の危機は避けられたのは良かったんだけどさ」
夜も深まる時刻、私は『戦鬼の大剣』が拠点にしているパーティハウスの自室にて、にべもなく呟いたのだった。
実を言うと、最近までの『戦鬼の大剣』はAランクパーティでありながら、Aランク向けの依頼どころか、Bランク向けの依頼も覚束ないほどに成果を挙げられていないことが多くあった。
理由は新参メンバーであるシェリーの前任レンジャーであり、私と同時期に冒険者となって『戦鬼の大剣』へ加入したリュウトの脱退がきっかけによるものだ。
リュウトがいなくなってしばらくした後、シェリーが新メンバーになるまではAランク向けの依頼は当然のごとく失敗が続き、私とガルドス、ビーゴルとアキリラの四人体制ではBランク向けの依頼を失敗するようにもなってしまった。
一時はランクの降格や空中分解の危機に瀕していたけど、シェリーが入ってからは持ち直すに至った。
それでも、Aランク向けの依頼は成功と失敗のループからは抜け切れず、資金や体裁を保つ機会が欲しくなった時に割りの良いBランク以下の依頼を受けるパターンも珍しくなくなった。
記憶の限りだと、リュウトが在籍していた時はAランク向けを含め、依頼に何度も連続で失敗することはなかったし、少なくとも成功率は今よりもずっと良かった。
「アキリラが不満を抱くのも分かるわ~」
シェリーはレンジャーどころか、数多いるだろう女性冒険者の中でもどこか異質と思いたくなりそうな美貌をしており、それもあってか、『戦鬼の大剣』の広告塔のような役割を担い始めている。
ガルドスもガルドスで、シェリーの存在をいろんな意味で重宝しているからか、彼女をやたらと贔屓するようにもなっている。
だからなのか、ガルドスが『戦鬼の大剣』を起ち上げた時からの仲であるアキリラも不満を隠し切れなくなり始めている。
そんな要素が重なっているせいで、今の私たちは「以前よりも軽薄な感じのパーティになっている」や「美人レンジャーを筆頭にしたアイドル的な女性冒険者を抱えるパーティ」と、面白おかしく吹聴されるようになっており、中には「こんなに安定しないAランク以上のパーティは久々に見た気がする」や「数あるAランクパーティの中では弱い部類」なんて批判的な評価も出ている。
「リュウトが辞めてから、いろいろおかしくなってきちゃったな」
『戦鬼の大剣』を結成した頃よりも大きく変わってしまった。
メンバーも。それぞれの扱いの差も。雰囲気も。外部からの評判も。
自分にとって理不尽に近い扱いを受けても尚、私には冒険者を……もとより、今の状況下になっても『戦鬼の大剣』に居座り続ける大きな理由がある。
「これからどうしていくべきだったのかな?お姉ちゃん」
それは……私にとって唯一の肉親である、姉の存在だ。
◇—————
私が生まれたのはどこにでもあるような大きすぎず、小さすぎない、華やかさとは縁遠いながらも、資材も緑もそれなりに豊かで暖かさの溢れる良い町だった。
私はその町の中では比較的裕福な家庭で生まれ、両親と五つ上の姉と暮らしていた。
姉は魔術師として高い素養に溢れながら、自分の才能を誇示することもなく、誰かのために力を尽くせる献身さを併せ持ったとても立派な人格者であり、自慢の姉だ。
両親はもちろん、私も姉のことは心から尊敬しているし、大好きだ。
だけど、私が十歳の時に悲劇が起きた。
私の姉が難病に罹ってしまったのだ。
少なくとも、一介の町医者では手の施しようがない病であり、エレミーテ王国でもトップレベルの医療にしても、他国でその治療ができる可能性のある医者に診てもらうにしても、莫大な費用が掛かってしまうことを知った時は強烈な絶望感が襲った。
町の中ではお金に余力がある家庭なのは確かだったけど、それでも到底まかないきれないため、両親は望みを懸けて働き、売れる物を売ってはお金に換え、周囲に助力を求め、どうにかして資金をかき集めた。
どのような病気も治し、四肢が欠損しようとも、命辛々でも飲めば確実に治る“エリクサー”にはとても及ばないにしても、最高峰に次ぐ性能を持つポーションを手に入れ、それを摂取した姉は峠を越えた末、病気が治った。
でも……。
「ご臨終です!」
「お母さん!」
しばらくして、大好きだった父が。その後を追うように母が亡くなった。
医師からは治療費を工面するため、働き通しから来る心労から来る病気によるものだと伝えられた。
まるで、両親の命と引き換えに姉が救われたようだった。
両親が死んだのは辛かったけど、大好きな姉とまた一緒に過ごせるようになり、弱った身体が原因でやれることは限られてしまったものの、姉は町に住む人たちのために頑張ってくれた。
そんな姉に報いれたらって思い、魔術の勉強を必死に頑張り、十五歳になった私は冒険者となるために生まれ育った町を出た。
姉は快く送り出してくれた。
旅立つ時に強く暖かい抱擁を躱したあの温もりは昨日、いや、ついさっきまでのことのように覚えているくらいに私の中に残っていた。
それからすぐにリュウトと出会い、同じタイミングでガルドスが率いる『戦鬼の大剣』へと加入した。
皆の……。特に同期であるリュウトの頑張りや有能さもあって、二十歳になった頃にAランクへと昇格し、お陰で十分な仕送りができていた。
リュウトは大切なパーティメンバーであり、良き相談役でもあり、一緒にいると心地良い気持ちにさせてくれる掛け替えのない人だった。
だけど、ある時。
「え?病気が再発した?」
リュウトが抜けることを決める数カ月前くらいだったかな?
治ったはずの姉の病気が再発した報せを町の人が送った手紙で知ることになった。
ガルドスに無理を言って故郷に戻り、弱った姉の様子を見た時は私も呆然とした。
それからは根治を目指した延命治療による姉の闘病生活が再び始まってしまった。
その時の私はAランクパーティの仲間入りをしていて、高額な報酬が生まれる依頼を達成しては可能な限りだけど、姉の治療費に充て続けた。
お金と共に、「きっと完治する時が来るから、死にたいなんて思わないで。私もお姉ちゃんが大好きだから」って手紙でしたためる形ながら、励ます時もあった。
ガルドスを含むメンバーは私に姉がいることを知っているものの、それで深掘りされるようなことは無かった。
でも、自分の家族の問題のために周りへ迷惑を掛けるようなこともどうかと思ったのもあり、仲間やギルドに姉のことを相談できなかった。
遂にリュウトは『戦鬼の大剣』を抜けることになってしまい、私はガルドスの機嫌を損ねてしまわないように振舞うしかできなかった。
リュウトの肩を持ったせいで扱いが悪くなり、分け前を下げられるのを……。姉の治療費が確保できなくなってしまうことを恐れたから。
故郷の人たちから定期的に送られる手紙で姉の安否確認ができているから、まだいい。
だけど、リュウトが抜けたあの日、今となっては後悔している。
例え私まで扱いが悪くなってしまう結果になったとしても、リュウトを引き留めるべきだった。味方でいるべきだった。
その後悔の念は日を追うごとに強くなってしまっている。
この気持ちはきっと……。私の中から消えることはないのだろう……。
◇—————
今となっては後悔する結果だけど、冒険者である以上、自分で選んだ道は自分で責任を取るのが筋と言うモノだ。
そんな現状になっても、自分でも分かり切っているとしても、私は心の胸中を静かに吐き出したくて仕方がなかった。
「リュウト。会いたいな」
そう呟きながら、私は人知れず、力の無い声を発することしかできなかった。
◇—————
「皆!聞いてくれ!」
翌日、ガルドスは書類を片手に私たちの下に現れた。
その内容はこうだった。
「近々、エレミーテ王国騎士団と複数のSランクやAランク冒険者パーティとの……。大規模で重要なプロジェクトが始まるらしいんだよ!参加しようぜ!」
「え?」
エレミーテ王国騎士団と各地で活躍する高ランクの冒険者パーティが手を組むこと自体は珍しい話ではない。
だけど、しばらくその話が巡ってないだけに、これまた意外なことだって思う自分もいる。
話し合いの結果、成果や貢献度次第では高額な報酬とSランクへの昇格も見えてくる要素もいくつかあるのもあり、参加を決めた。
もしも、リュウトが他のAランク以上のパーティに加入していて、参加しているならば、また再会できるかもしれない淡い希望を抱きながら……。
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