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ブラックな冒険者パーティを脱退した俺は自由気ままに誰かの役に立ちます~このレンジャー、いろんな意味で凄かった件~  作者: カワチャン
第三章 魔王軍との戦い、本当の意味での死地へ

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第119話 それぞれの備え

 魔族領の最奥にあろう、永遠の黄昏と死灰色の雲に閉ざされた暗黒の地に沈みながら、寒気を帯びた石造りの城壁。

 その内部にある不自然なほど天井の高い広間は遠い昔の全盛期、数十の幹部が居並び、血の沸き立つような軍議が交わされていた場所だが、今の空間を支配しているのは蝋燭の炎が爆ぜる音と凍てつくような虚無感だけだった。


「……この席で開く会議も、随分と寂しいものになってしまったなぁ」


 玉座に深く背を預け、自嘲気味に呟いたのは現代の魔族のトップである魔王リザエラだ。

 彼女は眼下に広がる長机を見渡すと、わずか三人の影が鎮座している。


「まさかまさか。あのメルミネとシェリーが二人揃って同じ日に屠られるなんてよぉ……」


 沈黙を切り裂くように吐き捨てたのは幹部の一人であるザルヴァだった。

 彼は苛立ちを隠そうともせず、分厚い手のひらを机の上で握り締める。

 メルミネによる外部からの圧倒的な武力侵攻とシェリーが仕掛けた内部からの巧妙な破壊工作による作戦がフォーペウロの王都を、勇者パーティを叩き潰すと信じていたのだ。


「特にメルミネ。あいつはあの魔鞭を使いこなし、魔王軍を強化すれば、勇者ごとき一飲みにできるはずだったんだよ」


 ザルヴァの瞳には同僚を失ったことへの怒りと、それ以上に大きな悔しさが渦巻いていた。


「どうした、ザルヴァ。そんなに悔しいのか?」


 冷ややかな声を投げたのは向かいに座る幹部の中でも最高位にいるバリオルグだった。

 彼は不遜な態度でいながら、感情がこもっていないような瞳でザルヴァに問いかける。


「……悔しいわけじゃねえ。信じがたいって言ってるんですよ。シェリーの隠密性とメルミネの主導、この二つを同時に繰り出したのにあの様なんですから!」

「それは甘い見立てだな。彼女たちは力を過信しすぎた。道具に溺れ、イレギュラーを想定せずに思考を止めた……その時点でこの結果は決まっていたのだよ」

「なんだと……っ!」

「黙りなさい!」


 ザルヴァが腰を浮かしかけたその時、玉座のリザエラが一声を挙げた。

 それだけで、広間の空気が数千トンの重圧に変わったかのように静まり返る。


「魔王様の御前よ。はしたない真似は止めなさい」


 幹部の一人であるメーディルが二人を窘める。


「……ザルヴァの憤りも、バリオルグの分析も、どちらも正しい。だがな、過ぎ去った骸を数えても腹は膨れん。今、我らが優先すべきは勇者パーティ。とりわけ、あのレンジャーの男と女勇者……ヤツらへの対抗策だ」


 リザエラの赤い瞳が愉悦を孕みながら細められた。


「希望の光とならん勇者パーティの根絶こそが、我らの野望の成就の足掛かりとならん!」


 幹部たちの間に戦慄が走った。

 次々と幹部がやられている状況になり、先のことを真剣に考えざるを得なくなっただけにだ。


「だが、恐れることはない。シェリーとメルミネの働きは無駄になどなってはいない。アレも直に完成するからな」

「……リザエラ様。まさか、アレが?」


 バリオルグの声がわずかに震えるのをよそに、リザエラは愉しげに口角を吊り上げながら宣告する。


「ああ。今から楽しみだ。勇者たちが信じる光がどれほど脆くて愚かだったのか。そして、ヤツらに自分たちが殺される味を教えてやろうではないか」


 リザエラの中心からドクンっと、 生き物とも機械ともつかぬ心臓の鼓動のような重低音が部屋響き渡った。


「ハァッ!仰せのままに!」


 バリオルグに続く形でメディールとザルヴァは敬意を示しながら頭を下げる。


「さあ、見届けよう。光が深淵に飲み込まれる、その瞬間をな」


 自分の野望の成就を疑わないばかりに愉悦の笑みを見せるリザエラであった。


◇———


 その頃、フォーペウロの王都であるバアゼルホ。

 訪れた朝の光は、昨夜までの死闘が嘘だったかのように穏やかだった。

 そんな中。


「……というわけなんです」

「なるほど」


 十人程度が座れる椅子と長テーブルだけのシンプルな会議室に集まったのは俺たち勇者パーティとフォーペウロの女王陛下であるエリザナ様と第一王女のレイニース様もいる。

 話の内容は主に魔王討伐に関連することだ。


「魔王軍の幹部を二人も倒せたのは大きいですね。あなたたちにとっても追い風になることでしょう」

「はい」


 エリザナ様の言葉を聞いたシャーロットが静かに頷く。

 魔王軍の幹部、シェリーとメルミネを同時に討ち取ったという戦果は劇的な風をもたらしていた。

 流れが俺たちに傾きつつあるだろう。


「このまま一気に魔族領の本陣を突く。……と言いたいところなんですけど」


 シャーロットは苦笑いを浮かべ、隣で怪訝な顔をしているジャードに目を向けた。

 彼の足元には、先の戦いでひしゃげ、修復不能なほどにボロボロとなってしまった盾が後ろの壁に寄りかかっている。


「ジャードの盾をはじめ、消耗品もかなり消耗しました。……予想外の奇襲だったとは言え、損耗もそれなりにあります。戦いの勢いを殺したくはありませんが、数日の休息と装備の整えが優先となります。無謀な特攻は死を招くだけですので」


 シャーロットの言う通り、このまま魔族領に突入するのは悪手だ。

 沈黙が部屋を支配しながら、それを破ったのは、傍らで思案に耽っていたレイニース様だった。


「お母様、わたくしから一つ」


 レイニース様はエリザナ様の耳元に歩み寄り、静かに言葉を交わす。

するとその瞳が一瞬だけ驚きに揺れ、姿勢を正し、俺たちの目を真っ直ぐに見据える。

 ちなみに、<感覚操作(センス・コントロール)>で聴覚を強化してどんな会話をしようかも考えたけど、不敬罪になりかねないほどに凄く失礼だと思うので止めた。


「皆様、私から一つ提案がございます。準備を整える間、一旦エレミーテ王国へと帰還されるのはいかがでしょう?」

「え……?」


 それを聞いた俺たちは氷魔法で凍結させられたかのようにフリーズするのだった。

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