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ブラックな冒険者パーティを脱退した俺は自由気ままに誰かの役に立ちます~このレンジャー、いろんな意味で凄かった件~  作者: カワチャン
第三章 魔王軍との戦い、本当の意味での死地へ

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第117話 【Sideメリス】高鳴る胸の鼓動

勇者パーティの聖女、メリス視点のお話です!

「隣、よろしいでしょうか?」

「え?あぁ、いいよ」

「ありがとうございます」


 魔王軍の襲撃を乗り切った夜、わたくしたちはフォーペウロの王宮にある客室で宿泊することになりました。

 わたくしが今いる部屋はリュウトさんが泊まっていますが、ある目的のためにここにおります。

 ですが、いつもとは様子が一味も、いや、二味以上も違う空気が流れております。


「「……」」

「メリス、話って一体?」

「あ、あの……。わたくしはその、今回の一件につきましてですね……」

「「……」」


 気まずい。とにかく気まずいです。

 いつもなら、細やかな雑談や旅の予定など、その場を取り繕う言葉の一つや二つは淀みなく出てくるはずでした。 

 けれど、今日に限ってはどういうわけか、言葉という言葉が喉の奥で固まって中々出て来きません。

 ただ、二人の間に流れるいつもとは違う空気が心臓の鼓動を不自然なほど速めていました。


「その……リュウトさん。本日はいろいろとお疲れ様でございました。魔王軍の幹部と、あれほどの激戦を演じられて……本当に、その……」

「お、おう。まぁな。メリスこそ、いろいろと大丈夫か?」

「はい。問題ありません」


 今日三回目になるだろう、戦いの話題。

 後になって判明したことですけど、王都を襲った魔王軍は狡猾でした。

 内部からの工作と外部からの軍勢による挟み撃ち。

 一つ歯車が狂えば、この歴史ある王都は極短い時間で何もかも終わっていた可能性も否定できませんでした。

 その絶望的な状況を覆す一助となったのはシャーロットさんたちの奮闘もさることながら、目の前にいるこの人のお陰であることも間違いありません。

 わたくしは彼がシェリーという因縁ある敵を前に、傷だらけになりながらわたくしたちを守り抜いた姿をこの目で見ました。


「あの時は助けていただけて……わたくしたちも本当に嬉しく思いまして……」

「よせよ。仲間を助けるのは当然のことだよ、メリス」


 屈託のないいつもの笑顔と同時に発せられたその言葉を聞いて、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じます。

 この人はいつもそうです。

 自分の功績を誇るよりも先に、仲間の安否を気にかけ、当たり前のように手を差し伸べる。

 エレミーテ王国の聖女であり、わたくしの実の姉でもあるセアラお姉様から彼の噂はかねがね伺っています。

 お姉様は身内以外の男性にはそれなりに警戒心が強く、滅多なことでは気を許さない方です。

 けれど、リュウトさんの話をするときのお姉様は心なしか楽しそうで、どこか誇らしげだったのです。

 最初は「お姉様にそこまで言わせるなんて」と半信半疑だったけれど、こうして共に旅を続けているうちに、お姉様が信頼した通り、いえ、それ以上の人物であることを教えてくれました。


「リュウトさんは本当に凄い方です」

「ん?急にどうしたんだよ」

「神武具に選ばれ、魔王軍の幹部をことごとく退け、バアゼルホのピンチ……わたくしたちの窮地を救って……。本当に素晴らしい方なんだって、改めて思ったのです」

「……俺一人の力じゃないさ。メリスがいて、皆の協力があったから勝てたんだ」

「ふふふっ。本当に飾らない方ですね」


 少し困ったように頬を掻く彼を見つめながら、わたくしは言葉を紡ぎました。

 あの大聖堂でシェリーが放った不可視の矢がわたくしたちを襲ったとき、死の予感に震えたわたくしの前に、彼は迷わず立ちはだかりました。

 あの時抱いた感情は単なる感謝や敬意だけではありません。

 決着の直前、光に包まれた彼の姿を見たときからわたくしの内側で一つの熱い感情が形を変えようとしている自分がいることに気が付きました。


「……リュウトさん。この機会に一つお聞きしたいことがあるのです」

「ああ、何だ?」


 わたくしはいつになく震える声を抑え、衝動に任せるように問いかけます。


「リュウトさんは……わたくしのことを……どのように思っていらっしゃるのでしょうか?」

「……はい?」


リュウトさんが呆然とした顔で固まりました。

(メリスからこんな質問されるなんて、夢にも思ってなかったぞ……!)


「そりゃ、その……。メリスは同じ勇者パーティの仲間だし、かけがえのない大切な存在だよ。それは絶対に否定しない」

「仲間……。そ、そう、ですか……。ふふ、そうですよね」


 わたくしは少しだけ寂しさを感じつつも、それでも彼が大切と言ってくれたことに胸の痛みを伴うような喜びを感じました。

 これまでの人生、伯爵家の貴族令嬢として育てられてきたわたくしには異性から声をかけられる機会など数え切れないほどありました。

 けれど、誰一人としてわたくしの心の芯に触れる者やこれだって方と巡り合えたことはありませんでした。

 だけど、リュウトさんは貴族でもなければ、特別な地位に置かれた重鎮などでもない方なのに、惹かれずにいられない何かを持っていることを確信しました


「あの……リュウトさん。少しだけ、眼を閉じていただけませんか?」

「え?何でだよ、いきなり」

「……お願いです」

「お、おう……分かったよ」


 わたくしはそうお願いすると、リュウトさんは静かに両眼を閉じます。

 視界を奪われた彼の睫毛が、月光を浴びて微かに震えていた。

 次の瞬間。


「ん、え……?」

「……」


 わたくしは自分の唇にそっと右手の指二本を押し当て、それをまだ温もりの残る指先を彼の唇にそっと添えました。


「……っ」


 指先を通じて、彼の体温が伝わってきます。

 直接、唇で触れることさえ躊躇われるほどの愛おしい熱。

 わたくしは微笑みを浮かべたまま、静かに指を離します。


「……今のはどういう意味なんだ?」


 目を開けたリュウトさんが赤くなった顔で問いかけました。

 わたくしは今にもはち切れそうな心臓を隠すように、優雅に、けれど少しだけ悪戯っぽく微笑んで見せました。


「感謝と親愛の気持ちですよ。……それでは、おやすみなさいませ」


 それだけを言い残すと、わたくしはそそくさと部屋を去りました。


◇———


「はぁ……はぁ……。バレてないよね……?」


 自分の部屋に戻り、扉を閉めた瞬間、一人になったわたくしはベッドに座ると、天を仰ぎ、熱を持った手のひらをそっと胸に当ててみると、絹の衣服越しでも、心臓の鼓動がうるさいほどに跳ねているのが分かります。


「気持ちの高鳴りが、全然……抑えられません……」


 不思議なほど、彼のことが頭から離れません。

 大切な人を守るためなら、命を懸けることも厭わない、本当に強くて、本当に優しい人。

 わたくしは初めて会った頃から彼のことを好ましく思っていましたけど、命を救われ、あの背中で守られた瞬間、わたくしは本当の自分に気づいてしまったのです。


「わたくし……リュウトさんのことが好きなんだな……」


 わたくしにとってのリュウトさんは……単なる仲間という言葉では括れない存在になろうとしていました。

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