第105話 それぞれの戦い
戦いが激しくなります!
「メリス!皆を頼む!」
「ハイッ!」
「シュッ!」
「フンッ!」
俺はメリスと共にバアゼルホにある大聖堂へと駆け付けた。
入るや否や、俺はレイニース様を殺めようとしている女の魔族に牽制の一矢を放つも、女は猫のようなしなやかな動作で身を捩り、紙一重で回避した。
どうにか距離を引き離した隙にメリスがレイニース様や傷だらけになったアルフラド団長を始めとする騎士たちの下へ走る。
彼女の足取りは聖女とは思えぬほど迅速で迷いがない。
「ホーリーシールド!」
メリスが掲げたロザリオから攻撃を防ぐ光の壁を展開した後、ボロボロになっているアルフラド団長に回復魔法であるハイキュアを施す。
「すぐに治療します!」
眩い黄金の光がアルフラドの肩の傷を塞ぎ、砕けた甲冑の下でひしゃげていた筋肉を再生させていく。
「メリスさん。それに、リュウトさんもどうして?」
レイニース様が驚くのは無理もない。
俺たちはフォーペウロから北にある辺境の場所で魔族や魔物の軍勢を迎え撃つのに出向くことを数時間前に決めて飛び出していた。
だが、来ないと思っていたはずの思わぬ増援に疑問を抱くのは当然だ。
「手短になりますが、嫌な予感がしてここへ来ました」
「他の方は?」
「今ここにいるのはわたくしとリュウトさんだけです。シャーロットさんやロリエさん、ジャードさんは予定通り目的地に向かっています」
レイニース様の問いに対し、メリスが治療を続けながら簡潔に告げる
メリスは手短ながら、理解してもらえるように簡潔な説明をした。
不意打ちのように耳の奥まで劈くような轟音が響いてダメージを負いつつ、別の何かが襲おうとしていること。
結界の揺らぎを確認したこと。
起きている状況を鑑みて対処に動いていること
「今ここにいるのはわたくしとリュウトさんだけです。シャーロットさん、ロリエさん、ジャードさんは予定通り目的地に向かいました。戦力を分散させるリスクは承知の上ですが……あの異常な音を聞いて、王都を放っておくことはできませんでした」
「……そうですか。来てくださって、本当に良かった……」
レイニース様の瞳に安堵の涙が滲む。
完璧な不意打ちをするように爆発したような音が響いた後に結界が揺らいだ時、確証は少ないながらも、魔族や魔物の軍勢を迎え撃つための増援に向かう側とバアゼルホの結界を守ることに加勢する側に分かれることがすぐに決まり、俺とメリスは後者に回った
もし俺たちが全員で国境へ向かっていたら、今頃レイニース様たちの命どころか、この王都も陥落していただろう。
大聖堂へ駆けた結果、レイニース様のピンチを救えたに至ったってわけだ。
「それは本当にありがたく思います」
「とんでもございません。今は持てる力でフォーペウロに害を及ぼさんばかりの悪しき要素を排除すべきなのが優先事項だと思いますよ」
メリスはそう言い切りながら、気持ちを切り替えたレイニース様や治療を施されたアルベルト団長は現実と向き直る。
「フンッ!」
「むっ?」
シェリーがふわりと左腕をかざすと、俺は即座に<感覚操作>を発動させ、視力を研ぎ澄ます。
彼女の腕には何も装着されていないように見えるが、空気が僅かに歪んだのが見えた。
「くっ!」
直後、俺が反射的に横へ跳ぶと、二本の不可視の矢が飛来した。
辛うじて躱したものの、矢を番える予備動作も、弓を引き絞るモーションもなかった。
「へぇ、今のを避けるなんてね。やっぱり貴方は面白いわね」
「……」
この妖艶ながらもどこか危険な香りを匂わす気配、歪んだ表情、慇懃無礼な振る舞い、そして何よりも、鼓膜にへばりつくような粘り気のある声。
それを聞いて確信した。
「お前……シェリーか?」
「ええ。風貌が少しばかり変わったけれど、流石はリュウト・ドルキオス。私を忘れていなかったのね?」
腰まで伸びた艶やかながらもどこか暗いすみれ色の長髪、ローブの上からでもわかるほどに強調された、男を惑わす豊満な肢体と美貌。
かつての彼女よりもその存在感は更に禍々しく、より好色な毒を撒き散らしている。
俺が問うと女は……シェリーは臆面もなく正解であると告げた。
「でも、嬉しいわ」
シェリー・ベルローズ。
かつて俺の仲間だった者たちを欺き、親友だった者を地獄に誘った、因縁深い人物。
「……いつか決着をつける日が来るとは思っていたが、まさかこんな場所で……魔王軍の幹部として向き合うことになるとはな」
「あら、私はどこだって構わなかったわよ?私は自分の欲望や野望のままに生きているんだからね」
俺とシェリー。真の敵同士としての因縁の戦いが幕を開けるのだった。
◇———
「ハァアア!」
「フンッ!」
「フリージングスコール!」
一方、シャーロットやジャード、ロリエはフォーペウロから北にある辺境の場所で魔族や魔物の軍勢を迎え撃つ騎士団の第一、第二部隊と合流した。
シャーロットとジャードは剛剣を振るい、ロリエは大量の氷塊を上空から雨あられのように降り注がせ、魔族や魔物たちを蹴散らしていく。
「あなたたちが来ていただけるとは、助かります」
「礼は後よ!元々ここへは私たちが来る予定だったんだから!」
騎士の一人に感謝されたシャーロットは当たり前のように言葉を返した。
虎の頭に蛇の尾、マッドオーガの四肢に歪な翼を持つそれらは魔王軍が禁忌の術で生み出した合成生物キメラたちも含まれており、並の騎士では太刀打ちできない力を誇る。
「天聖斬!」
「地雷斬!」
「「ギャァアアアアア!」」
シャーロットのエクスカリバーから放たれる眩い光を纏った剣閃とジャードの剛剣が放たれると、最前線のキメラ数体が断末魔と共に消滅した。
「あたしも負けてらんないわね!」
前衛の二人に呼応するように、後方でロリエが杖を天に掲げる。
彼女の左右に魔法陣が浮かび上がり、一つは風属性が込められた緑色の魔法陣、もう一つは雷属性が込められた黄色の魔法陣、それらが複雑に重なり合い、巨大な術式へと昇華される。
「テンペスト!」
「「「「「ゴギャァアアア!」」」」」
紫電を帯びた巨大な竜巻が吹き荒び、軍勢もろとも、平原を蹂躙していった。
一撃で広範囲を更地同然へと変えるその破壊力は歩く戦略兵器呼ばわりされても不思議ではなく、こと殲滅戦においてならば、彼女ほど頼れる魔術師はいない。
「ふぅ。タフそうなの以外は概ね全滅できたみたいね」
「ああ、残った残党もさっさと片付けちまおうぜ」
ロリエが額の汗を拭い、ジャードが肩を回して気合を入れ直す。
騎士団の間に「勝てるかもしれない」という希望の空気が広がりかけた時だった。
「んっ!?」
シャーロットは北の地平線を鋭く睨みつける。
「どうしたの、シャーロット?」
「……来るわ。この軍勢を率いているだろう魔族がね」
その低い声にロリエとジャード、騎士たちの表情が瞬時に強張る。
斜め前の上空から漂ってくるのは、さっきまでやり合っていた魔族や魔物たちとは比較にならないほど、濃密で禍々しい魔力と瘴気だった。
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