第102話 切羽詰まった状況
激しい展開が待っています!
「突然の呼び出しに応じていただいたこと、心から感謝します。まずはお礼を申し上げさせていただきます」
円卓の奥で凛とした声を響かせたのはフォーペウロの女王陛下であるエリザナ様だった。
その隣には第一王女のレイニース様、騎士団のトップであるアルベルト団長の他、騎士や政務官数名が揃っている。
その顔ぶれを見て、経験則に照らし合わせても、ただごとじゃない状況であるのは誰に言われなくても分かる。
「魔族領から魔族や魔物の軍勢と思しき集団を偵察に赴いた者たちより情報を得ました。魔族領の境界付近、北方の街道筋において、魔族および魔物の大規模な軍勢が確認されたとのことです。その物量や質を見るに、このフォーペウロを攻め落とさんとする明確な侵攻の意志を感じます」
報告を読み上げる政務官の声は淡々としていたが、地図上に置かれた赤い駒の数は聞いているだけで喉の奥が乾くような圧迫感があった。
話だけ聞いても、俺たちがこれから向かおうとするだろう、魔族が支配する領地にある北から襲撃を仕掛けんばかりの動きを察知した。
準備を終えた後の俺たちから見れば、魔王軍の幹部も一緒に仕掛けてくるならば、それも願ったり叶ったりと思うべきだが、一つの違和感を抱いている。
「だとしたら、このタイミングでフォーペウロに直接攻め込もうとするなんて、おかしい気もするのでは?今までそんな兆候が無かったと思うのですが?」
シャーロットが口を開くと、室内の視線が一点に集まった。
「フォーペウロは四聖女による強固な結界に守られた要塞国家のはずです。それを無視して正面から王都を狙う。何か他に目的があるように思えてなりません」
「その通りです」
エリザナ陛下が沈痛な面持ちで頷いた。
「敵の真意までは測りかねます。ですが、敵軍は徐々にこの国へ向かっています。このまま指を咥えて見ていれば、我が国が受ける被害は計り知れません。聖女たちの結界は守りの要ですが、油断はできません。盾が砕かれる前に、剣を抜かねばなりません」
エリザナ様は淀みなく言い切る。
確かに防衛手段は整えているとしても、あくまでも守りだけが万全であるのは前提であり、危害を及ぼす相手を削ろうとしなければ、消耗戦になってしまうのは明らかだ。
フォーペウロは防衛と攻めを確かな塩梅を保ちながら行動に移すことで守ることができていた。
するとエリザナ様は椅子から立ち上がり、俺たち勇者パーティに向かって深く頭を下げた。
「勇者パーティの力が必要です。本来ならば我が国の騎士団のみで対処すべきですが、この国が陥落するということは、人類の防衛線が崩壊することを意味します。女王の名において、最終的な全責任はわたくしが負います。どうか、お力添えいただきたく存じます」
その所作には一国の主としての矜持と民を想う切実な誠実さが宿っていた。
側に控えるレイニース様やアルフラド団長、他の従者たちも沈黙とともに頭を下げる。
「顔を上げてください」
シャーロットが口を開いた。
「私たちはもともと、今日にも北へ向かうつもりだったので、むしろ丁度いいと思っているくらいなんですよ。是非とも引き受けさせていただきます」
シャーロットはそう言い切るのだった。
俺を含め、メンバー全員が同じ気持ちでいるのが分かる。
「感謝します。勇者パーティの皆様は先行している騎士団第一、第二部隊と合流して戦線の核となってください。魔王軍の幹部が潜んでいる可能性もあります。くれぐれもご自愛を」
こうして話は締めくくられた。
俺たちは早急に王城を飛び出し、その場所へ駆け出す。
「他の聖女たちも動いているでしょう。レイニース、アルフラド。貴方たちは大聖堂へ行くのです。この国の誇りを示してきなさい」
「はい!」
「ハッ!」
エリザナ様の言葉を受けたレイニース様はアルフラド団長が数名の騎士を連れて部屋を出て行く。
残されたエリザナ様は部屋の窓から遠く北の空を眺めていた。
「はぁ……」
「女王陛下、大丈夫でしょうか? お顔の色が……」
「……心配いりません。持ち場に戻りなさい。引き続き、情報の収集と各拠点への指示を徹底するように」
「承知しました」
小さく重い吐息を零し、従者の一人に心配されるエリザナ様であったが、何事もなかったように取り繕った。
しかし、それは単なる激務への疲れではない。
(エレミーテ王国から来た勇者パーティ。我が国が誇る騎士団。そして、四人の聖女が紡ぎ出す堅牢な防御結界。戦力も防備も心から自慢できるくらいに整っている。けれど……何なの?この胸騒ぎは?)
一国の主として、あるいは一人の女性として感じる、本能的な警笛。
窓の外には青い空の中に小さな暗雲が立ち込め始めている。
嵐の前の静けさが、王城を包み込む。
それが単なる荒天の兆しなのか、それとも、世界そのものが変容しようとする前触れなのか。
(嫌な予感がする)
得も知れぬ何かが音もなく勇者たちを、そしてフォーペウロをも飲み込もうとしている。
その時だった。
「女王陛下!至急、お耳に入れておきたいことがございます!」
「何ですか?」
「実を申し上げますと……」
脱兎のごとく飛び込んで来た従者の一人がエリザナ様に一つの報告を伝えた。
「え……?何ですって?」
その言伝を聞いた時、表情が凍り付いていた。
◇———
数分前、王都には自粛要請の伝令が届いた。
「道がやたらと空いているな」
「結界があるにしても、万が一もあるからね」
俺たちはフォーペウロの北側に出向いている騎士団と合流するために馬車で現場に急行している。
昨日まであれほど喧騒に包まれていた王都のメインストリートはゴーストタウンのように静まり返っていた。
窓という窓は固く閉ざされており、住民は一様に家の中に潜んでいる。
行き交う馬車が他の一台も散見されていない分、俺たちの乗った馬車はかなりスムーズに進めている。
「報告によれば、魔物の群れに混じって魔族の姿も複数確認されているそうです」
「幹部も出てくるかしら?」
「この数年で随分と数を減らしたからな。ここで一人叩ければ、追い風が吹くかもしれないな」
もしも幹部まで出張って来たとなれば、苦戦は強いられるかもしれないけど、望むところだ。
「ん?」
「メリス、どうした?何か見えたか?」
隣に座るメリスがふと、荷台の隙間から後方の路地裏に視線を走らせ、その瞳が僅かに細めているところに俺が声をかける。
「あ、いえ、なんでもありません。騎士様ではない住民らしき影がちらりと見えた気がしたのですが……気のせいですね」
「そうか」
(住民の方?でも、胸元に国章が刻まれた官服を羽織っていたような……)
何事もなかったとアピールするようにメリスは取り繕った。
だが、この時に俺たちは気付くべきだったんだ。
「ふふふ……」
フォーペウロを飲み込もうとする真の災厄は堅牢な結界の外ではなく、既に内部でその悪意が動き始めていたことに……。
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