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ブラックな冒険者パーティを脱退した俺は自由気ままに誰かの役に立ちます~このレンジャー、いろんな意味で凄かった件~  作者: カワチャン
第三章

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第98話 【Sideモーゼル】期待と願い

遊軍調査部隊のトップであるモーゼル視点のお話です!

「以上をもちまして、本年度・第四四半期、エレミーテ王国騎士団全体会議を終了とする」


 会議を取り仕切る議長の閉会宣言とともに、重厚な石造りの会議場に椅子の引く音が重なって響いた。

 俺は三ヶ月に一度開催されるエレミーテ王国騎士団の管轄下にある部隊や部署のトップが参加する会議を終えて隊舎へ戻ろうとしているところだ。

 さっきのような場に参加するのも柄ではない俺がこのような会議に参加しなければならないのも、一部隊のトップに立つ者の義務なのかもしれないな。


 足早に退室しようとした時だった。


「モーゼル」

「シュナイゼル団長?」


 俺を呼び止めたのはエレミーテ王国騎士団のトップであるシュナイゼル・ヴァラゴス団長だ。

 年を重ね始めているにもかかわらず、纏う覇気はとんでもねぇ。


「例の件について少しいいか?」

「ええ、問題ありません。ソフィア。俺はシュナイゼル団長と少しばかり話し合う。先に戻って、今日の会議に関する資料を纏めておいてくれないか?後で目を通しておく」

「承知しました。……団長、失礼いたします」


 礼を一つ残し、彼女は去っていく。


「団長。お待たせしました」

「うむ。少しばかり話をしようかな?」

「はい」


 俺は団長の歩幅に合わせて廊下を歩き出した。


◇———


「勇者パーティがまた魔王軍の幹部を討ち取ったそうだな」

「ええ。先ほどの報告でも上がっていましたね。かつての部下たちが最前線で武勇を刻んでいる。上司としては鼻が高いですよ」

「おいおい、『かつての』は余計だろ。彼らの魂の半分は、今も我ら騎士団にある」

「これは失敬でしたな」


 騎士団長の執務室にある応接セットに腰を下ろしながら、そんな話を交わしている。

 話題はエレミーテ王国の勇者パーティに関してだった。

 会議でも少々挙げられていたが、魔王討伐の旅に出ている勇者パーティの活躍や進捗具合を共有された。

 そのメンバーにはシュナイゼル団長の部下であり、目に掛けている騎士団本隊に所属するジャード、そして、遊軍調査部隊の一員であり、俺の直属の部下であるリュウトも含まれている。



「確かに、ジャードが第一線で頑張っているのを知ると、あなたも嬉しくお思いでしょう?」

「お前こそ、リュウトの活躍を聞く度に、密かにニヤついていると聞いているぞ?」

「……否定はしません。ただ」


 俺はクーフェに映る自分の顔を見つめた。


「騎士団本隊はともかく、ウチの部隊でも、リュウトがいなくなってからというもの、部隊には妙な穴が空いたような空気が漂っています。……あいつがいないことを惜しむ声が今も聞こえてくるんですよ」


 俺はそう呟くとクーフェの入ったカップを口に付ける。

 リュウトが勇者パーティの一員となり、旅に出てから既に一ヵ月と半分が過ぎようとしている。

 元は一介の冒険者だったあいつが我が部隊に加わったのは偶然だった。

 だが、そこからの快進撃は今も語り草だ。

 エレミーテ王国騎士団遊軍調査部隊の一員になってからの短期間で俺やソフィアはもちろん、多くの隊員たちも認めざるを得ないほどに目覚ましい成果を出し続けた。


「彼の活躍は本隊や他の部隊にも届いている。若いのに才能溢れる有能なレンジャーがいる……とな」

「ええ。強いだけなら他にもいますけど、あいつは自分の実力を鼻にかけず、誰よりも周りを見ていた。他者の弱さを理解し、人と人との輪や他者の考えも大切にしていける、立派な人物です。……あんな立派なレンジャー、ソフィア以来ですよ」


 団長が僅かに目を細める。


「ほう。お前がそこまで言うか」

「今では遊軍調査部隊のほとんどがリュウトに一目置いており、あいつに助けられた者は例外なく強い信頼を寄せているんですよ。年上の先輩は自慢げに誇っており、年下の後輩にとっては憧れの的となりました。だけど、あいつがいない間の寂しさと虚しさは俺が思っていた以上ですよ。……正直、魔王討伐なんてさっさと終わらせて、帰って来て欲しいくらいです」


 本音を漏らしながら、俺はこれからの部隊の構想を頭に描く。


「本当なら、更に経験や実績を積ませたら、相応の椅子を用意するつもりだったんです。一班を仕切る副班長か、あるいは班長か……」


 団長の射抜くような視線が俺を捉えた。


「……まさか、お前やソフィアの席を譲るつもりではあるまいな?」

「はは、まさか。……いや、どうでしょうね。あいつが再び帰って来た時、俺がリュウトよりも強いままでいられる保証はありませんよ」

「それを言ったら、ジャードも同様だな。もしかしたら、私をも凌駕する戦士になる可能性も否定できまい」


 そう語り合いながら、俺とシュナイゼル団長は同じタイミングでクーフェを飲み干した。

 それから俺たちは雑談を交えながら、各部隊の状況を見直した。


「話はこれくらいだ。付き合わせて悪かったな」

「こちらこそ。久しぶりに二人だけで腹を割って話せてよかったです。では、私はこれで失礼します」


 俺は一礼して団長の部屋を後にし、長い廊下を歩き出す。


「リュウトに相応のポジションか……」

(リュウトのことなら私も認めている。実際、勇者パーティの一員に選ばれるほどの才覚の持ち主であり、活躍ぶりも聞いている。本当にモーゼルの言う通りの人物であるならば、魔王討伐に貢献したとなれば、遊軍調査部隊、いや、エレミーテ王国騎士団の未来をより良いモノへと導いてくれる一人となるだろう)


「才能だけでなく、上を狙う野心まで秘めているとなれば、ソフィアはおろか、お前さえ喰ってしまう男になるかもしれんぞ。モーゼル」


◇———


「隊長、私が纏めた会議の資料はお目通しいただけましたでしょうか?」

「確認してある。それから、ちょっと気になるところがあるんだけどよ」

「はい?」


 俺は自分の執務室に戻って仕事をしている。

 夕方に差し掛かった頃、それも終わりを迎えた。


「では、私はこれで———」

「ソフィア」

「何でしょう?」

「明日って、半分くらいの隊員が非番だよな?」

「え?ええ。ローテーション通りですが……それが何か?」


 部屋を出ようとしたソフィアを呼び止め、俺はこう口を開いた。


「ソフィア。今日、仕事終わりの連中を集めろ。飲みに行くぞ」

「飲みにですか?」


 隊員たちへの宴会の誘いだ。


「シュナイゼル団長と話してたらな、リュウトの話題になったんだよ。そしたら無性に、皆であいつの話がしたくなってな。たまにはいいだろ、こういうのも。お前は参加したくないのか?」


 ソフィアは困ったように視線を彷徨わせた。

 だが、その頬がわずかに緩み、瞳の奥に懐かしむような色が宿るのを俺は見逃さなかった。


「私は、その……」

「行きたくないのか?」

「……いえ。実は、かなり行きたいです」


 素直な返答だった。


「よし!決まりだな!これから飲みに行くのを伝え、参加したい奴らを正門の前まで集めてくれ!」

「承知いたしました。……ふふ、皆、喜ぶと思います」


 執務室を出ていくソフィアの足取りはいつになく軽やかだった。

 内心ノリノリだな、あれは。


 俺は窓の外に映る茜色に輝く夕空を見据える。

 エレミーテよりもずっと先で今も、あいつは勇者パーティと前線で戦っている。

 俺たちにできるのは、あいつが帰るべき場所を最高の状態で守り続けることだ。


「リュウト。……きっと帰って来い」


 そんな独り言を零しながら、俺は部屋を出た。


 その後、予想を大きく超える数の隊員が集まり、馴染みの酒場は大宴会となった。


 夜が明けるまで盛り上がった代償として、翌朝、俺の財布から金貨の半分と数枚の白銀貨が消え去り、凄まじい二日酔いだけが残ったのは……ここだけの話だ。

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