第10話 【Sideガルドス】不穏な先行きと新レンジャー
不穏な空気が漂う中、加入希望者のレンジャーが現れるも……。
—————スティリアの住宅街
俺たちAランクパーティ『戦鬼の大剣』は活動拠点としているスティリアから南にある『ブラデアリ遺跡跡』ダンジョンに赴き、依頼を終えて拠点にしている邸宅に帰って来たところだ。
しかし、漂う空気はお世辞にも明るいと言えなかった。
「クソッ!イライラするぜ!」
「本当よね。ここのところAランク依頼は失敗ばかりだし、今回のBランク向けもしくじっちゃったし!」
「……」
俺たちが受けたBランク向けの依頼は……失敗に終わった。
リュウトが俺たちのパーティから脱退して以降、後釜となるレンジャーやシーフが加入しては失敗、「やってられるか!」と捨て台詞を吐いては去るパターンが続いていた。
メンバー募集も掛けてはいるものの、見つからなくなる事態が増えていき、ギルドからの進言で俺とビーゴル、アキリラとリリナの四人で一つ下のBランク向けの依頼に挑んだが、結果は散々だった。
Aランクパーティなのに思い通りの成果を出せない状況になっている。
ギルド内でも俺たちがAランクだけでなく、Bランク向けの依頼の失敗が続いている事実やパーティ事情について知れ渡りつつある。
———『戦鬼の大剣』、また依頼を失敗したらしいぜ。それも連続で。
———結成5年目でAランクに昇格したって聞いていたから期待していたけど、何だか損したような気分になるぜ。
———ここ最近、メンバーの入れ替えが多くなっているって聞いたけど、パーティ内でも差別が横行しているって噂だぜ。
———マジかよ?それが本当だったらブラックなパーティじゃねえか。メンバーが定着しないのも納得がいくな。
周囲の冒険者たちやギルドからの評価も落ちていった。
それもあってビーゴルとアキリラは苛立ちを隠そうとせず、リリナは無言を貫いて押し黙っている。
かく言う俺もフラストレーションが溜まっている。
当然、リビングには険悪なムードが嫌でも漂うことになる。
「ねえ、どうするのよ?ガルドス。次にBランク向けの依頼に失敗したら降格って警告を受けているのよ!何とかならないの?あんたリーダーでしょ!」
「うるせーな!今どうすべきかを考えているところだ!」
「せっかくAランクまで駆け上がって来れたのにここでBランクに落ちるなんて俺は勘弁だぜ!」
「そんなに言うんだったらお前らの方こそアイデアを出すなりしろよ!俺ばっかり当てにするな!」
「何だと?」
俺はビーゴルとアキリラに詰められ、口喧嘩に発展してしまった。
今の俺たち『戦鬼の大剣』はAランクからBランクに降格される危機に瀕している。
冒険者ランクには駆け出しのEランクから始まり、D、C、B、A、最高のSランクまでがある。
冒険者をしている者はSランクを目標としている者がほとんどであり、俺たちもその中の一人だ。
ランクが高ければ高いほど実力者の証と周囲に認められ、高ランクの依頼を成功した時の報酬も当然多くなる。
加えて、Aランク以上になれば冒険者ギルドから活動支援金をもらえるシステムとなっており、拠点にしている邸宅の家賃補助や信憑性の高い有益な情報を率先して教えてもらえるなど、様々な特典を受けることができる。
Sランクになれば、貴族に引けを取らない権力を持つことができ、歴史上の観点から見てもの話であるが、本当に貴族の爵位を叙された冒険者もいる。
しかし、Bランク以下に落ちたらその恩恵も受けられなくなる。
そんなのはまっぴらごめんだ。
「あのさ!」
「「「ッ!?」」」
「リリナ?」
喧嘩がヒートアップしかけた時、リリナが声を張り上げる。
それからリリナが深呼吸して口を開く。
「一つ提案なんだけどさ……。リュウトを連れ戻さない?」
「何?」
リリナの口から出てきたのは自ら出て行ったリュウトの名前であり、何と再度引き入れようとする話だ。
それを聞いた俺は一種の衝撃を受けたような気分になった。
「はあ?お前、何だってそんな———」
「大真面目に言ってるのよ!よく聞いて!」
今まで大人しくしていたリリナの声は会話の主導権を握らんばかりの口調と勢いだった。
「アキリラやビーゴルの言う通り、これ以上の失敗はできない。もしもしたくないなら、リュウトを探してパーティに引き戻するのが最善だと思うの。だから……」
「でも、リュウトは自分の意志で抜けたのよ。呼び戻したところでそれが実現するとは思えないわ!」
「それは……」
リリナの言葉に対し、アキリラが否定的なセリフを返す。
俺たちがリュウトを追い出してしまうのとリュウトが俺たちに見切りを付けて脱退したのとでは大きく意味が違う。
追い出したならば体の良い言葉や態度を見せ、待遇を改善してやればいいかもしれないけど、自ら辞めたとなったならば、戻って来るように訴えても断固拒否されるだろう。
「そもそも俺は却下だぜ。あんな厚かましい雑用係に頭を下げるなんざ———」
「ビーゴルは降格したいの?」
「それは……避けたいけどよ……」
「アキリラは?」
「あたしも……。せっかくAランクまで駆け上がったのにそれが無くなるのは嫌だし……」
渋るビーゴルやアキリラに対し、リリナは強気な目線を返す。
ビーゴルは頭でっかちなところがあるし、アキリラはプライドが高いところもからな。
「後はガルドスよ!」
「……」
正直に言って、リュウトを……あんな奴を呼び戻すなんざしたくねえ。
だが、一度AランクからBランクに落ちた後に再び返り咲くのは最初に昇格する時よりも一層厳しい基準をクリアしなければ、返り咲くことも叶わない。
Aランクの肩書を失ってしまえば、夢のSランク冒険者までの道が大きく遠のいてしまうのは確実だ。
リュウトは嫌いだが、今のポジションや肩書きは守りたい。
少しばかり考えた俺は決断する。
「仕方ねえな。リリナの提案を受け入れよう」
「うん」
「あんまり乗り気じゃねぇけど、背に腹は代えられないよな」
「Aランクから落ちるよりはマシよね」
報酬の分配を含めた扱いについては追々考えるとして、ここは俺たちの方が妥協してやるとしよう。
◇—————
翌日、俺たちは休養日を利用してリュウトを探しに出ることとなり、まずはスティリアにある格安の宿を当たってみた。
リュウトが持っているだろう財布の金では環境の良い宿屋に中長期に渡って滞在するのは難しいからだ。
しかし、中々リュウトは見つからず、それに関係する情報も聞かない。
格安の宿屋を次々と訪れては空振りに終わり、残り数軒になろうとした時だった。
「え?もう出発した?」
「ええ。一週間くらい前だったかな?」
俺たちは遂にリュウトが泊まっていたであろう宿屋を見つけることができた。
ここで何か掴めればいいけど……。
「どこに行くかは存じておりませんか?」
「いや~。具体的な場所は聞いてないね。ごめんね」
「そうですか。すみません、突然押しかけてしまって……」
「あっ、そう言えば!」
リリナが行方を確認するも、何も得られなかった。
すると宿屋の店主が何かを思い出したような顔になった。
「その彼、宿屋を出る時にギルドへ行くとか言っていたね。何でも、『一人でできる依頼や仕事を探す』だったかな?お金を稼ぐ手段を探しているような話をしていたのは覚えているよ」
「ギルド?金を稼ぐ手段?」
それを聞いた俺たちはギルドへと向かった。
入るや否や、陰口や憎まれ口を叩かれることになった。
正直、今の俺たち『戦鬼の大剣』はスティリア支部の冒険者ギルドにおいて肩身の狭い状況となっているが、そんなことを考えている場合ではない。
「あら、『戦鬼の大剣』の皆さん。依頼を受けに来たのですか?」
「おい。ちょっと前まで所属していたリュウトの行方が知りたい。教えてくれないか?街中探したけど見つからなくてよ」
俺は受付嬢のリサさんに質問を投げつける。
「申し訳ございません。パーティから脱退した冒険者の個人情報を教える行為は禁じられているのですよ。それから、方向性が違ったために脱退されたと伺っているのですが……」
「そこを何とか頼む!噂程度でもいいから!」
「そう申されましても……」
いくら頼んでも教えてくれない。
その時の俺の姿がみっともなく映ったのか、他の冒険者たちから小さな嘲笑が聞こえてきた。
ここで声を荒げたりすれば事態は悪化してしまうため、俺は歯ぎしりしながら堪える。
そんな時だった。
「あ。そうでした。昨日、『戦鬼の大剣』に加入希望をされた冒険者が出たんですよ。丁度それについての情報をお渡ししたいと思っていまして……」
「何、本当か?」
リサさんから聞かされたのは募集をかけていた新メンバーの加入希望者の登場の報せだった。
こんなタイミングでってつくづく思う。
リュウトの行く末は知りたいところだが、クエストを成功させたい気持ちもあるため、まずは話を聞くことにした。
俺たちは依頼に失敗し続けているせいで報酬も手に入れられておらず、パーティの資金も明らかに減ってきているからな。
ひと稼ぎしないと活動にも影響が出かねない。
「はい。ただいまお渡ししますね」
その人物の情報が書かれた紙を収められたファイルを手渡された。
俺たちはそれを見た。
「コイツがか?」
◇—————
「にしても、入ってくれるレンジャーが来てくれて何よりだよな」
「ああ。俺、会うのが楽しみになってきたぜ」
「もう、二人ったら」
「……」
翌日、俺たちは加入希望をしてきた冒険者を迎え入れるため、ギルドの別室で待機している。
俺とビーゴルはテンションを高めており、アキリラはやれやれとしていそうな仕草を見せ、リリナは大人しく待っている様子だ。
そうこうしているうちにノックの音が鳴った。
「お待たせしました。『戦鬼の大剣』への加入を希望されている冒険者をご紹介します」
入って来たのはリサさんであり、その人物を紹介してくれた。
「どうぞ」
「失礼します」
女性の声が部屋に響いた。
そして、その姿を現す。
長弓と細剣からして、ジョブはレンジャーだとすぐに分かるが、驚いたのはそんなことではない。
「初めまして。『戦鬼の大剣』の皆様。この度『戦鬼の大剣』に加入を希望しました、シェリー・ベルローズと申します。至らないところはあると思いますが、どうぞよろしくお願いいたします」
「お、おう……」
ハーフアップにまとめられた艶のある薄紫色の髪は胸元まで切り揃えられており、青紫色のフード付きポンチョと強化革鎧の上からでもそのスタイルの良さが分かる身体つきをしている。
宝石のように輝くバイオレット色の瞳をしている目鼻立ちの整った美女こそが、俺たちのパーティに入ろうとしているシェリーと言う女だ。
写真で見るよりスゲー美人!
そう言えば、スティリアとは違う地方でAランクの冒険者パーティの一員として活動していたものの、不慮の事故で自分以外のメンバーが死亡してしまったところでフリーとなったって資料にあったな。
そんな女性レンジャーが俺たちのパーティに入りたがるなんて、何たる僥倖だ。
「初めまして。俺が『戦鬼の大剣』のリーダーを務めているガルドス・ハリブザーだ。君のようなレンジャーさんが入ってくれて嬉しいよ。よろしくな」
「はい。こちらこそ」
「じゃあ、そうだな。まずは始めに……」
俺はシェリーと握手を交わした後、パーティのルールや受けようとする依頼を中心に説明をしていった。
俺たち……特に俺は昂る気持ちを抑えるのに必死だったが、まずは今のランクや肩書きを守ることに集中だ。
「次に受けようとする依頼はな……」
「はい」
だが、この時に誰も見抜くことができなかったんだ。
この女の目的や本質を……。そして、その正体も……。
いかがでしたでしょうか?
よくある話とは斜め上に違った展開になってきましたよ!
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面白いエピソードをご提供できるように努める所存ですので、どうぞよろしくお願いいたします!




