羊の皮を着たオオカミ(もうひとつの昔話54)
一匹のオオカミがいました。
――腹がへった、どこか獲物がいないかな?
オオカミが森を出て草原をうろついていると、そこで運よく羊の群れに出あいました。
――しめた!
オオカミは羊の群れに忍び寄りました。
ところがそこには見張りの羊飼いがいて、オオカミはどうしても羊には近づけません。草むらの中に隠れて羊のようすをうかがっていました。
そんなとき。
オオカミはヒツジの皮が草むらに落ちているのを見つけました。
――こいつはいいものを拾ったぞ。
ヒツジの皮を着て近づけば、怪しまれずに羊の群れに入りこめると考えたのです。
オオカミはさっそく羊の皮をかぶり、羊の群れにまんまとまぎれこみました。
羊たちはオオカミに気がつきません。
それでも昼間は、羊飼いがそばにいたので手を出すことができませんでした。
――早く夜にならないかな。
オオカミはじっと夜を待ちました。
日が暮れました。
羊飼いは小屋の中に羊の群れを追いこむと帰っていきました。
――今夜はたらふく羊が食えるぞ。
オオカミはうれしそうに舌なめずりをしました。
と、そこへ。
帰ったはずの羊飼いがもどってきました。
「うっかり忘れるところだった。明日は羊の肉のごちそうを作るんだった。さて、どれにするかな?」
羊飼いはぶつぶつ言いながら小屋の中に入ってきました。どうやら一匹、肉料理に使う羊を家に連れて帰るようです。
「おう、あの羊がまるまると太ってうまそうだ」
羊飼いがオオカミに近づいてきました。
羊の皮をかぶっていたため太って見えたのです。
――大変だ!
オオカミは小屋のすみへと逃げました。
それでもさらに、羊飼いはオオカミに近寄ってきます。
「オレは羊なんかじゃない!」
オオカミは大声でわめきましたが、その声は羊飼いには届きません。
オオカミは小屋を飛び出すと、大あわてで森へと向かって走りました。
森に着いたオオカミ。
「あぶない、あぶない。もう少しで食べられてしまうところだった」
命拾いをしてホッとしていると、今度はそこへ仲間のオオカミの群れがやってきました。
「おう、こんなところに羊がいるぞ。この羊は太ってうまそうだな」
どうやら、羊の皮を着たオオカミを本物の羊だと思ったようです。
「オレは羊なんかじゃない!」
オオカミは大声でわめきましたが、その声は仲間のオオカミには届きません。
「今夜はたらふく羊が食えるぞ」
仲間のオオカミが近寄ってきます。
その夜。
羊の皮を着たオオカミは、仲間のオオカミに食べられてしまいました。