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うっかり悪役令嬢を落としてしまいました  作者: 九重七六八
第5章 第1艦隊クーデター事件
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うっかり、敵の作戦に騙されてしまった

 旗艦デュラメンテに異変が起きたのは、港を出港してから26時間が経ってからであった。ロイッシュまで3日の航海途中の公海上である。まず、デュラメンテに白煙が上がり、複数の銃声が海風に乗って聞こえてくる。

 艦橋にある物見台から望遠鏡でセオドアは海風に髪をなびかせながら、注意深く船上の様子を観察している。

 セオドアは甲板で争っている兵士たちの様子を見て、デュラメンテに乗船したロイッシュのスパイが行動を起こしたと判断した。これに家族を人質に取られ、協力をさせられる艦長のデュワノマール将軍が動けば、超級の1等戦列艦が敵の手に渡る可能性がある。


「テディ、始まったようだな」


 いつの間にかセオドアの隣に水兵の格好をしたクローディアが立っている。顔は気の毒なほど青白い。


(無理もない……。貴族のお姫様ではこの荒波じゃ船酔いするだろう)


 そう思って、クローディアに部屋で休むように伝えたが、頑として首を横に振る。物見台は大人2人しか入れないほどのスペースで、明らかに女性で水兵の格好をしたクローディアが、ここまで咎められずにここにいることの方が不思議だ。

 クローディアの方は長時間、ベッドで休んだので船酔いはだいぶ和らいだ。吐くものもないので、空腹であるが食欲はない。それより、彼女は自分の症状が船酔いではなく、とんでもない勘違いをしているのだ。


(テディの奴、我を孕ませておいて、寝ていろとは勝手な奴だ。寝ていてはお父様を説得できないだろうが。それに……)


 クローディアの心配は他にもある。どうやら、旗艦ドゥラメンテにはあのメイドの女が乗っているようなのだ。


(エリカヴィータと言ったな。あの女軍人がテディの命令でドゥラメンテに乗船したことは分かっている。あの女の戦闘力は侮れない。この戦いでもあの女が活躍したら……。テディがますます、あの女を頼りにしてしまう)


 クローディアは自分の心がざわざわするのを感じる。ここは自分の方が有能であることをセオドアに知らしめる必要がある。そんなことを考えながら、クローディアは上目遣いでセオドアを見ている。


(おや?)


 望遠鏡を眺めていたセオドアは、混乱している旗艦ドゥラメンテから手旗で合図を送っている人物を発見する。


(エリカか……)

 

 戦闘が起きている甲板での合図のために、送れる信号はわずかだ。辛うじて、

8文字が発信されている。


『ココハチガウ……。ハピ……』

(どういうことだ?)


 セオドアは頭をひねる。ロイッシュの目的は旗艦ドゥラメンテを奪うこと。そう考えていた。制圧部隊を密かに送り込み、艦内の中枢部を抑える。艦長のデュワノマール将軍も脅して取り込んでいる。


「あの隣の船、動きが怪しくないか?」


 そう言ったのはクローディア。旗艦ドゥラメンテの両隣に並走している2等戦列艦のうち、右側の位置にあるハピが少しずつ、ドゥラメンテとの間を開けているのだ。


(ハピ……2等戦列艦……)


 セオドアは叫んだ。


「しまった、これはニ重の罠だ!」

「二重の罠?」


 クローディアが驚いてそう聞き返す。


「説明は後です。今は一刻を争います。この船の艦長を説得します。クロア様、あなたの力が必要です」

「我の力だと?」

「はい。この第1艦隊の被害を最小限に食い止めないといけません」


 セオドアは水兵の格好をしたクローディアを伴い、1等戦列艦バビットのルイス艦長のところへ急いだ。


 ドゥラメンテの艦内は敵兵との交戦中であった。銃弾が飛び交う中、エリカヴィータは、前方に位置する主砲の上に腹ばいになり、甲板上で戦っている敵兵を狙撃していた。


(おかしい……)


 最初の敵兵を倒し、次の敵兵に狙いを定めたエリカヴィータは、思ったよりも敵兵の数が少ないことに気が付いた。


(あの程度の数ではこの艦を制圧できるはずがない)


 もちろん、味方を欺いて大量の兵を送り込むことは、権謀に長けたロイッシュでも難しい。艦長のデュワノマール将軍を味方に付けたとしてもだ。少数でも敵兵が卓越した戦闘能力をもった特殊部隊なら別だが、エリカヴィータが狙撃した感触では、そのような兵でもない。


(しかもあれはロイッシュ人じゃない)


 肌の色が褐色。ロイッシュの植民地であるインカール人である。植民地人の扱いがどうなのかを考えれば、敵兵の目的が分かる。


「しまった、少佐、わたしたちは欺かれました!」


 エリカヴィータは徐々に離れて行く右側の2等戦列艦を見る。左舷にずらりと設置してある砲門の扉がゆっくりと開きつつある。

 慌てて、エリカヴィータは腰につけた赤白の手旗を握りしめた。それで後方に位置するセオドアに連絡するのだ。

 しかし、これは艦内で戦闘中の中で行うのは非常に危険な行為である。目立つ手旗をもって突っ立っていれば狙撃のよい的である。送れる情報はわずかだ。


『ココハチガウ……ハピ』


 急いでそう伝える。2回ほど送ったがセオドアがそれに気づいたかどうかは判断できない。


(少佐なら、これで分かるはずだ)


 自分を狙って撃たれた銃弾が2発、主砲の金属部分をかすめる。慌ててエリカヴィータは手旗を捨てて伏せる。


(頼む……気が付かないと大変なことになる)

 

 エリカヴィータは祈るようにして、戦闘を続ける。事は一刻を争う。


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