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うっかり悪役令嬢を落としてしまいました  作者: 九重七六八
第3章 キャビネット編
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うっかり、叡智なメイドを雇ってしまった

 クローディアと学園祭について話し合い、少々疲れ切ったセオドアは、大学から自分の屋敷へと帰って来た。大学からは歩いて行ける距離とはいえ、セオドアの足で30分はかかる。


「伯爵様、前に話していた私の代わりのメイドの件です」


 帰るや否や、セオドアは屋敷唯一のメイドの老婆がお茶と一緒にそう相談を持ち掛けて来た。


「誰かよい後任は見つかりましたか?」


 老婆は後任が見つかり次第辞めると約束していた。正直、メイドとはいってもかなりの年齢でさらに腰を痛めていたこともあって、いろいろと仕事が間に合っていなかったので、後任が見つかったことはありがたい。


「はい。年齢は21歳。メイド経験はありませんが、掃除に洗濯、料理はできるとのことです」

「なるほど……メイド経験者じゃないのは……ううん、仕方がないか」


 そもそも賃金が平均以下なので、経験者が来るわけがない。若い人間が来るだけでも幸運であった。


「雇っていただければ助かります。実はもう引継ぎもしてありますので、今日から交代できます。人柄は保証します。物静かで真面目な女性ですよ」


 トントンと老婆は腰を叩いた。だいぶ前から代わりを捜していたから、後任が見つかってほっとしている様子だ。


「一応、会いましょう」


 セオドアは老婆に新しく雇う予定の女性を呼ぶよう命じた。その女性は部屋の扉の前で待機していたらしく、老メイドが手を叩くと入って来た。セオドアは見た瞬間驚いた。


「き、き、君は……」

「エリカヴィータ・ドーレスです。少佐」

「おや、伯爵様とお知り合いでしたか。それではあとはお任せいたします」


 老メイドはにっこりと笑い、部屋を出て行った。セオドアは混乱している。目の前のメイド候補が先日、この屋敷を訪れた元部下のエリカヴィータだったのだ。


「エリカ、君がメイドなんて……軍はどうするんだ」

「休戦条約が結ばれて大陸派遣軍は帰還します。軍は解散でしょう」

「君は士官だし、これまでの戦功を考えれば軍に残れるだろう」


 一般兵士は戦争が終われば故郷へ帰る。職業軍人は残るが全てと言うわけではない。予備役に入って軍を辞める者もいるが、ローレライと称された射撃の腕をもつエリカヴィータは軍に引き留められるだろう。


「実は大陸派遣軍が帰還した際に、本国軍にと引き留められましたが断りました。私は少佐の元で働きたいのです。メイドの仕事は軍で鍛えられましたので問題ありません。お願いします」


 軍の一兵卒からたたき上げたエリカヴィータなら、掃除、洗濯、料理は万全だろう。料理に関しては戦場飯になってしまいそうだが。

 ただエリカヴィータを雇った場合、メイド以上に期待できるのは、屋敷の警備だろう。セオドアの屋敷に忍び込んだ賊は、間違いなく地獄を見るだろう。


「君の価値に見合った報酬は払えないよ。なにしろ、自分は貧乏伯爵だからな」

「報酬は十分です……雇っていただけるだけで」

(少佐のお世話ができるだけで幸せ……好き)


 エリカヴィータは言葉を飲み込んだ。彼女にとって、セオドアの傍にいることが何よりもの報酬である

 セオドアも考えた。これまで働いてくれた老婆は辞めているし、エリカヴィータを雇わないと困ることになる。掃除や洗濯、食事作り等、セオドア一人では回らない。


「……仕方がない。君を雇おう。但し、その少佐呼びは禁止だ」

「で、では……セオドア様」


 エリカヴィータは顔を赤らめた。もう心の中では未来の夫だと思っている。セオドアを未来の夫にするための計画の第一段階をクリアした。


(メイドとして同じ屋根の下で暮らせば、セオドア様との接触が増える。そうすれば偶然を装ったラッキースケベを連発する。私の魅惑的な体の虜になったセオドア様は……私のベッドに……うううう~好き!)


 勝手に妄想するエリカヴィータ。そんな彼女にセオドアは期待している。それはメイド兼ガードマンとしての役割である。むしろ、エリカヴィータを雇った場合、こっちの能力の方がメリットが大きい。


「屋敷内では見えないよいうに武器を携帯してくれ。最近、貴族の館を襲う犯罪者がいるという話だ。そう言う奴らには、私兵が警備している上級貴族の屋敷は大丈夫だが、僕のような貧乏貴族の館は好都合だからな」


 正直、セオドアの館を襲っても大したものはないし、セオドア一人ならどうにでもなる。ただ、妹のシャルロッテが帰ってきている時に襲われると困る。

 エリカヴィータがいればそういう心配はなくなるのはありがたい話だ。


「承知しました。そうおっしゃると思い、左足には短剣。右の太ももには短銃を携帯しています」


 そう言うとエリカヴィータはメイド服のスカートをめくり上げた。彼女が言う通り、左足には短剣。右の太ももに短銃が取り付けられている。


「エ、エリカ……見えてるぞ」


 あまりにも自然なエリカヴィータの行為にセオドアは顔を赤らめた。短剣や短銃の他に見てはならないものが目に入ったのだ。


(はい、第2段階。ラッキースケベ発動w)

「セオドア様は、黒はお嫌いですか?」

「馬鹿を言うな」

「では今度は白を履いておきます。むしろ、ピンクですか。ああ、むしろ、履かないというのもアリですかね」

「アリじゃない。ナシよりのナシだ」


 くすくすと笑ってスカートを下ろすエリカヴィータ。多少の不満を覚えたが、セオドアの性格上、誘った格好のエリカヴィータを押し倒すことまでは期待していない。

 こういうきわどい話を繰り返して親密度を上げていくのだ。これまでもエリカヴィータは、セオドアにこういう叡智なアプローチをさりげなくしてきたが、どうもセオドアはエリカヴィータのことを女として見ていないようだからだ。


「では今日から頼む」

「セオドア様。新型のライフル銃を持ってきてもよいでしょうか?」

「メイドにそんなものが必要か?」


 セオドアはそう聞いた。狙撃部隊にいたエリカヴィータにとっては、狙撃ライフルは相棒なのだ。


「必要です。わたしは戦えるメイドですから」

「……勝手にしろ」


 セオドアは許可した。首都の治安はよい方であるが、全くの安全というわけでもない。エリカヴィータ級の護衛がいたら心強いだろう。この借家は古くて防犯設備も弱い。自分はともかく、妹のシャルロッテが滞在した時にエリカヴィータがいてくれるとありがたい。

 実は都の治安は最近よくないとセオドアは感じていた。人々はまだ気づいていないし、王国の治安当局も動いていないが、セオドアのもっている情報網から他国のスパイやテロリストが多数潜入しているとの情報がある。


(彼らの目的は定かではないが……)


 こうも極秘に潜入し、治安当局の警戒網を潜り抜けていることを考えると、どうやら王国内に手引きをする者の存在があることを臭わせる。


(それもかなり中枢に潜んでいる)


 スパイはプロフェッショナルである。長い期間をかけて潜入し、生活に溶け込み、容易には分からない。親しい友人が実はスパイだったということもあり得るのだ。


(戦争は終わったばかりだが、それは見えない戦争になっただけだ)

(そういえば……。テロリストが狙うには絶好の行事があったな) 


 セオドアは近々開催されるボニファティウス王立大学の学園祭の招待状を見た。これは学生全員に配られるもので、クローディアが所属するキャビネットが配付元である。

 これがあれば学生とその縁者・知人が大学内に入れる。ふだんは警護が厳しい大学内に容易に入れるのだ。


(まあ、テロリストが大学生に何かするとは考えられないが……)


 大学祭に何かするより、高位の貴族の催す社交界をターゲットにした方がよいに決まっている。

 セオドアはこの時はそう軽く考えていた。


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