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うっかり悪役令嬢を落としてしまいました  作者: 九重七六八
第3章 キャビネット編
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うっかり、中傷に反応してしまった

(本当にこれでよいのだろうか……)


 編集室の片隅で記事を書いていた文学部のミリアム・ピュリッツアーは、編集長のやりとりを聞きながら、頭の中で疑念を抱いていた。

 初めは伝統ある学生新聞のブルーベルに入部できて、ミリアムは天にも昇る気持ちであった。ミリアムは平民出身であったが将来は王国の報道機関に勤めたいと思って、猛勉強してこのボニファティウス王立大学に入学した。

 数々の入部希望者の中から選抜されて、この新聞部に入部したのであるが、この半年間で内情を知って疑問を抱いていた。

 新聞部に蔓延る売り上げ第一主義。そのためには真実を曲げてしまうこと。最近はクローディア公爵令嬢を悪女に仕立てて、個人攻撃をするまでになっていること。


(これでは下劣なフェイク新聞と同じではないか?)


 ミリアムは伝統あるブルーベルが、世の中に数ある嘘記事で鬱憤をはらしている下等な新聞社と同じことをしていると憤っている。


(確かに社会は屈折した思いをぶつけるものを欲しがっている。特権階級の貴族をターゲットにした記事は人気があるけど……)


 ミリアムは娯楽と報道は違うものだと区別している。だが無知な民衆は娯楽とは思わないだろう。このボニファティウス王立大学の学生は頭がよいだけに、その偏向報道に気づいているはずであるが、ブルーベル新聞のここ最近の売り上げ増を見ると、そうでもないらしい。

 クローディアを面白おかしく見ている学生が多いのだ。


(これは間違っている。やはり、もう一度最初の理念に戻るべきだ)


 ミリアムは席を立った。編集長のラスカルに進言するのだ。

 ダンダンと机を叩き、ものすごく怒った顔で立ち上がったクローディアは、キャビネットの役員をにらみつける。


「どうして我の提案が受け入れられないのだ!」


 クローディアの剣幕に役員たちは黙る。クローディアの提案というのが、ブルーベル新聞の廃止なのである。ブルーベル新聞は新聞部という部活動の一環である。そう考えれば認可権をもっているキャビネットが取り消せば、活動は停止となる。しかし、それは横暴な行為だ。

 やれないことはないが、そんなことをすれば自由な権利を侵害されたと、大半の学生の反感を買うことだろう。特権階級の貴族ではない現キャビネットのメンバーからすると支持層に対する裏切りとなる。

 しかし、ブルーベル新聞の中傷記事は目に余る。クローディアが怒るのは無理もないことだが、それを理由に新聞部の認可取り消しはできない。

 やむなく会長のリック・フレスは怒りで我を忘れた副会長をなだめる。


「クローディアさん、ブルーベル新聞を敵に回すのは止めた方がいい」

「なぜだ。こんな嘘記事。そして我に対する個人攻撃は許せぬ」


 机に広げられたのは先日、クローディアが乗り込んで抗議をしたことを詳細に伝えていた。中身は180度違うものになっていたが、編集長に食ってかかる写真が説得力を与えていた。


「この号はあっという間に売り切れになり、さらに増刷されたそうだ。こういう時は冷静に対応した方がいい。騒げば騒ぐほど、あちらの思うつぼだ」


 リックはそうため息をついた。もし、ここでキャビネットの権限でブルーベル新聞の発行を禁止すれば火に油を注ぐだろう。


「許せぬ!」


 クローディアは親指の爪を噛む。この姿があまりにも人を寄せ付けないオーラが満載でキャビネットの役員は声がかけられない。このままクローディアが暴走すれば、キャビネットを巻き込んだ大騒動に発展しそうだ。

 そしてそれをブルーベル新聞側は狙っている。権力と戦うという信念を旗頭にキャビネットに戦いを挑むだろう。そうなると分が悪い。

 何しろ、副会長のクローディアはやっていることは学生に有益なことなのに、なぜか評判が悪い。悪役令嬢というイメージが拭えないのだ。それも王太子であるエルトリンゲン王太子によるネガティブキャンペーンの影響なのであるが、イメージ戦略で後手に回っていることは否めない。


「やはりセオドア君の力を借りてはどうだろうか?」


 会長のリックはそう発言した。セオドア・ウォールはクローディア絡みの難問をいとも簡単に解決するのだ。今回も何か妙案があるはずだ。


「……仕方がない。あ奴の意見を聞いてみよう」


 セオドアは学校に来ていないが、屋敷にはいるはずだ。それに今まで頭に血が上って忘れていたが、セオドアの旧知の者が訪ねてきたのでその応対をするといって今日は学校に来ていないのだ。


(我を支える仕事を後回しにして応対するという者は一体誰だ?)


 そう考えてクローディアは急にそわそわし始めた。


(もしや女ではあるまいな?)


 別に男でも女でも下構わないはずなのにクローディアは、女だったらと考えると心にもやもやが発生する。


「姉さん、どちらへ?」


 急に立ち上がったクローディアに後ろで控えていたハンスが声をかける。


「セオドアの屋敷に行く。お前たちはついてくるな」


 そうクローディアはハンス、アラン、ボリスに命令した。3人は背筋を伸ばして承知しましたという態度を取った。


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