うっかり、マスコミに目を付けられてしまった
ボニファティウス王立大学には新聞部がある。学校設立からある伝統ある部で通称『ブルーベル新聞』と呼ばれていた。これは設立当初の編集長、ウルフガング・ブルーベルの名前を取っている。
掲載する記事は、政治経済や教育などの政治に関するものや大学の経営、ポリスの活動等、レベルの高い内容を主としていたが、最近は学内のゴシップやグルメ、学生生活のコツみたいなものが幅を利かせつつあった。
中でも学内の学生について取り上げる記事が人気を博し、美男美女学生の取材をしたシリーズが白熱していた。
そんなブルーベル新聞にとっては、キャビネットの副会長であるクローディア・バーデンは、記事にするには美味しいキャラクターであった。
当初は『クローディア副会長のお仕事』『クローディア様が語る奨学基金のしくみ』『クローディア様のお勧めランチ3選』などのクローディアの仕事ぶりを伝えるものであったが、そのうちに、『クローディア様の豪勢なお買い物』『クローディア様の傲慢な学生生活』『まるで会長のような命令で役員はたじたじ』などと言う中傷する内容に変化した。
何しろ、最初に記事にした『クローディア様の豪勢なお買い物』という記事は、大好評で多くの学生が目にした。売り上げも過去最高を記録したので、ブルーベル新聞はクローディアの中傷記事を好んで掲載するようになったのだ。
これについて、当のクローディアは静観する姿勢を見せたが、あまりのも虚偽な内容に怒りが爆発した。
「嘆かわしい。ボニファティウス王立大学のブルーベル新聞と言えば、格調高い内容を掲載する伝統あるものだった。いつの間に虚偽を載せる嘘つき新聞になったのだ?」
キャビネットの執務室で今週発行された最新刊を手に、クローディアは怒っている。広げた新聞が小刻みに揺れているので、怒り具合がよくわかる。
そもそもクローディアは最初からブルーベル新聞に取材許可はしていない。すべてクローディアには無断で取材した記事だ。しかも内容はわずかな事実を織り交ぜた、噂や又聞きレベルの話を誇張したものである。
「まあ新聞というのは、一つの側面を取り上げているからね。彼らは全くの嘘ではないと開き直るだろう。こういうのは放置しておけばよいと思う」
会長のリックはそう言ったが、ブルーベル新聞のクローディアに対する執拗な攻撃はさすがに度を越していると思っていた。
「キャビネットの会長名でブルーベル新聞の編集長にクレームを入れようか?」
リックはそう言ってくれたが、クローディアは断った。新聞部は大学の創立以来、権力からの干渉を拒否して来た。独立性という点では伝統と権威があるのだ。かつては学生の自治を脅かす経営陣や教授会の圧力に対して、先頭に立って戦ってきた歴史がある。
同じ学生組織であるキャビネットからのクレームなど聞くはずがない。それでも何か行動しないとこの中傷記事は止まらないだろう。
「会長が動けば、また我がポリス会長を顎でこき使っているなどという記事を書かれるだけだ。こういうのは直接抗議をする。我が関わっていれば、さすがに嘘記事にはできないだろう」
クローディアはそう言ったが、彼女自身もそれで解決できるとは思っていない。恐らく、クローディアの抗議も想定済みだろう。
「……そうかもしれないが。せめてセオドア君に相談したらどうだろうか?」
リック会長はそうアドバイスした。セオドアは、今日は学校に来ていない。昔の知り合いが訪ねて来たということで、その接待をするとのことだ。
「会長はいつもテディのことを買っているな。確かにあ奴は優秀だ。しかし、我はもっと優秀なのだ。似非マスコミの中傷など自力で解決してみせる」
クローディアはそう言い残すと、ハンス、アラン、ボリスを伴って、ブルーベル新聞の編集室がある学生会館へと勇んで出かけたのであった。




