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うっかり悪役令嬢を落としてしまいました  作者: 九重七六八
第3章 キャビネット編
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うっかり、復讐の片棒を担ぐことになってしまった

 選挙に勝ったリックは、1週間後にポリスを運営するキャビネットの役員を発表した。誰もが予想し、そして納得せざるを得なかった。

 副会長に指名されたのが1年の女子学生。クローディア・バーデン公爵令嬢だったのだ。

 クローディアの手柄は、リックが1回目の投票で2位を取り、バティスに過半数を取らせなかったこと。そして決戦投票で工学部と文学部を寝返らせた功績が高く評価されていた。これはリック陣営の学生も認めざるをいない実績である。というか、クローディアがいなければ勝利はなかった。

 また選挙活動中の自ら先頭に立ち、選挙資金集めや演説の準備作業等でも健気に頑張る姿は多くの学生の心を動かした。

 役員の発表をしたリック・フレスは、会長室にセオドアを呼んでいた。部屋にはリックだけである。


「セオドア君、僕は君を副会長にしたかったのだが、固辞されて残念だよ」


 リックが発表したキャビネットの役員にセオドアの名前がなかった。これはセオドアがそう願ったからだ。


「俺は何もしていませんから、副会長なんて役には付けませんよ。他の役もリック先輩を支えたご友人を当てて報いるべきでしょう」

「……クローディア嬢の活躍は君の助言があってのことだろう。それくらいは僕でも分かる。影の立役者は君だ。実はクローディア様にも抗議されていてな」

「なぜ、俺がキャビネットの役員になっていないか……ですか?」


 リックは思い出してため息をついた。クローディアにこっぴどく抗議されたたようだ。


「まあ、君が固辞したと正直に白状したよ。そうじゃないと引き下がらないんだ」

(おいおい、話してしまったのかよ~)


 後でクローディアに叱られるとセオドアは思ったが、リックが話したことは仕方がないことだ。クローディアの追及を逃れる者はいない。


「心中お察しします……。彼女は俺を何の役にと言っていましたか?」

「書記長だよ」


 キャビネットの書記長は会長、副会長に次ぐ3席にあたる重要ポストだ。主に宣伝を担当する役で、毎月、ポリスの活動を定期発表するスポークスマンの仕事をする。会長の次に目立つ役だ。


「はあ……。そんな役はごめんですよ」


 セオドアは出来る限り目立ちたくないのだ。そんな華やかな役はまっぴらごめんだ。セオドアが推薦された役を聞いたのは、将来、彼女が王妃になった時に自分に与える職が知りたかったのだ。


(このままでは将来の官房長官に指名されてしまうじゃないか!)


 それは何としても避けなければいけない。


「もちろん、クローディア姫の功績は評価している」


 リックはセオドアのことを今回の論功行賞では第1位だと評価していたが、クローディアのことも大きく評価している。

 助言を受けてもそれを実行したのは彼女。成功した功績は彼女に帰するものがある。


「クロア様の目的は王妃になること。今はナターシャ嬢に夢中になっているエルトリンゲン王太子に自分の価値を知らせて振り向いてもらうことです」

「……なるほど」


 リックは公爵令嬢のクローディアが庶民出身の自分を支持してくれたことに、疑問をもっていた。その答えが分かってすっきりした。


「もちろん、クロア様はリック先輩の人柄と能力を評価した上での加勢です。副会長としてさらに活躍するのが、クロア様の目指すことです」

「それを聞いて安心したよ。僕は彼女を副会長に任命した。君ならこの理由が分かってもらえると思うが……」


 リックの表情は暗い。セオドアはその原因が何なのかは分かっている。


(粛清……。副会長は汚い仕事をしなくてはならない)


 会長であるリックは、華やかな場所で誰からも賞賛される仕事をする。しかし、2000名の学生が在籍し、教授会や後援者たちと対等に接するポリスは、強い団結力と交渉力がいる。

 時には身内に対しても厳しい処罰を下さなくてはならない。それは必ず賛否両論あり、実行したものは批判される。

 会長であるリックはそういう批判とは無縁でなくてはいけない。会長職は常に正しくなければいけないからだ。

 汚い仕事は副会長の領分なのだ。学生に痛みを伴う政策や、嫌な発表は副会長の責任の下で行われる。

 バティスが平民学生からの支持を失っていたのは、前キャビネットが貴族よりの施策をしていたことも理由である。


「裏切り者の処罰ですか?」

「ああ……そうだ。カールの協定違反は許せないと思っている学生が多くてね。彼の医学部は今回、一番の冷や飯を喰らうしかない」

「それをクロア様に実行させると……」

「そうだ」


 リックは短く答えた。既にクローディアには選挙後のことを伝えてある。というか、処罰についてはクローディアに全権を委任している。心優しいリックにはできないことだと自覚しているからだ。


「セオドア君、彼女に任せたとはいえ、暴走するといけない。君が支えてあげてやってくれ」

(言われなくてもやりますよ。クロア様に任せていたら、とんでもないことになりますから)


 分かっていたことだが、セオドアはこの後のことを考えると頭が痛くなる。


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