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うっかり悪役令嬢を落としてしまいました  作者: 九重七六八
第3章 キャビネット編
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うっかり、勝てる陣営を教えてしまった

「はい、これまでの結果から、クロア様が立候補しても票は集まらないことは分かりいただけたでしょうか」


 つまりのところ、クローディアには普通の学生としての常識がなく、庶民的なコミュニケーションができない。いわゆる平民に対するコミュ障状態。そして、あまりに身分差に周りも親しくすることができない。ハンスたちのように自ら家来になるという状況でない限り、話ができないのだ。


「ううう……それでも我は、この大学で実績を残し、王太子殿下に振り向いてもらわねばならぬ」


 セオドアはクローディアの考えが最初から理解できていた。クローディアから発せられる提案の根底にあるのは、エルトリンゲン王太子を振り向かせ、家同士が決めた結婚を成就することである。


「では、こうしましょう。クロア様自身が立候補するのは時期早々です。1年生の時は誰か有力な候補者を応援して、選挙後にキャビネットの役員に抜擢されるのです」

「な、なるほど、その発想はなかった」


 クローディアはセオドアの提案に手を打って目を輝かせた。ここは実績を積んでみんなに自分の良さをしてもらうことが後々に効いてくるだろう。


「1年、2年と貢献すれば、3年時には立候補しても当選できるだけの知名度と信頼が得られるでしょう。うまくいけば、会長の後継者として選挙に出られるかもしれません」

「うむ。テディ、お前は頭もいいが、こういう悪知恵が働く」

(悪知恵じゃない!)


 セオドアは今回も巻き込まれてしまう予感がしたが、ここまで関わったら仕方がないと諦めた。


「それでテディ。お前は今回の立候補者のうち、誰の応援を勧めるのだ?」


 クローディアはもう作戦を切り替えている。新会長の下で実績を積み、その後継者となるなら勝ち馬に乗らないと意味がない。

 現在のところ、3人の3年生が立候補している。3人とも男子学生である。


「俺が勧めるのは政経学部のリック・フレス先輩」

「ほう……。それは理由が聞きたいな」


 クローディアは、セオドアから出た名前に興味深そうに理由を尋ねた。3人が出馬していることは選挙管理委員会の第一報で分かっている。下馬評では人気3番目の男子学生だ。

 1番人気は今のキャビネットで副会長をしているバティス・ロージャー。法学部の学生でかなりのやり手と噂だ。1年間のキャビネットの実績と現会長の支持が人気1番の理由だ。


「まず、クローディア様が加担するとなるとそれなりの理由が必要です。リック先輩なら同じ政経学部の先輩。後輩が推すのは不自然ではありません」

「うむ。確かに……」

「そして重要なことですが、バティス先輩の陣営に入っても多くの人間が協力をしており、そこでクロア様が支持して選挙で活躍したとしても、さして優遇はされないでしょう。バティス先輩は圧倒的有利ですから、クロア様の協力はさほどうれしくないはずです」


 ここまで聞いてクローディアは深く頷いた。確かに自分という手札は相手次第で価値が変わる。単に勝ち馬に乗っただけでは、その後の恩賞も少ないというのは誰でも分かるというものだ。


「その点、現在、3番手のリック先輩にはクロア様の支援は大きいでしょう。当選すれば、その貢献度は1番となる可能性があります」

「うむ。テディの意見はその通りだと思う。しかし、なぜ、2番手のカール・クラウス先輩ではないのだ?」

「カール先輩は医学部です。ご存じのとおり、ボニファティウス王立大学での理系学部の学生の数は、文系学部の3分の1。今は文系学部の2人で票を割っているので、人気2位ですが決戦投票になれば1位にはなれる可能性はゼロです」


 ボニファティウス王立大学のポリス選挙は特殊だ。得票数が全学生の過半数に達しなければ、1位と2位の決選投票を行うのだ。今回は人気1番のバティスが圧倒しており、得票数は過半数には達するというのが大方の予想だ。

 勝つとしたら決選投票に持ち込むしかないが、そうなると理系学部のカールは2位に入っても負けるだろう。ポリス会長のもつ予算配分の権利で、理系の会長になったら文系学生は困るという判断をするからだ。


「……それならバティス先輩の当選が確実ではないか?」

「そうとは限りません。それをクロア様がひっくり返すからこそ、恩賞としてキャビネットの役員の座が約束されるのです」


 セオドアの基本的な戦略はこうだ。1番のバティスの得票数を過半数割れに持ち込み、2番、3番手連合の勝負で逆転する。1回目の選挙でバティスに勝つよりも、過半数を超えさせないようにする方に可能性がある。


「うむ。テディ、やはりお前は優秀だ。我が王妃になった暁には、お前を我の右腕としてこき使ってやろう」

「それは遠慮しておきます。俺は領地で隠居生活するのが目標ですから」


 クローディアは(はあ~)とため息をついた。セオドアの目標があまりに能力の無駄遣いだからだろう。


「で、もう一つ聞くが、これが最も大事なことだ。リック先輩は我が加担するにふさわしい人物か?」


 この質問をするところは、セオドアがクローディアを単なるわがままの悪役令嬢と思えない理由だ。自分の欲望をかなえるために人格的に問題がある人間でも支持しようという発想がないことだ。将来の王妃としての資質を見ることができる。


「はい。俺が見たところ、彼は人物的にも尊敬できます。彼の主張は貴族や平民に関係なく、共に高め合える環境の創設です。これは今後の王国が成長していくのに必要不可欠であると彼は考えています。これはクロア様の考えと同じでお眼鏡にも適う人物だと思います」


「なるほど、しかし、そんな人物が現在3番人気とは解せぬな」

「それは資金力の問題ですよ」


 セオドアはリック・フレスの事情を話す。成績は政経学部でトップクラス。性格もよくて友人も多い。しかし、実家は貧しく母一人、子一人の母子家庭の出だという。

 選挙に出るとお金がかかる。ポスターの印刷費に演説会場の飾りつけ、政策を書いたビラの作成等、学生とはいえ平均でかかる費用は、王国金貨30枚はかかるのだ。


「なんだ、そのくらい大したことないではないか」


 クローディアにとって金貨30枚は大した金額ではない。しかし、奨学金とアルバイトで学費と生活費を稼ぐリックには大きなお金だ。リックは友人や支援をしてくれる学生から寄付を募り、なんとか選挙に出られる資金を集めたが、金貨30枚は最低限の金額だ。

 それこそ、当選するためにはその何倍ものお金が必要と言われている。この資金不足から来る機動力及び宣伝力の無さがリック・フレスの3番人気の理由だ。


「資金があったところで、選挙に勝てるわけではありません」

「分からぬ。資金不足が劣勢の理由なのだろう。それなら、我がスポンサーとなってリック先輩を支援すれば、逆転できるのではないか?」


 クローディアが陣営に加われば、バーデン家の豊富な資金が投入される。それで選挙運動を活発にすることができる。


「それはダメです」

「なぜじゃ。場合によっては票を金で買えばよい」


 とんでもないことを口にする。聞いた人間はクローディアがやはり悪役令嬢であると納得するだろう発言だ。しかしセオドアは知っている。クローディアに悪気は全くない。それが犯罪だという認識もない。


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