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うっかり、王太子と同じ学部にしてしまった

 ボニファティウス王立大学にはいくつか学部がある。1年間の教養科目の単位を取り、2年時に専門課程を選び時に学生が選択する。希望通りになるとは限らず、成績順で決まるのだ。1年次におおよそ希望した学部を選んでそれにあった単位を取るのだが、自分の実力を考慮してみんな単位を選択する。

 政治経済学部は人気の学部で将来、王国の政治に関わる者たちが集まる。将来の高級官僚の卵である。

人気だけに理系の医学・薬学部と並んで入るのは難しい。

 エルトリンゲン王太子は今年、2年に進級するにあたり、この政治経済学部へと進んだ。将来、王として政治を行うのだから当然の選択である。

 恐らく、クローディアも来年は後を追ってこの学部にするに違いない。そうなると専門学科のいくつかで同じ授業を受けるだろう。

 それをナターシャは心配しているようだ。ナターシャは王族の特権を使って強引に推薦入学をさせたとはいえ、頭が悪いのでとても政治経済学部へは入れない。単位を何とか取得し、そして王族の圧力がかけやすい文学部に入れるのが精いっぱいであった。


「ナターシャ、その申し出を受けよう。毎日、昼に待ち合わせだ。君はこの大学を無事に卒業できれば良い。授業ではあまり一緒にいられないが、授業外ならこうして一緒にいられる」


 エルトリンゲンはナターシャの手を握る。ナターシャはエルトリンゲンにそっと頭を傾ける。


「殿下、もしあの方に虐められたら、助けてください」


 ナターシャはそう心配事をもう一つ話した。これはエルトリンゲン王太子も思っていたことだ。学部は違うとはいえ、同じ大学に通う1年生同士だ。女のいじめは陰湿で残酷だと聞く。大切なナターシャがクローディアに嫌がらせをする可能性がある。

 ただ、クローディアと幼い頃より付き合っていたエルトリンゲン王太子は、さすがにそこまでの嫌がらせはしないだろうとも思っていた。


「クローディアはあれでも器は大きい女だ。君に陰湿ないじめはしないと思うよ。むしろ、堂々と喧嘩を売ってくるだろう」

「そうですかね……。でも、女は変わります。特に好きな男を巡っての戦いでは」

「そうか……。あのクローディアが変わるか?」

「それに堂々と喧嘩を売られてもわたしは困ります。あの方には権力でも財力でも勝てません。腕力でもです……。ですから殿下、守ってください」


 王太子は腕にしがみつく可愛い女に顔をほころばせる。確かにいろんな力でナターシャはクローディアには及ばない。勝てそうなのは愛くるしいルックスだけである。これさえも美貌やスタイルの良さという点では、クローディアの方が勝っている。

 多くの貴族の男がナターシャとクローディアを比べたら、恐らくクローディアの圧勝であろう。気品のある美しさではナターシャは敵わない。

 しかし、王太子はナターシャにぞっこんである。女は見た目よりも性格である。これに関してエルトリンゲンは、はっきりと断言できる。


(クローディアは性悪である。自分勝手でわがまま。そういう黒い心が顔に出ている)


 整った美しい顔でも時折、悪人顔に見えるのはエルトリンゲン王太子だけではないはずだ。

 王太子はナターシャの髪をそっと撫でてはっきりと宣言した。


「もちろんだ。余は君を守る」

「うれしいです」


 そっとエルトリンゲンの胸に寄り添うナターシャを抱きしめて、王太子は庇護欲を満たした。

 王太子が特権を使ってナターシャをこの大学に入学させたのは、将来、王妃にするためだ。

 平民出身のナターシャを王妃にするのは難しい。現状では不可能と言っていい。できるとすれば側室としてならである。それをエルトリンゲンはよしとは思わなかった。

 そもそも王妃候補のクローディアの性格を考えると側室など認めるはずがなく、このままではナターシャと別れることが決定である。

 しかしナターシャが名門ボニファティウス王立大学を卒業すれば、その問題もいくらか解決できる。かなり無理をするとはいえ、卒業生という肩書は王妃になる資質の1つに数えられるだろう。


(しかし、クローディアの奴、2位合格とは……)


 エルトリンゲンはすごくイライラする。自分は推薦枠で何とか合格した。トップ10に挑む力もなかった。それなのにクローディアはやすやすと超えていく。

 この時、エルトリンゲンはクローディアに対する屈折した思いで、1位のセオドアのことは全く気にかけていなかった。


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