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Ⅴ:奪還計画


 ティオを食堂で待たせているその隙に、私は急いで厨房へ入った。


 そこにはすでにガイウスと十人隊長が一〇人、待っていた。


「メルクリス、奪還作戦はお前が考えろ。奇襲は十八番だったろ、元指揮官殿」


 ガイウスと十人隊長は期待を込めた目で私を見た。


「まかせろ、もう考えた。あのティオという男にアジトまで案内させてやるつもりだ。ところで、すぐに動いてくれる者は何人募れるかな? 夜目の利く者を一〇人ほど選んでほしい」


「半分はもう酒を飲み過ぎているからな。すぐに動けるのは五隊四〇人てとこだ。騎馬隊もいるぞ。協力者にはあとで個人的に謝礼を弾んでやってくれ」


「もちろんだ。海賊に五〇タラント払うより遙かに安あがりだよ。私の計画では、これからあの使いの男からできる限りの情報を引き出す予定だ。みんな、協力してくれ。成功すれば今夜中にサピエンヌスを奪還できる。遅くても明日には居所を突きとめられる。最悪の場合は身代金を払うことになるが、命までは取られないだろう」


 私は計画を説明し、それぞれに指示を与えた。


「だが、なにより最優先される目的はただひとつ、サピエンヌスの奪還だ。海賊どもの捕縛と討伐は二の次だ。それを忘れないでくれ」

「ですが、相手は海賊です。ただでは逃してくれないでしょう」


小隊長が疑念を口にする。だが、その顔は意気揚々と微笑みを浮かべている。他の隊員も皆そうだ。


 一括りにローマ軍人と言っても、皆が貴族ではないし、裕福でもない。庶民出身の兵士にとって、この件は破格のアルバイトだ。

 私からの謝礼金を大いに期待している。


「そこは存分に正当防衛をしてくれ。正義はこちらにある」


 彼らがいま知りたいのは、私の指示だ。どこまで暴れてもかまわないのか、その範囲である


 これはガイウスが百人隊長として私の意図したとおりの指示を出してくれた。


「もちろん、応戦は想定内だ。だが、海賊が攻撃してきたらの話だ。俺たちが先に攻め込んで、何もしていない漁民を虐殺したとあっては、完全にこちらが悪いことになるからな」

「しかし、手負いの残党を逃がせば、ローマ軍への遺恨を後々まで残すことになるのでは?」


「その心配は無用だ。そもそも海賊の討伐は、正規の警備隊か海軍の仕事だ。海賊がスキュタロス島ではなく、このロドスに隠れ家を持っているなら、我々駐留部隊の仕事だったんだ。残り(かす)ていどなら、次の部隊がなんとかしてくれるさ。仕事だからな」


 ローマへ帰るガイウス達は、本来ならこの件は管轄外である。


「サピエンヌスが監禁されているのはこの街の近郊だと思う」

「なんでそれがわかった?」


 ガイウスがいぶかしむ。


「あのティオは歩いてきた。汗の臭いもしなかったから、短い時間に走ることもしていない。あいつは海賊の一味だ。部屋に入っただけで船乗りだとわかったほど、潮の臭いが体に染みついていた。あれで船乗りでなければ魚屋だろうが、この街に住むふつうの商人なら、まだ何ヶ月か、あるいは何年か滞在するかも知れないローマの元老院議員の息子へ、素顔をさらしてまで脅迫状を届けに来たりはしないだろう」


 私が考えているサピエンヌスの奪還計画は、さほど複雑ではない。

 ただ、海賊どもに一泡吹かすには仕込みが肝心だ。なおかつ安全に友人を救出し、こちらには被害が出ないようにしなければならないのだ。


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