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第8話 その歯切れの悪い回答やめてください


 廊下に出てみると、天井は普通のホテルの倍以上に高く、大きな窓が切り取られている。床は石畳で、あまりの空間の広さに夏美の履いているヒールの音が響いた。

(来るときは目隠しされてたからわかんなかったけど、なんかお城みたい……)

 アイザックと初老の男性が歩く後ろについていく。昨日はベッドでの姿しか見ていなかったので気づかなかったが、立ってみるとアイザックはすらりと身長が高かった。

(確かに手とか、大きかったもんなぁ……)

 昨夜のことを思い出しながら考えていると、前にいた二人が立ち止まった。そして部屋のドアを初老の男性が押し開ける。

 中は、真っ赤な絨毯が敷かれた広い部屋であった。本棚が周囲を取り囲むように鎮座し、所狭しと本が並んでいる。天井にぶら下がっているシャンデリアは夏美が両手を広げるよりも大きいが、昼間であれば人工の光が必要ないだろうというほど明るい。それは、はしごでしか届かないほど、天井付近まで大きく開かれた窓のおかげである。素人目にもわかる良質な生地で仕上げられたカーテンが、部屋の格式を思わせていた。

「座れ」

 部屋の中央にあるソファに、アイザックが腰を下ろし、夏美もその向かい側に座るように促される。初老の男性は、アイザックの背後に周り、そこで立つ。

「一人か?」

「まぁ……はい」

「……なら聞く。お前はどうしたい?」

「へ?」

「昨日は悪かった。こうなるのがわかっていて、放っておいたようなもんだ」

「え? え……? あの、ちょっと、状況がよくわかんないんだけど……」

 夏美が戸惑いを口にすると、アイザックが息をついた。

「昨日の時点でお前が異国から来たことは明らかだった。しかもこの国のことをよく知らなさそうだ。なのにそのままお前を置いて帰った。お前のような者が、単身であるとは思わなかったんだ。誰かこの国の知り合いでもいるのかと思った。だが、お前は警備兵から不審人物として投獄された。しかも一人で」

「は、はぁ……」

「昨日のうちに、連れがいるか聞いておけばよかった」

「それは……その、別にあなたが悪いわけじゃ……」

「……とにかく、これからどうする。行くあてはあるのか?」

「ない、けど……あの、とりあえず。あそこから出してくれてありがとう。それで、私、今の状況が正直よくわかってないの。その……」

(ここで、正直に別の世界から転移してきたって伝えるべき……?)

 夏美は悩んだ。かといって、他国から来たといえば、またニホンなんて国ないとか、どうやって来たとか根掘り葉掘り聞かれて、嘘を貫けない気もする。

「実は……」

「なんだ」

「記憶がないの。どうやってここに来たか」

「……は?」

「だから、私にもわかんなくて……」

「記憶がないというのは、いつからですか?」

 ソンジ、と呼ばれた初老の、おそらくアイザックの執事的ポジションの男が言った。

「昨日の夜……かな。それ以降のことを覚えてなくて……」

 夏美の言葉を聞いて、二人は顔を見合わせた。

「そのような例は聞いたことがありませんな。どういたしましょうか」

「ここにどうやって来たか、以外は記憶あるのか?」

「あ、まぁそれは……」

「……そうか。昨日、自分でナツミと名乗っていたしな」

「ナツミ様というお名前なのですね。確かに、あまり聞き慣れない語感ですなぁ」

 ソンジはひげをこすりながら言った。

「あの……」

「はい?」

「さっきのアイザックのどうしたい、って言葉なんですけど……私に選択権ってあるんですか?」

「……」

 再び二人が見つめ合った。




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