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第7話 ソンジ作戦は失敗? 成功?

 そろりと部屋を出ると、すぐ真横にソンジが立っていた。

「ひっ! ソ、ソンジさん……!?」

「そろそろ、出てきていただけると思っていましたよ」

 ほっほっ、と嬉しそうに笑う。

「では、アイザック様をよろしくお願いしますね」

「はい……」

 なんだか相手の親に見守られながら致すセックスみたいだと思いながらも、夏美はアイザックの部屋の前に立つ。

(よし、気合い入れて……ネグリジェも可愛いし、昨日もしたし、きっと相手も乗り気だし……)

 何も心理的な抵抗はないはず、と自分に言い聞かせて挑む。

 コンコン、と部屋をノックすると、中からくぐもった返事が聞こえた。

「あ、あの、夏美だけど」

「……なんだ」

「入れてくれない?」

「ソンジはどうした」

 迂闊に入れてくれないアイザックに、夏美は思わず近くにいるソンジに助けを求める。

 するとソンジは無理やり入ってしまえとジェスチャーをしてきた。

(い、いいの……!?)

 夏美はなんとなく周囲にソンジがいないのを確かめ、思い切ってドアを押し開けた。

 すると、ちょうど出かけようと上着を羽織っていたアイザックと目があった。

「あ! もしかして、出かけようとしてる!?」

「……」

 アイザックは分が悪いという表情で、夏美の声掛けに無言でうなずいた。

「何をしに来た」

「ま、まぁ、その、とりあえず上着は脱いだら?」

 夏美はもう、ここでモーションをかけることを心に決めていた。

 上着を脱がせて物理的距離を縮め、そこから甘い雰囲気に持っていけば良い。そもそも、単刀直入に「私が相手をしましょう」と伝えてもいいのかもしれない。

 しかし夏美は、ある程度雰囲気を大事にしたいタイプである。

 近づいて、アイザックが羽織ったブレザーとシャツの間の胸元に手を差し込む。

「……どういうつもりだ」

「どういうつもりも何も、誘ってるの」

「……」

「ほら、これ脱いで一緒にベッド行こう? 一人じゃ寝れないんでしょ、私がそばにいるから」

「別に一人でも眠れるが……ここの場所で寝るのが寝るのが嫌なだけで」

(ちょっと、ソンジさん!? 話違うけど!?)

「ま、まぁ……でも今日からは私がいる。ね? シて、嫌なこと忘れたら一緒にここでも寝れると思う」

 夏美がそこまで勢いをつけて言うと、アイザックは諦めたようにはぁ、と小さくため息をついた。

「……今日は外出はやめるが、お前ちょっとこっち来い」

 アイザックは上着を脱いで、自分のベッドの縁に腰掛けた。

(ああ、いよいよ始まる……!)

 もう夏美はワクワクが抑えられない。急いでアイザックが座ったベッドの端に腰掛ける。

「お前、ソンジから聞いていないのか」

「何を?」

「……まぁ、聞いていたらこんなことしないだろうな」

「ええ? だって、部屋を隣にしてくれたのも、こういう夜這い? をしやすいようにでしょ? アイザックだって乗り気なんだとすっかり……」

 夏美がそこまで言うと、アイザックは今までで一番大きなため息をついた。

「……いや……これはソンジが悪いな」

 アイザックはそう言うと、ベッドに座り、目で夏美にも座れと促してくる。

(座った瞬間、そういうことが始まる……ような空気感ではないな……怒られそうな雰囲気……)

 内心ちょっとしょんぼりしつつ、夏美はアイザックの隣に座る。

「えっと、その……悪い話……?」

「いや、お前には質問がしたいだけだ。ソンジから、そういう行為はこの国で禁止されていると聞かなかったのか?」

「……え? そういう行為って?」

「……お前がこれからしようとしていた行為だ」

「私達が出会ってすぐにやった行為?」

「……ああ」

アイザックが唸るように言う。

「禁止? え? どういうこと? 私達、ヤッたよね? 禁止っていうのは、そのマナー的に? それとも、犯罪になるってこと?」

「ああ。法律で固く禁じられている。正確に言えば、子どもを産み育てられる状況にない男女の行為が、だが」

 夏美はあまりに突然のことに、状況が読み込めない。

「えっ……じゃあ、私もあなたも、まだあの牢屋に……?」

「早まるな。俺は例外だ。王族は何をしても基本的に罰せられることはない」

「あ……」

 そういえば、この男の立場を忘れていた。次期国王陛下。

「じゃあ、あなたはいいけど……王族じゃない私は?」

「王族の相手をした者も、例外が適用される場合がある。でなくては、子孫を残せないからな」

「それもそうか……」

「つくづく王族に有利な国だ」

 その言葉は、どこか自嘲しているようだった。

(なんか……アイザック、変?)

「とにかく、そのなりはやめろ」

 アイザックが着ていたブレザーを脱ぎ、夏美の肩にかけてくれた。

 その瞬間に触れた手から、また一瞬にして体温を感じてしまう。

「あの、でも……」

「なんだ?」

「ソンジさんはあなたとこういうことシてほしいって……」

「ソンジが? 本当にそう言ったのか?」

「うん……夜の相手をしてほしいって言ってた」

 夏美がそう言うと、アイザックははぁ、と大きなため息をついた。

「……それは、おそらく話し相手になってやれとかそういう意味だ。お前が思っている意味ではなく、言葉通りに」

「……はい?」

 大人の会話で、夜をともにする、という言葉が出たなら思えないのが夏美である。

「えっと……あの、ということは……ソンジさんは、私にただの添い寝をお願いしてきてたってこと?」

「ああ」

「それを私が、勘違いして……誘っちゃったってこと?」

「そうだ」

「うっ……」

 猛烈な恥ずかしさが押し寄せてくる。

「なんでソンジさん、そんな大事なこと教えてくれなかったの!」

「この国では、夜をともにすると言ったら寄り添って眠ることを指す。お前の国では、禁止されていないのか? そういう行為は」

「もちろん! 好きな人と、好きなだけそういう行為ができるよ」

「……そういえば、最初のときも妊娠を防ぐという道具があったな」

「うん、ある」

 夏美はここぞとばかりに持ってきていたコンドームを取り出して見せる。

「これで、95%くらいは子どもができる確率を抑えられるの! それだけじゃなくて、性病が移るのも防げるし、いいことずくし!」

 夏美はコンドームマニアでもある。日々、いいコンドームを探して探求する心も持ち合わせている。

 だからこういう話には自然と熱が入るのだった。

「……それは、すごいな。こんどーむ? と言ったか。これはあの日も使っていたものだな」

「うん。使った。でもまぁ、もちろん100%に避妊できるわけじゃないけど、私がいた国ではこれを使って、愛し合う二人がセックスを楽しんでたよ。子どもを生むためってだけじゃなくて、好きな人と繋がって愛を確かめるためでもあるの。あとは、お互い一緒に気持ちよくなりたいとか……」

 と、そこまで言って、夏美の中に性欲の炎がゆらゆらと燃え上がってくるのがわかった。

「ねぇ」

「なんだ」

 夏美がぐいと 少しアイザックに近づいたので、アイザックが身構えた。

「幸い、あなたと私であれば罪にはならないんでしょう? だったら、これ使おうよ」

「……お前な。さっきは愛し合う二人がどうこうと言ったその口で」

「いいじゃん、愛し合ってなくても、お互いスポーツとして楽しむこともあるんだよ。それに私、あなたとの相性がすごく良かったと思うの、あなたはそう思わない?」

「……悪くはなかった」

「でしょう!? じゃあ、シよう!」

「……お前の国では、そんなにまっすぐに誘ったのか」

「え、まぁ──」

(!)

 夏美の言葉尻を飲み込むように、アイザックから口付けられる。

「もっと、お前は場の雰囲気を盛り上げる方法を身に着けたほうがいいな」

 さっきまでとは違う、口角を上げたちょっといじわるそうな表情。

(やだ、この人乗り気になったらこんな感じなの!?)

 嬉しい戸惑いに浸っていると、夏美の髪をアイザックの手が掬い、もう一度口づけされた。

 そしてそれは、次第に深く甘いものになっていく。

「んっ……」

「お前、こういうことには慣れてるんじゃなかったのか?」

 髪を撫で、そのまま首筋にキスをされる。そして夏美の太ももをアイザックの手がするりと触れた。

 内心高鳴る鼓動と、この始まりのタイミングが一番好きだ。お互いのボルテージが上がっていくのが実感できる。

「慣れ、てる……」

「……お前の国では、これは一種の娯楽なのか?」

「娯楽といえば、娯楽かも……? あっ……」

 鼓膜をアイザックの低い声が打ち、太ももを這うアイザックの大きな手と自分より高めの体温からどうしても男を感じざるを得ない。

 それがまた、夏美をどうしても高揚させていく。

 今度は夏美の方から首に手を回し、口づけをする。さっきまでよりももっともっと深く口付ける。

「ねえアイザック」

「なんだ」

「ソンジさんは部屋の中には見回りこないよね?」

「……来る日もある」

「えっ!」

「だが、今日はお前がいるから入っては来ないだろう。さすがに女と二人きりのところに水を差す野暮なやつではない」

「でも最初の日は……」

「あれは朝になって部屋に入ってきただけだ」

「じゃあ、シてるところは……」

「見られてない。お前の裸も見られてはいない」

 そういうとアイザックが夏美のボディラインを優しくなぞった。

 それだけで気分が高揚する。

「はぁ……もう、欲しいもん」

「何が」

「あなたが」

「……そういう文句は一人前だな」

 アイザックにもギアが入る。二人はそれから、甘い夜の闇に堕ちていった。


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