【07】今、わたくし口説いておりますので
腕を組んで、イミルは続けて言う。
「頑張れ的なことを言って笑ってたよ。良く分からないけど、積極性? が必要とか」
「……なるほど」
「前途多難、みたいな。あ、もしかしてお告げみたいなのかな? フェダさん何か目標がある?」
「ええ、ありますね。わたくしの祈りの返礼として、悩みに対するご進言を下さったのでしょう」
「へえ、そういうのもしてくれるんだ。まさに共生だね。助けて助けられて、いい関係」
「ありがたいことです。早速取り入れて参ります。積極性。なるほど……」
うんうんフェダは頷いている。納得できる内容だったのなら何よりだ。
自分が役に立てたのなら嬉しい。少しだけ誇らしい気分になって、イミルは酒瓶に手を伸ばした。先にフェダが気が付き、空のグラスを薄緑の酒で満たす。ありがとう、と感謝を返して、一口。うん、苦い。美味しい。
「でも、なんで私だったのかなあ」
ほう、と、酒気の溜息を吐いてから、イミルは呟いた。
自然の少ないヴェンガムドで、星屑蝶と呼ばれる精霊が、イミルに対して祝福を与えた。
もの心ついた時から声が聞こえていたのだから、きっと生まれてすぐだったのだろう。だけれど理由は分からない。
魔法が好きで真面目だけが取り柄の、いたって普通の貴族の子女だったのだけれど。
ひょっとして精霊は地味な人間が好きなのだろうか。それはあるかもしれない、自然物に宿るなら、土や草に喜んで触れたがるイミルはなかなかの人材といえそうだ。
そう疑問を口にすると、フェダは酒を追加せず、イミルを見つめたまま答えた。
「蝶は気まぐれと聞きます。彼らにとって魅力的な人間を祝福すると」
「魅力的。何だろうね、私の何が良かったのやら」
「わたくしにも、十分魅力的に見えますが」
「ふぉっ!?」
酒を吹き出しそうになって、堪えた。
口を押えてばっとフェダを向く。彼はいつもの笑顔だった。ただほんの少し、底知れないような深い何かを、その瞳の奥に秘めているようだった。精霊がひゅー、きゃらきゃら、また笑う。
(ちょ、今は静かにしてて!)
まるで冷やかすみたいな声を出して、困ると言ったらない。フェダはじっと視線をそらないまま、一歩イミルに近づいた。押されて一歩下がる。
「祖国で冤罪を押し付けられ、手ひどい扱いを受けてもなお挫けぬ心根も、不屈の心の美しさが現れたかのような瞳も、とても魅力的だと申し上げました」
「あ、あは、そりゃありがと、根性あるって言われるのは嬉しいな!?」
「聖女の務めの合間に、魔法の研究も続けておいででしょう? 役目を果たしながらも、自己犠牲をなさらない。その場において最大限の輝きを保たんとするあなたは素敵だ」
「ありがとう! でも褒め過ぎ! ほらあんまりやると勘違いするからその辺で」
「勘違いではないですよ。今、わたくし口説いておりますので」
ひゅー、と、また、精霊が笑った。
口笛を吹くようなその音に、イミルはようやく意味を悟って――
「……ええ!?」
素っ頓狂な悲鳴を上げた。笑顔のフェダの手がそっと、イミルの手に重なった。
「精霊にご助言を頂きましたので。
――ここからは少々、積極的に参ります」
読んで下さってありがとうございます!!最後までお付き合い下さったらとても嬉しいです。
次からフェダが本格的に口説きにかかります笑