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並ぶ  作者: 相草河月太
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 それから一週間。悠香とはまったく連絡していない。ぐちゃぐちゃな頭がようやく整理できたので、俺は再び『代理並び人』のアプリを起動した。


 「おまたせ」

 俺がよく行くラーメン屋の長い行列に並んでいると、後ろから声がかけられた。俺は帽子をまぶかに被り、買ったばかりの黒いジャケットを着ていた。


 「黒ジャケットに帽子、あ、あなたが依頼人ですか?」

 明るい声で、俺に話しかけてくる。俺がうなづくと、相手が横に並んできた。


 「今日はよろしくお願いします…」

 言いかけた相手の言葉が止まる。俺は顔をあげ、相手を見る。


 「康太!」

 「おお、悠香」


 「ちょっと、何?どういうこと?」

 やや苛立ったような悠香に、俺も強めに言葉をかける。


 「バイト、いつもやってんだろ?じゃあ俺とでもいいだろ?同じなんだから」

 「だって、これじゃお金にならないじゃない」


 「俺が払うよ!」

 思わず声が大きくなる。金の方が、俺よりも大事だっていうのか。俺の様子に黙りこんだ悠香に、俺は続ける。


 「こうでもしないと会ってくれないからさ。俺が嫌になったなら言えよ。確かに情けない男だからさ。愛想尽かされても仕方ないよ。でもさ、会ってくれもしないで、男とデートみたいなことしてさ、もう辛いんだよ」


 「なんでそんなこというの?お金が必要なんでしょ?だから私も一生懸命バイトしてるのに」

 「何もこんなことじゃなくてもいいだろ?」


 「康太がやらせたんじゃない!」

 今度は悠香が叫ぶようにいった。周りの人たちも思わず振り返る。


 「康太が、私と一緒にいるより、お金を選んだんじゃない。だから、私だって辛いけど、別々にバイトしてお金稼いでるんだよ。何言ってるのよ」


 「でもさ、こんな、男と並ぶなんてことする必要ないだろ!楽しそうに話てさ」

 「楽しいわけないじゃない。康太にやらされて、それで他の男が私にそういう頼みをしてもいいって思って、で、私も康太がそうして欲しいんならと思ってやってるだけだよ、ひどいこと言わないで!」


 「いや、この間、お前は気づかなかったろうけど、俺、みたんだぞ。楽しそうに、男と一緒にいたい、なんて言ってたろ!」


 悠香が顔を覆う。そして、あげてこちらを見た目には、涙が溢れていた。


 「気づいてたよ。康太に気づかないわけないじゃない。気づいてたから、言ったんだよ。私は一緒にいてくれる男の人が好きって。康太は、いつだって一緒にいてくれたのに。あの日、康太は私より、私と一緒にいることより、お金を選んだんじゃない」


 悠香が走りだす。

 俺はガーンと頭を打たれ、一瞬出遅れたがすぐに彼女を追った。


 「ごめん、悪かった」

 追いついた悠香の肩を掴んで立ち止まらせて、必死に謝る。


 「俺が馬鹿だった。お前と並ぶのが楽しいのに、金なんてついでだったのに。いつの間にかそれを忘れて、金に目がくらんだ」


 「それだけ?」

 「え?」


 悠香は俺を引き剥がすと歩きだす。俺はまた、追いかけて、彼女の目の前で頭を膝につくほど下げた。


 「お願いします。これからは、僕とだけ並んでください。他の男と並ぶのはやめて、一生、僕と一緒に、僕とだけ一緒に並んでください。お願いします!」

 

 結果的に、これがプロポーズになった。今でも、彼女と列に並ぶと、嬉しい。

 それも長ければ長いほど。

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