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最近、悠香と会っていない。
いや、別に何かが変わったわけではない。相変わらず俺はしがないフリーターで、並ぶバイトもしているし、休日には悠香にメールをしている。しかし、彼女は忙しいらしいのだ。
そして、時々俺にアプリでお金を送りつけてきて、何かに使って、とだけメッセージをくれる。
悠香が何をしているか、俺は知っている。
彼女は並ぶバイトを、個人的にしているのだ。そして、どうやら悠香が並ぶ時は、横に別の男も一緒に並ぶらしい。
つまり、こういうことだ。
俺が迂闊にも一度、あの男と一緒に悠香を並ばせてしまった後、男がそのことを周りに、SNSやクチコミで、あまり派手にではないにしろ言いふらしたようなのだ。
そして、1000円とか半日5000円とか気軽な値段で、人がよく可愛い女子と長時間ならんでおしゃべりができるということで、俺もやりたいという連中の間で悠香の連絡先が出回ってしまった。
ちょっとしたデート感覚で呼び出して、並んだあとは一緒に食事を奢ってあげて、誘えば必ずきてくれて。
悠香のような可愛い女の子がそんな手軽に横にいてくれるなら、俺だってきっと呼び出すだろう。そして、優しい悠香は、その呼び出しを拒否することができないでいるようなのだ。
だから、俺もへそを曲げて、自分からそのことを悠香にいうことはしない。
ある日、よく並ぶ人気ラーメン店で並ぶバイトをしていると、後ろに楽しそうなカップルが並んだ。
「ここ、美味しいんだよ」
「わあ、私初めてです」
聞き馴染みのある女性の声。俺は振り返らなかったが、間違いない。悠香だ。
「寒い時はラーメンに限るよね。俺さ、有名ラーメン店は相当食べ歩いてるから」
「すごーい」
「今度またさ、別の店誘うから、一緒に並んでよ」
「もちろん。美味しい店だったら大歓迎です。私あんまりしらないから」
「お、じゃあ教えてあげちゃおうかな、秘密の店も、悠香ちゃんになら」
「わー、ほんとですか!お願いします!」
楽しそうなやりとりに、俺ははらわたがおかしくなりそうになる。悠香のやつ。なんだってこんな馬鹿につきあっているんだ。本気で楽しんでるじゃないか。
「ねえ、やっぱり悠香ちゃんてさ、彼氏募集中なんじゃないの?」
男が悠香に聞く。
「なんでですか?」
「だってさ、こんなバイトして、対して金にもならないのに男の相手して時間使うなんて、いい男を探そうとしてるとしか考えられないじゃん。彼氏いたら水商売するよりやでしょ、こんなの。だって水商売だったら金になるけどさ、悠香ちゃんのやってることって、ただの仮デートだもん」
「ひどーい」
俺は泣きそうになりながら、悠香の返事を、耳を痛いほどに立てながら聞く。
「でも、そうかもしれません。私、一緒にいてくれる人が好きなんで。こうやってでも一緒にいたいって思ってくれる男の人は好きになっちゃうかも」
「お、じゃあ俺も彼氏に立候補しょうかな」
「えー、困っちゃうなー」
それ以上聞いていられないくて、俺はバイトをほったらかして走り出した。
くそ。悠香のやつ。