表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
並ぶ  作者: 相草河月太
3/4

 最近、悠香と会っていない。


 いや、別に何かが変わったわけではない。相変わらず俺はしがないフリーターで、並ぶバイトもしているし、休日には悠香にメールをしている。しかし、彼女は忙しいらしいのだ。

 そして、時々俺にアプリでお金を送りつけてきて、何かに使って、とだけメッセージをくれる。


 悠香が何をしているか、俺は知っている。

 彼女は並ぶバイトを、個人的にしているのだ。そして、どうやら悠香が並ぶ時は、横に別の男も一緒に並ぶらしい。


 つまり、こういうことだ。


 俺が迂闊にも一度、あの男と一緒に悠香を並ばせてしまった後、男がそのことを周りに、SNSやクチコミで、あまり派手にではないにしろ言いふらしたようなのだ。


 そして、1000円とか半日5000円とか気軽な値段で、人がよく可愛い女子と長時間ならんでおしゃべりができるということで、俺もやりたいという連中の間で悠香の連絡先が出回ってしまった。


 ちょっとしたデート感覚で呼び出して、並んだあとは一緒に食事を奢ってあげて、誘えば必ずきてくれて。

 悠香のような可愛い女の子がそんな手軽に横にいてくれるなら、俺だってきっと呼び出すだろう。そして、優しい悠香は、その呼び出しを拒否することができないでいるようなのだ。


 だから、俺もへそを曲げて、自分からそのことを悠香にいうことはしない。


 ある日、よく並ぶ人気ラーメン店で並ぶバイトをしていると、後ろに楽しそうなカップルが並んだ。


 「ここ、美味しいんだよ」

 「わあ、私初めてです」 


 聞き馴染みのある女性の声。俺は振り返らなかったが、間違いない。悠香だ。


 「寒い時はラーメンに限るよね。俺さ、有名ラーメン店は相当食べ歩いてるから」 

 「すごーい」


 「今度またさ、別の店誘うから、一緒に並んでよ」

 「もちろん。美味しい店だったら大歓迎です。私あんまりしらないから」


 「お、じゃあ教えてあげちゃおうかな、秘密の店も、悠香ちゃんになら」

 「わー、ほんとですか!お願いします!」


 楽しそうなやりとりに、俺ははらわたがおかしくなりそうになる。悠香のやつ。なんだってこんな馬鹿につきあっているんだ。本気で楽しんでるじゃないか。


 「ねえ、やっぱり悠香ちゃんてさ、彼氏募集中なんじゃないの?」

 男が悠香に聞く。


 「なんでですか?」

 「だってさ、こんなバイトして、対して金にもならないのに男の相手して時間使うなんて、いい男を探そうとしてるとしか考えられないじゃん。彼氏いたら水商売するよりやでしょ、こんなの。だって水商売だったら金になるけどさ、悠香ちゃんのやってることって、ただの仮デートだもん」


 「ひどーい」

 俺は泣きそうになりながら、悠香の返事を、耳を痛いほどに立てながら聞く。


 「でも、そうかもしれません。私、一緒にいてくれる人が好きなんで。こうやってでも一緒にいたいって思ってくれる男の人は好きになっちゃうかも」


 「お、じゃあ俺も彼氏に立候補しょうかな」

 「えー、困っちゃうなー」


 それ以上聞いていられないくて、俺はバイトをほったらかして走り出した。

 くそ。悠香のやつ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ