第十二話 梅田地下貝<前編>
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
落下の途中、梅田地下貝の不思議な作用で一行は散り散りに転移される────
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……
窟内の床部から30cmほど浮いた位置で胎児めいた落下態勢のままパッと出現する鞘織
そのまま尻もちをつく形で着地する
「ぎゃふんっ……い、たたぁ……」
「……………………」
なんだか妙に静かだな……まるで誰も居ないみたいな────
打ったお尻をさすりながら立ち上がり、キョロキョロと辺りを見回してみる。
砂漠の遺跡みたいな場所だな────……貝の中なんだよね、此処。
「……………………」
ガチで誰も居なかった。
「…………ぇ……あれ? 備限様?」
私がお慕い申し上げてやまない殿方の姿がない。
改めて周囲を見回しながら同行していた仲間たちの名を呼んでみる。
「ネリネちゃーん?」
尻もちをついた私を、いの一番に"ドジね~"と揶揄ってきそうな小さなゴブリンの姿も見当たらない。
「コンテさーん」
し~~~~ん。
「た、質の悪いイタズラですか? 隠れて私を笑ってるんですか?」
言い知れぬ焦燥感に駆られながら、遮蔽物めいた物陰や柱の裏側など、隠れ潜んでいそうな所を次々と暴いてゆく。
「……………………」
が、やはり誰も居ない────
私は半泣きになりながら、胸に抱き抱えている鞘に縋り付いた。
「鞘歌ざあああああん」
『おおよしよし、大丈夫よ鞘織ちゃん』
脳内に優しく響く、母性を備えた声色の返答に、私は心底安堵した。
慈愛に満ちた包容力が、憔悴しきったメンタルを癒し給う。げに五臓六腑へ沁み渡りけり。
その心強さに、思わず古めかしい文体での感想が浮かんでしまうほどであった。
『どうやら孤立してしまったみたいね。まずは一度深呼吸をして落ち着いて、それから状況を整理しましょう────』
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………………
…………
……
「……うぅ~~、気持ち悪い……これが召喚酔いってやつなのね……初めて味わう感覚だわ……うぷ」
頭を抑えながらフラフラと力無く浮遊するネリネ
「三半規管の鍛え方が足りんのだ、未熟者め」
備限は平然としている。
「あたしはあんたと違って武闘派じゃないんだから無茶言わないでよ。弱ってるんだから優しくしてちょうだい」
……これだけ口が聞ければ上等だろう。ひとまず無視でいいな。
ざっと周囲を観察してみる。
「あ、無視したわね!」
「初めて入ったが、洞窟めいた造りのごく普通のダンジョンだな梅田地下貝。生物の体内よろしく生々しい肉壁を想像していたが────」
「うえぇ、やめてよ。想像したら余計に気持ち悪くなったじゃない……」
「まあ実際そういった内臓エリアも在るんだろうけどな。なにしろ梅田の地下ダンジョンはジャッポガルドがまるごと収まる広さと聞く────」
「そのうえ、今もなお膨張しながら広がり続けているらしいからね……」
「ああ。中には想像を絶する地獄のようなグログロスプラッタエリアだって在るかもしれんぞ」
「だーかーら、そうやって想像させないでってば! もう!」
「状況の仮定だ────予め想像し心構えが出来ていれば、いきなり目の当たりにしても多少は動揺が抑えられるだろ────」
言い換えればSAN値の損耗が緩和めいて軽減されるのだ。
想定範囲が広ければそれだけ恐慌状態に陥るリスクも低下する。
咄嗟の判断が求められるような緊急を要する局面で、足が竦み動けなくなってしまうような冒険者は三流以下のひよっこだ。
仮に家族や友人、恋人が凄惨に凌辱・殺害されるシーンに直面したとて、非情めいて状況を打開する行動をとれてようやく一流と言える。
初見のダンジョンに挑む際は常に最悪を想定しつつ行動すべし。膝栗毛にもそう書かれている。
そして俺様は、そんなピンチとは無縁の超ウルトラスペシャル一流冒険者なのは言うまでもない。
「だからってさあ……さおりんも何か言ってやってよ……あら? さおりん? っねえ大変、さおりんが居ないわよ!」
「やっと気づいたか、どうやらあいつは別の場所に転移されたらしいな」
ついでにチャラ男も居ない
「初手で味方を分断するのがこのダンジョンの仕様らしい」
「さすが高難度ダンジョンだけあってグループ泣かせね────……って、じゃああたしは?」
「小さすぎて頭数にカウントされなかったんだろう」
「……それはそれで癪なんだけど、あたし一人じゃ確実に詰んでいたでしょうから素直に幸運と捉えておくわ」
唐突に備限が叫んだ
「コンテ! カムヒア!!」
「きゃあ! いいきなり大声出さないでったら! まだ召喚酔いの余韻が治まってないんだから────」
「お呼びですか、主様」
小窓めいて出現した次元の裂け目からひょこりと顔を覗かせ、いつものように恭しく備限に傅くコンテ。
「あら、あんたも同じ場所に居たの?」 ( ´∀`)人(´∀` )ナカーマ
「いいえ。此処から遥か遠く僻地にしっかりと飛ばされておりましたよ」
ネリネのハイタッチに応じず否定するコンテ
「────これぞ忍法・口寄せの術」
閉じた二本指を忍術めいてスッと立て、キリリと決め顔の備限
「意味も無く叫び出したわけじゃなったのね。そんなのいつの間に覚えたの?」
「もちろんたった今だ」
「例によって思いつきの即興ってわけね。なんか特殊な信号でも飛ばしたの?」
「ああ。俺とコンテは主従の契りを交わしているからな────感じ取ったか? この俺の迸る熱いパトスを」
「はい、しかと受信致しました。一人途方に暮れておりましたところに、私を呼ぶ主様の声が聞こえたのです。そう……それはまさに絶望の暗闇を照らす一条の光、セレスティアルブライト……そのシグナルを道標にこうして馳せ参じることができたのです」
「それでこそ我が眷属よ。褒めてつかわす」
「もったいなきお言葉……恐悦至極にございます」
※コンテはしめやかにモイストした
「…………それにしても、物理法則を無視してワープできるなんて改めてバランスブレイカーだわね」
ネリネが言葉を続ける
「残すはさおりんだけだけど────さすがに口寄せの術は無理よね」
「うむ。アイツは俺への忠義が足りんからな」
「忠義云々はさておき きっと今頃、一人ぼっちで不安で泣いているんじゃないかしら」
「やれやれ、面倒だが探しに行ってやるとするか……まったく世話の焼ける奴だ。俺の手を煩わせた罰として、見つけたらくすぐりの刑だ」
「ふぅん」
「いや訂正しよう。母上だ、母上を探しにゆくのだ。正直のところアイツがどこで野垂れ死のうと知った事ではない。だが母上はなんとしても回収し保護せねばならん」
「ほおーーん」
「……なんだその顔は────マザコン野郎と笑わば笑え」
「笑ったりしないわよ別に。ま、そういうことにしといてあげましょ」
「……ふん」
何はともあれ、鞘織&鞘歌と合流すべく梅田地下貝の探索を開始する備限一行であった────
……………………
………………
…………
……
「そ、そんなに広いんですか」
『ええそうよ。二度と再会できず一生をさまよう事になる────なんて、脅かしたいわけじゃないけど、有り得ない話じゃないからね』
カサカサと、乾燥した砂上を転がっていく回転草を遠目に、私は遺跡の朽ちかけた柱にもたれ掛かりつつ腰をおろし、そこで鞘歌さんから梅田地下貝の講義を受けていた。
鞘歌さんは過去、梅田地下貝を実際に体験済みだと言うのだ。
あ、呑気に講義なんぞ受けて危機感ないなーなんて思ってます? もちろん事前に周辺のクリアリングは済ませ、安全は確保してある。
陽射しで体力の消耗を避けるため、日陰を求めこの場所に落ち着いたのだ。
それにしても、貝の中に太陽があるなんて不思議だなあ。
あとから聞いた話だが、あれは梅田地下貝固有の巨大な真珠の一種で実際の太陽ではないらしい────そりゃそうか。
ちなみにその疑似太陽めいた真珠の名は【アポロイドパール】というのだそうだ。
スケールの大きすぎるこのダンジョンは、もはや一つの世界である。
「となると……長期戦も視野、ですか」
『一刻も早く合流したいでしょうけど、ここは気持ちをぐっとこらえて一旦ステイよ。なにしろ広さが広さだから闇雲に探索を始めても行き倒れになる可能性が高いわ。鞘織ちゃん、サバイバルの心得はある?』
「あっ、それなら良い物があります。私自身にサバイバルの経験はありませんが、おばあちゃんが特製の冊子を作って持たせてくれたんです。きっと砂漠で使えるサバイバル術も載ってますよ────」
おばあちゃんに感謝だな……まさか実際に頼るときが来るとは思わなかったけど……ありがとうおばあちゃん。
『素敵なおばあ様ね』
「はい。ちょっと過保護なのが玉に瑕ですが────……あ? あれっ?」
私は蔵渦から件の冊子を取り出そうと虚空に手を伸ばした────のだが、蔵渦が出現しない……
「え? え? うそうそ」
『……どうやら我々は今、コンテちゃんの能力の及ばない射程圏外まで離れた位置に居るみたいね』
「そんな…………それじゃ色々話が変わってきますよ…………」
一気に雲行きが怪しくなってきた。ここまで割と楽観めいて悠長に落ち着いていられたのはひとえに、蔵渦の存在をアテにしていたからである。
『頼みの冊子が頼れなくなっちゃったわね』
「それもそうですが、何より水が…………」
『そうね。まずは水源の確保が最優先事項ね』
ふと外を見やる。視界の先は砂砂砂……360度見渡す限り広大な砂漠……地平線の奥には蜃気楼が陽炎の如く揺らめいている。
うう……視覚情報に加え、蔵渦使用不能という事実も相まって急激に喉が渇いてきた────
たしか、サボテンから水分補給できるみたいなサバイバル術があったような────
……そうだった、冊子は使えないんだった……
いや、そもそも異世界のサボテンだし、とんでもない毒があってもおかしくない。
試すのは、本当に渇きで死んでしまうような瀬戸際の、最後の手段にしよう。
『どうする鞘織ちゃん。オアシスの存在に望みを懸け、一方向に絞って突き進んでみる? 北か南か、東か西か────』
「な何を言い出すんですか鞘歌さんっ、そんなのは自殺行為ですよ! あまりにも無謀過ぎます! まずはこの遺跡の内部から探索するのが賢明でしょう」
前述の通り、地平線の奥まで続く果ての見えない砂漠地帯……言うまでも無く過酷な環境下である事は明白だ。探索を強行するのは現実的ではない。なんの物資も持たぬ現状では尚の事だ。
『フ……その通りだ。無謀な提案を受けても日和らずに自分の意見を主張できたね。いや試すような真似をしてすまない────杞憂だったよ』
うーん、おばあちゃんのとは違うけど、鞘歌さんからも似たような過保護さを感じるなぁ。
「そうなんですね、期待に添えたようで良かったです」
肌身離さず持ち歩いているおかげかどうか分からないけど、私の成長を促すという意図がはっきり伝わってくるので不快感は無い。
時に厳しく、時に優しい。鞘歌さんは私にとって師匠と言える存在だ。
前向きに捉えるとこの状況はむしろ、飛躍的に成長するチャンスなのかもしれないな。
それで備限様に褒められたりしちゃったりなんかして…………そう思うと俄然、再会へのモチベーションが上がってきた。鞘織ちゃんVer.2.1だっ
地表に出ている部分は砂漠の全周をぐるりと見渡せるほど遮る物は乏しく、そのほとんどが朽ちかけている。
祭壇めいた造りの中央に、地下へと続く大きな階段がある。
周囲を調べた結果、遺跡への入り口は唯一ここだけのようだ。
『ここからは気を引き締めていくのよ』
「はい」
意を決して階段を降り、遺跡の内部へと侵入する。
壁面にはトーチめいた光源が等間隔で設置されており視界はさほど悪くない。
それに空気がひんやりとして涼しいし、外よりよっぽど過ごしやすい、なかなかの快適空間じゃないか。
海岸からこっち、いいかげん砂は見飽きていたところだ。
一本道を順調に進んでいると、やがて大きな広間に出た。
その中央には円筒状の物体がでかでかと鎮座していた。
「なななんですかあれ……でっかい、貝柱……?」
石造りの無機質なダンジョンに突然、てらてらと艶を帯びたナマモノめいたオブジェクトの出現に動揺を隠せない。
『警戒する必要はないわ────あれは【魔導貝柱】よ』
「まどうかいばしら?」
『そう。何を隠そうアレは便利な転送装置なの。梅田地下貝の広大さは先刻説明した通りだけど、この魔導貝柱のおかげでエリアを跨いだ果てから果てへの長距離移動も可能よ』
「へえ~」
『区画間の境界は数kmにも及ぶ分厚く硬質な外殻に隔たれていて、徒歩で別のエリアへ行くことは不可能だからね』
「それじゃあさっきの提案を鵜呑みにして砂漠を突き進んでいても、どのみち行き止まりだったんですね」
『果てに突き当たるまでに何かしらのイベントは発生したとは思うけど……道中に魔導貝柱を見つけられなけば終着はそうだね』
「選択ミスが命とりになるんですね……」
シビアな世界である。
鞘歌さんが一緒に居るとはいえ、備限様が居ない今、本当に慎重に行動しないとだ……
「この魔導貝柱は一体どこに繋がっているんでしょうか」
『理論上はどこにでも行けるわ』
「? それはどういう────」
『とりあえず中に入ってみましょう。どこでもいいから指で触れてみて────』
「わ、わかりました」
恐る恐るその体表に手を伸ばす……そして指先が触れた瞬間────
キュッと一瞬、収縮めいた反応を示したのち、貝柱特有の凝縮した繊維質がサーーッと割れ解け、個室めいた内部が露わとなった。
それはジブリ映画の世界観めいて幻想的な光景だった
「うわぁー、ファンタジー」
余談だが、中は想像通り磯くさかった。
「どうやって起動するんですか?」
『そこにある操握具を持って────』
「操握具……これですね」
壁面に備えつけられたゲームパッドめいたコントローラーを手にとる。
なるほど確かに、握って操作する道具だ。
関係ないけど【デッドドロップ】という、壁からUSBメモリの端子が生えてるって都市伝説と……それを嬉々として語って聞かせてくれた級友、備明ちゃんの顔を思い出した。
『コマンドを入力すればそのコマンドに対応した座標へ転送されるわ』
「それで理論上はどこにでも行けるんですね────」
『そういうこと────""コマンドを制す者は梅田地下貝を制す""ってね』
「もし転送先が怖そうな場所だったら、すぐに違う場所に飛べば安全ですかね」
『いや、魔導貝柱同士が繋がってるわけじゃないのよ鞘織ちゃん』
「え? それじゃあ、最初来たときみたいに空間にフッと放り出される感じですか?」
『うん。都合よく近くに魔導貝柱があるとも限らないから、一方通行だと思っておいてね』
つまり、この砂漠エリアに戻ってくるにはここに繋がるコマンドを正しく入力する必要があるのだ。
うーむ、早速重要な選択を迫られている……
私の知るコマンドと言えばコナミコマンドと、超武闘伝のブロリー出現コマンドの二つだけだ。
どのみち、ここに留まるという選択肢は無いし……なんでもいいから入力してみるべきだろうか。
などと思案していると────
『見て、鞘織ちゃん。立て看板があるわ』
「え?」
"鍾乳洞エリア 水源アリ〼 →○○○○○○○○"
「これは! 水源へのコマンド……!!」
『先駆者が書き記したものかしら』
「よかった、ありがたく使わせていただきましょう」
『ワザップかもしれないわよ』
「うっ!!」
※ワザップとは、悪意ある誤情報のこと。
『結果を責めたりしないから、どうするのか鞘織ちゃんが判断して』
────どうする?
当てずっぽうに入力する
▶看板に従って入力する
シュイィィィィン
光の粒子に包まれ転送された
そして────
とくに放り出されることはなく、ちゃんと地に足がついた状態で転送が完了した。
「ここは…………」
ポタリ、ポタリと鍾乳石から雫が垂れる。
冷たい水音が洞窟の奥へ吸い込まれていく。
鍾乳洞だ!
『どうやら看板は真実だったようね』
「はい。安心しました」
ホッと胸を撫で下ろす。
ひとまず、周囲にこれといった脅威もなさそうだ。
うすぼんやりと発光する苔が光源となっていて、視界も良好だ。
『だけど油断しちゃあ駄目よ鞘織ちゃん。水源は流石に無人というわけにはいかないでしょう。獰猛な魔獣の縄張りである可能性も考慮しつつ、探索を始めましょう────』
「そ、そうですね」
サバンナの水場で、水を飲んで油断している草食動物が肉食獣に狩られ捕食されてしまう。そんな映像を見たことがある。
あの看板を残した人が開拓していて、ちょっとしたコミュニティを形成してるかも────なんて、甘い考えは捨てた方がよさそうだ。
「水源もそうですが、魔導貝柱も併せて見つけておきたいですね。緊急時の逃走にも使えますし」
『そうね。魔導貝柱について捕捉しておくと、全てがあの剝き出しの貝柱の状態じゃないわ。環境に合わせて様々な姿に擬態して、何喰わぬ顔で佇んでいたりするのよ』
「へえ~。鍾乳洞というシチュエーションなら、蓄積して大きく育った石筍なんて、いかにもって感じで怪しいですね」
『そうそう、良い視点よ。その調子で頑張って洞察力を働かせてね』
「はいっ」
あれこれと思考すべき点が多すぎて大変だ…………だが命に関わるので弱音を吐いてはいられない。
生きるためなら覚悟も決まるというものだ。私は目を一度リフレッシュさせるためにぎゅうううっと力強く閉じたあと開眼し、自らを奮い立たせた。
それにしても────今までは、本当に本当に、備限様の決断に只々従っていただけで、自分では何も考えず、ただ後を着いていくだけでよかった。
考えているようで何も考えていなかったんだ…………
改めて備限の存在、そしてその偉大さを深く痛感する鞘織なのであった────
「ところで、最終的に外界へはどうやって帰れば…………脱出コマンドとかあるんですか?」
『無いわ────魔導貝柱はあくまでも梅田地下貝内にしか作用しないの』
『帰るには【脱出真珠】というアイテムを使うしかないわ』
真珠をどう使うんだろう、という疑問を鞘歌さんに投げかける。
『脱出真珠をおおきく振りかぶって放り投げるとアラ不思議、外界に出られるわ』
「なるほどー」
マイクラのエンダーパールかな?
※ちなみに脱出真珠はテニスボールくらいのサイズ感である。
まさかとは思うけど備限様、脱出真珠を使って既にもう外に出てたりしてない……よね?
私はともかく、鞘歌さんを置いてったりは流石にしない……はず。
備限様、いまごろどうしてるのかな……私を捜してくれているだろうか……
……………………
………………
…………
……
「うがーー!! またワザップではないか!!」
もう幾度目かのワザップに引っかかり、備限はご立腹であった。
「だ~から言ったでしょ────財宝部屋や宝物庫を謳ったあんな胡散臭い看板はねぇ、危険エリアに誘い込む罠と相場が決まってるんだから」
実際ここも、並みの冒険者なら必死確定の超危険エリアなのだろう。備限の足元には倒れ伏した高機動型ギャン模騎士の残骸が確認できる。
それがなんと一つや二つではない。夥しい数の骸が、地獄絵図めいて死屍累々の様相を呈していた────
(どうもコイツらの縄張りに足を踏み入れてしまったらしいが、俺は降りかかる火の粉を払ったに過ぎない。よりによってこの俺様に喧嘩を売るとは愚かな奴等だ。精々あの世で後悔するがいい────)
「ムカつくから俺もテキトーに書き殴ってやる。かきかきかき…………これでよし」
これまで何人もの来訪者がそうしてきたのであろう。魔導貝柱の周囲は看板が乱立し、その内壁に至るまで刃牙の家めいて治安の悪い景観となっていた。
「こうやってワザップが増えていくのね────」
「どうだ? お前の百景に加えてもいいぞ」
「加えるかい!!」
徳弘正也作品めいたツッコミをするネリネ
「がははは!」
……………………
………………
…………
……
「こ、ここは…………」
チャラ男が独り転送された場所は、渋谷めいた都市────だが、核戦争でも起きた後かのように酷く荒廃した、言わば都市の残骸であった。
ビル群の瓦礫は黒く煤け、崩れたスクランブル交差点の真ん中には、もはや誰も見る者の居ない大型ビジョンがチカチカと、もの寂し気に明滅している。
風が吹く。
街を包むのは無音。
人の気配はおろか、そもそも生物の気配が感じられない。
「まるで、無限大な夢のあとの、何もない世の中っしょ…………」
──── to be continued
。.。:+* ゜ ゜゜ *+:。.。戒晃こそこそ噂話。.。:+* ゜ ゜゜ *+:。.。
────初期地点について────
ネリネは小さすぎて頭数にカウントされなかったわけではなく、純粋な幸運で備限の近くに放り出された。