第十話 潮干狩り<前編>
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
「まったく呆れたわ────……あんたねぇ、やつ当たりみたいな逆恨みであんなさぁ……ちずれちゃん今ごろトラウマになってんじゃないの? 男性恐怖症とかになってなきゃいいけど────」
「元はと言えばお前がバカ笑いしたせいではないか」
「いや笑うでしょ……あんな……っっ、ちょっとやめてよ! 思い出させないでっ、またツボに入っちゃうから────」
……………………
………………
…………
……
「はーー、はーー……も、もう許して……降参よ────ヒィヒィ」
「なんもしとらんがな────笑い過ぎやろ────人の顔で────」
「ダハッッ☆」
再びツボるネリネ
なんやこいつ……
俺は腹を抱えて眼前を笑い転げるメスゴブリンをチベットスナギツネめいた眼差しで一瞥したのち、先を急いだ
「ところで、撮影されているうちに思ったのよね」
いきなり冷静になるな
「何をだ」
「あたしも旅の目的を見出したのよ! ほら、あんたは色々と旅の目的をあれこれリストアップしていたけどさ~、あたしには無かったじゃない?」
「そうだな」
「もっと興味を持ちなさいよ!」
「私は興味ありますよネリネちゃん。いったいどんな目標ができたんですか?」
「よくぞ聞いてくれたわさおりん。ほら、あたしってば優れた美的センスの持ち主じゃない?」
「はい、私の知る限りでは断トツだと思います」
だんだんネリネちゃんの扱い方が分かってきたぞ
「ふふふ、それで────全国津々浦々を踏破するのならその先々で出会った美しい建造物や風景とかを選定していこうと思うの! このネリネちゃん様による独断と偏見でね────」
「わあ、素敵じゃないですか、ジャッポガルド百景ですね」
両手をぱんと合わせ絶賛してみせる鞘織
「なら手始めにあの岩なんてどうだ?」
そう言って備限が指差した先にある岩を見やる
「?? なんの変哲もないただの岩じゃない」
「わからんか? 大小の岩が二つ並んでいるだろう、つまり夫婦岩だ!」
「あのねぇ、その程度だったらきっと世界中にありふれてるわよ! あたしが求めているのはもっとこう、思わず感動の溜め息が漏れちゃうようなそんな心の震える絶景よ! それにね、女性側が小さくて当然みたいなのは立派な男女差別なんだからっ」
※実際、夫婦茶碗も男尊女卑めいた性差別の象徴として槍玉に挙げられがちである。
「しかし百景ともなると、こじつけめいた数稼ぎでもせんとそうそう届かんだろ」
「百景と言い出したのはさおりんだし。あたしは数よりも質の方を重視したいの────」
「あ! それなら李埣はどうですかネリネちゃん。備限様の御実家にあるあの艦も圧倒的存在感で、私には溜め息が出るほどの絶景でしたし!」
力強く李埣を推薦する鞘織
「ま~確かに? ちょっと他所ではお目にかかれないわよねアレは。灯台下暗しだったわ────うん! ネリネセレクション栄えある第一号はハヤゾメ家に決定しましょう!」
「なかなか"わかっている"ではないか鞘織よ。良いセンスだ」
「おそれいります、へへへ」
「どれ、ひとつ褒美をとらせよう────」
「えぇ~いいんですか(なにをいただけるんだろう……わくわく)」
「うむ。お前が初日に披露してくれたあの絶景を、我がスケベ百景新人賞にノミネートしてやろう」
※第五話参照
自らの痴態を思い出し、たちまち かぁっと赤面する鞘織
「ちっとも嬉しくないんですケド!? もぉ忘れてください忘れてください……!」
「がははー、だめだ────俺の脳内フォルダに名前を付けて保存だ」
「忘れろビーム……! 忘れろビーム……!」ポカポカポカ
「ちょっと! じゃれてんじゃあないわよ! まったく……下品な百景で対抗してこないでよね────っとに幼稚なんだから、ったくも~~」
……………………
………………
…………
……
料峭たる春風がそよぐ。その中に、ほのかに潮の香りが混ざりはじめる
「そろそろ海が近いわね────」
「あの、実は私潮干狩りって初めてなんですが、何かコツとかあるんでしょうか」
「最近の若者はすぐそうやって、ゲーム開始前から攻略本に手を出そうとするから困る」
「はぅ……」
(ネリネちゃんを使って得る情報だって攻略本みたいなものじゃないですか────なんて、言えないケド)
「別に効率厨を否定はしないが────先ずは初見で体験してみろよ────自分のイメージする潮干狩りを、手探りで。不器用だっていい────」
「私が浅はかでした……」しゅん……
「気にすることないわさおりん。考えてもみてよ、コイツは低ランク四畳半のオレパレスしか持っていないのよ」
「……あっ」
「ね? エラそうな講釈たれてるけどコツなんて知らないのよこの男も。ぶっちゃけオレパレスも親のおさがりだし。ただ"潮干狩りをやった経験がある"というだけで実績は皆無。結局のところとどのつまり、素人に毛が生えたレベルで さおりんと大差ないわよ」
圧倒的暴露……!
「ばっ……余計な事を言うんじゃない、俺の威厳が損なわれるではないか」
「そんなことより、重大な問題について話しとくべきなんじゃない? 到着前にさ────」
ネリネのその言葉を受け、備限は神妙な面持ちになる
「重大な問題…………それってひょっとして────」
「何か思うところがあるのねさおりん。いいわ、言ってごらんなさい」
「あ、いや、実は疑問だったんですよね……住宅貝って、備限様の持つオレパレスひとつとっても、低ランクとはいえ立派な住居じゃないですか。アサリやハマグリとは価値が比較にならないですよ。それこそ豪邸レベルの個体まで存在するのなら密猟者だってたくさんいそうだし、漁業権とかどうなってるのかなって……私の居た世界では漁協が潮干狩りを主催していましたが、ジャッポガルドにもそういった組合があるんですかね?」
「素晴らしいわさおりん。核心を突いた花丸の意見だわ」
「素直に喜べないのはどうしてだろう。私の予感が当たってるのなら、これから我々がするのは……密ry────」
「まぁまぁさおりん、まずはその疑問だった組合の件から答えさせてよ」
「はいぃ」
「もちろん住宅貝は漁業権の対象だし、無断での採捕は厳しく規制されているわ。こっちの漁協は【海浄保安侠】という機関よ」
「かいじょうほあんきょう?」
「正式名称は【溟渤鎮撫見廻組・海浄保安侠】だけど、長いから一般的には【オニキス】と呼ばれているわ。彼等の着用する黒い制服から付いた通称よ」
(海軍をネイビーと言うようなものかな。納得)
「オニキスの主催する潮干狩りでは毎回、エンタメめいてアサリやハマグリの他に極少数の住宅貝も紛れ込ませてあるのよ────」
「なぁんだ、真っ当な入手手段で安心しました」
「ただ、開催は来月下旬ね。今はがっつり禁漁期間よ」
「やっぱり密猟────!?」
そこで、沈黙を守っていた備限が口を開いた
「そもそも住宅貝ってのは建築の困難な海底で真価を発揮する貴重な水産資源。【魚民】と呼ばれる水棲種族の繁栄を担ってきた歴史があるのだ」
海水に適した建材など限られるうえ、海中という環境下ではそのどれもが往々にして耐久性に難がある。住宅貝は魚民にとってかけがえのない、まさに救世主と言える
「俺たち陸で活動する種族はあくまでも彼等のお零れを頂いてその恩恵にあずかる身である、ということを努々忘れてはならない────」
更に付け加えるなら住宅貝は養殖が極めて困難で、稚貝からヒトが住めるレベルに成長するまで十年以上かかる。
「うん。その通りなんだけど、それを踏まえた上で改めて問うけど、禁漁期の海に足を運んでこれから何をするって? あんたの口から直接聞かせてちょうだい」
「密猟をします」
「だ か ら 気 に 入 っ た」ドン
「オニキス主催の潮干狩りで運良く住宅貝を掘り当てたとしても、オレパレスが関の山だしな」
実際、地上に出回っている住宅貝の8割はオレパレスが占めている
「更に言えばシーズン真っ盛りの、人でごった返す海岸は不快指数が高い」
「あの、私は狭くても全然平気ですから、だから密猟するのはやめてこのまま旅を始めませんか備限様」
違法行為に気が重い鞘織
「さおりん、オレパレスは風呂トイレ無しよ」
「ささ、はりきって密猟しましょう備限様!」※即堕ち2コマ
仮想めいたエア熊手を手に持ち、シュッシュっと素振りをし、イメトレに余念がない鞘織
「がはは! その意気だ! お前のビギナーズラックに期待しているぞ」
「そうがっついてちゃあ物欲センサーに引っかかって、せっかくのビギナーズラックが相殺されてしまうわよ────」
はははは────と和気藹々ムードの一行
海に着く前に事前に打ち合わせをする
「いいか? 俺たちは海岸のゴミ拾いめいたビーチコーミングをしに来た一般人だ」
「そういう体でいくのね」
「うむ。慈善めいた奉仕活動を装っていれば警戒も緩むはず。鞘織も海岸の清掃と思えば挙動不審にならず自然に振る舞えるだろ────」
「はい、気持ちよく密猟が出来ます」
「目ぼしいアイテムは速やかに蔵渦へ収納するのだ。表面上、外に出しておくのはカムフラージュのどうでもいいゴミだけの状態を保て」
「了解です」
「連中もまさか白昼堂々と密猟が行われているとは夢にも思わないでしょうね」
「しかし蔵渦を使うときは慎重に、周囲に気を付けろよ────根掘り葉掘り訊かれると面倒だ」
「そうね。向こうもプロだもの、見られたらきっと詰められるわ。立ち回りを誤れば一発アウツで現行犯逮捕かも────」
「それじゃオニキスって違反者の取り締まりや制裁を与える権利も持ってる、軍とか警察みたいな機関なんですねやっぱり」
「むしろそっちがメイン公務ね。オニキスの職員は魚民の中でも特に好戦的で気性の荒い【鮫人】で構成されているわ」
ここからネリネによるオニキス講座スタート
「彼等の扱うジャポニ力は【鱶道】といって、その戦闘スタイルは多岐に渡るらしいわ。"密猟の検挙率が96%を下回った事がない"という、その優れた働きぶりから畏敬の念も込めて【オニキスクヴァリテート】と呼ばれるほどよ」
※Qualitätはドイツ語で、品質、クオリティの意。
「密猟成功率4%未満、ですか……」
「絶望させるようで悪いけど、その数字もアテにならないわね。なんせここ数年に限って言えば、なんと検挙率100%! 今も記録更新中だそうよ。4%の成功も過去の話ってわけ」
「ひえぇ」
「その強さの秘訣は【鱶道ランキング】という序列めいた階級制度ね。日々、職員同士による実戦で切磋琢磨し鎬を削りあっているそうよ────上位の鱶道ランカーを仮に冒険者ランクで例えるなら、おそらくマスター帯に匹敵するでしょう」
※海浄保安侠は国家公務員なので冒険者などの副業は原則としてできない。
ちなみにマスター帯はマスター、ハイマスター、グランドマスター、アルティメットマスターと細分化されており、その上はレジェンドしかない。
「はわわわ」
「くふふ、更に更に、オニキスの掲げる代紋についても解説しましょう。サメの始祖と言われるメガロドンの化石骨格をモチーフとしたデザインで、どんな意味が込められているかっていうと、戦闘中に己の肉が削げとれ、骨身をさらけ出すようなダメージを負ったとて決して怯まず、尚も相手に喰らいつく徹底抗戦の精神、闘争本能を表しているのよ。職員はもれなく全員その代紋バッジを身につけているわ」
「こっ恐過ぎますってぇ。化石モチーフだったら普通は、末永く組織が残り続けるようにとか、そういう意味を込めるんじゃないんですかぁぁ」
ガクブルの鞘織
「アハハハさおりん、どっかの誰かさんと違って びびらせ甲斐があっていいわ────おっかない話はこのくらいにして、和む情報もひとつまみ 入れときましょうか」
「くださいください」
「フカえもんっていうマスコットキャラクターがいて、大人から子供まで幅広い層に人気があるわ。その人気は劇場版アニメが製作されるレベルでグッズの売れ行きも好調よ────」
「」
「ちょ、ちょっとどんなか見せてもらってもいいですか」
「いいわよ、ほら、こっちの寸胴体型の方よ」
ネリネに顔を寄せ、開花妖精の画面を覗き込む
(やっぱり危ういデザインだ…………)
「かわいいですね~。一緒に写ってるキャラはなんですか?」
「フカえもんの飼い主のクドリヤくん、そして敵役の魚渦マンね。魚渦マンは海賊版を生み出すパロスペシャルというスキルで著作権を侵害する、とっても悪いやつよ。ちなみに考察界隈ではフカえもん自体もパロスペシャルによって生み出された悲しき海賊版なんじゃないかって考察されているわ」
「ふ、深いっすねぇ(フカだけに)」
「じゃ、オニキスの恐ろしさに話を戻すわよ────」
せっかく和みかけていたのに現実に引き戻された
「まだあるんですか? もうお腹いっぱいですよ」
「なんてね。これ以上はあたしも知らないわ。もしもあっちで事情通の【海ゴブリン】が居れば、鱶道ランカーの名簿みたいな詳細な情報を得られるかも────」
「海で暮らすゴブリンも居るんですね」
「そうよ────でも圧倒的に数が少ないから期待薄ね────」
「はぁ……それにしてもオニキス……代紋にまつわるエピソードを聞いた印象だと、昨日話題に出た殺魔人も顔負けの武闘派集団って感じですかね、どっちも会った事ないんでアレですが」
「言われてみれば似た性質かもね。あたしもどっちもお目にかかった事ないけど、比較として絶妙なラインじゃない? 実際勝るとも劣らないんじゃないかしら────それこそ珍作みたいなハッタリ野郎と違って……ねぇ?」
ネリネが不敵な笑みを備限へ向ける
「……何が言いてえ」
「井の中の蛙がいよいよ大海を知る、まさにその時が来たんじゃないかってことよ────!! 自称最強のあんたもついに年貢の納め時ってやつかしら!?」
何を興奮しとるんだコイツは……
「……あのなぁ、相手は国家公務員だぞ? 国家権力に刃向かえば昼廷に弓引く昼敵として全国指名手配されちまうだろ。そうなりゃ旅どころじゃないぞ────もし絡まれる展開になっても俺は、プライドの許す限り下手に出るつもりだ────」
※昼廷・昼敵=朝廷・朝敵のこと
「さおりん聞いた────? 幻滅してない? ダサイアレルギー大丈夫?」
「え? いや、血を流さず場が丸く収まるならそれに越したことはないですよ。それに、備限様がお尋ね者になったらネリネちゃんだって困るでしょう?」
「ええ~~それじゃ面白くないわよ────心配ないわ! オニキスは前述の通り喧嘩上等だし、過去に力尽くで密猟を成功させた賊に対しても自分たちの戒めとして特にお咎めは無し! 強者を認める粋な一面もあるのよ!!」
鼻息の荒いネリネ
「まるでコロシアムに熱狂する血に飢えた観客だな……まったく、お前の愉悦には付き合いきれん」
「リストに"俺より強い奴に会いに行く"とか書いてたくせに────」
む~、と口をとがらせ不満気なネリネ
……………………
………………
…………
……
────備蒜海岸────
白い砂浜と青々とした松林の続く海岸線は正に白砂青松の景勝地と呼ぶに相応しい、美しい景観だ。
「「海だーーーー!!」」
一行は事前に蔵渦から取り出しておいた軍手と長靴を装備し、90リットルのゴミ袋に長めのトングといったゴミ拾いスタイルだ。
※親愛なる読者諸氏におかれては今回、海という絶好のロケーションであるにも関わらず水着回ではない事を、ここに謝罪したい。どうかご容赦されたし────
備限軌道コミカライズ化の暁には是非ビキニ鞘織の姿を扉絵にお願いしたい。
奥ゆかしく薄手のパーカー(羽織だけに)と麦わら帽子の着用もアリ。
「うーん、この景観はなかなか……備蒜海岸、一応キープね」
ぶつぶつと思案しつつ、とりあえず保留にするネリネ
「あっ、向こうに誰か人がいますよ」
「服装からしてオニキスじゃあないわね」
褐色肌にチョッキ姿の、イブラヒムめいた風貌の男が一人、しゃがみ込んで浜辺を漁っている。
────どうする?
▶声をかける
無視だ無視
「無視してもいいが、一応素性と目的を知っておくか」
ついでにちょっと脅かしたろ
「お い キ サ マ!! そこで何をしているッ!! まさか密猟してンじゃあないだろーなぁーーッッ!?」
潮干狩りに夢中ですっかり油断している陸サーファーを背後から恫喝する
ビクッ
「な、なんっ、なんもしてないっす!」
「嘘をつけ────袋の中を改めさせてもらう────」
「ほ本当です、ホラ、まだなんもとれてないっす」
「まだ────?」
「うお、誘導尋問? エグいっすよ────」
「怪しいなお前────名前は? どこから来たんだ────?」
「うぇいうぇいうぇい、そっちこそ何者だよ────よくよく冷静ンなりゃどう見ても保安官には見えねーっしょ」
ここらが潮時か────茶番はおひらきだ
「我々は見ての通り慈善活動家だ────今日はこの海岸の美化運動をしにやってきたのだ。驚かせて悪かったな、つい魔がさしてしまったんだ」
「や、マ~ジ心臓に悪いっしょ…………俺ちゃんの名前は根暗 Δ アール ZIN。昼腋から来たっしょ」
「ねぁん、デr……なんだって?」
名前がやかまし過ぎる
「長いから縮めてネアンデルタールジンでいいっしょ」
「長いわあほ、まるで略されてないではないか」
「Fooo!! パンチライン一発、ナイスツッコミ! これ俺ちゃんお決まりの自己紹介ね。掴みは上々♪ 気分は上々♪」
こいつの中で鉄板ネタらしき件を披露されたのち、ウェ~~イとHIPHOPめいた動きでアピールしてくる。
根暗という名に反して陽気な男だ。煽られているようで正直イラつく
「ええい、お前などチャラ男で十分だ。最初から野郎の名前を覚えるつもりは無い」
「うぇーい……だけど熱いフロウを交わした俺らは最早マイメン、魂のソウルメイト……あんたのことはブラザーと呼ばせてくれっしょ」
「…………。で────? 昼腋からなんの目的でここへ来たんだ?」
「実は────今、昼腋では大変な事が起こっているっしょ……」
「まて、その話は長くなるのか?」
悠長にチャラ男の身の上話を聞いている暇は無い
「え? まあ、詳細に話せば割と?」
「簡潔に話せ」
「うぇい。知っての通り、昼腋は通称【イブニングライン】と呼ばれる【晩リの長城】を中心に東西に分かれているっしょ」
「西のサンフラン領と東のシスコムーン領だな」
「あ、俺ちゃんはシスコムーン領の出身ね。んで────戒晃に入って間もなく、地元に【傾光党】って賊が現れだしたんだ。やつら段々勢力を増していって、とうとうクーデター起こして、なんとサンフラン領を攻め始めたっしょ! でまあ諸々あって戦争の影響で闇の世界に閉ざされたシスコムーン領に光を取り戻すために立ち上がった俺ちゃんは【ネオン貝】を求めてここへ来たっしょ」
「長い。罰として他の貝や拾得物は俺によこせ」
「ガビーン! ……まぁ、ネオン貝以外は興味ないから別に構わないっしょ」
「よし、満潮前に切り上げて再び合流としよう。勝手に帰るなよ────」
「ブラザーこそ、もしネオン貝を見つけたときは頼むっしょ」
チャラ男と別れた
「それにしても、今 昼腋で内乱が起きてるなんてね────」
「お前の好きそうな話だったのに、よく黙って聞いていたな」
「んー。男と喋ったらあんたがやきもち妬いちゃうと思って気ぃ遣ったのよ────」
「そうか────」
そういえば三途川たちの前でもおとなしかった気がする。
俺としては、媚びた態度でもとらなきゃ特に何も思わないが────ここでそれを言うのもなんだかんだ癪だ。動揺し「妬かねーし!」とムキになるのもダサい。あえての生返事だ。
「まあ今は昼腋を憂うよりも住宅貝の入手に集中しましょ」
「そうです! お風呂やトイレの方が死活問題ですから!」
ビーチコーミング(密猟)開始────
「わー、立派なわかめ」
わかめの原木……いや、海藻だから……原藻? って言うのかな?
どっちでもいいや、お味噌汁の具として定番だしとりあえず回収回収っと。
針生姜を添えた酢の物もいいし、わかめご飯もおいしいよね
茎の部分は細かく刻んで叩いて、ねばねばのめかぶにして────
フフ、献立を考えるだけで楽しくなってきたぞ~
「ん? これは……この形……えっと確か、海ブドウだっけ?」
警戒しつつ、つぶつぶの海藻をトングで摘み上げ観察する
たしか、南国とかの温暖な海域でしか生息できないって……現物を見るのは初めてだ。
もちろん料理したことも食べたこともない。いったいどんな味なんだろう、興味深い……じゅるり
「それは海のプロテインとも呼ばれる【磯フラボン】ね」
「イソフラボン?」
そう言われ改めて見ると、くびれたツタの一本一本にちっちゃな大豆がびっしり実っている様にも見える
「栄養価も高く、プチプチ食感とクセのない味わいが魅力よ────」
「へえ~、それじゃあ磯フラボンも持って帰ろうっと」
その後────
(お、また磯フラボンを見つけた────……でもなんか……さっきのと様子が違うな。生の海藻って基本的にくすんだ色味をしているけど、これはなんていうか、もう湯通ししたわかめみたいに鮮やかで艶やかだ。既に仕上がっているって感じで、最初の個体より明らかに新鮮且つ美味しそうだ……!!)
上位互換と疑いもせず回収しようと鞘織が手を伸ばしたそのとき────
「触っちゃダメよさおりん! それは【壊疽フラボン】よ!!」
ビクッ
「えええ壊疽フラボン!?」
「そう。磯フラボンによく似ているけれど、壊疽フラボンは粒の一粒一粒が毒のカプセルよ。トングなんかで迂闊に刺激してカプセルが割れると大惨事よ」
そんなパープル・ヘイズの拳みたいな
「ぎぃぇぇぇぇ!! はーー、はーー、はーー…………初見殺しトラップ過ぎる」
全身の毛穴がひらいた
「磯フラボンのときに説明するべきだったわね────ごめんごめん」
「いえネリネちゃんのおかげで命拾いしました、ありがとうございます」
JAPANGの浜辺にだってカツオノエボシとか危険生物が割と居るのに、どうして異世界の浜で油断できよう。
毒持ちの動植物というのは往々にして好奇心をそそるビジュアルをしている。
実際カツオノエボシも見た目は美しく綺麗だが、死亡例が挙がるほど強い毒がある……
鞘織は気を引き締めた。
「まーね。でもこうして危ない目に遭っておいた方がより記憶にも残るだろうし、学びを得るのに有効なのよ────ケガの功名ってやつ? おかげで壊疽フラボンの見分け方はバッチリ身に着いたでしょう」
「はい。形はそっくりでも、おいしそうなビジュアルしてるのが壊疽フラボンで、地味な方が磯フラボンですね」
「見た目通り、実際美味いんだがな────」
「備限様」
「キノコ等にも言えるが、毒のある食材ほど味は良いものだ。壊疽フラボンを見ると思い出すぜ、アカデミー時代を────」
「懐かしいわね────有備館名物【異藻煮禍胃】」
「いもにかい?」
異藻煮禍胃:ちゃんこめいた大鍋に壊疽フラボンを加えた鍋料理。生徒は高等部進級翌週から卒業まで毎週、週一でこれを食す事が強要される。もちろん初回時の毒は極小に抑えられており、週を重ねる毎に徐々に毒の含有量を増やしていくのだ。理由はもちろんお分かりですね? そう。毒に対する免疫力を向上させることが目的である。最終的に三年生が修了間際に食すのは古今東西、毒の博覧会めいたレベルの鍋になる(※味は格別にウマイ)
故に有備館を卒業する頃にはもれなく生徒全員が鉄の胃袋と毒耐性を備えている。
余談だが、調子コイた新入生が武勇伝にしようと三年の鍋を喰らった場合、胃が壊死して全摘出となり、闇医者への手術費用も含め高い授業料を払う結果となるのは言うまでもない。
それは教訓めいた見せしめとして、有備館 春の風物詩である。
※備冥書房刊~毒を克服せし者~より抜粋
「必修科目が過酷すぎる…………」
改めて世界が違うと実感する
「つーわけで俺は全然食えるから回収しておけ」
「」
備限様はそうでも調理する私は命懸けなんですが……
絶対フグみたいに取り扱い資格免許が要るやつだよコレ……
と、ついさっきまでの私ならそう日和った発言をこぼしていただろう。
目覚めよう、いい加減……羽闇鞘織……
本来なら一度死んだ身……命を救われ名を変え、生まれ変わった私はこの異世界ジャッポガルドで生きていくと決めたはずじゃないか。
恵まれた環境に甘えておんぶにだっこばっかりで……それでいいの?
いいわけない……! 胸を張ってパーティの一員だと名乗れない……!
いちいち事あるごとにあたふたと取り乱すのは今後もうやm────……なるべく控えよう。
とにかく、日和ってる場合じゃない。行楽めいたレジャー気分も直ちに捨てなさい鞘織!
そして思い出すのです……自分の掲げた目標を……
いまこそ成長し、殻を破るそのときだ……!
刹那の自問自答のあと、鞘織は備限の言葉に間髪いれずに「わかりました」と、壊疽フラボンを刺激しないよう軍手でソフトに拾い上げた
「あれぇー、てっきり慌てふためいて見苦しい言動が飛び出すと期待していたのにどうしちゃったのさおりん?」
これは随分辛口だ
「はは……いやぁ、ただ思い出したんです」
「? 何を?」
「ネリネちゃんの目標がネリネセレクションなら、私の目標は薩日内さんを超える事です」
薩日内さんならきっと壊疽フラボンに臆したりはしないし、実際涼しい顔で捌いてみせると思う。
「薩日内を超えるとは大きく出たな────」
備限様の私に対する好感度上昇を感じる
「うふふ。いつか備限様の胃袋をつかんでみせますから────」
「清々しい顔をしくさって、さおりんのくせに生意気よ!」
次いでネリネは鞘織をびびらせようと追撃する
「忠告しとくけど壊疽フラボンの毒は忍者をはじめレンジャー職がよく好んで武器に塗り込んでいるから、戦う際には気を付けなさいよ────かすり傷でも致命傷になるから────」
〝拝啓、おばあちゃん。お元気ですか? 私のパーティにはいじめっ子が居ます〟
「よし、鞘織の成長を見届けたところで散開し手分けして探すぞ────」
「そうね────」
「えっ? 離れ離れで探すんですか?」
「当然よ────見てよこの広さ────固まっていたら効率悪いでしょ────」
「ここはちょうど中間辺りだから鞘織は居残って引き続きこの周辺を探せ────俺はチャラ男の逆サイドからローラーしていく────」
「さおりん不安そうね」
「そんなことはありません。余裕ですっヨユー! 一番の大物を見つけて自慢しちゃいます」
「なかなかに勇ましいけれど、あたしの目には気負っている風にも見えるわ。競走馬で言うところの“かかり気味”ってやつね────」
ネリネに言われて鞘織はハッとした。実際、薩日内を意識し過ぎて気負っていたのは否めない。
「いいか。精神と肉体を一致させ、SAN値を正常に保つよう心がけろ────大抵の事態は冷静に対処できる────」
「肝に銘じておきます」
散!!!
あっという間に備限様は海岸の端へ、豆粒ほどにしか視認できない距離だ。
もう大声で呼びかけても私の声は届かないだろう。
いや、備限様はなんとなく地獄耳のような気がするから聞こえるかもしれない。
しかしだからといって軽々に助けを求めるつもりは無い。
それは本当にどうしようもない危機と判断した際の、最後の手段だ。
成長した鞘織ちゃんVer2.0は一味違うのだ。
(なにより……)
周囲に人目が無い事を確認し、蔵渦の中へ海藻入りのポリ袋とトングを仕舞う
そして一時避難的に背に括りつけていた活魂鞘を、いつものスタイルめいて胸に抱える
(実は一人じゃないんだなあこれが)
むしろ都合が良いまである。気兼ねなく鞘歌さんと会話ができるもんね
『鞘織ちゃん安心して、私はあの子と違って甘やかす方針よ』
うーむ、なんて心強い精神安定剤なんだ
『いざって時は鞘織ちゃんが私に身体を貸してくれれば────』
「…………え? 鞘歌さんそれってつまり、憑依みたいな感じですか?」
『そう。私の声が聞こえる鞘織ちゃんなら波長が合うだろうからいけると思う────ああもちろん強引にはしないから安心して。最後の切り札ぐらいに思っておいて────あくまでも鞘織ちゃん自身の実力をつける事が第一だから』
憑依されるのはちょっぴり怖いけど、いざって時の切り札があるというのは精神衛生的にありがたい。
「ありがとうございます。万事休すって局面になったらよろしくお願いします」
『うんうん』
「では早速、現時点の実力を見てもらうとしましょう────」
鞘織の頭上には電球が灯っていた
『!?』
「この重量があればサクサク掘り起こせるかなぁって────えいえいえーーい……!」
『キャアアアアアアア────』
「ふぅ、ふぅ、どうですか……名付けて、奥義【ビーチ開墾☆ラッシュハマー】です!」
力任せに掘り起こしただけで、正直奥義と言うには粗だらけのお粗末と言わざるを得ない
『鞘織ちゃん、見かけによらず豪快ね────』
「まあ、潮の満ち引きで明日には自動的に地ならしされるだろうし、いいかなって、へへ」
おそらく備限様も似たような方法で掘り起こしてるはず
『成果のほどはどうかしら────』
「…………うーん、ダメですね。貝のかの字もないです。場所を変えてもう一度やりましょう────」
『でも鞘織ちゃん、あんまり派手に掘り起こすのはオススメしないわ────かなり目立つわよ────』
「はっ! そうでした……備限様はオニキスに出会ったらプライドの許す限り下手に出ると仰っていたのに、この有り様では言い逃れできないかも」
改めて荒れ果てた砂浜を見る
「い、一旦、無関係とシラを切れる場所まで離れましょう」
嫌な予感がする。なんならもう備限様と合流したっていいまである
『慌てずとも大丈夫さ、相手が誰であろうと返り討ちにしてくれよう』
普段の温和な物腰とは打って変わって武士めいた語り口になっている。
かつて魔王とも渡り合った実力者と聞いているので頼もしい限りだ。
「おや……」
少し離れた場所で大きな貝を見つけた。
「鞘歌さん、貝ですよ! でっかい巻き貝がありました! あ……でも二枚貝じゃないから住宅貝とは違うのかな────」
オウムガイか、はたまたアンモナイトか、とりあえず鞘の先端でつついてみる
「生きてるのかな────」
つんつん
「死んでるのかな……」
…………。
しばし観察していると、ぴくりと反応があった。次の瞬間────
ずもももももも
なんと! 砂中から重厚な西洋甲冑を身に纏った胴体が現れた!
「ひゃああああああ!!」
驚いた拍子に尻もちをついてしまう
2メートル強はある恵体だ
巻き貝の頭部は、顔はもちろん表情も無く、感情がまるで読み取れないが……こちらをじっと見下ろしている……ような気がする。
すると、おもむろに持っていた斧槍を両手に構えおおきく振りかぶった
「わ、わ、わ」
……しかしギギギと音を立て、動作はやけにスローモーションだ。
砂中に居た弊害めいて甲冑の関節部にはぎっしりと砂が嚙んでいる────
『こいつは【アンモ騎士】。見ての通り動作が緩慢だから慌てなくても大丈夫さ。ゆっくりと立ち上がり、ゆるりと避けよう────』
「は、はい」
私は指示通りに立ち上がって距離をとった。足はしっかり動く。多少動揺したが、思ったほどSAN値は削られていない。
遅れてアンモ騎士の一撃が、さっきまで私の居た場所へと振り下ろされた。
重さが乗って、振りかぶり時とは対照的な速度が出ている。
ドゴォッッ
鈍い音と共に広域に飛び散る砂が、威力の高さを物語っている。
もしその場に留まっていたならスイカ割りのスイカめいて我が身は四散していたに違いない。
『どうする鞘織ちゃん────逃げるのは簡単だけど、落ち着いて戦えば鞘織ちゃんでも倒せるわ』
鞘歌さんの武士モードが解けている。それはつまり鞘歌さんにとっては取るに足らない、つまらない相手という事だろう。
────どうする?
▶たたかう
にげる
「や、やります。逃げたら他の人に危害を加えそうだし、それに実戦の経験を積むには絶好の相手です。気持ち的に。生命を感じない無機物っぽいのが」
なにより、ここで逃げたら備限様に失望されてしまう気がする
『そうこなくっちゃ。あのくらいなら日課にしてる素振りの要領で三連打を叩き込めばそれで終わるわ。いつもの素振りが標的を据えた打ち込み稽古に変わるだけよ────もし不安なら先に得物を破壊するのもいいでしょう』
「いえ、斧槍は戦利品として頂こうと思ってるのでそのまま本体を叩きます」
(へえ、意外と抜け目ない……呼吸も落ち着いてきたし、ちゃんと冷静じゃないか)
鞘歌が内心で感心していると、アンモ騎士がギシギシと身体をこちらへ向けてゆっくりと接近してきた
多少の緊張感はあるが、先日ズーカッチェの洞窟内で対峙した備限様の放つあのプレッシャーに比べれば屁でもない。
鞘織は冷静に間合いを詰めると敢えて隙を晒し、大振りを誘った。
そして、長年反復し続けてきたいつもの素振りを、ガラ空きになった脇腹へと打ち込んだ!
重厚感のある西洋甲冑がまるで紙粘土のようにひしゃげてゆく。
まず水平閃で>の字に折れ
返す刀の逆水平でくの字に折れ
とどめの一直閃で頭部が粉砕された
どしゃりと膝から崩れ落ち
アンモ騎士は完全に沈黙した────
「…………ふう」
『お見事』
初めての実戦、初めての勝利、だけど……
無惨に変形した西洋甲冑を見る
(私がやったんだ……)
手に残る痺れも特にない。手応えはほんの軽いものだった、だのにこの冗談みたいな破壊力である。
『ひょっとして、こわくなった?』
「あ……はい……痛覚がないであろう砂浜や甲冑が相手だからこそ遠慮なく鞘を振るえましたが、今後もし、声を発するような相手と対峙したとき……私は……」
果たしてちゃんと戦えるのだろうか…………
『刀を鳥に加へて鳥の血に悲しめど、魚の血に悲しまず』
「鞘歌さん……それって……命は平等、みたいなあれですか?」
『雰囲気で言ってみただけ────いかにも含蓄がありそうでしょう?』
「なんですかそれ────まったくも~」
一気に脱力してしまった。
やっぱり備限様と親子だなあ
『まぁしんどい気持ちは分かるわ。だけど、自分や自分の大切な人を害するような相手には徹底して非情になれる覚悟は常に持っておきなさい。一瞬の甘さが身を滅ぼすなんてよくある話よ』
ロマ鞘にも似たようなシーンはあったが、実際にいざ自分が直面すると印象はかなり変わる。
「はい、ありがとうございます鞘歌さん。そうだ、お楽しみの戦利品を────……て、あぁ!」
なんと! 回収しようと思っていたハルバードは既に錆び始めていた!
『あらら、宿主が死んで一気に腐蝕が進んだようね、場所が場所だし』
「ふぐぅ……残念……」
『ま、まあこれも経験よ。今回は戦いの心構えを意識できたってことで良しとしましょう』
「……でもこうして冷静に心構えができると新たな課題が────」
『差し当たっての課題を挙げるなら、中・遠距離からの牽制技が欲しいってところかしら────』
「そう! そうなんですよ! 今回は相手が遅いからこっちが一方的に叩けたけれど、もしスピードで攻めてくるような相手だったら太刀打ちできないと思います」
『そうね。至近距離での攻防は目まぐるしく変わる戦況に次々と対応を選択できる素早い判断力と決断力が必要になる────それを身につけるにはとにかく場数を踏むしかない────』
「そこで飛び道具ですよ! ロマ鞘の作中でよく使われていたあの、ドーナツ状の気弾を撃ちだす奥義【環状閃】鞘歌さん、是非あの奥義を私に伝授してくださいっ」
『生憎弟子はとらない主義なんだ。尤も鞘織ちゃんはセンスがあるから、私が教えるまでもなく既にイメージだけで環状閃を撃てるんじゃないかな。それに、導火閃やラッシュハマーみたいな鞘織ちゃん独自の鞘閃道、離刀結鞘流を開発していってほしいんだ、あの子もそう願ってゲームを作ったと思うから』
「……よく、分かる話です……うん、わかりました! 私なりに頑張ってみます」
『ふふふ、おっと、そろそろあの子が戻ってくるようだ。私は黙るとするよ』
その後、備限様たちと合流した────
「ほう、実戦童貞を捨てたか────」
(言い方…………)
「予定調和感があって盛り上がりに欠けるわね」
(なんか……私が戦うか逃げるか賭けでもしていたかのような口ぶりだな……)
「ああ。満場一致だったんで賭けは成立しなかった────」
「ぎゃあっ、人の独白を解読しないでくださいっ」
びっくりしたな~も~。ニュータイプかな
「わかりやすく表情に出過ぎているのだ、未熟者め」
「……うぅ。だけどネリネちゃんまで私を認めてくれたなんて意外だなあ」
「失敬な、あたしは色眼鏡めいた先入観や偏見は持たないのよ。やっぱり思った通りアンモ騎士の鉄の鎧程度じゃイチコロだったみたいね────」
「いや、これは鉄より硬くて丈夫なブリキだぞ」
「あっそう。いちいち細かい男だわね────」
「あはは。それにしても、アンモ騎士だの壊疽フラボンだの、危なっかしくて海水浴するのも大変そうですねこの海岸は」
「と思うでしょ? でも本格的な海開きの前にオニキスが徹底的に大掃除するから、シーズン中の海岸は安心安全、美ら海そのものよ」
「うーん、オニキスって怖いんだか優しいんだか、よくわからなくなってきました」
「そりゃ海賊や密猟者はともかく、民間人には基本優しいでしょ────」
「言われてみればそれもそうですね」
「ま、海賊なんてほぼ絶滅してるけどね。この海域が泰平洋と呼ばれるようになったのもオニキスの働きの賜物よ」
「へえ~」
「あ。ところで、備限様のほうはどうでしたか? 住宅貝、見つかりましたか?」
「……………………」
備限の渋い表情は収穫無しを物語っていた
「アサリは何個かあったんだけど、小粒だったんでリリースしたのよ────つまり何の成果も無いわ。びっくりするぐらいにね」
続けて備限へ追撃するネリネ
「伝家の宝刀、知覚過備で住宅貝は見つけらんないわけ────?」
「あれは知覚対象を小さく設定すると、砂の一粒一粒まで敏感に知覚してしまうのだ」
「なるほど……あまりの情報量に思考回路はショート寸前、終いには頭がパーンって感じね」
「……認めたくないが、その通りだ」
脳の血管が破裂すれば、流石の俺様もただでは済まない。
「そもそも、そうやって労せず手に入れても愛着が湧かんだろう。もし仮に探知可能だったとしても俺は封印して泥臭く探しただろうぜ」
「はあ。あたしには理解できない価値観だわ」
「というか、本当に住宅貝はあるんでしょうか…………? オニキスがすべて管理してるんじゃあ…………」
「確実にあると断言できるわ。"密猟者を釣るための撒き餌として常にいくつかの住宅貝を忍ばせてある"というのは公式番組でフカえもんも公表している公然の事実よ」
「ま待ってください! それじゃ蔵渦に入れるスキもなく、住宅貝に触れた瞬間オニキスが現れるんじゃないですかっ!?」
よかったあ~、一人の時に住宅貝見つからなくて
「まあ細かいことはいいじゃない」
「先に知りたかったですよ……ん? 備限様、足元のそれ、何かありますよ」
謎の物体を拾い上げる備限
「ただの黒い石……ですかね」
「いや、これは【光無失効亡貝】だ。チャラ男の求めているネオン貝とは対極のものだな。まあゲットしておくか」
光無失効亡貝を蔵渦へ収納した
「こうなった以上は仕方ない、不本意だがチャラ男と合流するか……」
「本来なら置き去りにして帰る気だったのね」
「当然だ」
「でもあのチャラ男さんは正直、オニキスから住宅貝を勝ち取るほど強そうには…………」
「まあ向かってみようぜ。どうやら一悶着起きてるらしい────」
時は遡り、チャラ男サイド────
「ふぅ、はぁ、ふぅ……全っ然みつからないっしょ……」
ザッザッザッ
「潮干狩りの要領もよくわかんねーし、もうくたびれたっしょ」
ザッザッザッ
「……次んとこで無かったらもうやめるっしょ……」
ザッザッザッ
「俺ちゃんはよく頑張ったっしょ…………」
「……………………」
「…………いや、故郷のみんなが英雄の帰還を待っているっしょ…………!」
ザッザッ…………ガッッ!
「!!!!」
手応えを感じると、それまでの疲れが一気に吹き飛び、身体が息を吹き返す。
慎重に、だが逸る気持ちを抑えられないといった相反する気持ちの入り混じった動作で周囲の砂を掘り起こす
「やった……! か……貝っしょ!」
手は触れないまま、全体像が露出したところですぐに図鑑に載っているネオン貝と照らし合わせる
「ああ、これは、ネオン貝じゃないっしょ…………」
「でも違うとは言え、一応拾っておくっしょ。ブラザーとの約束もあるし────」
貝を拾い上げた瞬間────
「あぁ~~ら~~ら~~こ~ら~ら~~~~」
ビクッッ
後方より声がした
「い~~けないんだ~いけないんだ~~~~」
それは、メスガキから言われるのならばご褒美めいた煽り文句であるが……
声の主は明らかに男声、加えて高圧的であった。
もちろん備限の声でもない。
耳慣れない男の声だった。
ゆっくりと、恐る恐る振り向いてみる
すると二人組の男が立っていた
一人は粗野なチンピラ風。もう一人は武侠めいた佇まいで実直そうな印象だが、後方に二つの青白い人魂が付かず離れず追従しており、いかにも近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
そして二人とも共通する黒い軍服を身に纏っており、上着の折り返された左襟、一般的にフラワーホールと呼ばれる位置には化石骨格を基調とした代紋バッジが、鈍く光り主張していた。
※フラワーホールは他に、ブートニエールというフランス語めいた呼び名もある。
(お……オニキス……!)
空気が重く張り詰め緊迫した────のはチャラ男の心中だけである。
「良い度胸してんなぁおい、覚悟はできてンだろーな────」
チンピラ風の男がゴキボキと両の拳を鳴らす
(ヤバいヤバいヤバい────……そ、そうだ! ブラザーの言葉を借りるっしょ……!)
「なにか誤解があるみたいですね。ワタクシこう見えて慈善活動家でして、今日はこの海岸の美k────」
言い終える間もなく無情に放たれた拳は、その詭弁ごとチャラ男の顔面に深く沈み込んだ!
ゴッッ
「ッッッッ!!!!」
衝撃と共に鮮血が弧を描き飛び散る────
その様はまるで、大輪の花が咲き誇るかのようである。
「ぐちゃぐちゃ言ってんじゃねえぞコラ」
「アッ、ガ……がふ……っ」
ボタッ、ボタタッ
鼻血が砂浜を紅く染め上げる
「うっ、う……ッひぃぃ……ひぃぃ」
「うるっせーな、男がピーピー喚くんじゃねーよ。……黒! こいつは見たまんまのクソ雑魚かぁ────?」
「バローネ……お前、もうちょっと感知神経を鍛えて自分で判断できるようになれ。一目見ればわかるだろう」
黒と呼ばれたツレの男が朴訥と答える
「そいつはゴミだ」
「そうかよ────ったく興醒めだぜ……そんじゃ、気の済むまでサンドバッグにして適当に埋めるか」
「ひっ! 嫌だ……ひゃだ……」
「駄目だ。オメーがそれを拾った瞬間からこの備蒜海岸はもう! 平穏な海水浴場ではなく、密猟者を裁く処刑場なんだぜ────」
「だっ……だったら……! だったら元の場所にもどしますっ……」
その場に座り込んでせっせと貝を元通りに埋めるチャラ男
「ほら、ね? ね? これd────」
ヴェギャッッ!!
「ぐぶっ!!!!」
サッカーボールめいてチャラ男の顔面を蹴り上げるバローネ
「そいつぁ逆効果だバーロー。密猟に加えて俺をイラつかせ罪も追加されたぞ────」
「ひょ、ひょんな…………」
絶望するチャラ男
「だがひとつだけ、助かる方法がある」
希望を匂わせるバローネ
「! お、おひえてくらはい……! いったいどうすりゃ────」
「俺ら二人をブッ倒しゃいいんだよ。晴れて無罪放免だぜ」
「そ、そんなん絶対に不可能っしょ……」
「やってみなけりゃわからねーだろうが! オラ、立ち上がって構えろ。タイマン張ろうぜ」
「だって、俺ちゃんの座右の銘はLove&Peace……暴力反対っしょ……」
その弁を受け、額に青筋めいて血管が浮かび上がる。
更にバローネを逆撫でしたのは明白であった。
チャラ男の胸ぐらを掴み上げる
「ぐっ……だ、大体、碌にこっちの事情も聴取せずにこんな……乱暴過ぎるっしょ……」
絞められながらも、幾分か話の通じそうな後方の男へ対話を試みるチャラ男
「オニキスの問題解決は、基本武頼りなのでな」
「でもだからって無抵抗の人間に、こんなん越権行為っしょ」
「子細無い。密猟者に人権は無い」
「でもイメージよくないっしょ……世間の評判とか、支持率とかさ……」
「要らぬ世話だ。仮にお前が国賓級の要人だったとて例外は無い。観念するんだな、己れの目の黒いうちは密猟者を生かしてはおかん」
「だ、だけど俺ちゃんには重大な使命が────ぅぐ!」
掴んでいた胸ぐらをより強く絞め上げるバローネ
「結局保身しか口にしねえ……テメーみてぇ闘志のカケラも無ぇシャバ僧を見てっとイラついてしょうがねえ。毎週筋曜はどう過ごしてんだ────?」
「ふ、腹筋を……さn、いや、二回……」
「……ナメてんのか? 男と生まれたからには地上最強を目指せや」
言いながら突き放すと、これまで有無を言わさず殴っていたバローネが遠ざかっていく
軍服の背には【不退転】の三文字が刺繍されていた
(み、見逃してくれるのか……? 俺ちゃんの情けなさに戦意を削がれたとか……? ら、ラッキー……!)
しかし、ある程度の間合いでこちらへ向き直るバローネ
「喜べシャバ僧────冥途の土産に鱶道を味合わせてやる────そのミジンコ以下の軟弱な精神を拳で叩き直してやんぜ。闘魂注入だ────」
シッッ!!
虚空に右ストレートを打ち込む
ヴォガァンッッ
「!!!!!!」
なんと! チャラ男の顔面が爆ぜた!!
「ほう。試行錯誤していた例の遠隔式爆拳、完成したのか」
「おうよ。しかし遠隔式爆拳ってのはダセーからよ、なんかビシッとした名前を今模索中だ」
「ならば【射爆了】というのはどうだ────字面もピッタリだろう」
「射爆了! いいなそれ! 音の響きも良い! なんせ気合いが乗るし、叫びながら打ちゃあ威力も上がる気がするぜ! っしゃあ! 即決で採用だ! ありがとよ、黒!」
「フッ……礼には及ばん」
(…………"爆発的に射精した"という意味なのだが……おもろいから黙っておこう────)
「俺はこの射爆了でいつかテッペン獲るからよ────」
「精々頑張れ」
「他人事じゃねえぞ黒、あんたも覚悟してもらうぜ。帰ったら【鎬削磋磨】付き合えよ────」
※メンズーアはドイツ語で決闘の意味があり、鎬削磋磨は"鎬を削る"そして"切磋琢磨"を圧縮した造語。
要するに鱶道ランキングのランク戦である。
「お前は本来、一桁である己れに挑戦権は無いのだが……わかった。面倒だが稽古をつけてやろう」
「ほざいてろ、稽古で済まなくしてやらぁ。この最強必殺技で下剋上だぜ────」
「バローネ、"必殺技"など軽々しく言うもんじゃない。見ろ────」
「!?」
「は……鼻の骨が折れひまった……歯も何本かブッ飛んだっしょ……なんで、顔ばっかり……」
なんと! チャラ男は生きていた! タフネス!
「仕留め損ねたな────"必ず殺す技"が聞いて呆れるぞ。【凄鮫之男】は一撃で相手を倒す。凄鮫之男に二の撃は要らない。お前もオニキスに籍を置く武侠ならば覚えておけ」
※凄鮫之男とは、真に鱶道を修め極めた凄まじき武人に与えられる称号。
「…………っ」
拳をぎりぎりと震わせるバローネ
「……何を生きてる!!」
追撃の射爆了をチャラ男へ打ち込む!
ヴォガァンッッ
「…………あぁ?」
射爆了は着弾の直前、何処からか飛来した未確認飛行物体によって迎撃・相殺された。
「なんだァ?」
粉塵が晴れ、シルエットが明瞭になる
「ぶ、ブラザー…………」
そう。謎の未確認飛行物体の正体は備限の放った右疾間飛射であった。
※ちなみに右疾間飛射を撃ち出した直後に活魂刀は蔵渦へ納刀し、今は手ぶら。
「うわ、誰だお前」
「どうしたのー?」
「いや、チャラ男かと思ったが知らん奴だった」
「あらほんと。お化け屋敷のキャストかしら────」
悪ノリめいた茶番
「そうそう、ゾンビ役で────って、ちっがーう! コレは特殊メイクじゃなく、リアルなダメージっしょ!」
ノリツッコミのチャラ男
「オイてめえー、そいつの仲間か────?」
「いや、人違いだった。邪魔したな」
「あ! あ! ちょちょ待ッ! ……え? ほんとに?」
「冗談だ」
「……相変わらず心臓に悪いっしょ、ブラザー……」
「俺はエンターテイナーだからな」
「フザケた野郎だ────」
「このホラーチックなヴィジュアルはあの男にやられたんしょ……俺ちゃんのハンサム顔が────」
「あ゛ぁ!? 何言ってやがる、男前にしてやったんだろうがァ────もっっとカッコ良くしてやろーかゴルァ」
「ひぃぃっ!!」
「オニキスってのは随分とガラが悪いんだな」
「あ? 喧嘩売ってんのか?」
「だったらどうするんだ────?」
「当然ぶっ殺すに決まってんだろバーロー。俺の拳骨は痛てェぞ────」
怒らせた肩に手を添え、ぐるんぐるんと回して見せるバローネ
「あまり強い言葉を使うなよ────弱く見えるぞ────」
!? ピキピキ
「明日の朝刊載ったゾ、テメ────!!」
怒りの射爆了を放つバローネ
「ッッシャア!! バオラァッッ!!」
ドシュッ!!
「おっと」
最小限の動きでひょいと躱す備限
先だって、多枇杷実ちずれからフラッシュ攻撃を受けた経験が活きた。
「なん……だと……」
「俺に当てたけりゃ光速で撃てよ────止まって見えるぞ────」
「ぐがぎぎ…………」
観戦中のネリネと鞘織の会話をここで挿入
「ネリネちゃんネリネちゃん」
「なあにさおりん」
「あのオニキスの人、強さはどのくらいなんでしょうか」
「そうねー、あたしも気になるからダメ元でシステムを起動させるわ────」
開花妖精システムを起動させるネリネ
「あらま、海ゴブリンがヒットしたわよ。早速情報を覗いてみるわね」
「おお~! お願いします」
「……えーと、名前は阿久津バローネ、鱶道ランキングは現在16位。型に嵌まらない我流の鱶道で順位を伸ばしてきたそうよ。性格は見たまんま短気でせっかち、おまけに血の気が多く粗暴で、オニキスの中でもヘイトを買いがちらしいわ。長生きできるタイプじゃないわね」
「それでも上から粛清されず許されているのは実力至上主義故、でしょうか」
「かもねー。とはいえ威勢ばかりで噂ほどじゃないわねオニキス。期待していたのに興醒めだわ────」
再び備限サイド
「攻撃が直線的過ぎる────光速を出せないなら必中にする工夫をしろ────武術に於いて"崩し"は基本だろ────」
※崩しとは、相手の体勢や呼吸を崩し、行動の制限など動きを鈍らせる事に特化した牽制めいた小技の総称。
「ハッ、一度かわしたぐれーで見切ったつもりか? ご鞭撻じゃねーか。安心しろォ……今のはほんの序の口、挨拶代わりだバーロー」
※ご鞭撻について、バローネは"弁が立つ"方の意味で誤用している
「おっと、釈迦に説法だったか」
「国語の教師かテメー!」
「いちいち噛みついてくるなよ。さっさと全力でこい」
耳ほじ
「上等だァ……こっから先は、イクラでイクラを洗う……仁義なき全面抗争だバーロー」
言いながら、波打ち際へと歩を進めるバローネ
(こいつはメンズーアまで黒のヤローには見せたくなかったが、しかたねー)
「どこに行く?」
ピク
「海の中でしか闘えないのか?」
ブチッ
「こちとら水陸両用だ!! ヴァァァルォォォォォォ!!」
ブチ切れたバローネが振り向き様にアッパーカットのモーションで射爆了を放つ
「!!!!」
ドパァンッッ!!
乾いた爆裂音とともに、砂浜が逆巻くように爆ぜた。
派手に砂を巻き上げ地面から飛び出した射爆了が、そのまま備限のアゴ目掛けて飛んでゆく────
「知ってっかァ!? 土の下って書いても"圷"って読むんだぜーー!!」
ヴォガァンッッ
更に備限の回避を見越して、着弾前の空間で起爆させる!
(ムカつくが……この奇襲でも、ヤローのアゴを割るのは難しいだろうからな────)
間髪入れず、立ち込める砂塵の人影へ向け猛烈な連打を畳み掛ける!
「ぞがぞがぞがぞがぞがぞがぞがぞがぞがぞが!!!!」
「────────……………………ぞがァッッ!!」
永遠にも思えた永いラッシュがようやく終わった────
「へっ、ざまあみやがれ」
「バローネ────」
「おぉっと、凄鮫之男は一撃で仕留めるってんだろ────しゃらくせえ。勝てば軍艦だバーロー」
「…………。祝杯ムードに水を差して悪かったな────」
「ほんじゃ、奴のミンチを拝んでやるとすっかァ」
砂塵が晴れ、シルエットが明瞭になる────
「ッッ!! うそ…………だろ…………」
なんと! 備限はノーダメージであった!
「散弾ではな────……サービスで喰らってやったが、所詮この程度か」
パッパッと肩の砂を払う備限
「あ……ありえねえ……」
バローネの表情には怯えめいた動揺が浮かび始めていた。
「今度はこっちの番だな」
ゴキボキと両の拳を鳴らす備限
「……ヒッ!」
次の瞬間────
ピキピキピキピキ
「────────」
バローネは身構える間もなく、瞬く間に氷漬けの氷像と化した!
備限は無言のまま、目にも止まらぬ刹那の内に、二つの奥義を繰り出していたのだ。
ハヤゾメ流奥義【きゃっぽ神拳】
※"きゃっぽ"とは陸奥言葉で、靴の内部が浸水した状態を指す言葉。その名の通り、相手の靴中を浸水させるだけのいやがらせ技だが、後述の奥義と組み合わせる事で強力に化ける。
備限流奥義【大凍涼】
備限の持つ二つ目の属性である冷気を発揮した奥義。なお、使用の際は白髪部分が蒼く染まる。
備限ハヤゾメが氷の彫像製作に要するタイムは、僅か0.05秒にすぎない。
では、氷結プロセスをもう一度見てみよう。
かかと部分に尾ヒレめいた装飾のある、特徴的なデザインのオニキス純正軍靴。その内部に違和感を覚えるバローネ。
「…………んだァ?」
きゃっぽ神拳によって生じたその水気を起点として、大凍涼が牙を剥く!!
ピキピキピキピキ
「────────」
電光石火────まるで稲妻が逆転めいて地から天へと迸るように、阿久津バローネは氷像となったのだ。
氷像を見つめ、黒の独白
(馬鹿が……だから感知神経を鍛えろと言うんだ……。相手に呑まれ、精彩を欠きやがって)
「がははは!! 鞘織よ────今日の献立はフカヒレだ!!」
「はい……え、えええ!? た、たた食べちゃうんですか、備限様」
「あ、冷凍じゃ寄生虫は死なないんだったか」
「バカね────さおりんはアニサキスの心配してるわけじゃないでしょ。倫理的な話よ────」
「あ、ベるセるクのガッツみたいに全治2か月くらいで再生するんですかねフカヒレ」
「さあ? もう一人のオニキスに訊いてみれば?」
「わ私がそんなこと訊くんですかぁ」
おたおたする鞘織を尻目に備限が率先して訊ねる
「よぉ。どうなんだ────?」
「……答える義理は無い」
「そうか────」
※ちなみに再生しません※シャークフィニングとフカヒレ問題
「この己れも凍らせてみるか?」
ドドドドドドドドド ※ジョジョ風効果音
「一度見せた技を乱発するのは俺の美学に反する。バーローくんは早々に底が知れたんで黙らせたんだ、話も通じなさそうだったんでな────」
ドドドドドドドドド
「本来ならばこのあと、帰投後に己れから灸を据えてやるつもりだったが、手間が省けた」
「なんだ、あんたも手を焼いていたのか。だったら手間賃くれよ────」
「フッ、そうだな。お駄賃を渡すとしよう────但し、地獄への通行料だがな」
「いらん。ノーサンキューだ」
「そう言うな────同僚の尻拭いをせねばならない」
グイ、と軍服の襟元を広げ、袖口のカフスを調整したり、戦闘の準備を万端に整えていく
「備限といったか────戦闘哲学めいた美学を語るような一角の武人を殺すのは忍びないが、己れと出遭ったのが運の尽きだ」
──── to be continued
。.。:+* ゜ ゜゜ *+:。.。戒晃こそこそ噂話。.。:+* ゜ ゜゜ *+:。.。
晩リの長城:シスコムーン領を背にしてサンフラン領を臨めば晩離。反対を臨めば晩臨。ニュートラルの状態では晩リと表記される。
アンモ騎士:上位種にギャンを模倣したギャン模騎士がいる。地上で活動しているため、関節に砂が噛むデメリットを克服しており、並みの冒険者では歯が立たない。
高機動型ギャン模騎士:さらにバックパックの換装、ジェネレータ出力の強化によって飛躍的に機動性を向上させることに成功している。馬久辺、江草部といった脅威個体が確認されている。
武装
ビームランス
連装速射砲
ロケットランチャーシールド