レベッカ一行の世界漫遊の旅 2 (女盗賊アマゾナ編 15)
その日の夜の事―
「かんぱーい!」
アマゾナの乾杯の声に私達はジョッキに入った発泡酒を掲げると、一斉に飲んだ。
今夜はバザーが大盛況で終わったお祝いを兼ねての宴会が宿屋で開かれたていたのだ。
広い食堂には円卓のテーブルが8つ置かれて、どのテーブルにも4〜5人が席に座っており、女性の参加者は私とミラージュ、そしてアマゾナの3人のみだったのでむさ苦しい事この上なかった。そこで私達の席はアマゾナにお願いして窓際にしてもらった。勿論空気の入れ替えの為に窓は開閉してある。
それぞれのテーブルの上には一律に同じ食べ物が用意されている。チキンの照り焼き、豆のサラダ、じゃがいものスープに、ライ麦パンにオードブルの盛り合わせ。
「アマゾナさん、この料理、もしかして1人で準備したのですか?」
私は鶏肉料理をナイフで切りながらお酒をグイグイ飲んでいるアマゾナに尋ねた。
「いーや、今回の料理はね、隣村の女性たちが用意していってくれたんだよ。彼女たちがバザーを開催してくれたお礼にってね。あいにく全員子連れだったから参加はしていないんだけどね」
「まあ。そうなんですのね?何だか私達だけで楽しんでしまって悪い気がしますわ」
ミラージュがライ麦パンを頬張りながら言う。
「俺も彼女たちから服をプレゼントしてもらったしな…」
サミュエル皇子は自分の着ている白いリネンのシャツに触れながら言う。サミュエル皇子の着ている服はまるきり平民が着る服であったけれどもとびきりハンサムなのでどんな服でもよく似合っている。
「ふふ、サミュエル皇子。その服とてもお似合いですよ」
お世辞抜きに言うと、サミュエル皇子はフニャッと笑った。
「本当かい?レベッカ。本当に似合っているかい?」
「ええ、そういう素朴な服は本当にサミュエル皇子にお似合いですわ」
褒め言葉とはあまり思えない言い回しでミラージュが言う。すると若干お酒で頬が赤く染まったアマゾナが口を挟んできた。
「ねえねえ、あんた達…この男を皇子って呼んでるけど、ニックネームのつもりで言ってるのかい?」
「「「は?」」」
私達はあまりにも突拍子もないアマゾナの言葉に一瞬固まってしまった。
「いや、俺は確かに国は捨てたが…もともとは皇子だったんだ」
「ええ。一応こんなでもこの方はかつては皇子様だった方ですわよ?」
ミラージュはオードブルのウィンナーに手を伸ばしながら言った。
「アマゾナ。一応サミュエル皇子はガーナード王国の第三皇子だったのよ?今はさすらいの旅人だけどね?」
「何と!本当に皇子様だったとわね!いや~びっくりしたよ!あまりにも酷いボロ馬車にボロボロの服を着ていたから哀れな男だと思っていたのだがね。まさか正真正銘の皇子様だったなんて驚きだわ」
アマゾナは手にしたジョッキをグイッと飲み干した。するとその時…
「1番!力自慢のボビー!樽を割りますっ!」
え?
その声に振り向けば、カウンター前にいつの間にかステージが建てられ、そこにマッチョな男が立っていた。やはりこの男もぱっつんぱっつんの服を着ている。
するとあちこちで歓声が沸きおこる。
「ふんぬっ!!」
男は足元に転がっている樽を抱きしめると、顔を真っ赤にさせて力を込め…
バリンッ!!
ついに樽を割ってしまった。すると拍手喝さいが起こる。
「あの、アマゾナ。あれは一体何?」
私は不思議に思って尋ねた。
「ああ。これはちょっとした余興さ。あいつら酒が回って来ると、ああやって自分の芸を披露するんだよ」
説明している傍から、次々とステージに上がって芸を披露していく男たち。時には歌を歌ったり、手品をしたり、大道芸人みたいに皿回しをする男までいた。
「面白そう!私も参加しますわっ!」
するとかなりお酒が回ってきたのか、ミラージュが手を挙げて私が引きとめるのも聞かず、ステージ上へと昇って行く。
「いいぞー姉ちゃんっ!」
「やれやれーっ!」
歓声を浴びるミラージュはまんざらでもなさそうだった。
「では15番!ミラージュッ!!『超音波』をやりますっ!」
あああっ!!やっぱり!
「え?何だい?超音波って?」
アマゾナが首を傾げた途端、ミラージュは口を開けて超音波をぶっぱなし、宿屋をフッ飛ばしてしまった。
「イヤアアッ!!ミラージュッ!!何て真似をっ!!」
跡形もなく吹き飛び、あちこちに転がって気絶している彼らの前で私の絶叫が夜空に響き渡った。
その後…私が力を使って時間を巻き戻したのは言うまでもない―。




