旅路
僕は旅をする
また君を探して
何百年、何千年……
あと何度繰り返すのか
君と初めて出会った頃は
僕はまだ普通だった
「にゃー……」
喋ることもできなかった
正直、いつ自分が産まれたのか
もう覚えていない
気付けば、ただそこにあった
君は片時も離さず 僕を愛してくれた
そんな君を僕もとてもとても愛してた
もう…ずっと一緒にいたいと願った
君も素敵な言葉をくれた
「どんな姿になってもいいから
ずっとそばにいてね」
どんな姿になっても?この時は意味がわからなかった。
ずっとそばにいてって言ったのに……それなのに、君はこの世から突然消えてしまった…
僕は苦しくて苦しくて願ったんだ!
もう一度君に会いたいと。
僕はあの時、一体誰に願ったの……
誰が僕をこんなふうにしたのか…
神様は本当にいるの?
何年…何十年…何百年…
僕はなんの為に生き続けるのか
分からないまま長い時間を一人過ごした
「お腹すいた……」
いつからか、二本足で歩き人間の言葉をしゃべっていた
この頃から僕は人間を避けた
違うか……人間が僕を拒絶したんだ
普通と違う僕を。
「ひっ化け物だー!あっちへ行け!!」
僕は僕なのに…ちょっとほかの猫と違うだけだよ…
ある日、食べ物が見つからず倒れた
悲しくなどなかった
やっと息絶えられると嬉しかった
でも
そこでまた君に…君に出会えたんだ!
「猫しゃん……だいじょーぶ?」
君はあの頃よりずっと子供で
着ているものも変わっていた
名前も「さとこ」と呼ばれていた
それでも、すぐに僕には分かった、
君だって…
でも君は僕のことを覚えていなかった
それでもよかった。君といられるなら
君の前で、僕は決して立ち上がらず、
喋ることもしなかった
あの頃の僕のままでそばに居たかった
ううん……それだけじゃないか
君に拒絶されるのが怖かったから
僕は普通でいたかった
またいつも一緒だった
ご飯を食べる時も
寝る時も ずっと……ずっと
10年を過ぎる頃
君の家族が異変に気づく
そう……僕は年老いていかない
君も気付いてた?
気づかないふりをしていてくれたの?
僕は君の元を去ることにした。
君はいっぱい泣いていたけれど
僕はそばに居たんだよ
ずっと……見守ってた
大きくなってオスと一緒に暮らし
君とそっくりのちっちゃいのが増えた
不思議そうに見ていた僕に
誰かが言った
「子供はかわいいよなー。
おっと、お前……普通じゃないな」
驚いて振り返ると
そこには大きな鴉がいた
「尻尾が分かれてる……って事は猫又か!」
「……猫又ってなあに?僕は僕だよ」
僕が知ってるカラスはかーって鳴くのに、
そいつはぼくと同じく、人間の言葉をしゃべった。だから、こいつも普通じゃないんだ。
「お前…ずっとあの人間見守るつもりか?
どうせお前より先にいなくなるんだぜ?」
僕は答えず歩き出した。
僕はしばらく君の元を離れた
変わっていく君を見るのが少し……
辛くなってきていた。
「おわり」に向かっているのが怖かった。
僕はただぼんやり過ごしていた。
何をする訳でもなく、時折昔を思い出していた。何もわからず、幸せだったあの頃。
なぜ僕には「おわり」が訪れないのか
それがこんなに苦しいのに……
急に暗くなり上を空を見上げた
いつかのあの鴉だ
「やーっと見つけた!おいお前、人間のところに戻った方がいいぞ!」
その言葉で全てを理解した。
「おわり」が近付いているんだ。
鴉はなぜかとても協力してくれた。
「なんで僕なんかのために?」
「お前のためじゃねえよ。何となくな。
気になってちょこちょこ見に来てたら、うわ言でお前の名前呼んでるからさ。
ほんの気まぐれだよ」
鴉は君の部屋の窓が10時に開けられるのを調べていて、僕を窓から放り込んでくれた。
そこには長い管に機械、それに囲まれて意識もなく、ただ「おわり」を待つ君がいた…
神様、人間はなぜ「おわり」がきて、
しんでしまうの?
僕は君のベッドの上で座って顔を見下ろした。苦しそうに浅く荒い息遣いをし、痩せ細った君がいた。もう……一緒にいた頃の面影はなかった。瞳を閉じていた。僕を見ることはもうないんだろう……
どうせもう、聴こえなどしないと思い
僕は初めて話しかけた
「ねえ……さとこ…
昔みたいに優しい声で、もう一度僕の名前を
呼んで?ねえ……さとこ……」
答えてなど来るはずなかった。
さとこ、頑張ったね、苦しかったね
お疲れ様。もう…楽になっていいんだよ
そっと頬に擦り寄り、ベッドを降りた。
「……みーく…ん?」
君の声が聴こえた気がしたけれど、
振り返らず部屋を出た。
僕と入れ違いに、けたたましい機械音がして
急にバタバタと人とすれ違い騒がしくなった。
その騒がしさに紛れ、僕を不思議そうにみんな見ていたが、堂々と歩いてやった。もう……どうでもいい。終わったんだ、何もかも
外に出ると急に押し潰されそうな想いが溢れ、人のいないところまで駆け出して叫んだ。
神様お願い!!
僕に……僕にも「おわり」をください
空を見上げ叫んだけれど
そこにはいつもと同じ青い空が
広がるだけだった……
そして君がいなくなってからも
僕はまた旅をする
今度また違う君に出会えるのは
何百年後なんだろう……
僕の旅に「おわり」はあるのだろうか…