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ギルドへの登録、強まる疑念

「魔法や環境の操作ができる魔法、それを作った妖精のような存在……珍しいことは起こるもんだな」

冒険者ギルドへ向かいながら、キカは首をかしげて言った。

アルは話を聞いた上で、私を若干訝しんだ顔で見ている。異世界転移だって飲み込みづらい出来事だ、本当だとしても流石に怪しむか。

突然現れて、聞いたこともない魔法を得て、その魔法は謎の存在により先程手に入れたという、妄言としか思えない内容。信じられなくても仕方がない。

「妖精はありふれた存在ではないが、そこまで珍しくもない。あまり研究が進んでいないとはいえ、本当にそんな妖精がいるなら噂話の1つや2つありそうなもんだ」

「なあハック、その電子魔法とやらを見せてはくれないか? 恥ずかしい話、私は話を聞いていてもピンときていないというか……有り体に言えばよくわからないんだ」

「そうしたいのは山々ですが……魔法はどうすれば発動するのかがわかりません。この世界に来たばかりで、その辺りの常識も得られていないのです」

空気が少し重くなり、沈黙が流れる。疑いの念が徐々に強くなっていくのを感じる――当然だ。

私は二人の信用を得られていない上、発言の証拠を何一つ出せてない。唯一の持ち込み物であったスマホは、何故かフェアに盗られてしまった。

そのスマホだって、ディスプレイを点ける以外の操作を見せていない。正直、怪しまれて当然だ。

しかし、何か違和感がある。先程までは和やかに会話をしていたはずなのだが、急に距離を感じるような……特にキカからは強い視線を感じる。

だがその感覚が気の所為なのかと思うほど、キカは自然に会話を続けた。

「魔法については今のうちに説明しとくか。子供の頃に検査してないなら、魔法が使えなくても不思議じゃないから安心しろ」

「そういうものなんですか?」

キカは頷く。腕を組み、教師のような説明口調で話し始めた。

「魔法の発動は、大気中のマナを変換して行うんだ。自分を変換装置に見立てて、マナの状態を変化して出力するイメージをするんだ」

「マナという気体から、個体や液体、熱や成分を加えた気体などに変換するということでしょうか。私の魔法は変数(パラメータ)の調整ですが、変換や出力のイメージは同じなのでしょうか?」

「変数、というのが何かはわからんが、そういうのは人によって違うんだ。属性によって得手不得手がある。そいつの考え方や性格によって変わるから、ギルドで検査して使い方を教えてもらうんだ」

キカがそこまで説明したところで、アルが恥ずかしそうに話し始める。

「私が火球しか使えないのは、火球が比較的簡単というのが大きいんだ。球体も一番簡単で、飛ばすのも一直線であればさほど難しくない……らしい」

アルは苦虫を噛み潰したような顔をした。「個人的には難しかった」と言わんばかりだ。

「こいつは馬鹿正直でまっすぐな性格だから、火属性への適性があったんだが……いかんせん、頭も器用さも足りなくてこんな感じになってる」

「言い方がまっすぐすぎる……」

歯に衣着せない物言いに、どこか信頼を感じる。これが親友というやつなのだろう。

「とにかく、魔法の使い方は個人差があるからギルドに行かないとわからないな。他に聞きたいことはあるか?」

「では、妖精について教えてもらっても?」

キカはほんの一瞬だけ、面食らった顔になった。驚いたような、不思議がってるような、そんな表情だった。

眉や口角、まぶたが若干上がっただけだが、そんな気がする。キカの声色から、疑念が少し薄まった気がした。

「あー、妖精ね? 妖精は割とどこにでもいるんだが、他種族という括りにしようとすると違和感がある種族……生物……マナ?」

キカが少し言い淀む。しばらく唸った後、話し始めた。

「妖精ってのは、特定の種類のマナのみで構成された生命体なんだ。だからさっき話してた妖精もなんらかのマナで構成されてるはずだ」

「なるほど。ちなみに、妖精が魔法を作ることは?」

フェアは一瞬で電子魔法を作り、私に与えた。これはどれくらい自然、あるいは珍しいことなのか知っておきたい。

「魔法ってのは魔法研究を重ねて作るもので、魔術師か熟練の魔法使いが作るものってイメージが強いな。でも妖精は知性を持ったマナそのものだし、そのくらいできるのか……?」

キカの声は徐々に小さくなり、独り言になっていった。魔術師と魔法使いを言い分けているのも気になるが、とりあえず妖精が魔法を作るのは珍しいということはわかった。

キカの代わりに、アルが少し得意気に話し始める。

「私は任務中、何度か妖精に会ったことがある。複雑な魔法は使っていなかったが、簡単な魔法でも威力が桁違いだったことは間違いない」

「なるほど。妖精の知能はどれくらい――人間で言えば何歳ぐらいだったと感じましたか?」

「うーん、話し方や話す内容は妖精ごとにまちまちだったな。年齢も生まれ方もよくわからないし、子供っぽい者もいれば大人びた者もいた」

「話す内容に幼さを感じた、あるいは感じなかった妖精の共通点などはありましたか?」

「そこまで多くの妖精に会っていないのもあるが、特に共通点は見つからないな。気候、マナ属性、周りに住んでる種族……特に共通するものはないな」

「そうですか……」

やはり私に魔法を与えたフェアは妖精の中でも特異、あるいは妖精以外の何かである可能性が高い。少なくとも、普通や一般的という言葉では括り得ない者のようだ。

そうこう話しているうちに、ギルドへ着いた。ギルドはかなり大きく、面積で言えばこの世界の家屋の10倍以上はある。

入り口はガラスのドアで出来ており、中に入るとすぐ横に大柄の男が立っていた。左の腰には剣を携えているが、右の腰には杖が用意されている。杖には金属光沢のようなものがあり、銀色に輝いている。

鎧の下は青色ベースできっちりしており、手を前に組んで立っている。警備員だろうか? 顔は少しコワモテだが、愛想は良い。

「おう、見ねえ顔だな。もしかしてアルテシア、ついにパーティーを組んでくれる奴が見つかったのか? んーかなりヒョロガリだな、何の魔法使いなんだ?」

しまった、この質問をされた場合の口裏合わせを忘れていた。使える魔法の種類も答えられないし、そもそも常識のなさが必ず露呈する。だが異世界人だと言うのも変だし、その辺りは記憶喪失の設定で乗り切るか?

いや、身分証明しやすいという理由で冒険者登録しにギルドへ来たんだ。恐らく身分証明のための処理はギルドで行う可能性が高い。記憶喪失でもギルドにデータがない理由にはならない。

考えることが多かったとはいえ、重要なことを忘れていた自分を悔いながら言い訳を考えた。しかし、アルは何事もなく会話を続ける。

「この男は小規模ギルドすらない辺境の地から来たらしいんだ。魔法についても知らないらしいから、これから登録と検査を行う予定だ」

「おーそうだったか! ここは平穏な街だからよ、永住も胸張って勧められるぜ。あ、最近はあんまり平穏じゃないか?」

「あまりその話をするな。周りの空気が固まるだろう」

「おっと、悪かったな。それよりアルテシア、パーティーを組んでもらえるといいな?」

「……余計なお世話だ」

アルは不機嫌そうな顔をしながら窓口へ向かう。キカがこそっと耳打ちをしてくる。

「アルは剣の腕はそこそこなんだけど、魔法がからっきしだからパーティーを組んでもらえないんだよね。しかも冒険者としては珍しく、怪しい輩でも命をかけて助けようとするお人好しだし」

「私はアルのそのお人好しな性格のおかげで生きているので、感謝しかありません」

「そうだったね。でも前回のパーティーだって、そのせいで反りが合わなくて喧嘩を――」

「聞こえてるぞ」

アルは頬を赤く染め、膨れっ面で振り返った。キカが「ごめんごめん」と言いながら駆け寄る。本当に仲の良い二人だ。

目の前の窓口にはそれぞれ緑・青・赤の服と帽子を身につけた女性が座っていた。

窓口はいくつもあるが、全員同じ色の並びで並んでいる。他の窓口を見てみると、男性が窓口業務を担当することもあるとわかる。

アルは迷わず青の服装の女性に話しかけた。

「アルテシア・フォードだ。『生息地外に存在する危険生物の発見・討伐』について報告に参った」

アルが免許証のようなものを見せる。冒険者証と書いてあり、これが件の身分証明のためのものか。

「アルテシア・フォードさんですね。依頼の報告内容についてお聞かせ願います」

窓口の女性は冒険者証を受け取ると、魔法陣が描かれた金属の上に乗せて詠唱を始める。

すると、依頼内容が書かれた紙がプリントされて出てきた。どう見てもプリンタにしか見えないが、『十分に発達した魔法は、科学技術と見分けがつかない』ということだろうか? クラークの三法則が逆転する日が来ようとは。

「まず、ステルスタイガーを近辺の平原で発見した。警戒を強化することを推奨する」

「伝えておきます。そのステルスタイガーはどうされましたか?」

窓口の女性はアルの目を見ながら、言われたことを高速でメモしている。凄まじいスピードで行われる速記に、思わず目が奪われる。

「なんとか倒せた。亡骸回収のために、場所を示した地図を渡すから参考にしてくれ。あとこの男だが、そのステルスタイガーに襲われそうになっていた者だ」

「それは大変でしたね。そちらの方は、身分を証明できるものはお持ちですか?」

「すまない、この者は小規模ギルドもない辺境の地から来ていてな。ギルドへの登録をしていないんだ。魔法の適性検査もしてもらえると助かる」

「かしこまりました。それでは報告は引き続き私の方でお伺いしますので、登録と検査は緑の服を着た事務員にご相談ください」

言われるがままに緑の服の事務員の元へ移ると、既に紙とペンが用意されていた。

「お名前をお間違えのないようお書きください~」

おっとりとした喋り方に気が抜けそうになる。名字は適当にイングと書き、提出した。

「それではお写真と適性検査の方させていただきますので、こちらへどうぞ~。あ、私ベールって言います~」

「ハックと言います。よろしくお願いします。」

そのまま私は別室へ行き、大きな水晶の前に立つ。隣ではベールが本を持ってページをめくっている。表紙の色は黄色だ。

ベールが詠唱すると、水晶が淡く光り始める。これで生体情報の保存ができるのか……原理はわからないが、言葉だけ聞くと随分と機械チックだ。

数秒後には詠唱が終わり、水晶の輝きは消えた。慣れた手付きで何やら作業をするベールだったが、何かのプリントを見て動きがピタリと止まった。

「えーっと……少々お待ち下さい~」

ベールはそそくさと奥の部屋へ入っていく。私が使う魔法は特製の電子魔法であるため、教えられる人がいなくて慌てているのだろう。

数分後、申し訳なさそうにベールが出てくる。

「あの、申し訳ないのですが……どの属性にも適性がありません~。ギルドマスターに確認も取ったのですが、故障ではないとのことで……」

「なるほど。それは仕方ないですね」

「えっ? いや、そうなんですけど……こう、がっくりきたりしません? 大丈夫ですか? 精神衛生保護の設備もありますので、ご案内することもできますが……」

「いえ、大丈夫です。それより、魔法を発動させる感覚を教えてほしいです。個人差があると聞きました」

「えっと、申し上げにくいんですが、魔法の適性が一切ない場合は魔法の発動は絶望的でして……」

「大丈夫です」

「えっ!? わ、わかりました~。それでは魔法発動のために性格調査を行うので、アンケートに答えていただきますね~」

ベールは可愛そうな人を見る優しい目になった。少々不服だが、仕方ない。

そういえばフェアは『現存する魔法に適性がなかったから、電子魔法を作った』と言っていた。恐らく適性検査の魔法のプログラムは、一般的な魔法の適性に近いかどうかを調べるものなのだろう。全く新しい魔法については検査外だと予想できる。

アンケートに答えた後、このアンケートと水晶で得たデータの差異から更に性格を浮き彫りにするのだという情報をもらった。あまりの気まずさにうっかり口が滑ってしまっているのだろう。

魔法の適性がないのはわかっていたことだし、それでも電子魔法は使えるため何の問題もない。

一通り説明を受けた後、電子魔法の練習をする。ベールには『こんな魔法があったら?』と空想上の魔法という体で電子魔法について説明し、アドバイスをもらった。

哀れみの目を向けられながら10分前後の練習をし、ついに手元にキーボード、周りにウィンドウを出現させることに成功した。

ベールは変わらず哀れみの目を向けてくる。このキーボードとウィンドウは見えていないらしい。

「ありがとうございました。また何かあれば相談しにきます」

「いつでもお越しください~。あ、冒険者登録をしていれば植物の採取任務くらいなら受注できますので、その場合は青い服の事務員にお声がけください~」

ベールが変に優しい態度であることを見るに、魔法も使えないヒョロガリが冒険者というのは本当に絶望的らしい。

自暴自棄になって暴れまわったりする可能性を考慮してか、奥の扉からは見張るような視線を感じる。暴れようものならすぐに止められるよう待機しているのだろう。

電子魔法は使えるので気に病むことはないが……常に哀れみの目を向けられるのはなんだか変な感じだ。

アルとキカがいる場所に戻り、電子魔法が他人に見えないこと、魔法の適性は一切なかったことを伝えた。

二人とも「なんと声をかけたらいいか」といった表情になった。ここに来る前に話したはずだが、信じていなかったらしい……いや、そんなことより聞きたいことがある。

「ここに入った直後、アルは『この街は最近平穏ではなくなった』という話に相槌を打っていました。何が起こっているのか聞かせてもらっても?」

私は少し小声で話した。この話を聞くと空気が固まると言っていたため、周りに聞かせるのはあまり良くないということだけはわかっていた。

「……場所を変えようか」

ギルドの中でも人気の少ない、隅っこの方へ移動した。アルはキカにアイコンタクトをとり、キカは仕方ないといった声色で話し始めた。

「あー、いいか? ハック。まずここは魔法の国。ここらの大陸はみんな魔法を使ってる。どんな種族もな」

人間以外の種族もいるのか。ここの街は人間ばかりだったが、不思議に思わなかったな。

「んで、機械の国ってのも存在するんだ。俺らとは逆で、魔法を使わず機械を使ってる。昔はそこそこ仲が良かったんだが、今じゃ冷戦状態だ……貿易をやめたりだとか、みみっちい争いが続いてる」

機械の国? さっき機械は衰退したと言っていたが、あれは嘘だった? ということは――

「それで、さっき情報端末って言ってあの光る板を見せたハックにはスパイの疑いをかけてるんだ。私とアルだけだけど」

試していたんだ。機械に対してマウントを取ることで揺さぶりをかけていたんだ。

「バカ正直にスパイだってバラす奴はいないだろうと思ったけど……あの板失くしたとか言うからさ、ちょっとだけ疑ってるんだ」

あの時あった違和感はこれだったんだ。ただの怪しい奴どころか、スパイ疑惑をかけられていたんだ。

「あまり詳しくはないが、電子ってのは機械の国でよく使われる言葉のはずだ。魔法を使ってるとしか思えない機械を見たことがあるから、電子魔法も怪しく思ってる」

これはいわゆる信用問題だ。ここで何を言うかで、生活できるかどうかすら変わる。返答は間違えられない。

「申し訳ないけど、機械の国の住人じゃない証拠を見せてもらえないかな。じゃないと、一旦捕虜にしとかないといけなくなるんだよね」

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