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5.旅は道連れ

 ナッツの話を聞いた翌日が出発の日なった。

 ライドはそのまま屋敷に泊まり、翌日に彼の妹と王都へと行く事になる。

 学園には大袈裟な荷物など持っていけないし、入るのは学園の寮だ。

 間に合うのならいつ出発でも良いとの事だった。


「快適な眠りだったけど、やっぱり実家のベッドの方が良いなぁ」


 そのうち慣れてしまうのだろうが、今はまだ違和感のほうが強い。

 実家が懐かしいと感じてしまう日が来るだろうことはライドもわかってはいるが。


「さて、今日は噂の妹さんに挨拶して、そのまま出発か」


 屋敷のお手伝いさんが用意してくれた朝食を食べ、軽く準備をする。

 約束の時間にはまだ少し余裕があるが、待ち合わせの門前に行く事にした。



 門の前には立派な馬車が止まっている、シーロイまで乗っていた馬車には悪いが明らかに高級だ。

 そして馬車の前に御者と思わしき男性と一人の少女が話し込んでいた。

 恐らくその少女が例の娘、術騎士学園入学予定のご令嬢ということだろう。


「ちょっと待って、君が件の学生ね。初めまして」


 挨拶をしようか迷っていたら先にされてしまった。


「私はハル・エムス、君と同じく術騎士学園入学予定ね」


 そう言いながらハルと名乗った少女は握手のために手を差し出した。

 ライドは少し戸惑いながらもその手を握りながら自己紹介をする。


「初めまして、ライドと言います。すみませんが王都への道行きに同行させてもらうことになりました」

「えぇ兄から聞いているわ、何でもその歳で腕が立つ術士なのでしょう?」

「そのとおりですお嬢様、イテネの先生からの紹介だそうで」


 その言葉に長い黒髪を靡かせながらハルは御者を紹介する。


「こちらは御者のムース、昔からこの家に努めてくれている信頼できる人間よ。今回は御者をしてくれるけど本来は執事なの」


 50代手前くらいと言った人の良さそうな紳士だ。


「よろしくお願いします、ライドと言います」

「こちらこそ、王都までの道行きだけではありますがよろしくお願い致します」


 それでは出発しましょうかとムースは言い準備に取り掛かる。


「馬車に乗りましょうか、兄さんから話は聞いてるだろうけど色々な事情があるの」


 そう言いながらハルは馬車に乗り込んでいった。



 走り出した馬車が町を出て街道を進む。

 どうやらこの馬車の後ろに護衛の馬車が1台だけ続いているようだ。


「あ~ハルさん……で良いのかな?」

「ふふっ、ハルで良いわよ。このまま入学すれば同級生でしょう?」


 そう言って柔らかく微笑む、イネテの町長が美しいと言ってたがこれは誰もが納得だろう。


「うちの家は領主の割に結構自由なの。だから堅苦しい話し方とかどうにも合わなくて、あなたも普通にして」

「それじゃ遠慮なく……俺も緩いほうが好きなんだよね~」

「改めてよろしくね、ライド」

「こちらこそよろしく、ハル」


 そう言って2度目の自己紹介を終えた二人は他愛のない世間話をはじめるのであった。


「ライドは聞いた話じゃかなり強いって聞いたけど、なんでわざわざ学園に?」

「師匠命令なんだよ、俺も行きたいかどうかって言われたら……行きたくなかったかな」


 へーと感嘆するハル


「気を悪くしないで欲しいんだけど、貴族でもないのに師匠がいてくれるなんて珍しいね」

「それはその通り、師匠が変人なんだ」


 酷いわ、と言いながらクスクス笑うハル。

 最初は凛としたどちらかと言えば格好良い女性かと思ったけど、こうして会話をしみると当初のイメージとは違う一面を見せられる。


「ごめんごめん、尊敬している師匠だよ。でも師匠っていうより家族だったからね」


 俺達兄妹を育ててくれたのだと言うと、柔らかく微笑みながら「素敵なお師匠様ね」と言われる。

 普段はぐーたらしてる姿ばかり浮かぶ師匠を直球で褒められるとどうにも照れてしまう。


「ハルはどうして学園に?」

「うーん、色々あるんだけどね、夢のため……かな」


 そういって少し恥ずかしそうにするハル。

 夢というのは案外デリケートな話題だ、聞いてもいい?とハルに問いかける


「ライドはさ、武具って使える? それとも使えない?」

「武具って剣とかの事? 俺は使えないな、武具が耐えられない」

「そうなんだ、本当に強いんだね」


 そう言ってハルは羨むような視線を向けてくる。


「ライドみたく魔力が強いと武具が耐えられない、それは良いの。”使えない”のは仕方ないから」


 魔力を持ち物に通して強化する術は確かにある。

 だが、一定の魔力を超えると素材が耐えられず壊れてしまう。

 ライド達の家族は皆、魔力量が人より多い、武具は”使えない”のが当然だった。


「でも、今の世の中では”使わない”人がいるの。それを私は変えたい」


 ”使えない”ではなく”使わない”それはどういう事かと考えているとハルは語った。


「強い人は武具を”使えない”でしょう。それこそ極大暴走の時に活躍した英雄と呼ばれるような人達の力に耐えられる武具は存在しないわ。だから武具を使う人は弱者だと、そういうイメージが定着してしまっているの」


 武具を使う軟弱者は強くなれないと、そのような風潮が蔓延しているのだとハルは言う。

 禁止をしているわけではない、だが戦う人間は侮られたくないという気持ちが強い。

 武具を使う者は自分を弱者だと、才能がないと認める事になる。そんな認識を変えるのが夢だと語った。


「武具を使う人は臆病者だと言う人がいる。でも、そんな事はないわ。使えるものを使って何が悪いというの?平和を守っているのは英雄や勇者だけじゃない、多くの力の弱い兵士の人たちのほうが多いのよ。私は彼等がもっと安全に戦える武具を作りたい。そして、それを使うことを当然の世の中にしたいの」


 そういうハルの瞳には強い感情が宿っていた

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