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4.シーロイの街にて

 町長から2つの封筒を受け取ったライドはそのままの足でシーロイの町に向かった。

 道中の馬車は快適とは言えないが、何もしなくても道を進んでくれるので思考するには適していた。

 ライドは進む馬車の上で横目に広がる森を見ながらも今回の件について考えていた。


 大地には魔力が巡っている。

 人間はこの魔力を取り込み、効率的に変換し力に変える。

 人の剣となり盾となる大地の恵み、この世界で生きていくために必要な目に見えない力。

 だが、それは人に向かう牙ともなる。

 地域によっては人では扱いづらく、逆に魔物の力が活性化される魔力が巡っている場所もある。

 また、その濃度次第では人を汚染し命を奪う毒となる場合もある。


 そのため、人の暮らせる地域は”人の領域”、魔物が活性化する地域は”魔の領域”

 そしてその中間に当たる人と魔物が混在する地域は”中間領域”と呼ばれていた。

 イテネもシーロイの町もホロ王国の東端にある中間領域の端だ。

 中間領域をどれだけ人の住む地域に変えれるかは重要な国家の課題だ。

 そのため東端の田舎ではあるが開拓地として栄えている街だった。

 そこから先は魔の領域になってしまうため危険とは隣り合わせだが活気があった。


 その東端から中央に近づくほど魔物の心配をする必要はなくなっていく、そこは人の領域だからだ。

 人が魔の領域に入ることは多々あれど、魔物が中間領域から先に食い込んでくることは少ない。

 人の領域に入る前に駆除されるというのもあるが、魔力が使いづらくなるような場所には本能的に近づかないのだろう。

 人間だけだ。

 危険があり、その地に適性がないとわかっていながらも何かを求めて未知の領域に入っていくのは。


 シーロイから王都への移動、中央に向かうほど安全度は上がっていくはずだが町長は護衛を依頼してきた。

 つまりは魔物の問題ではない、人の問題だ。

 人の領域には人の領域の問題がある。

 個人で動く盗賊もいれば組織だって暗躍する犯罪組織もある。

 だからこそ道中の移動に危険がないわけではないのだ。

 そして護衛を頼まれた娘が狙われる可能性があるということは行きずりの野盗などを危険視している訳ではない。

 詳しくはその友人の家で聞いてくれと町長は言っていたのでわからないが。

 そんな事を考えているとシーロイの町へ馬車が辿り着いた。


「着いた着いた、楽だけどずっと座ってるのは性に合わないかな」


 体を伸ばし荷物を手に取り馬車を降りる。

 歩きながら街を見る。

 イテネと同じ開拓地となる街。

 危険はあるが開拓の活気があるのはこの町も同じのようだ。


「うーん、少し面倒臭い話の気もするけど、町長さんには世話になったしなぁ」


 そう呟きながら紹介状とともに貰った地図を頼りに屋敷に向かう。

 流れる小川を横目に見えてくる屋敷はかなり大きい。

 シーロイはイテネよりも発展している、その領主の屋敷だから当然だ。


「まぁ、依頼をこなすと思って受けようかな、貴族なら良い馬車に乗れそうだし」


 そんな考えをしながら領主の門を叩いたのであった。



 案内された屋敷の一室、客室で待機していると若い男性が入ってきた。

 まだ30代手前、領主になるには少し若すぎないだろうかと感じる年齢だ。


「お初にお目にかかる、このシーロイの領主代行をさせてもらっているナッツ・エムスだ。あぁ座ったままで良い」


 慌てて立ち上がろうとするライドを制しながら自身も椅子に腰を落とす。


「はじめまして、ライドと申します。この度はイテネの町長から紹介してもらいまして……」


 慣れない敬語を使いながら何とか挨拶をする。

 貴族が苦手というか敬語が苦手なんだよなぁと思っていると、ナッツが相好を崩す。


「そんなに気を張らなくて良い、君の素性は先生からの手紙で確認させてもらった」

「先生ですか?」


 片手に持つ手紙を見せながらナッツは続ける。


「イテネの町長には幼い頃から世話になっていてな。私の先生……恩師みたいな人なのだ。その先生に紹介された護衛が少年なのは驚いたがね」


 そう言って目を細める姿にウインクする町長の姿が重なる。

 教師と生徒と言われると納得してしまうなと感じているとナッツの顔つきが真剣になる。


「さて、触りは聞いてるだろうが本題に入って良いだろうか?」



「簡単に言うと私の失脚を狙う者が居るという事なんだが」


 本当に簡単だなとライドは思いながらも話を聞く。


「このシーロイは私の家が長く治めていて安定しているんだ。これは父が倒れていて私が代行となっている今も揺らいでいない。だが、それに不満を持つ者もいるというわけだ、残念でならないがね」


 よくある話と言えばそのとおりだが、今まで実際に関わったことはなかった類の世界だ。

 これもまた一つの経験ということになるのだろうか、そんな事を考えてしまう。

 苦虫を噛み潰したような顔をしながらナッツは続ける。


「私が代行になってから嫌がらせの激しさが増している、私の力不足で妹には申し訳ないがね」


 ライドには疑問が出てくる。


「学園は安全なんですか? 家から離れると目が届かないと思いますけど」


 そう聞くとナッツは


「おや、知らないのかね? あそこは恐らくこの国で一番安全な場所さ。不埒な考えを持つものなど近づくこともできない。だから、学園まで着けば妹は安全なんだ。王都の治安も魔の領域に近いシーロイとは比べ物にならないくらい良いからな」

「あまり物を知らなくてすみません、王都には行ったことがなくて……」


 謝る必要はないさと笑うナッツ。


「元々、妹は学園に行こうとはしていた、優秀な娘なのだ。だが、こんな緊急避難的に行くことになるはずではなかった」


 それが悔やまれるナッツは肩を落とす。


「勿論うちからも護衛はつけるが妹が多くの護衛を嫌がって少し困っていたんだ。相手が短絡的に妹を襲って私に圧力をかけるなんて事を選ぶ可能性は少ない。少ないがゼロではないのでね。君が先生の言うように優秀な術士なら是非頼みたい、あの人の紹介なら信頼できる」


 そう言いながら真っ直ぐにこちら見つめて手を差し出してくる。


「乗りかかった船ですし、お受け致します」


 色々と複雑なんだなと考えながらライドは握手を交わすのであった。

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