変態と少女(成人)
2020/05/02投稿
とある大陸にある魍魎山と呼ばれる山の麓には少しばかり名の知れた町が存在していた。
そこは斬端町。雰囲気だけはどこにでもあるような町並み。瓦屋根の白い家が石でできた道に沿って立ち並び、カランカランとお淑やかに歩く女性や、わははと笑いながらずんずんと歩く男たち。
なら何がこの町を有名としているのか。
「...。」
それは今から起こることを見れば一目瞭然であろう。
「お嬢さん。」
「...?」
突然そばから聞こえてきた惚れ惚れするような男の声に道歩く女性は目線下から前に移す。だが前を見ても見えるのは同じく道を歩く町民達。女性は道を歩きゆく男性を見渡してみるが女性を見ている者はいない。
気のせいかしら。
そう思い止めていた足を再び動かすが...
「こちらですよ。」
先ほどと同じ声が次は後ろから聞こえてきた。女性は驚きに身が固まるが、この町に伝わる話を思い出した。
「お嬢さん、こちらをお向きください。」
女性は表にこの驚きを出さないよう注意を払いながらゆっくりと後ろを振り返る。そこにはこの町では見かけるのが珍しい黒に青できれいな染色が施された袴を着た男性がたっていた。
その顔は深くかぶるワラ傘によって見えない。
「お嬢さん、頼みごとがあるのですがよろしいでしょうか。」
「ええ...。」
女性がそういうと唯一見える男の口元が微笑み、懐から中身が大きく膨らんだ銭袋を取り出す。
「私の頼み事を聞いてもらえたら、こちらをお嬢さんに差し上げます。」
「...頼み事とは何でしょう。」
「それは言えません。ですが命には関わらないことは保証しましょう。」
そう口元は微笑んだまま男は言う。
「...いいですよ。それではそのお金をいただきますね。」
「ええ...。Here you are.」
女性は異国の言葉に戸惑いながらもそれを受け取ろうとする。
「I'm fun your beautiful poit.」
再び男からつぶやかれた異国の言葉に女性は手を引っ込めることを考えたが時すでに遅く、その手は銭のたくさん入った袋に触れてしまう。
「Thank you.」
女性は咄嗟に身を翻すがそれよりも早く目の前の男が腰に掛けた小刀を引き抜いた。女性がその行動に悲鳴を上げようとした瞬間目の前の男の姿が一瞬のうちに消えた。
「My god is here.」
その言葉を最後に...
「Youur body is beautiful.My thanks give you and today.」
ーカチャ
その一瞬で女性の着物はパラパラと細切れに代わり、地面へと落ちた。
「きゃあああああああ!」
町の中で突然裸になる女性。体を自分の腕で抱いて体を隠し、地面へと伏せる。
「服切りだーー!服切りが出たぞー!」
その様子を見ていた町人達は口々にそう言い放つ。それは感染するかのように周りへと広がっていき町全体が彼の名前を口にする。
「とても感激極まるような切られ具合でしたよ。それではお嬢さん、良い夜を。Adios!」
だが服を切った当人はそんな悲鳴をバックに宙へと飛び上がり、屋根へと飛び移る。
「御用だ御用だ!」
その時石床をカタカタと下駄を鳴らしながら、青い袴を着た男たちが走ってくる。その眼は血眼になって誰かを捜しているように見える。だが服切りはそんな彼らを横目で見るとすぐに屋根をつたって走り去る。
「...Fo..」
だが、服切りはいつも必ず見つかってしまう。
「Foooo...」
それは彼の特徴であり弱点。
「Foooooooooo........!」
「やつだ!」
「何度も逃がしてたまるものか!捕まえろ!」
それでも彼はこの弱点を弱点だとは思ってはいない。なぜならこの気持ちは自分が自分であるがための感情。己の中に閉じ込めておくのは自分の心に反する。
「Fooooooooooooooooooo!!!」
だからこそ服切り、いやスピッド・シャンドルは何があろうとも心からの叫び声をあげる。
「なんで奴はあんなに叫ぶんだ!つかめられやすいとは思うがな!」
「知るか!そんなことよりも足を動かせ!奴が屋根を下りる隙を狙うんだ!」
例え、何があろうとも...
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「くそ!また逃げられたのか...」
「屋根を走るとかどんな脚力してんだ。本当に人間か?」
「噂だが国の奴らはあんなのがごろごろしてるんだとよ。」
服切りと男たちが追いかけっこを始めてから数十分、服切りがいつも通り叫ばなくなったころから追跡が困難となり、いつも通りに、服切りの勝利で追いかけっこが終わる。
「...そら、早く引き上げるぞ。他にも犯罪人はいるんだ。さっさと走れ!」
「「「...了解!」」」
一人の男の号令で、ほかの男たちが姿勢を正す。彼らはこの町の警備組織。町人の人達を守り、規律を整える存在。職業柄少しばかり口は悪いが、その心に宿すのは規律を守ろうとする意志。
「ねえ...」
だからこそ彼らは今日も町の人を守るために行動する。
「なん....だ?」
「「「...へ?」」」
「さっきの奴は極悪人?」
たとえ守ろうとする対象がどんな人だとしても。犯罪を起こしていなければ、という条件が第一前提だが。
「ねえ、聞いているの?」
そんな彼らの前に現れたのは白い羽織を着た小柄な女の子。
「なあ嬢ちゃん。その後ろに背負ってるものはなんだ?」
だが、彼らが第一に見たのはその体格に見合わないぐらいに大きな剣。まるで狐と虎が一緒にいるかのような違和感を男たち全員が感じた。
「ん?私の護身具だよ。そんなことよりも...」
〈そんなのが護身具って言えるか!〉
男たちはそう口に出したくなったがその異様な雰囲気にとっさに口を閉じた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー◇◆◇◆
「ふう...」
あれから興奮が冷めたところでまじめに逃げて数十分後服切りはなんとか逃げおおせて村の外れにある洞窟の中に腰を下ろした。
「今日も普通に逃げられましたか...いやはやあの快感には何とも耐えられませんね。叫んでしまう。」
ふっとほくそ笑むと懐から煙草を取り出した...ところで手を止めた。
「...そういえば最近ボスから煙草はやめるように言われましたっけ。」
〈まぁ、あの快感に比べれば稚児にも等しいですが...すこし残念です。〉
心でそう呟くと煙草を懐にしまった。
〈さて、もう夜も遅いですし寝ましょうか。明日も早いですし...〉
ーキン
「...oh.」
「ちっ。」
服切りは遠くから感じた殺気に咄嗟にその場から飛び上がると、先ほどまで座っていた場所に小刀がささる。もしその場に座っていたら喉元に確実に当たるであろう正確さだ。
服切りは宙に飛び上がりつつも小刀が飛んできた方向を見た。するとこちらに走ってくる人影が見えた。
--気がした。
「終わりだ...。」
「...!?」
服切りがそっちに目を向けた瞬間人影は消え、いつの間にか足元に立っていた。その女性は手に自分の背よりもはるかに大きい剣を軽々と持ち、こちらを突き刺そうと剣を前に突き出している。
だが服切りはこれを壁を蹴って避ける。
「Hmm...お嬢さん、いきなりどうしたんですか。物騒ですよ。」
「...。」
「あまり人と話すのが得意でないのならしゃべらなくてもよろしいですよ。ですがその手にある凶器を下げてもらえないでしょうか。」
服切りは警戒心を与えないよう笑顔で穏やかに話すが、女性は一切警戒心を解かず、その手に持つ剣を深く腰を下ろして構える。その剣は見覚えがあり、この国では珍しい両刃の剣だ。たしかこっちでは片刃がほとんどだったはず。
服切りは少し悩むが、その様子を隙と見たのか女性は足を踏み出して切りかかってくる。
「...落ち着いてください。私はお嬢さんを襲うつもりはありませんから。」
先ほどと同じく女性は一瞬で懐に駆け込んでくるとその大剣を横なぎにふるう。
だが服切りはその技術を知っているため、同じ用法で後ろに一瞬で下がる。女性は私の動きに目を少しばかり目を見開くと瞬時に後ろに下がった。
〈少し警戒させてしまったでしょうか。〉
「ねえ。」
服切りがすこしばかり不安に思っていると女性の方から声をかけてきた。
「なんでしょうか。」
「なんであなたは犯罪をするの?」
「...犯罪、ですか。」
「そうでしょ?さっき町の警備の人達に聞いたよ。夜な夜な町人にお金を与えて人を切る犯罪者だって。」
「Oh shit.」
そう言って女性は睨んでくるが服切りはその言葉に眉をひそめた。なぜなら服切りは服は切れども人は切らず。そう決めているため、これまでに人を切ったことはこちらの国に来てからは一度もない。
単純にこちらの服という着物を切る快感には劣るという理由からだからだが。
「なに?」
「いえ、なんですかそれは、と言っただけですよ。」
「ふうん?」
女性は服切りの言葉が本気である雰囲気を感じ取ったのかその実から警戒心をわずかながらに解いた。手に持つ大剣も少し下ろしている。
「そもそも...」
「そんなこと信じると思う?」
「Why!?」
だが現実はそう甘くなかった。女性はその一瞬で服切りの懐に入り込むとその首に刃を当てた。女性は服切りの足元におり、すぐにでも蹴り飛ばせはするが、その前にこの刃が自分の首を切り落とすだろうことがその女性の目からありありと伝わってくる。
服切り自身にそんな考えは到底ないが。
「お嬢さん、私は人を切っていません。この命にかけて誓いますよ。」
「それで?」
服切りは女性に本気で伝えようとするが、聞き耳を持たずに再び言葉をかけてくる。
「じゃあ警備の人が嘘をついているというの?」
「ええ、私は...」
服切りが答えようとしたその瞬間どこからかフクロウの鳴き声が森から聞こえ、洞窟内を響き渡る。
「服切りですから...」
服切りがそういった瞬間、女性の目の前から姿を消した。
バトルって描写表現難しいよね( 'ω')
どうも波のゴルラです
この度は『斬切人』をお読み頂きありがとうございます((・ω・)_ _))
不定期更新の為、投稿頻度はバラバラにはなりますがどうか白い目線で見守ってください
今後ともよろしくお願いしますー( 'ω')