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喧噪

作者: 奄美なみ

イラつきながらジープを乱暴に運転する。速度はあっという間に規定を超えているが、そんなの気にする必要なんかない。真夜中のこのくそったれな時間に、誰がこんなくそったれたおんぼろ車をとっ捕まえるか。喧嘩ばかりの妻とはもうウンザリで、ほかの女をひっかけて歩くのもいいかもしれない。そうだ、それぐらいしてやらないとわからないんだ。そんなことを考えたら落ち着いてきた。煙草の煙で車内が白く濁っている。これこそが俺の生き方みたいなもんだ。そろそろ市街地に出る。乱暴な運転は止まらない。止めることができないんだ、俺ってやつは。怒りに任せてアクセルを踏めばいくらでも走り続けるこいつと、俺は一生わかれることができないだろうな、妻とは違って。


煙草を取り出す。肺に蜜の味を取り込む。息を止めて、十分に味わってから吐き出す。車内がまた白くなる。妻と喧嘩した理由なんて覚えちゃいない。きっと些細なことだったと思う。そうだ、冷蔵庫にミルクがないと不満をたれたあいつが、すべてをめちゃくちゃにしたんだ。俺は買いに行くと言っていた。昨日は買いに行く気分だった。でもただ、俺はミルクを忘れただけなんだよ。何故こんなに文句たれて生きていけるんだ、女って生き物は?。車を走らせる。いい女が歩いている。窓を開けて口笛を吹いてみる。見向きもしない。なんだ、俺に魅力がないってか?それともこのおんぼろ車が気に入らないってか?すべてがめちゃくちゃになるほどイライラする。だから俺は言う。「お前なんか抱きたくもねえよ!」くそったれ。


結婚したのは15年前。こんなに長く続くとは思っていなかった。まあ、そんなこといっても15年のうちの半分は喧嘩しているような気もする。俺たちはそもそも、愛しあってなんかいなかった。今みたいにイライラして、たまたまひっかかった女を抱いたら、子供ができちまっただけで、何も幸せじゃない。おまけに子供はビービーうるさいし、今はまだ手で握りつぶせるほどの小僧だが、それでもむかつくことしかない。子供が可愛いと言っている奴らの気が知れない。


知らない山道に出る。構わない。ひたすらに車を走らせて、今日は帰らないと決める。携帯に着信履歴がたくさん入っている。全部妻からだ、きっと今ごろミルクっていう小さいことでここまで喧嘩になったことを謝ろうとでもしているんだろう。でも俺は許さない。今晩だけは、何があっても家に帰らない。

車をさらに加速させて、めちゃくちゃに煙草を吸いながらラジオをつけてみる。大地震だって?どこで?何の危機だって?


車が揺れているとは思っていたが、こんな広い断層もないような大地で地震なんて、たまったもんじゃない。嘘もいいところだ。


車内が白くなる。

いや、違う、目の前が白くなる。


遅かった。車は山の上の方から落ちてきた岩にぶつかった。体の感覚もない。携帯に着信が入る。ラジオはまだ、大地震について途切れながら俺に情報を伝える。避難してください、今すぐに。着信が途切れる。電話に出ようと思うが、腕が動かない。

くそったれ。

肺から最後の煙を吐き出しながらつぶやいた。













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