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パンドラの優しいウソ

作者: DOI


 『彼女はただでさえ遠い空の、そのまた向こうにある何かを見つめていた。その先にあるものを私は知らない。空間を共有することは出来ても、彼女と私には溝がある。

私の見ているものと彼女の見ているものが違う。私の感じている気持ちと彼女の感じている気持ちが違う。

一体、何を信じればいいのだろう? 私は彼女の草原にいる。

けれども彼女は私の海にいない』


 ふっと意識を引き戻される。いや、その表現は適切ではないかもしれない。それは私の集中が既に尽きかけていたことを、覆い隠す体の良い嘘になる。

「あ、お邪魔しちゃったかな?」

 コーヒーの香ばしい香りと共に彼女が部屋に入ってきた。以前は短かった艶のある長い黒髪に温かな色を湛えた瞳、薄い桜色の唇が穏やかな声音を導き出す。

「……いや、ありがとう……」

 彼女の穏やかさに触れると、先ほどまでの苛立ちが幻のように感じられた。私の答えを聞いて控えめに笑む彼女の網膜にも、笑顔の私が映っていることだろう。

 私は館野祐介。自分で言うのもなんだが名前の知られたモノカキだ。そして彼女の名前は里中めぐみ。私と彼女は高等学校に在籍していた頃からの付き合いで、今では二人でこの2DKの部屋を借りている。

 二人で借りるには少々広い家。一人でいるには淋しい時間。だからであろうか? 仕事の邪魔になると分かっていても、めぐみはここに来てしまう。側にいることの理由づけに二人分のカップを持って。

 

 


  一 



真っ白な原稿に文字を埋め、世界を創りあげていく。(しもべ)となる登場人物を作り上げ、私の用意したシナリオの通りに動けと命ずる。けれど忘れてはならないことが一つ。それは、彼らが意思を持っているということだ。

生きた登場人物は神である私に時に反抗し、物語を破綻させようと目論む。私は常に苛立たされ、彼らとの仲があまりにも険悪になれば私は最終手段に頼らざるを得なくなる。

それは『世界の破壊』だ。神が誰かということを、私は彼らに思い知らすことが出来る。

しかし破壊は諸刃の剣だ。脱力感が全身を駆け抜け、気力が根こそぎ奪われていく。だからこそ、なんとか彼らをなだめすかし、協力してもらわねばならない。

小説家は素敵な嘘をつく仕事だと、以前めぐみは言っていた。心温まる物語の紡ぎ手である彼女らしい言葉だと、私は微笑

ましく思う。

けれど、私には素敵な嘘などつけはしない。私のつく嘘は深く澱んだ沼のように不快な臭気を放つ。

 コンプレックス。願望。鬱屈した愛。現実逃避。私の嘘に輝きはない。幾重にも折り重なった愚痴と、神の権力を得られる恍惚と、そして何より自分の存在意義を確認するための嘘。

 空想の中でしか自由に生きられない私が逃げ込んだ、自分のための世界。そこでまた、自分を美化するための嘘を繰り返す。

 嘘の連鎖が嘘を呼び、嘘は膨張し続ける。嘘をつき慣れた羊飼いの少年が

「オオカミが来たぞ!」と事実を叫んでも、その事実すらも偽りと捉えられてしまうように、出口の見えない嘘の応酬が私の心を曇らせている。

「今日はもう休んだら?」

 カップを机の片隅に置いためぐみの、どこか甘えるような声に「解ったよ」と応えると、彼女の表情が一際喜びに輝いた。



 高校時代、鈴ヶ丘は二人だけの空間だった。そこは街全体を見下ろせる小高い丘で、吹き渡る風は涼しかった。私たちは常に取るに足らない議論を、まるで世界の趨勢を語るかのように大真面目に戦わせたものだった。それは今振り返れば子供の戯れに過ぎなかったのだが、青さが色濃く残っていた当時の二人にはかけがえのないもののように思われた。

「僕の思うままその世界は紡がれる。呟かれた愚痴と顕現出来ない狂気と、身も凍る嘆きと胸を引き裂く切望を。閉じ込めたその世界こそ僕の総てだ」

 『僕』は自分の心を曝け出すことに何故か胸を張った。

「私の思いに反してその世界は紡がれる。言葉に出来なかった後悔と、誰かに聞いて欲しかった悲しみと。それらを閉じ込めた失敗談が、世界を現実に近づけている。けれど、それは現実ではなく」

 将来の夢をもの書きに定めた二人は、同じ目標を持つ同志であると共に強力なライバル同士でもあった。付け加えて、当事から僕は彼女に淡い想いを抱いていた。

「どうして、現実ではないと言い切れる?」

言葉を交わす時、僕らは意識的に互いの顔を見ないように背中を合わせていた。空虚で満たされた心を慰める、とっておきのいいわけを発しながら穏やかな現実の熱に身を任せていた。

「ひょっとしたら僕らも、誰かの作った物語の中の人物かもしれない。現実と呼ばれるこの世界そのものが誰かの創った虚構ではないと、君はどうして言い切ることが出来る?」

「誰かの虚構も、貴方にとっては現実に違いないでしょう? 私の虚構も誰かにとっては現実かもしれないし」

 背中越しに伝わる震えに僕の心は肝を冷やす。どうして泣いているのかと思い、そう問いかけようとしたけれど、

「ごめん、ちょっとおかしかっただけ」

 彼女は予想に反して笑っていたようだった。

「原稿の中の出来事が虚構だとしても、向かい合っている時間は紛れも無く現実でしょう?」

 口から溢れ空気に溶けて消えていく言葉たちはまるでシャボン玉のように儚く、浮遊感に似て弱々しい。

「だけど、君はさっき『現実ではない』と言った」

「休戦中の兵士は戦争をリアルには感じない。私もそれと同じこと」

 彼女の言葉に納得の出来たあの頃の自分に戻りたいと、私は何度思ったことだろうか?

――違うんだよ、めぐみ。……今の私には休戦なんてないんだ……。小説が書けないと、私は生きていけないんだよ――

 

彼女との時間が好きだった。遊園地やカラオケに行くのと違ってお金のかからない遊び。彼女の持ってくる水筒から温かい紅茶がカップに注がれる、こぽこぽという音を僕は愛していた。

「小説家になりたい」

 口に出すのもはずかしかったけれど、笑われるかもしれないと思ったけれど、そして実際彼女は笑ったのだけれど。その笑みはふんわりと拡がる羽毛のようにたおやかで。

「実は、私もそうなんだ」

それは仲間を見つけた嬉しさだったのか。僕は彼女と同じ感情を共有していることを心の底から喜んだ。

それは曖昧な記憶と、微かにざわめく胸の叫び以外に確かめる術のない不確かな過去。

 本当にあったのかどうかすらわからない、ある意味最も過去らしい過去、あの丘で僕たちは恋を覚えた。



二 



 めぐみと過ごす暖色の時間は、春のまどろみに似て心地よく私の心を引きとめた。思うように動かない奴隷の如き彼ら登場人物達に覚えていた怒りも、綺麗に霧散してしまう。自我のレベルまで溶け込んでいた虚構の世界からの帰還は、長時間座っていた椅子による背中の疲れに促された、やむを得ずのものだ。

 私は自分にそう言い聞かせた。

ふと気になって時計を見ると〇時をまわっている。少し遅めの夕食をとり終わり、食休みを経て原稿にとりかかったのが八時だから、およそ四時間『あっちの世界』へ行ったきりだったわけだ。

 そうだ。四時間も座っていたのだから、身体が疲労を訴えるのも当然の事だろう。

 ……いや、違う。誤魔化すな。素直に認めろ。

『アイディアが出なかったんだろ? 見ろよ、お前の原稿は食事前から全く進んでいないじゃないか』

 悲観的なもう一人の『僕』が私を嘲笑う。

『アイディアが出なかったんじゃない。四時間かけて説得しても彼らは納得してくれなかったんだ』

小さなネタは出るけれども上手く物語に組み込めない。大雑把でご都合主義だと自分でもわかる駄文なんて、書いている私自身が馬鹿らしくなるような失敗作なんて、一体誰がそんなものに貴重な時間を費して読んでくれるというのだろう。

 誰もが矛盾を抱えているのに、物語には論理的整合性を求める読者たちのため、苦しまなければならないのは何故だろう。

 理不尽な怒りの矛先は『登場人物』から『読者』へと変わっていた。誰かに対して怒っていないと、自分の力量不足を認めてしまいそうだった。私は大きく頭を振った。

 少し夜風にでも当たろう。そうすれば、何かいいアイディアが浮かぶかもしれない。何にせよ、気分転換は必要だった。


 

春の香りがそこかしこから漂ってきているというのに、夜風は身を刺すように冷たかった。梅は小さくかわいらしい花をつけていたが、夜目の利かない私には血球(ちだま)のような赤色を想像することしか出来ない。何気なく蹴飛ばした石が狭い視界から消えた。

 石は見えない。確かにそこにあったはずなのに、最早確かめる術はない。世界から石は消えてしまった。微かに痺れるような爪先の疼きが、失われし者の悲鳴を連想させる。

 駐車場に留まっていた自動車の冷たい両目を私は酷く恐れた。

彼らは自信を無くしかけている私を冷たく見つめ続ける。自身を亡くせば、恐怖に(おのの)くこともなくなるのだと諭している。

――ひょっとして、僕には才能なんてないんじゃないか?――

 それは唐突なものではなく、遠い昔から頭の片隅にこびりついて離れない疑問の一つだった。

 私には他人と比べて秀でている部分など一つも無い。小説だけが私の特徴であり、只一つの存在意義だというのに。

 懐から取り出した携帯電話の薄明かりだけが、私の心を汲み取ってくれそうで暫し無機質な時刻表示を眺めていた。午前一時四十二分。その表示が私を癒してくれるなんて、数分前の私にどうして想像出来ただろうか。

まったく、なんて時間なのだろう。衝動的に笑いの発作が込み上げてくる。まるで、世界中の全ての人間が寝静まってでもいるかのように辺りは静まり返っている。私一人を残して、世界は眠りについた。

「……くくくくっ」

 笑いが漏れないようになんとか声を抑えつける。私はまるで夜の支配者のようだった。黒いマントを広げ、鋭い牙を生やしどこまでも優雅に生きる、夜の王。けれど、それは物語の中でしか生きられない不完全な生命体。それに比べて私はどうだろうか? 

午前一時四十四分。夜はまだ長い。興奮する身体中の熱で頬が火照っている。身体中に得も言われぬ昂揚感が駆け抜けていく。

自宅前の並木道を五分ほど駅の方に歩くと、コンビニエンスストアがある。駅前には、今日も路上ライブを行なっている若者がいるはずだ。確かにそこでは不夜を彷徨う同胞もいることだろう。けれど、折角の神聖な夜を、雰囲気を介さない異分子によって壊されることは避けたかった。店内に流れる俗っぽいBGMや、上手いんだか下手なんだかわからない掠れ声のノイズは私を雑多な存在にまで貶めてしまうだろう。そこでは私は脇役に過ぎない。

駅から遠ざかっていく。あらゆる音から、あらゆる存在から私は遠ざかっていく。街灯に照らされた影はどこまでも長く、道の両脇に植えられた名も知らぬ草と、私の髪が風の力で唱和しているのが酷く滑稽だった。

 お前は知らないかもしれないが、私は物語の中で風を吹かせる事が出来るのだぞ。むせかえるような夜の匂いも、擦れあう草の(しゃが)れ声も創り出すことが出来るのだぞ。

 私はいつのまにか、夜を支配した気分になっていた。

だからそれを目に入れた時、びくりと心臓が高く打ち、足は無意識のうちに止まっていた。私は先の街灯の下、光の舞い降りるベンチの上に一つの影を見出した。

それは異分子だった。私はそんなものを創った覚えは無かった。完全なる支配を根底から突き崩す反逆だった。関わらねば良い。ただの背景として処理してしまえばいい。私はそいつの横を通り過ぎ、何事も無かったように歩き続ければ良い。

思い通りにならない登場人物に目を奪われすぎるのは危険だ。だから、私は常にこうして……

『……待って……!』

 頭の中で囁く誰かの声。誰かはもう思い出せない、けれど懐かしいその声。闇が這い寄ってくる。胸元に首筋に艶めく舌が蠢いている。耳元で誰かがざわざわと哭いている。

 足はごく当たり前のようにベンチの前で停止した。ベンチの上では薄い本を膝の上に置いた、高校生くらいの少女が酷く色素の薄い瞳を私の方に向けていた。

「……君は……」

 私はその少女をよく知っているような気がした。ついばんだ唇の清水のように冷涼な味わいを思い浮かべることが出来た。懐かしくも温かい気持ちが胸中に拡がっていく。流れる長い黒髪から漂う気品に私は圧倒される思いだった。

「……君は……」

 うわ言のように繰り返す。干上がった喉が何かを渇望していた。それは、彼女から滴り落ちる水。それは、彼女の髪から香り立つ芳香。夜風にさわさわと揺れるロングスカートの裾。

「いい……夜ですね」

 視線を本から私に向けて彼女は躊躇い気味に口を開いた。

「音も無く、声も無く。時を漂う頼りない浮き舟のような儚き

世にも、夜は律儀に訪れる」

「……そ、そうですね……」

現実離れした彼女の物言いに虚をつかれて私は一瞬反応が遅れてしまう。そんな私を眺めて彼女はくすっと笑った。瞬間、大気の色が大きく変わったような気がした。幻想的で崇高な夜から、現実的でありふれた夜に。

「舘野先生……ですよね?」

 最早彼女からは神秘さの欠片も窺うことは出来ない。この後に続く言葉など私でなくても想像がつくというものだ。

『サインをいただけますか?』『握手をしてください』

 大方、こんなところだろう。去年の夏になんたら新人賞とやらをもらってから、何度か同じような状況に遭遇したことがあった。彼ら彼女らが一様に浮かべているきらきらした瞳を、私は苦手としていた。彼らは本当の私を知らない。私が逃げ場所に選んだ虚構を、自分を綺麗に見せようと創りだした御伽噺を

彼らは『心を動かされた』と言って喜んでくれる。

 けれど、そんなものはただの子供だましだ。何を望んでいるのかは知らないが、私の言葉は重くない。誰かの心に響くはずも無い。

 私と相対するだけで幸せだと言わんばかりの瞳を見ていると、強い罪悪感に囚われる。期待に満ちた笑顔は私に裏切りを許さない。過分な期待は水を十分に吸った岩塩のよう。背中を潰す重荷となって私を押しつぶそうとする。……私が非力だということに、どうして誰も気付こうとしないのだろう? どうして皆、気付かぬ振りを続けるのだろう? まるで、次に駄作を書いたら承知しないぞというように。期待の向こうの失望に、笑顔の裏に潜む冷笑に私は怯えていた。

 彼らは私に、若しくは私の物語に自分の中の何か ――例えば希望だとか、憧れだとか夢だとか。そういったきらきらした類の何か――を期待していた。

彼らにとって私は束の間の夢を見せる奇術師だった。奇術が使えなくなった途端に蔑みに晒される、使い捨ての道具。何故なら彼らは私を知らない。『小説家の先生』としか私を見ようとしない。見れないのではなく、見ようとさえしない。それが、たまらなく嫌だった。

そしてやはりと言おうか目の前の少女の瞳にも、色濃い尊敬の念が映っていた。

「私は……(みず)()といいます」 

 その瞬間、私の胸の中で記憶の因子が息を呑んだ。その単語は岩戸の中に封印された氷漬けの宝箱の鍵穴に、ぴたりとフィットするほど馴染みのある名前だった。

「……みず……か……さん」

 けれど、穴に鍵が吸い込まれてもカチリと音が響かない。思い出せない事実がもどかしく、私は呆けたように彼女の言葉を繰り返すことしか出来ない。もう一度彼女の口からその名を聞けば、思い出せるのではないかと期待しているわけでもないのに。

「……会った事は……ありませんよね……?」

 喉の内壁にぶつかってかすれた声が飛び出した。何度瞬きを繰り返しても目の前の現実は変わるはずもなく、目の前の少女に見覚えは無い。

 しかし不思議とその雰囲気には触れたことがあるような気がする。

「残念ながら」

 そう言って彼女は本当にとても残念そうな顔をした。

……人違い……?

けれど、それで済ませてはいけないような気がする。それくらい大切な何か。大切だということはわかるのに。もどかしさが背中を這い回っていた。

「どうして、そんなことをお尋ねになるんですか?」

 彼女の反撃に私は思わず目を白黒させた。古いナンパの手法かなにかと勘違いされてはたまらない。

「い、いや。私のことを知っているみたいだったから。最近人の顔をよく忘れたりもして不興を買ったりもするんだよ」

 些か慌て気味に私が弁解すると、彼女の深い瞳が悪戯っぽく光った。

「私のことは、忘れないでくださいね」

 その言葉が、何故か重い意味を持っているような気がしたのも、会ったことはないのに雰囲気に覚えがあるのも、それら全ては私の描いた空想に過ぎないのだろうか?

「私、先生のファンなんですよ」

 一本の線が繋がるイメージが私の脳を駆け抜けた。彼女は只の一ファンで、幾つか受けたインタビュー記事か何かで私の写真を見たことがある。見覚えがあるような気がしたのも、出演したテレビ番組のスタジオに彼女も遊びに来ていただとか、そんな風に幾らでも説明はつく。

 『私』に会うために。甘美な言葉だ。

 けれど、それは『僕』に会うために、ではない。

夜の散歩に妙な興奮状態に陥った私がありふれた夜を、何の変哲も無い少女を特別にしている。そう考えるのが自然だと、どうして今まで思わなかったのだろう?

「読んだのは『Autumn Flash』って本だけなんですけどね」

 えへへと笑う彼女には神秘さの欠片も感じ取ることが出来ない。

「いや、嬉しいよ。すごく」

 そう。小説家としてしか見られないのはとても淋しいけれど、自分の小説が評価されて嬉しくないわけはない。嬉しさとはずかしさの入り混じった幸福感に頬が緩む。



自分の投稿した小説が大賞に選ばれたあの日、あの丘で彼女の放った言葉が忘れられない。 

「あんまり嬉しそうにしないのね」

 めぐみの鋭敏な観察力に指摘され、『私』は初めてそれらの感情を自覚した。喜びや誇らしさといったプラスの感情ではなく、焦燥と苛立ち、出口の見えない不安といったマイナスの感情たち。

「おめでとう。何はともあれ、ね」

 めぐみの口調は言葉とはっきり乖離していた。『こんな時、世間の人たちはおめでとうとよく言いますよね。何がおめでたいのかを深く考えもせずに』

 何はともあれ、ね。めぐみの口癖には、そんな彼女の冷めた感情が見え隠れしていた。彼女は私のことをよく見ている。いや、わかりすぎている。おそらく私が嬉々としていれば、彼女も幸せそうに祝福してくれただろう。

 めぐみは二次選考で落とされた。素直に喜べない理由の一つにはそれがある。示されたのはお互いに読み比べた時の私の感想と正反対の結果だった。

「いよいよ貴方は小説家への第一歩を踏み出したのね」

 感慨深げに彼女は言った。表情は見えない。

背中ごしに伝わる熱。お互いの存在を保証してくれる熱。めぐみの熱が伝わってくる。私には熱の伝導を感じ取ることが出来る。それは、私という人物の存在を証明してくれる熱。彼女を感じると言うことは裏返せば自分を感じるということであった。

「飛び立つことよりも飛び続けることの方が難しい」 

 こんな私の発言は世間一般の人の目にはへそ曲がりと映るかもしれない。けれど、これが私の率直な感想だった。

 小説を書くのが好きだから小説家を目指した。昔はそれくらい、小説を書くのが好きだった。単純に好きで、それだけで良かった時代がひどく懐かしい。

 今の私からはその喜びが失われて久しい。書くのは嫌いじゃない。嫌いじゃないが、書かされるのは好きじゃなかった。

家に帰れば家族が祝ってくれる。それに対して私は中身の無い笑顔で応えなければならない。夢は現実に変わってしまった。逃げ場所は失われた。それの、何がおめでたいと言うのだろう? 

 夢は追い続けてこそ夢。叶ってしまえば虚しい現実に過ぎない。その事実に気付けるだけの知能も持たず、大人たちは子どもたちに将来の夢を聞きたがる。それとも、夢という言葉のからくりに気付いてしまった大人たちが、子どもにつく素敵な嘘が夢という言葉なのかもしれない。平凡な夢は好かれない。叶う可能性が高いから。嘘に気付く可能性が高いから。

 世間はいつだって、私には冷たかった。あちらさんが勝手に決めた授業時間を私は守る必要性を感じなかったし、友達を作らない私を侮蔑するクラスメイトを私の方でも嘲笑っていた。

 私は人間が嫌いだった。窮屈な現実が嫌いだった。

 それなのに、現実に存在する人間であるはずのめぐみに、好意を寄せることを不思議とは思っていなかった。

 めぐみは僕にとって唯一の『人間』。

 書き割りに過ぎない他人ではない、唯一の人間。


 緑が波のようにさわさわさわと揺れる。不確かな現実が揺らめく音が、過去の延長上にある現在(いま)を彩っている。

「……何はともあれ……」めぐみはもう一度言った。

「今、ここに世界があって私がいる。空を飛ぶことが出来ない私は、空を飛びたいと願うかもしれない。空を飛ぶことの出来る貴方は、今度は地面を走ってみたいと希うかもしれない。それが、現実と夢の関係。現実があるから、夢が見られる。現実が無ければ夢が現実になる。……貴方にもまだ、逃げ場所はある……」

 そう呟いためぐみの声はどこか淋しそうだったけれど、すぐにそよ風に流れて消えてしまった。

 


「いや、嬉しいよすごく」

 私は嬉しかった。嬉しいから、笑った。頬が緩んだ。

 けれどもそれは書くことの歓びではなく、他人から認められたことで湧き上がる感情で。それが自分でも分かっているから私は嬉しくて、だけど悲しい。

楽しかった執筆という行為が、神経をすり減らす義務へと変わったのはいつだっただろう?

小説に逃げていた僕が、小説から逃げる私に変わったのはいつだっただろう?

「君みたいなファンがいるから、頑張ろうって思えるんだもの」

「えへへ……」

それは……。

『小説家になりたい』

そう、言葉に出してしまったあの時からかもしれない。私は漠然とそう感じていた。照れたのか、屈託のない笑顔を見せる瑞香に、あの日のめぐみを探してしまう。

「実は私も、……そうなんだ……」

 そんな私に届いた言葉は、瑞香のものなのかそれともめぐみのものだったのか?

 にこにこと笑っていた瑞香の軽い口調。

「でも、頑張らされている……そう思っていませんか……?」

 彼女の目が、すっと細まった。夜の香りが、拡がった。



  三 



 コーヒーを運んでくれためぐみの瞳に羨望の色が混じっていたことに私は気付いていた。

 戦場に立てただけでも兵士は幸せだ。兵士にもなれずに職も無く、周囲の者から蔑まれ食料も無く飢えて死んでいくのに比べれば。兵士になれただけでも、幸せなんだ。

 夢を叶えたというのに、この虚しさはなんだろう。胸の奥に口を開いた小さな穴から、何かが少しずつ少しずつ零れ落ちていく。こうして息をしている間にも、どんどんどんどん失われていく。私の身体から輝きが、私の心から煌きが、私の頭から閃きが、音も無く零れ落ちていく。声もなく細胞が崩れ落ちていく。

 私はこの世界で生きていけるのだろうか? そんな疑問が浮かぶだけ、幸せなのかもしれない。


 

「頑張らされている……そう思っていませんか?」

 その言葉は私を固まらせるのに十分な破壊力を伴っていた。

高波のような凶暴さで私の身体を断続的に震わせる。

「……そんなことは、ない」と返すまでには少しの空白があった。

 私の返答にも彼女は艶然と笑う。

「嘘です」

 嫌な笑い方だと思った。心に土足で押し入るように乱暴な笑顔だと思った。

「よくわかったね」

 否定はしなかった。しようがなかった。笑みを浮かべる彼女の瞳には、それを許さない力があった。

「わかりますよ。だって、私は……」

 意味深に切られた言葉と、不自然に逸らされたその瞳。向いた先は果てしない闇色の空と、確かにそこにあるはずなのに姿を見せない新月の影。

彼女はただでさえ遠い空の、そのまた向こうにある何かを見つめていた。その先にあるものを私は知らない。空間を共有することは出来ても、彼女と私には溝がある。

私の見ているものと彼女の見ているものが違う。私の感じている気持ちと彼女の感じている気持ちが違う。

一体、何を信じればいいのだろう? 私は彼女の草原にいる。

けれども彼女は私の海にいない。

 夜風が運んでくる清水のような匂い。彼女の髪の香り。街灯の下に佇む横顔は思わず息を呑むほどに、美しい。

 光の粒子が彼女と水色のロングスカートを彩っていた。

「だって、私は先生を知っていますから」

 心臓が強く跳ねた。

「だ、だけど僕は君を知らない……」

 私は純粋な恐怖を感じた。数種の怖れが入り混じった膨大な恐怖。中でも大部分を占めていた単語は『ストーカー』。

 背筋を走る薄ら寒い悪寒が私を浸していく。

「先生」

「……っ!!」

 疑心暗鬼の黒い靄が私の心を覆おうと勢力を増していく。痺れるほどの鋭さで心が何かに締め付けられた。

「先生が忘れているだけですよ」

 彼女はそう言うと視線を空から私に戻し、淋しそうに笑う。灯りを湛えた雫が煌き、私の膨らんだ恐怖心は不思議と急速に萎んでいった。

「どうして、忘れてしまったんですか? もう、必要ないってことですか?」

 咎めるような言葉なのに、責められているようには感じなかった。瞳に浮かんだすがるような色が痛々しくて、私は一歩彼女に近づいた。

「逃げないでください。私から、逃げないでください!」

 出会った瞬間に芽生えた懐かしさが強くなった。

「お願いですから、私を……見捨てないで……」

 弱々しい声が闇に消えていく。私は誤解していたのかもしれない。名乗る時に瑞香が瞳に浮かべていたのは、尊敬の色などではなく期待の色。

『……会った事は……ありませんよね?』

『残念ながら』

「先生がいなければ私は……」

 会った事のない瑞香。なのに懐かしい瑞香。

「ちょっと待って」

 私は感情の昂ぶりを抑えられない彼女に、落ち着くように促した。

「君はただのファンじゃない。そうだね?」

 こくんと彼女が頷いた。スカートのポケットから取り出したハンカチで目をごしごしと擦る。

「そして君は私に会いに来た。街灯の下で読書をする為ではなく、君の目的は私に会うことだった」

 ……私は既に彼女の正体に気付きかけていた。

「……そうです……」

 持てなかった確証が、彼女の肯定の数だけ現実に近づいていく。

「瑞香ちゃん、上の名字は?」

 少しの間の後濡れた瞳で見上げる彼女に、知らず心臓の拍動が早くなってしまう。

「先生は付けてくださいませんでした」



 終わらせたくない。一つの物語が完成に近づくたびに思ってしまう。書くのが楽しくて楽しくてたまらないから。そして書き終えた時に生じる感情は、達成感と同じくらいに喪失感も大きいから。この時は確か、『パンドラの箱庭』と言うタイトルのつけられた物語を書き終えようとしていた。

「どうして物語には終わりがなくちゃいけないのだろう? 終わりなんて来なければいいのに……」

「でも、終わらなければ始まらない。未完の物語はそれ自体何の力にもならない」

 くだらないと笑い飛ばされても仕方ない告白にも、めぐみは真面目に答えてくれる。だからついつい、僕は彼女に逃げてしまう。

「だけど、物語が終われば彼らは消えてしまうのに」

 めぐみには隠していたけれど、その時の僕は『パンドラの箱庭』の登場人物たちに惚れこんでいた。それはそうだろう。自分の作った都合の良い世界。逃避するためのキャラクターたち。それは僕の欲望を満たす最高の『道具』だ。

「違う。話しかけてくれなくなるだけよ」 

「無視される。それは死に等しいよ」

 終われば世界は閉じてしまう。役目を果たした登場人物たちに僕が出来る事は何もない。

「そうね」

 めぐみはそう言ったきり黙りこくってしまう。背中を合わせているのでめぐみの顔は見えない。変な事を言って呆れさせてしまっただろうか?

「でも、それは私たちだって同じようなものよ」

 沈黙が我慢の限界に達した頃、めぐみは不意にそう言った。

「私たちにも終わりはある。ううん、厳密に言えば『今』という時間は常に終わり続けている。そして瞬きの一つ一つの間に私たちは移り変わっていく。旧い私は死に、新しい私が生まれる。それが成長ということなの」

 めぐみの言葉はいつも僕に新たなインスピレーションをくれる。以前、めぐみも同じことを言っていた。私たち二人は、お互いを高め合える存在なのだと。お互いがお互いを必要としている、そう信じられるからめぐみは特別なのだろう。

「こうしている間にも『現在』は『未来』に食い尽くされていく。現在という物語が終わり未来という物語が始まる。今と同じような、未来という名の別の物語で、今と同じような別の私たちが。同じ名札を胸につけて、同じ物語を演じ続けている『振り』をする」

「意味はわかるけど、結局君が何を言いたいのかがわからない」

 痺れを切らした僕にふふっとめぐみが笑う。

「私が言いたかったことも大切だけれど、一番大切なのは貴方が何を感じたか、なの。どんなに崇高な言葉も理解されなければ意味がないように。時にただの冗談が、相手の心に輝きを放つダイアモンドになるように」

 あの時の僕はめぐみの言わんとするところを正確に汲み取れていただろうか?

「登場人物達は同じ小説内でも刻一刻と変化していく。僕たちには変化させていく力がある……。そういうこと?」

 彼女は僕の問いには直接答えなかった。話題を転換するように声の調子を少し軽くした。

「……私の小説、よく読んでみると登場人物達がみんな似ているの。名前は違うけれど、本当に似ている。やっぱり自分の得意なキャラクターには傾向があるし、情も移る。それでもやっぱり彼らはそれぞれ違うのよ。少しずつ違う。人間も同じだと……思わない? 新しい人と出会い、打ち解けるのが難しいところまで、現実と良く似てる」

「……そうなのかな……。……うん、確かにそうなのかもしれない……」

「卒業みたいなものだから」

 めぐみはそこで僕を見上げ、にこーっと笑う。書き終えた原稿は卒業アルバム。新しく入学する学校で作るのは、やっぱり似たような友達かもしれないけれど。

「はなせばわかる」

 彼女がぽつりと呟いた。

 離せば解る。別れてからやっとその人の大切さに気付く。めぐみの書く恋愛小説にいかにも出てきそうなセリフだと思った。

 結局『パンドラの箱庭』は書き上げられる事はなかった。それは感傷的な理由ではなく、止むに止まれぬ事情からだった。物語の根底を揺さぶりかねない矛盾を私は見逃していたのである。そして、物語を閉じる最終段階になってそれに気付いてしまったのだ。

瑞香。それはこの未完の物語のヒロインの名前だった。


 

街灯に照らされた頬に涙の跡。それは月の精に見紛う程に美しい。

今の今まで、私は神の視点で登場人物たちを操ってきた。必要な所に必要なだけのキャラクターを生みだし、物語上の演出の為に容赦なく彼らを殺した。自分の思い通りに動かないキャラクターに苛立ちを覚えたのも、自分が彼らの上に立つ存在だということを自覚していたからこそ。

「君は、私に何を求めているんだ?」

 私は敢えて、聞く前から答えの解る問いを発した。

「私の生きられる世界を、もう一度創ってほしい」

「つまり『パンドラの箱庭』をもう一度書いて欲しいと?」

 どんな、小さな糸口でもいい。彼女たちのことを知る突破口になるかもしれない。彼女たちを知りたいと純粋に思えたから。

 時の経つのも忘れ、私は彼女に様々な質問をした。趣味、好きな食べ物、悩み事。それらは、私自身が創ったにも関わらず忘れてしまった設定の数々。それを、彼女は時に自慢気に、時にはにかんで話す。そのいきいきとした仕草に私は内心驚かされた。

 少々話し疲れたと感じ始めた頃、私は一番気になっていた事を聞いてみた。

「……瑞香ちゃん。君は私を、恨んではいないの?」

 これは今までの問いかけと少々色合いが違う。

 今までの問いの答えは、既に私の知っているものだった。忘れてしまっただけで、本来なら知っているはずの、知っていなければならないものだった。しかしこの問いは違う。この問いの答えを私は知りようはずが無い。何故だか胸が不安に締め付けられた。脳内に薄気味悪い粘着力で張り付いたかのように、最も想像したくない答えばかりが糸を垂らして繰り返される。

「……先生♪」

 ……目の前の瑞香は笑っていた。しょうがないなぁとでも言うように。彼女は人を恨んだりしない。そういう風に創ったのが誰かということを私はこのとき失念していた。

「無責任な親を持った子供は、内心恨みでいっぱいなんです」

 無責任。どんな理由があれ、物語を完結させないなんて無責任もいいところかもしれない。それが例え、誰かに見せる予定のないものだったとしても。

「だから、責任とってくださいね」

 瑞香の笑みは、苦笑というより安堵に近いものだったのかもしれない。自らの造物主の手へと還り、物語を完結へと導いてもらえると確信しての安堵。

 めぐみの言った、『はなせばわかる』の意味は単純に『話せば解る』だったのかもしれないなと私は思い直した。

 登場人物達に視線を合わせて言葉を交わせば、もっともっと彼らを愛することが出来るかもしれない。無責任な親も、子供と毎日言葉を交わせば恨まれることもないだろう。

 私は物語の完結を彼女に約し、夜の明ける前に帰路に着いた。


  

  四  



 家に帰ると、心配しためぐみがわざわざ玄関口まで迎えに来てくれた。無断で散歩に出る。私にとっては何でもないことなのだが、夜にふと目を覚ましためぐみにとっては大したことだったらしい。一人家に取り残されたとうっすら涙まで浮かべる彼女を、安心させるようにそっと抱きしめる。

「ほんと、大げさだなぁめぐみは」

 口ではそう言いながらも、心の中はすまなさと愛しさがごっちゃになって、思わず背中に回した腕に力を込めた。もう、離さない。そんな意思表示のつもりなのだけれど、伝わっただろうか?

「……貴方に……」

 泣きはらして少々赤くなった瞳が、私を見上げていた。 

「貴方にとっての逃げ場所が常に私でありますように」

 ……私は不意に、とてつもない恐怖に襲われた。

 それは本当に恐ろしい推測だった。

 姿を現した今となっては、そんな考えがいつから僕の脳内に巣食っていたのかはわからない。

 めぐみ。『僕』にとって彼女はなんて、都合の良い女性なのだろう? 思えば彼女は僕のことを、何でも解っているかのようだった。それを僕は好意故の観察力と信じて疑わなかった。

 どうして、彼女は僕のことを何でも解っていたのだろう?

 そして、めぐみにとって僕はなんて、都合の良い存在なのだろう? 僕はめぐみの全てを、何でも解るような気がする。何気ない仕草に込められる意味を、容易く見抜くことが出来る。

『だって、私は先生を知っていますから』

 それは、瑞香という少女の言葉。登場人物である彼女は、創り手である私と触れ合う時間が長かった。だから、彼女は私を知っていた。

『ひょっとしたら僕らも、誰かの作った物語の中の人物なのかもしれない』

 私は瑞香の意識を、考え方を、嗜好を、瑞香の全てを創ることが出来た。

同じように、僕の性格を、感性を、価値観を、僕の全てが創られたものであっても何ら不思議ではない。

幼い頃に刷り込まれた価値観を、自分固有のものと錯覚するように、僕たちの生きるこの世界全てがどこか偽りめいている。

 僕は、めぐみのことをよく知っている。

 めぐみも僕のことをよく知っている。

 それは、共に過ごした時間が長いから。ありきたりのはずのこの答えに何故か僕の心は満足しようとしない。

『はなせばわかる』 

 いつかのめぐみの言葉が脳裏を()ぎる。 

 

……けれど、その言葉に僕は首を振った。

 そんなこと、解らなくてもいい。腕に伝わるめぐみの温もりを離したくなどない。

 それは確かに逃げに他ならなかった。けれど、逃げとはなんだろう? 先に進む事と、後に下がること。逃げるということと立ち向かうということ。全く正反対に見えて、実は全く同じ行為。何かから逃げるということは、別の何かに立ち向かうということ。

何故って、人は多くの厄介事に挟み撃ちにされているのだから。



『あなたにとっての逃げ場所が、常に私でありますように』

 そう言ってくれる人がいる。

そう思えるだけの人がいる。

それが、僕の生きる現実の姿。夢のように恵まれているはずなのに、満ち足りることのない不思議な世界。

現実と虚構。全く正反対に見えて、実は全く同じ世界なのかもしれない。ただ、存在している方位が逆さまなだけで。

『……何はともあれ……今、ここに世界があって私がいる』

今ある現実が、誰かの創り出した幻に過ぎないとしても。

例えそれが、この世界における最後の希望だとしても。

抱き寄せた彼女の温もりだけは、決して僕に嘘をつかない。

 

 

……そう、信じ続けることが出来ればいいのに。

虚しさから逃げるためについた、素敵な嘘。


    


                  FIN

   



お題 『オオカミ』『はなせばわかる』

(この二つのワードを作品内に入れて書け、というお題でした)

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