九話目 ＊欲望の木
「お、俺たちは金等級冒険者」
「へえ、冒険者なんだ。どうして、ここに来たの？」
「町のみんなが悪魔に騙されたから真実をみんなに教えるために」
「どうして、悪魔に騙されたと思ったの？」
「食い物に困ることも、貴族がいなくなることも信じられなかった。
それに夜に突然貴族を襲い出した。確かに暴動が起きてもおかしくはなかったが突然すぎる」
「なるほどね。ちなみに帰属化してみる？」
「あ……あ……」
「？」
千歳は帰属化の質問に対して言葉が詰まっている冒険者を見てどうしたのかと不思議に思った。すると、その疑問を答えるようにして『亜空魔』が答える。
【帰属化は相手の意識が正常でないと発動しません】
「そういうこと。忍者」
「何で来ざるか？」
「もういいから解いて」
「はっ。解」
忍者がポーズをとって術を解くと冒険者達の眼に精気が戻る。
「はっ、何をした」
男達は自分達の意識が飛んでいたことに気づくとすぐさま千歳に対し声を荒げる。
「なにって、質問しただけ」
「質問だと」
「そう、どうしたら帰属化してくれるかなって」
「なんだと？……なんだ！、誰だ？」
千歳が帰属化のことを話すと冒険者達が突如混乱し出す。その様子を千歳は特に驚きもせず見守る。
(説明中かな？)
冒険者達は少しすると千歳を見た。
「本当か？」
「なにが？」
「俺たちの食いたいものを好きなだけ寄越すと言うのは」
「えっ？」
【なにかひとつでも真実であれば帰属化するとのことでしたので、好きな食料を渡すことにしました】
(どうすればいいの？)
【昨日説明した。『欲望の木』につれていけば大丈夫です】
(そう)
「忍者」
「はっ。何でござるか？」
「この人たち運んでついてきて」
「かしこまったでござるよ」
千歳は『欲望の木』なるものがあるという。外にある広場へと歩いて向かう。
その後ろにはロープで縛られながら忍者に運ばれている冒険者が続く。因みに忍者は『力持ちの術』という相変わらずダサい名前の術を唱えて冒険者を運んでいる。
広場までの廊下には当然すでに起きている転移したメンバーとすれ違う。
千歳と忍者に担がれている冒険者をみて、いったい何事かとその後ろをすれ違うものみんながついていく。
そして、千歳が広場に着くとそこには大きな樹が生えていたがそれ以上に驚いたのはその木の下で朝飯を取っている転移者たちの姿だった。
「楽しんでる」
【朝飯を望まれたので『欲望の木』のことを教えておきました】
「あっそう。本当に何でもやってくれるのね」
千歳は相変わらずの万能な『亜空魔』に称賛を送りながら木下までたどり着く。そしてその木の近くでだれがどう見てもこの場に似つかないパンを食べている同学年の生徒が目に付き質問する。
「ねえ」
「は、はい。なんでしょうか？」
「そのパンってどうやったの？」
「え？。あ、はい。えっとイメージすればいいんです。ただ単純に」
「それは知ってる。かいてあるから」
「え？。でしたら」
「そのクロワッサンなのかメロンパンなのかよくわからないのはどうやったのって聞いてるの」
千歳の目の前の生徒が食べているパンはメロンパンのような生地が何十にもまかれており、クロワッサンのようになっている。
「これは、私がこんなのないのかなって、妄想したらできました」
「存在しなくてもいいんだ」
「はい、さっきなんて、漫画に出てきた架空の食べ物想像したらそれが出てきた奴もいましたし」
「そう。ありがとう」
千歳は生徒に感謝すると冒険者の方を向く。
「忍者卸していいわよ」
千歳の許可を受け忍者が冒険者を下ろす。
「ほら、今の聞いていたでしょ。食べたい物想像しなさい」
千歳がそういうと、木が生きているかのようにうねりを上げると、一本の枝が伸び花が咲きそして実がなった。
（りんご？）
「そんな。ばかな」
リンゴを見た冒険者は驚きを隠せないでいる。そして、千歳はそのリンゴを手に取ると冒険者の口に運ぶ。
「ほら、食べないの？」
冒険者は恐る恐る口にする。
「アリゴだ。本物のアリゴだ」
それを口にした冒険者は涙を流し始める。
（ええ！。何で泣くの？）
千歳は冒険者が突然泣き出したことに驚く。そして、再び質問をした。
「これで、帰属化してくれるんでしょ？」
千歳のその一言に冒険者は涙を流しつつも我に返ったように返事をする。
「騙されないぞ。悪魔め、これもどうぜ幻術何だろう。おれが首を縦に振れば襲うんだろう」
「はぁ？。ふざけてるの？。こういう大事な約束を破るとか、死にたいの？」
千歳の冷たい殺気が冒険者を襲う。
「今決めなさい。従うのか死ぬのか？」
その様子を周りで見ている者たちは早く肯定しないかとハラハラしている。そして、冒険者も千歳の殺気に圧倒されながら返事をする。
「...た...ま..」
「はっきり言いなさい」
「従います」
「初めからそう言えばいいのよ。ほら好きなだけ食べなさい」
帰属化した冒険者に千歳はリンゴを渡す。
「後ろの二人は？」
千歳の冷たい殺気が二人を襲う。
「従います」
こうして侵入してきた冒険者の一件は丸く収まった。
