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水晶の夢  作者: はるあき
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誤字報告、ありがとうございます

 イリアナが魔法で襲われた。

 防御魔法が効いたため、軽傷ですんだがショックで休んでいた。問題は″誰″がイリアナを魔法で襲ったのか。

 犯行に使われたのはアルテナの魔力が封じられた水晶だった。水晶は学園で管理されており、特定の者か本人しか持ち出すことが出来ない。

 疑われたのは間違いなくアルテナだった。アルテナにとっては身に覚えがないことだったイリアナが受けた攻撃魔法がアルテナの魔力を使ったとしても。

 イリアナと関わりたくないアルテナがそんなことをするはずがないと信じる者は僅かだった。


 それを知らせにきたハウエルが険しい顔をしていたのが気になった。

 ハウエルの側に常にイリアナがいるようになった。アルテナの魔力に辛うじて勝てるのが、ハウエルくらいだからだ。


 イリアナはアルテナを見て怯えるようになった。小さく震え目尻に涙を溜める様は庇護欲を誘いアルテナの悪評を高めていった。


 グラントール家にもう一人子供が出来たら婚約者が代わるのではないかと囁かれるようになった。もう一人子供さえいたらグラントール家の跡継ぎ問題も解決しイリアナは好きな人の元へ嫁げるのに、と。

 そして、イリアナの母親が懐妊したと噂が流れた。


 ハウエルの卒業式が間近に迫った頃、王家主催の舞踏会が開かれた。

 アルテナももちろん参加する。いつもならハウエルが迎えに来てくれるが断りの連絡があった。どうしても人に任せられない人を迎えに行かなければならないから、と。

 アルテナはそれがイリアナだと知っていた。

 それでも、()()でハウエルが贈ってくれたドレスとアクセサリーを身に纏い、従兄弟にエスコートされて会場に向かった。


 イリアナは満面の笑みを浮かべてハウエルの側にいた。

 ファーストダンスはハウエルと踊れた。

 ハウエルの藍色の瞳が気遣うように見つめてくる。十年以上婚約者をしている優しいハウエルがアルテナに情がないわけではない。

 アルテナは最後なのだからと固い表情のハウエルに微笑もうとした。

 心配いらないと、覚悟は出来ていると、そう言いたくて。

 ハウエルは目を見開いて表情を苦しそうに歪めた。

 ああ、うまく笑えなかったんだ。とアルテナは思った。

 ダンスが終わり壁の花になろうと、ハウエルの側を離れようとしたらハウエルはアルテナの腰を抱き椅子のある壁の方へエスコートする。

 途中、イリアナがダンスを躍りたそうにハウエルに近づいてきたが、ハウエルは無視してアルテナを椅子に座らせた。


「アルテナ、さっきの顔は私以外に見せないでくれ」


 ハウエルが大きく息を吐きながら苦しそうに言った。

 それほどまで見れない顔だったのだろうか?とアルテナは落ち込んで俯いてしまった。

 だから気付かなかった。ハウエルの目尻が赤くなっていたことに。威嚇するように回りを見ていたことに。


「ご免なさい」


 小さな声で謝るとため息がアルテナの耳に入る。

 顔を上げるとハウエルが手で自分の顔を隠していた。


「アルテナ、そう・・・・」


 ハウエルの言葉は突然遮られた。


「ハウエル様、踊っていただけませんか?」


 恥じらうように顔をほんのり赤く染めながら、イリアナが立っていた。

 回りの視線がアルテナたちに集中する。

 はっきりするなら今夜だ。第二王子ハウエルの婚約者が代わるのかどうか。


「グラントール侯爵令嬢」


 ハウエルの声が冷たいような気がするのは、アルテナがそう望んでしまうからか?


「嫌ですわ、ハウエル様。イリアナとお願いしていますのに」


 寂しそうに瞳を伏せるイリアナは可憐でひ弱な女性にみえる。


「君はいつになったら気がつくのかな?」


 イリアナの視線を遮るようにハウエルがアルテナの前に立った。


「グラントール侯爵令嬢、私は君に名を呼ぶことを許した覚えはない。」


 イリアナが驚いたように顔をあげた。


「今までお呼びしても・・・」


 小さな声で何故と言いたげに首を傾げて、ハウエルを茶色の瞳を揺らしながら見ている。

 可愛らしい仕草だ。


「回りの者が咎めて(こえをかけて)いただろう。距離が近いとも。私が動けば、不敬罪に問われる(おおごとになる)


 書類上は婚約者の妹になるからな。気を使っていただけだ。

 言われた言葉にイリアナは唇をワナワナ震わせるだけだ。

 その顔からは血の気が引いている。


「婚約者のある身で他の男を追いかけ回す。それがどれほどの醜聞か、気にしてもいなかっただろう」


 イリアナは消えそうな声で縋るようにハウエルに手を伸ばした。


「ハウエル様は、いつでもお優しくて」


 呼び方を直さないイリアナにハウエルは声を低くする。そして、伸ばされた手を冷たく一瞥して触れようともしない。


「義理の妹になるのだ。嫌でも最低の礼儀は行うようにしていた。それに私よりも婚約者を頼るように伝えたはずだ」


 勝手に纏わり付いていたと言われ、イリアナの体はガタガタと震え出した。顔色は今でも倒れそうなほど酷い。


「お、お姉さまが、仰ったのですか?」


 ハウエルの身体があってもキツく睨み付けるイリアナの視線をアルテナは感じた。


「アルテナは何も言わない。お前たちと関わらないようにしている。それにお前が纏わり付くから、アルテナの側に行けなかった」


 アルテナはハウエルの大きな背中を見ていた。

 話されている内容についていけなかった。

 振り向いたハウエルと目が合う。

 大丈夫か?と聞いている。

 アルテナは頷いた。

 イリアナの視線は怖いけど、ハウエルの大きな背中が守ってくれている。


「もうすぐ陛下の話が始まる。婚約者のところか、家族の元に行ったほうがいい」


 ハウエルはアルテナの方を向くと、そっと手を差し出してきた。


「お姉さまは?」


 悲鳴のようなイリアナの声。


「お前が心配することではない」

「き、きょう、お迎えにいただいたのは・・・」


 ハウエルの手に手を置きながら、やはりとアルテナは顔を伏せた。


「結婚式の日取りが決定した。グラントール侯爵家も聞かねばならぬだろう? 侯爵に迎えに行かねばここに来ぬと言われたからだ」


 理由あってのことで深い意味はないと、イリアナの思いはバッサリ斬り捨てられる。

 優しく手を引いてアルテナを立たせると、ハウエルは彼女の腰に手を回しゆっくりとエスコートした。

 様子をみていた人たちが道を開ける。

 アルテナは呆然としたまま、ハウエルに合わせてただ歩くだげだった。

 その後ろ姿を般若の顔で睨み付ける存在を忘れて。

お読みいただき、ありがとうございますm(__)m

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