第二幕 5
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午後もいい時間、もうすぐで陽が傾き始めるタイミングで、僕たちは小さな村落を見つけ、水と食料を買った。
その時、農家のおじさんが、ちょっといい事を教えてくれたのだった。
「あんたら野営すんだろ?裏の小山の頂上付近に湧き水の泉があるんだよ。綺麗な泉だし、あそこは獣もおとなしいから、水辺の近くで野営するといいさ。今日は満月だから、夜でも明るいはずだよ」
実はちょうど水浴びでもして、旅の汚れを落としたいと思っていた。
だから村人の話は僥倖だった。
綺麗な湧き水の泉。
満月の夜。
おじさんの提案にならない手はないと、僕たちはお礼を言うが早く、小山に向かって歩き出していた。小山は村落から見た時よりも標高が高かったようで、思っていたよりも頂上付近に到達するのに時間がかかってしまった。
僕たちが泉に到着したのは、すっかり日が傾き、茜色の光が木々の葉を黄金色に染めている頃合いだった。泉は主な山道からは外れた場所にあったけれど、村人たちがよく訪れるようで、人が問題なく通れる小道がちゃんとつながっていたから、見つけるのにそれほど困難はなかった。
僕たちはすぐに野営を張り、女子たちがさっそく泉へ水浴びに行くことになった。
「んじゃあ、アタシら女子三人が先に行かせてもらうぜ。カインは少し待っててくれるか?いくら毎日ひとつ屋根の下で寝ているつっても、さすがに裸を見せて平気って訳にもいかないからな。覗くなよ?」
ミコチがレミとシュアナを呼んだ後、僕に声を掛けた。
ところで、僕はミコチとレミのお互いの気持ちを確認し、彼女らが両想いであることを確信していたので、彼女らの関係をさらに深めてあげるために、もう一押しする方法を思念していたのだった。
まあ、すでに既成事実はあるようなので(?)、これ以上深まる関係とはどんなものなのかわからないけれど、とにかく、お互いに気持ちを伝えあうような機会を、彼女らに提供してあげたいと思っていたのだ。
――そして、これ以上ないというタイミングが、今だ!
「いや、せっかくだから、僕とシュアナの二人で一緒に行くよ。だから君たち、ミコチとレミの二人で先に行くといいよ」
「な!」
「え?」
レミとミコチが驚愕に目を見開く。
「大丈夫だよ。心配しないで。僕はシュアナと二人で水浴びしたいだけだから。いいよねシュアナ?僕と二人で、後から行こう?」
シュアナがほんのり頬を染めながら答える。
「え……。うん。いいよ。カイン君なら、わたしも。二人でお話ししたいこともあったしね」
「じゃあ決まりだね。さあさあ、お二人とも先に行ってらっしゃい」
ミコチとレミが事態を飲み込めずに呆然としている。
「……お前ら自分で何言ってるのかわかってるのか……?」
「これが、魔眼の力、ですか……」
――よし、いい仕事をした……!
納得できないとばかりに、後ろをチラチラ振り向きながらも、ミコチとレミの二人は泉に向かっていった。
両想いの二人水入らずで楽しんでくるといいさ。一緒に水浴びをする仲は裸の関係と言うし、普段言い出しにくいことも自然と言葉になるに違いない。お互い裸で向き合ううちに、ありのままの心を打ち明けあうようになるだろう。そしたら功労者として僕を褒めてもらってもいいな。
なんて考えながら、残された僕とシュアナは夕食の準備をして待つことにした。先ほど調達した豚肉と野菜のスープだ。
シュアナは姫様と呼ばれていた割には家庭的な女の子で、料理も結構上手だった。
「わたしはただの客人だったから、別に箱入り娘ってわけじゃないんだよ。お屋敷は別にやることもそんなにあるわけじゃないし、暇つぶしってわけじゃないけど、趣味みたいなものでお料理はよくしてたんだ」
ということらしい。
話を聞く限り、客人というよりも、幽閉といった方がいい気がするけれど、そういうわけでもないらしい。
「侯爵さまはわたしに良くしてくれてたんだよ。大切にしてくれてるのは伝わってきた。屋敷の中では、何をしても自由だったんだ。でも、事情があって、屋敷の外には出してくれないって。事情は訊いても教えてくれなかったんだけどね」
侯爵は既に実務からは引いた老人で、屋敷は、夫人と共に静かに暮らすための隠居のような場所だったらしい。
「でも一緒に遊ぶ人もいないし、給仕さんや衛兵さんたちとおしゃべりしながら家事の手伝いをするのが日課だったの。うふふ。わたし、結局メイドさんとやってたこと変わらないね――」
なるほど、屋敷にずっといたとしても、それほど世間ずれしていないのはそんなところが理由か。まあ、もちろんずれてるところはあるんだけれども。
野菜の皮をのんびり剥きながら、シュアナはおしゃべりを続ける。
「実は昔から度々お屋敷に襲撃はあったの。小さいころから、ずっと……。それでつい二週間前くらいの襲撃でついに……。すごい怖かったよ……。お屋敷に火が付けられた時点で、護衛の衛兵さんがわたしを連れて逃げたの。結局この前死んじゃったけど……」
「トラキアの襲撃を受ける理由に、本当に心当たりはないの?」
「うん……。わからない」
でも、とシュアナが真っ直ぐ前を見据えながら、言葉を続ける。
「でもね、もう、いくら考えてもわからないでしょ?だからね、新しい生活のことだけを考えることにしたんだ。実はね、前の生活に不満があったわけではないけれど、やっと自由になったっていう実感があるんだ。わたしは、ようやくわたしの意思で一緒にいる人を選べるんだって。それにね――」
僕は無言でシュアナを見つめ、続きを促す。
「――それに、襲われていたとは言え、わたしたち、トラキア軍を殺しちゃったでしょ?もう、守られているばかりの人間ではなくなったんだっていう気がするの」
「…………」
「わたしはね、わたしの為に、誰が、誰を殺してもいいか、決めなくちゃいけなったし、もう決めちゃったんだよね。君たちが手を差し伸べてくれた時に—――」
「…………」
「――つまりね、カイン君。もうわたしは、君たちを選んじゃったってことなんだよ。他の誰かを殺しても構わない、味方としてね……。わたしがトラキア公の許に行くと決めれば、もう誰も死ななくても良かったんだから――」
「…………」
「次に他の誰かがわたしを追ってきたとしても、わたしはきっと同じ選択をする。こんな選別って、残酷だよね。でも、もう選ばなければ、生きていけないんだろうね……」
「…………」
返す言葉が無かった。
僕たちが、シュアナを選んでトラキアの軍人を殺したのと同じように、シュアナは僕たちを選んだことを残酷と呼んだ。それならば、シュアナの運命の行く末がどうしようもなく僕たちの手の内に握られている現状を、彼女はなんと呼ぶのだろうか。
「シュアナ、君は僕たちが裏切らないって、信頼してるわけ?」
「うん。本当かどうかなんてことはわたしにはわからないけれど、信じることが出来るんだ――。だからね、君たちになら、わたしは裏切られても構わない――」
シュアナは真っ直ぐに僕を見て言葉を続けた。
「――それに、裏切るも何も、君たちと一緒にいるのは、最初からわたしのわがままなんだから……」
ミコチとレミが泉から野営に戻ってきたのは、一時間は過ぎないかという頃だった。
結構時間かかったな。
「よお!待たせたな!カインとシュアナも行っておいで!」
ミコチのお言葉に甘えて僕たちも水浴びの用意をする。
「二人が戻ってきたら、食事にしましょう!」
レミに火の番を任せて僕とシュアナも野営を後にした。
心なしか、二人とも、いつもより表情が清々しいというか、あか抜けた感じがあった。単に水浴びして気分も爽快になっただけなのか、それとも二人で大切な話を済ませたのだろうか。後で聞いてみよう。
僕たちが泉に到着したころには、あたりはすっかり陽は落ちていたけれど、なるほど、満月の月明かりに照らされた泉の周囲はそれなりに明るくて、月光が水面に反射した泉は淡く輝いていた。
「シュアナ、先に入っていていいよ。さっきはああ言ったけどね、僕は君の後に入るから。別に覗きの趣味は無いから安心して。僕はその辺の木の陰にいるからさ」
さすがにシュアナと一緒に水浴びするほど神経が太くない僕は、いったん退散することにするが、しかし。
「うふふ。一緒でいいよ。気にしなくていいのに」
そう言いながら、シュアナは純白のローブを脱いだ。
透けるほど薄く白い布地の、ワンピース型の下着から、華奢な肩や膝が覗き、周囲に溶けてしまうほどの白い肌があらわになる。
そして――、彼女は下着姿のまま、泉へ足をのばして入っていった。
美しかった。
白い着衣を濡らし、白銀の髪に手櫛を通すシュアナを、月明かりが照らす。
少女の外見とは不相応に妖艶な彼女の姿に、僕はただ見惚れて、茫然と立ち尽くしたままだった。
「うふふ。意外に恥ずかしがり屋さんなの?カイン君は?おいでよ――」
シュアナの声に我に返り、僕も服を脱ぎ、身体を拭く為に持ってきた小布を腰に巻いて前を隠し、泉へ入った。
今、世界の支配権は目の前の少女、シュアナの手の内にある――。
僕は益体もなく、そんなことを考えていた。
「ねえ、カイン君。」
シュアナが僕の正面、手を伸ばせば届くところまで近寄ってきて言った。
「カイン君は、わたしのこと好き?」
「!」
驚いた。
今まさに、僕が考えていたことを、心の中を見透かされたような気がして、心臓を掴まれたように狼狽えてしまった。
「僕はまだ君のことを良く知らないけれど……、人間として、本能的な何かが、どうしようもなく君に惹かれ始めているのは、確かだと思う……」
「そう……」
シュアナはちょっとだけ俯いて、言葉をつなげた。
「君も、そうなんだね……」
「僕もって!どういう――」
「みんなそう言ってくれるんだ。男の人はね――。みんなわたしのことを好きだって言ってくれるの。小さいころから、今まで周囲にいてくれた男の人は、みんな」
「それはどういう――」
「わからないよ。わたしにはよく解らないけれど、でもそうなの。初めて会う人でも、しばらく接していると、わたしのことを好きになってくれているの」
「…………」
「それでね、みんな、わたしの為になら命を落としてもいいって言っていたんだ……。命を懸けて私を守るって、言ってくれてた……。わたしはね、そういうものだって思ってたの」
「…………」
「でもね、本当にみんな死んじゃった――」
僕は何も返答できなかった。
「途中から数えるのを止めちゃうくらいたくさんの人が死んじゃった――。なんでだろうね?わたしが訊きたいよ。でもね、誰に訊いてもわからないよね。だからね、もう訊かないよ。――その代わり、お願いしようと思うんだ」
「お願い……?」
「—――そう。カイン君にお願い」
シュアナは俯けていた顔を上げ、再び僕に顔を向け、そっと、僕の手を取った。
冷たい。冷たい手の感触。
「お願い。カイン君は、わたしが死んでも死なないで――、わたしの命よりも、君の命を大切にして」
僕は正直に思ったことを言った。
「……僕には別に死ぬ予定は無いよ。それに、命を捨てても君を守りたいと、心の底から思っているわけじゃない。僕には、自分の命以上に大切な人も物も存在しない」
自分でも、ちょっと酷いことを言ったような気がした。しかし。
「それなら、よかった――」
シュアナは本当に安心しているように微笑んだ。
実際、彼女からは一切の嘘偽りを感じられなった。
「もう、一人になりたくないんだ。ある日突然、わたしを残してみんな死んじゃうなんてこと、もう嫌なんだ。だから、次は私の番なの。誰かが死んじゃうのを見るくらいなら、わたしが死ぬ――。これも、わたしのわがままなんだけれどね……」
シュアナのセリフとは裏腹に、彼女が言葉を発する度に、彼女の薄い色味の唇が動かされる度に、僕の胸の内には、得体の知れない熱いものが湧いて出ていた。
なぜだろうか。シュアナなの言葉は、僕の心の中で、言葉通りの意図とは逆の結果をもたらしているような気がする。つまり、彼女が何か言う度に、僕は彼女をどうしても守りたいと、どうしても彼女を失いたくないと思うようになっている。
わざとやっているわけではない。彼女は一切の嘘偽りなく、本心から僕に話をしている。いや、だからこそ――。
ふと、シュアナは僕から離れ、泉の中心まで歩んで再び水を浴び始めた。
手櫛で髪を梳かしながら、独り言のようにつぶやく。
「こんな森の中で泉の水を浴びるなんて、初めての経験のはずなのに、すごく懐かしい気分。なんだか、昔からこうしてきたような、ここに居るために生まれてきたような気がする――」
ああ。確かに。同意だ。シュアナはここでこうしているべきなような気がする。それくらい、彼女は眼前の景色に溶け込んでいる。まるで、もともと森に棲んでいたかのように。
刹那。
周囲の木々から、黄緑色の、指先程のごく小さな光が無数に湧いて、シュアナにまとわり始めた。
数百、いや数千はあろうかという淡い光の粒が、シュアナを囲みながら飛ぶ。ぼうっとした光が、ゆっくりと呼吸するように点滅を繰り返しながら、ユラユラ漂よって飛んでいる。
「夜光虫……。どうして……」
僕は誰にともなくつぶやいた。
数えきれないほどの小さな灯りをまとったシュアナの姿が、満月の薄い夜闇に浮かぶ。
「また来た……。うふふ。たまにあるんだよ。光が寄ってくるの。お屋敷に居た頃も、敷地に入って来て、わたしに寄ってくるんことがあったんだよ」
灯りのひとつひとつを愛でるように、緩い軌道を描く光線と戯れるシュアナ。
妖しい光の戯れに、僕は半ば呆然と見惚れてしまう。
僕の口から無意識のうちに言葉が漏れる。
「森の夜光虫……、精霊の残り滓……、シュアナ、どうして君が……」
当のシュアナは、何も不思議なことなどないというように、無邪気な笑みを浮かべて僕に応える。
「うん?どうしてって?」
僕は言葉の続きを発っするのをやめた。これ以上の詮索は必要なかったから。
「いや何でもないよ。綺麗な光だね」
「うん。夜光虫って言うの?わたし初めて知った。」
「そうなんだ……」
「わたし、この子たちが死んじゃう為に寄って来ていることは、なんとなく分かるの」
「そっか。夜光虫は精霊の残り滓って呼ばれているんだよ」
「残り滓?」
「うん。精霊の最期の姿が、今のような光の粒ってことさ。君の許で最期を迎える為に、集まって来ているんだろうね」
「そうなんだ……。この子たちは死んじゃった後、どこに行くんだろう――?」
シュアナが光の一粒を包み込むように手を伸ばしながら、独り言のように言った。
「僕の知る限り……、君の中だね……」
「わたしの中?うふふ。変なの」
彼女はクスクスと笑った。
「精霊が妖力を残す宿主ってわけさ」
「妖力?」
「うん。僕たち人間は魔力って呼んでいるけれど。同じものだね」
「ふうーん。よくわかんない」
シュアナが言いながら、無邪気に首を傾げる。
――君は、本当にわからないのかい?
「シュアナ、一つだけ訊いていい?君には、僕たちのような人間が、どのように見えているんだい?」
きょとんとした表情のシュアナが、うんっ?と答える。
「同じ人間にどうもこうもないでしょ?変なこと言うんだねカイン君は?うーん。君はわたしの初めてのお友達。初めてわたしと人間らしいお付き合いをしてくれる人……かな?」
同じ人間……。そっか――。
「じゃあ、僕はここで待っているから。君はもう少し遊んでいていいよ」
「うん」
言うが早いか、シュアナは関心を夜光虫の群れに移し、再び小さな光を愛でるように戯れ始めた。僕は、泉に映る灯りがすべて消えるまで、シュアナを見つめながら待つことにした。
翌朝、僕は少し躊躇いながらも、昨日の夜起こったことをレミに話しておくことにした。ミコチに話すのは、もう少し事実が確定してからの方がいいと思ったし、何よりシュアナ本人に曖昧なままの事情を悟られたくなかった。だから、魔法関係に詳しいレミにだけ、密かに相談しておくことにしたのだ。
朝食の準備をミコチとシュアナに任せて、天幕から離れたところにレミを呼び出し、僕は昨晩のことをかいつまんで話した。一通り僕の話を聞いたレミは案の定、ひどく驚いていた。
「夜光虫ですか!ケルトの森にはよくあらわれたそうですが……。でも、夜光虫が人間に寄ってくるなんてことはあり得ません!精霊の妖力を与る人間なんて、聞いたことありませんよ……?」
「うん。だからさ……」
「まさか……!」
僕の言おうとしていることに気付き、仰天するレミ。愕然と目を見開いている。
「そのまさかだと思うんだよ。にわかには信じがたいけれど」
「……カインは、シュアナちゃんが人間ではないと……そう言うんですか?」
「……まだ、詳しいことはわからないけどさ」
レミは若干冷静さを取り戻し、自分を納得させるように言う。
「シュアナちゃんは自らの正体も知らず、人間社会で人間と共に暮らしてきた……ってことですか」
「だからこそ屋敷に半ば閉じ込められていたんだと思うけど……」
「そう考えればトラキアがシュアナちゃんを追う理由も自ずと、ですか……」
腕を組んで考え込みながら、レミが言った。
「それに、シュアナって魔法の使い方を知らないよね?」
「そう聞いてます。……だとすると、妖力をひたすら溜め込んでるってことですよね……。大変なことにならないといいんですが……」
「うん……。強い刺激は避けた方がいい。問題はシュアナ本人に話すべきかどうか、なんだけど」
「本人はやはり知らないんですか?」
「多分、だけどね……」
「知らない方がいいこと、なんでしょうかね?でも、いつまでも自分の正体を知らないというのも、幸せとは思えませんけれど。どっちがいいかなんて、わかりませんね……」
そう。わからない。
ある日突然、君は人間じゃないんだよ、と言われる人外の気持ちなんて、分かるわけがない。だからと言って、シュアナが永遠に、自分が人間であると思い込んでいられるとも思えない。
もしも、自分の正体を知るのか、知らないままでいるのか、シュアナ自身が決めるべきだとするならば、僕たちはただ、彼女が自ら勘付き始めるまで、黙っているべきなのかもしれないけれど。
しかし、いつまでも事実を告げられずに、結果的に彼女が騙されていたと感じてしまうのも、いかがなものだろうか。
と、背後からガサガサと草を踏み鳴らす足音が聞こえた。
「おーいい!なに二人でコソコソ話してんだ?」
ミコチだった。
「いや……。大したことじゃないんだけど、シュアナのことをちょっとね……」
思わず挙動不審になる僕。黙り込んでしまうレミ。
「ふうーん。シュアナ?なんだ、二人とも深刻そうな顔して、コイバナって雰囲気じゃあねえな」
訝し気なミコチ。
「まあ、ね……」
「シュアナねえ……。あ!わかった!シュアナが人間じゃないって話だろ?」
「どうしてそれを……?」
驚いた僕は思わず食いついてしまう。レミも同様だった。
「いやいや。あんな綺麗な子そうそういないぜ?肌も透けるほど白いしな。ありゃあ人間離れってもんだ」
「まあ……」
「はい……」
まだ僕もレミも、半信半疑でミコチの話を聞いていた、が。
「それに、シュアナの耳には切られた跡があるぜ……。上の方を切り取られたみたいにな……。」
「耳……?別に普通の形だったと思うけれど?」
「待ってください。シュアナちゃんの耳は、上部が切り取られた結果として普通の形になった、ということですよね?」
僕とレミは顔を見合わせたあと、驚愕に顔を歪めた。
「お前ら、なに気付かなかったみたいな顔してんだよ。シュアナの耳は本当はもっと長かったってことだろ?」
「長い耳……、森の夜光虫……」
「エルフ……、ですね。古森の物の怪。間違いないでしょう」
二人合わせて嘆息する。
「しかし変だよな。エルフは七百年前に森の奥深くへ姿を消した、って聞いたぜ?」
「エルフと人間社会との接点はとうの昔に失われている……、僕もそう思っていたけれど」
「わざわざ耳を切り落として、再び現れた、と言うことですか……?あるいは森から連れ出されたんでしょうか……」
深刻な表情を崩せない僕とレミに、ミコチは、まあまあと言いつつ、ダメ押しのごとく、ミコチは正論を言うのだった。
「なっはっはー!まあレミも人前ではちゃんとフード被ってないと、怖がられるぞー?みんながみんな、カインみたいにヘンテコ耳フェチってわけじゃあ、ないだろうからなあ!」




