表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Historic Grand  作者: syara
1/1

箱舟の始動

メモリーの昔の話です。更新速度は本編ほど早くないと思いますが、”これ読んだ方が本編が面白い”といった感じの話にしていきたいと思っています。

1978年 水の月翠の週

グランド王城 王の間

 息が詰まるような静寂。今この場に自分が相応しいのかと不安になるような、そんな感覚。しかし、逃げるわけにはいかないのだ。これは、俺の言い出したことなのだから。

「これより、新部隊“アーク”の部隊長を任命する。ネロ

 ノーレッジの隊長に促され前に出る。そこにいるのは、我が国の国王、フラウ=グランド。その前に膝をつき、言葉を待つ。

「ネロ、君をこの国の新たな部隊、アークに任命する。これは過去にない試みだ。活躍に期待する」

「仰せのままに。必ずや、成果を上げて見せます」






「やったじゃないかネロ。同期として誇らしいぞ」

「といいつつ、ブレイカーに入ったお前には言われたくないよ」

「しょうがねぇだろ。お前の部隊、何するかわからないんだから」

 せっかくなので同期のシオに妬みを言う。まあ、彼の意見もわからないでもない。俺は国王に嘆願し、わざわざ自分の部隊を作ったのだ。これから活動するのだから、内容なんてわからないに決まっている。

「俺は、まずは壁を取り戻したい。この数十年、俺たちは壁を奪い返せないままだ。それはきっと、身の内に巣食うヘルの軍勢を排除できていないから」

「そのために、今から国境の国行くんだろ?ご苦労なこった」

「お前もブレイカーなら国境行くんだろ?同じだよ」

「同じ国境でも、お前はヘルの占領下に行くんだろ?それも一人で」

 そう、俺はこれからヘルの占領下となっている村、エイジ。その村に向かい、ヘルから取り戻す。それが俺の任務。

「出来るのかよ、ヘルに取られた領土を取り戻すなんて。今までそれが出来なかったから、戦況も不利なままだったんだろ」

「それは、“村一つを取り戻すのに国力を動かす余裕がなかったから”だろ。俺一人が動くんだ。きっと、今までと違う結果を出してやる」






「・・・・・ここがエイジか」

 中心に立つ大きな塔が特徴的な普通の村、に見える。占領されている割には村は活気に満ちているし、何よりヘル兵が見当たらない。試しに村人に声をかけてみる。

「なあ、ちょっといいか?」

「お兄さん、グランドの兵士だよな?なんでこんなとこにいるんだ?」

「何故って、自国の占領された土地を取り戻すためさ。ここはヘル軍に・・・・・」

「占領されちゃいねぇよ」

「・・・・・・・・・は?」

「だから、ここは占領なんてされちゃいないのさ。確かに、ヘルは一度ここへ来たぜ。でも、占領なんてせず帰っていったよ」

 どういうことだ・・・・・。前線部隊の報告書では、この街はヘルの占領下にあり、奪還に失敗したとあったが。

「そうなのか。話を聞かせてくれてありがとう」

「おう。おめぇさんも若いんだから、仕事頑張れよ」

 おかしい。それとも、軍の報告書が間違っていた?





「村人全員、この村は占領されてないという、か」

 どういうことだ。やはり軍の報告書の誤りなのか?村のはずれで考え込んでいた、その時だった。

「おーい、兵士さん。ちょっといいか」

「あなたは、村の入り口で話した・・・・・」

「ああ、覚えててくれたか。あんたを探していたんだ」

「俺を?何かあったのですか?」

「いやぁ、兵士さんの仕事じゃないかもしれねぇけどよ。最近、森の中に奇妙な人影を見たって報告があるんだ。実際、森で襲われたって報告も多い。できればでいいんだが、調べてくんねぇか?」

「ああ、そういうことなら任せてください。被害の多い方向を教えていただけますか」

「南だな。村を出てまっすぐの方向」

「わかりました。俺の用も済んだみたいですし、構いませ・・・ん・・・」

 その時だった。俺の真横を通った女性。長い白髪をたなびかせ、ふらふらと歩いていた。今にも転びそうなほどふらふらと。

「君、大丈夫か?」

「・・・・・・」

 俺と同じくらい、少なくとも20歳は超えているだろう。彼女は、その深い蒼い眼で俺をじっと見た後、言葉を紡いだ。

「・・・・・どいて」

「えっ、ちょっと」

「兵士さん、あいつは普段からあんなだから気にすんな。体が弱いんだよ」

「・・・・・そうなのか」





 その後、俺は南の森へ来ていた。しかし、しばらく歩いたが動物の影すら見当たらない。

「いったい、村人は何を見たっていうんだ。それに、村のことは本当に終わりでいいのか?」

 それと、さっきの女性。何か違和感があったような気がするんだけど。

「占領されてないならそれが一番なんだが、国王様になんて報告すればいいんだよ・・・・・」

「国王?」

「ああ、初任務で成果なしなんて報告したら、早速部隊解散の危機だ・・・・・ろ・・?」

「お前、グランド兵か」

「っ!?」

 そこには顔を包帯で覆い、大きなマントで体を覆った男が立っていた。いったい、いつからいた・・・・・。全然気づかなかった。

「お前なのか?村人を襲ってるっていうのは」

「・・・・・話がある。知りたければついてこい。ここでは話せん」

 ・・・・・どう考えても怪しい。見た目だけではない。彼の能力、そして包帯の隙間から見えた目の鋭さ。少なくとも、信用に足るとは思えない。

 でも、彼は何かを知っている。だったら、リスクがあるとしても付いて行くべきではないか?

 ・・・・・行こう。この国のためなら、俺はどんな危険にだって身を投じてみせる。





「洞窟?」

「ああ。俺を信用するのならここに入れ」

 洞窟なんて、出口がなければ逃げ場がない。彼を信用していなければ、まず入らない。

「・・・・・わかった、入ろう」

「・・・・・・・・・」

 中へ向かう俺に、包帯の男は後ろからついてくる。その時だった。

「っ!おい、あんた・・・・・」

「黙って歩け」

 つけられている。包帯男もそれに気づいているようだが、どうやらそのまま進むらしい。もし、つけている奴が包帯男の仲間なら、かなりやばいな。






「よし、止まれ」

 そこは洞窟の奥にあった広い空間。そこには何体もの獣の死体。そして食用の植物が置かれていた。

「じゃあ、お客さんを始末するか」

 その一言とほぼ同時に、包帯男は後方にナイフを投げた。それは見事につけてきた人物に的中し、その人物は肩を抑えて崩れる。

「あ、あんた・・・・・」

 その人物は、俺に森へ行くよう依頼した村の男だった。包帯男は、彼に近づいていく。

「お前みたいな男を運ぶのは骨が折れるからな。わざわざ餌に食いついてくれて助かったよ」

 餌って俺のことか・・・・・。

「悪いが返すわけにはいかないんだ。ここで死んでもらうぞ」

「お、おい!お前、何を!?」

「何って、殺すんだよ。偵察を捕らえて逃がす馬鹿がどこにいる」

「捕らえるだけなら、殺す必要はないだろう」

「・・・・・・・ちっ、お綺麗な兵士様だ」

 そう吐き捨てると、包帯男は倒れている男の足にナイフを刺した。

「ぐぁっ!」

「っ!お前ぇ」

「これでも譲歩した方だ。本来なら殺している」

 そういって、包帯男はその包帯を外した。黒髪の、俺より少し若い少年。しかし、その顔つきはとても年齢に比例していない。

「自己紹介が遅れたな。俺はセド=サフラン。ヘルの流れ者だ」

「っ!?ヘルの人間なのか!?」

「そう警戒するな。ヘルから逃れて、わざわざお前みたいなグランド兵待ってたんだ」

「どういうことだ?」

「これから話す」






「なるほど、奴隷狩りにあった妹を助けたいが、運悪くお前が脱走した地が壁を挟んでグランド側だった。でも、奴隷の身分で壁を通るわけにはいかないから、グランド側に協力したいと」

「そういうことだ。手を貸してくれるか?」

「貸してやりたいが、ヘルの人間を簡単に信用しろというのも難しいだろう」

「だろうな。だから、とっておきの情報をやるよ」

「情報?」

「ああ、お前が調べてたエイジの村についてだ。あの村は、正真正銘ヘルに占領されてる。それも、最悪の形でな」

 どういうことだ?確かに、依頼しておいてこそこそついてきたそこの男は怪しい。だが、どういうことなんだ?最悪の形?

「あの村は、ヘルに占領されていない。そう、洗脳されているんだ」

「洗脳だと!?いったいどうやって・・・・・」

「そこまではわからん。だが、以前夜中に忍び込んだ時、村人が全員中央の塔に向かっていくのを見た。満月の夜だ」

「満月・・・・・。確か、明日が満月じゃなかったか?」

「ああ、だからあんたに話してる。俺の情報が正しいか、その目で確かめる好機だろう?」

 ・・・・・あくまで、信用を得たいということか。正直、こいつの話を信じるなら村の違和感にも納得できる。でも、完全に信用できると決まったわけじゃない。

「明日、エイジに乗り込む。それに、セド、お前も同伴しろ」

「・・・・・いいだろう。ただし、もし俺の話が真実だったら、妹の奪還、ひいてはそのための協力をすると約束しろ」

「お前がこの国に害をなす存在でないとわかれば、協力は惜しまない。しかし、どうやって村人の洗脳を解くんだ?」

「おそらくこれは魔法だ。だったら、元凶を潰してやればいい。俺の家業はは暗殺だ。元凶がいるであろう塔まで、最短かつ安全なルートでお前を連れていく。ついでに見張りもやってやるから、その間にお前は元凶を潰せ」

 ・・・・・どんな家業だよ。まあ、ヘルには暗殺に長けた部族がいるという。こいつもそういう部類なのかもな。

「もし村人と戦いになっても、殺すことを躊躇うなよ。一人を救うために、村一つ滅ぶことになりかねない」

「誰も殺さずに終わらせてみせる。それが、アークの仕事なのだから」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ