きみのうた
足がとまる。
スイーツ吟味中にながれだした曲。昔きかせてくれたあのラブソング。
う、わ。
声かわってない。かわらなすぎて笑っちゃうんだけど。
つづけてたんだ。そうか。
近くにいた女のコたちがはしゃぎだす。へぇ。人気なのかな。あの曲が。
たしか……自分のもとを去っていった恋人への……。ああ、そうだこれ。
──未練がましくない?
ずいぶんな言いようだったな、いまおもっても。
うじうじがどうにもね。知らないとこでほかにもえぐっちゃったりしてたかな。
──せつない男心って言ってよ。
怒ったとこみたことなかったな。わたしがなに言っても困ったように笑う、やさしいひとだった。
音楽のことはよくわからない。彼のつくる世界も。でもつくる彼をみているのはすきだった。
同時に。きらいだった。
今夜は卵たっぷりぷりんちゃんにしよう。
かろうじて目が出るくらいまでマフラーをあげて外気にそなえる。
店内はとっくにもうちがう曲がながれていた。
星がくっきりしてる。朝、冷えるんだろな。
彼といるとたのしかったけど、さびしかった。
彼にとっては「創作活動」がすべてで。わたしは彼の気がむいたときだけかまってもらえた。
なんであんな意地はってたんだろ。
わたしだけをみてよって言えてたらよかったのかな。
いやいや。乙女か。
ううう。アレ聞いちゃったせいだ。そうだそうだ。
耳にまだのこる声。
けっこーうまくなったんじゃない?
せつない男心、あの頃よりずっとサマになってたよ。
ぷりんで祝杯してあげよう。
よかった。よかったね。
うん。
別れるときはさよならぐらい言えよな、おめぇ。音信不通とかありえねぇかんな。へたれめ。
わたしも。言ってやればよかった。
それもこれも。
あまったるいラブソング。
でも。わるくないよ。
わるくなかったよ。
了