表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/17

ねた子はおこすな    夜



 そのまま横顔を見ていた。

 いいにおいがする。あったかい。

 まだおきたくない。まだ気づきたくなかった。

 陣と目があった。

「いつからおきてた」

「んー」

「さすが鼻がきくな。のむだろ」

「んー」

 立ち上がろうとするけど。のばした手でこめかみにふれた。くすぐったげに目じりがふるえた。

 ほら見ろ。おまえによく似合ってる。

 だれに言われたかしらねぇけど。なんならそいつに見せびらかしに行こうぜ。どうだって。

「ねぼけてるだろ」

「んー」

 手をとられ唇がふれた。

 キザめ。

 こざっぱりした困り顔が近づいてくる。

 ねぼ……。

 ね?

「おいっ、いまなんじ!」

「あぐっ」

 マジか。

 壁の時計もスマホの表示もおなじ。あー。

 朝昼兼用メシが陣のへたくそなチャーハンで、たらふくくったからねむたくなって、ソファーでちょっとうたたねのつもりだった、のに。

「おい、陣っ。あ? おまえなにやってんの、美顔マッサージか」

「……まぁな」

 照明ついてるし。カーテンのむこうとっぷりしてんだろうなぁ。

 ブランケットをかけられたのはおぼえてる。俺どんだけねてんのよ。

「いいよ。気にすんな」

 ノンキな声しやがって。

 買い物の見たてたのんできたのおまえだろ。忙しい時期。やっと合った休みだったのに。

「おこせよー」

 すじ違いな責めを言う俺のまえにコーヒーが置かれた。湯気に鼻がくすぐられる。

「疲れてんだろ。地獄のクリスマスで」

 あー、あれなぁ、そうねー、死んだねー、途中でバーのヘルプもあったから二回は逝ったねー。

「出かけるのはまたでいい。コートは逃げん」

 そりゃそうだけどさ。

「貴重な休日がムダになった」

「睡眠確保も社会人のつとめだぞ」

「俺じゃない、おまえの」

「……そうでもない」

 つい。でも見なきゃよかった。

 なんでもないように。でもかみしめるみたいに口にして。

 おまえ。

 おまえさ、いま自分がどんな顔してるか知ってるか。

「まけたわ。完敗」

「ん?」

「ちょいちょい」

「……」

「ちょいちょい」

「……」

「なにビクついてんだよ、こいって」

「なんとなく」

「いいから、ほらっ」

「あぶっ、」

 手をのばせば、こたえてくれる手がある。

 抱きしめれば、もっとつよくと抱きしめられる。

 求めれば欲しいだけ。

 それ以上を。

 こんなぜいたくほかにはねぇよ。

 ニガテだってのに汗かきながら料理して。

 ブランケットをかけて。

 カーテンをしめて。

 照明をつけて。

 部屋を適温に保って。

 コーヒーをのみながら。

 約束すっぽかした俺の。

 寝顔を見てる。

 そんなの。

 そんなこと言われたらもう降参するしかねぇじゃん。

 こんな自分が。

 だれかによって変えられるなんてもうないとおもうじゃん。

「あしたは雪か」

 ずいぶんだなオイ。

「かもなー」

 そっとひたいに口づけてやった。

 いつか。

 わすれる。あきる。

 この体温を。このにおいを。

 それは。

 陣。おまえは。俺にいつあきる?

 かっ。クソだっせぇの。ヤキがまわったか。歳とりたくないわぁ。

 いつか。

 わすれてしまうなら。あきるとしても。

 でも。

 もうすこしこのまま。

 目をつむって抱きあった。

 覚める寸前のまま。

「……あ」

「……」

「……」

「……」

「ぷっ」

「!」

「あーはっははは」

「うう」

「元気でなによりなぁ」

「千里っ」

「ひーっ、ひっひ」

「泣くほど笑うな!」

「ははっ、は。 ──ああ」

「千里?」

「ほら、めぼしつけてんだぜコート」

「こんなに?」

「あたぼー。ぜんぶ試着したなかでいちばん似合うのえらんでやる」

「……俺、自分でさがす」

「なんだよ、遠慮すんなって」

「……」

「おまえムダにタッパあっからなぁ。これもいいし、こっちもなぁ」

「……」

「……あ。なんか焦らしプレイみたいになってる?」

「ぶっ」






 

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ