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ねた子はおこすな    陣



「あはーん、うふーん、いやーん」

 目のまえの男のみけんがおもしろいように濃くなっていく。

 胸もとにおかれていた手のひらがはずされた。

 あー。よくねた。

「なんかのむか」

「みず。あ、やっぱ、炭酸水」

「……」

「ありがと」

 不機嫌をあたまにのっけたまま、陣は無言でわたしてくる。のっけていてもキャップちゃんとはずすあたり。ねぇ。

「第二ラウンド突入かとおもって気分だしてやったんだろー」

 胸さわるわ顔に手かざすわ。アヤしい儀式でもしてんのか。

 肩で息をはいた陣は。こんどはうらみがましいような視線をかましてきた。

「言ってみ」

「……心配で」

「なにが」

「千里があんまりしずかだから。死んでんのかと」

「腹上死」

「ゴホっ、ふく、」

「きたねぇなぁ、ツバとんだぁ」

「お、まえな」

「キモチいいまま死ぬとかあこがれるー」

「俺を加害者にするな」

 と、あきれつつコーヒーの準備をはじめるコヤツはホントになんというか。マメ。

 笑うしかないわなぁ。濃厚な運動をしたはずなのに目覚めてみればさっぱりした肌にシャツを着ているとか。

 俺の部屋で。台所で。かいがいしくうごきまわるデカイマメ男。

 気をゆるしている。

 ホテルでヤるだけだったのが。

 メシ行ったり呑み行ったり。俺の家で会うようになった。

 気をゆるしている。

 都合がいいから。それだけだ。

「再来週の三日。待ち合わせるか。ここむかえにきてもいいし」

 ベッドにコーヒーがやってきた。あー、至福。

 はて。

「約束してたか?」

「タコパ。藤井さんからメール。千里にもきたろ」

「ねぇよ。てかなんだそれ」

「タコ焼きパーティー」

「そっちじゃない。なんでおまえと庄司さんが連絡とりあってんの」

「少しまえ、店のちかくで茶にさそわれた」

「ほいほいナンパされてんなよ」

 いつのまに。そういやあのひとタコが好物だったな。って、

「どーでもいーわ、そんなん。ねぇ、陣ちゃん。俺にナイショで庄司さんとなに話したのかなー?」

「世間話と。俺の値ぶみ」

「おいおい?」

 ちょっとまちたまえよ。値ぶみとな? それになにちょっとニヤってんの、おまえ。

「ちぃを泣かせたら二度と使いモノにならないようにするからなってわりと本気めに脅された」

 …………。

 サイアク。

「あんのオヤジっ。 ……おまえ、なんて返したの」

「幼なじみとはいえ、三十路の男に過保護すぎます。それと」

「そうだそうだ」

「ぜったい泣かせないとは約束できません。でもそうなるようつとめます」

「ぶーっ!」

「きたないぞ」

「じ、お、ま」

 コーヒーが、ぎゃくりゅう、する。ぐるじい。

 せ、誠実かっ!

 娘をもつ親から評価爆上がりまちがいなしのこれぞベストアンサーじゃねぇか。陣の肩を抱く庄司さんのすがたが容易に想像できてしまう。

 真顔でシレっとかましやがって。

 どうかしてるよ。おまえも庄司さんも。

 これはあれか、むくいか。

 ヤツからの好意に気づいていながらそのままにしてきたことへの。

 あー。

 どいつもこいつも。

 クソめんどくせぇ。

「ホントは聞かされたんじゃないの。色狂いの男狂いはイイトコの家からも見はなされた、さびしいヤツだって」

「庄司さんは。千里のことをそういうふうに言うひとなのか。俺にはそうは見えなかった」

 ……だから真顔で言うなっつうの。やだねぇもう。

 俺には。そーいうのムリなんだわ。

「知りたいことは自分で直接訊く」

「そーかよ」

 おまえがうらやましい。

 言ってやらねぇけど。

「腰の左側の傷」

 ……。

「刺されたアト」

 まぁ、気になるよね。

「昔、ちょっと遊んだ男の彼女にな。庄司さんの俺への過保護はそのせい。ま、もともと心配性で世話好きだったけどなー」

 ──にぎやかな心音がシャツごしに伝わってくる。どんだけだよ。

「おーい」

 腕をたたいても応じない。拘束じみた抱擁をとく気はないらしい。

 ドクドクうるさい。わめき散らすな。

 おまえのほうが止まっちまうんじゃねぇの。

 たいしたことねぇから。大げさなんだよ。

 むこうだって本気じゃなかったんだ。

「ほんとは庄司さんにひとつ訊いた」

 それ言わなきゃカッケかったのに。バカ正直め。

「なに」

「千里なのに、ちぃ、って呼ぶのはどうしてか」

「それそんな気になるかぁ?」

 あーあ。そっぽむいてさぁ、まっかでさぁ、もうさぁ。

 だから。あごをつかんで唇に噛みついた。

 やっかいだな。

「ヤろうぜ。死ぬまで」

 この、情ってやつは。






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