ねた子はおこすな と
「どうよ」
「……うまい」
唐渡はそうつぶやくと餃子をまたひとつ口にほうりこんだ。ヨシヨシ。
「おい、周藤。ウチはイタリアンだ」
「si capocuoco(はい。料理長)」
「だったらガード下のラーメン屋みたいなにおいふりまくな、オレ様の料理のジャマだろがっ」
「だってコイツが餃子を酢コショウでくったことないっていうんでー」
「うまい」
「はい、俺の勝ちー」
「ヨソでやれっ」
──こっちにもそれくださーい。
カウンターの端でキャッキャッしてる女子グループから声がかかる。
ありゃ。
「いえとんでもない。美しいお客さま方にはこちらを」
“オステリア・カルマ”看板シェフ、梓さんのスマイルに女性たちも笑顔満開。ああしてたら麗しの王子そのものなんだけど。ふりかえりざま俺へむける般若顔ときたら。
「プロだ」
「ちげぇよ。あれはただの女好き」
「千里。それは?」
「Caccicco 魚介のトマト煮込み」
「食べる」
唐渡とは、つづいていた。
「おう」
タメ。
車を作っている。
知ったことはそれくらい。
最近ではコイツのねちっこい攻めにもなれ、快眠の日々。おかげで体調良好お肌もツヤツヤ。遅刻がへって庄司さんの機嫌もよくて気味が悪い。
ニンゲンねないとダメだね。
「周藤さん、こっちチェックおねがいします」
「んー」
これまでもなじみはいた。そういう相手と呑むこともあった。
でもここへつれてきたのはコイツがはじめて。
同い年の気やすさ? 仕事も店もバレてんだからいまさらともいう。
お。唐渡、キャッキャッ女子からお誘いかけられちゃってんじゃん。おじょーさん、そいつエッチしつこいよー。
あらら。
「もったいないことしちゃって。胸デカかったよー」
誘惑をあっさりとそでにした色男は俺のイヤミも知らん顔でくってやがる。
よく笑うようになったと庄司さんに言われた。
休みの交渉中だったから話をそらしたかっただけだろうけどー。
ふくみのあるやたらニコニコした顔にイラっときたけどー。
「オーナーは」
「今日はこないんじゃない。ほかにもバーとかやってるし。なに、会いたかった?」
「……いい店だな」
「ここはトクベツ。庄司さんがイスひとつグラスひとつからこだわって集めた、はじめてもった店だから」
カウンターがメインでテーブル席も多くない。小さいけど細部にまで目の行き届いた味とサービス。女性ひとりでも料理とお酒を楽しめるように。
「男前ばかりだな。千里のまわりは」
「俺には負けるけどな」
「……」
「ツッコめや。サブいだろうが」
「……ああ」
「気づくのおそっ」
「……」
「……」
なんだかなぁ、この男は。
「つぎなんにする。おすすめは」
空いたグラスを取ろうとのばした手を。制された。
「もういい」
かさついた指が甲をなぞってくる。
タメで。
車を作る仕事で。
スカした顔でエロいことをしてくる。
コイツ。
男を抱くことにためらわなくなった。
ためらいをなくした男は。
手がつけられない。
「陣。おまえ。ナマイキ」
はたいてやったのにヤツはまるでこたえたようにない。
チッ。
ムカつく。ノンケのくせに。あーだこーださわいでも最後は結局おっぱいなんだよ、おまえらは。
「餃子うまかった」
らしくない。
「そりゃよかったな」
らしくねぇっつの。
相手の言動にいちいち反応すんな。
そうだよ。
しってる。
おっぱいの力は偉大だって。
「腕も顔もイイでもひととして難ありの料理長の料理も、うまかった」
「ひととしてって、俺そこまで言ったかぁ?」
「周藤、lavoro(働け)!」