表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/17

ねた子はおこすな    里



 労働後に。長身のヤローにガンつけられている。

 なんだオイ。このカンジなつかしいぞコラ。あれ、コイツ。

「ちぃの知りあい?」

 電柱のそばに電柱がいやがる。

「まさか」

「っ!?」

「おーおー、むこうは知りあいのつもりらしいぞ」

「チッ」

「!」

「舌打ちやめなさい。あーあー、かわいそうに」

「どこが」

 おもしろがってるおっさんの手からカギをうばい、扉を閉める。

 ホント。あーあーだよ。

「──ごめん。凪さんに伝えて」

 カギと謝罪をうけとった庄司さんはいつものくえない笑顔で。

「電話はしろよ」

「ん」

「キミもこんど食べにおいで」

「えー。イテっ」

「ね?」

「……はい」

 うしろの店の看板を指さしながら庄司さんはヤツへ声をかけると。俺にはゲンコツとニヤついた顔をおみまいし、ネオンの雑踏へ去っていった。

「オトナの男のあたま、はたくな!」

 遠くでひき笑い。地獄耳か。

 はー。ったく。

 電柱男は店の看板を見つめていた。

「オステ、」

「オステリア・カルマ」

「ここ、有名なんだな」

「あー、そうでもないけど。まぁ出たがりだからね」

「さっきのひと?」

「腕はイイ顔もイイでも性格に難ありの料理長がさ。さっきのはオーナー。なぁ、違ってたら恥ずいからいちおう訊いとくけど。俺、目的だよね」

 店の近くで出会ったからこういうこともあるかもと覚悟はしていた。

 つかコイツ、一回ねたくらいで執着してくる典型的なやつ? あれからけっこうたってたから油断してたわ。

「ここで働くあんたを見かけて。声かけるか迷ってた」

「ふーん」

 それはそれは。

 ひと前でペラペラしゃべられなかっただけマシか。

「いまならひと違いにして帰ることもできるけど?」

 やっぱり前髪なげぇな。サイド刈って前あげたらいまよりパリッとしそうなのに。

 酔っぱらいの大熱唱。表通りから一本はいったここじゃ響いてしかたない。意外とうまいな。

 視線をもどすとヤツと目があった。

 あれ、なんて唄だっけ。むかし流行った安いラブソング。

「ちー」

「……」

「よばれてたろ。ちー」

「やめろ。よぶな。泣かすぞ」

「……」

「……」

「ち」

「せんり。千と里」

「千里。 ──間違ってない」

「……あっそ」

 まぁいっか。

「俺もそろそろがっつりねたかったし。ただ」

 ガードレールを蹴りつけてやる。

「ローストビーフ。凪さんのローストビーフ食いそこなったじゃねえかっ。ムチャうめえんだからな。このおとしまえどうつけてくれんだコラ」

 驚きでひいている男のあごを、指でなぞりあげながら。

「そ、れは。すまん」

「そうそう。だからそのぶんしっかりご奉仕よろしくね」

 生つばをのむのがわかった。かわいいじゃん。

 さぁ、いつものように。どちらかがあきるまで。

 それは明日かもしれない。一ヶ月後かもしれない。

 それまでせいぜいたのしませてもらいましょうかね。

「まえとおなじとこ行くか」

「なんで、ちー?」

「あんたは名のんないの」

「書いといた」

「あー? おぼえてねぇよ。あ、おもい出した。ふりがなふっとけよなぁ」

「……」

「……」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ