黒騎士様の魅力
双子の兄、満にはいつも手を焼かされる。
彼はいつも独り。
それは彼が美しすぎるから悪いのだ。
『濡れた黒い瞳は透き通る宝玉、漆黒の髪、憂えたため息。
まるで神の産み出した美の化身…』
彼を敬愛してやまない女子隊らは、こう表現している。
脳内妄想リミッターは大丈夫なんだろうか。
僕は生徒会所属故、多くの生徒を見回る立場にあるが、我が兄ながら噂が堪えない。
やれ今日の憂えた顔がどうした、やれ体操着から覗く手足がどうしたとか…。
「全く…この学校の生徒は、他にやることが無いのか?」
うんざりしていると、書記の風見が癒し系の笑顔を浮かべていた。
「仕方ないデスよぉ〜!
だって『黒騎士様』はぁ〜超がつく程、麗しいんデスもん〜!
もっちろんっ、滴様も美しいデスけどね〜性格が超ドSで人使い荒すぎだから何人も書記辞めちゃいましたもんねぇ〜!
僕みたいな従順な奴隷下僕根性がある変態しか近寄りませんよぉ〜?
ため息吐くだけで周囲を虜にできるのは『黒騎士様』の満様だけデスもん〜!
あはっ!な〜んだか人魚みたいデスねぇ〜!」
毒舌は相変わらずだ。憎たらしい。
しかしもっと憎たらしいのは、わざわざ教室に呼び出して僕に懺悔する、この兄。
「…………僕は滴と違って…、なんて駄目なんだろう……」
睫毛の影が長い。憂えた瞳、濡れた唇。
こいつは…確信犯か?
「……なんで僕と滴は……こんな違うのかな…」
そう言って魅惑的な瞳で僕を見る。
兄妹でなくば、その扇情的な視線に心奪われてしまうだろう。
全く……それはこちらの台詞だ。