黒騎士様のため息
双子の妹、滴には適わない。
成績も性格も性癖も、ずば抜けて変わっている。
――松方家は代々続く名門家。非凡な才能の持ち主。
母さんからは耳にタコができるくらい言われ続けてきた。
とはいえ、僕は普通の男。
体育くらいしか妹に勝てるものはない。
双子なのにどうしてこんなに不公平なんだろう。
「僕が思うにね、双子だからなにもかもそっくりという訳ではないという証明だよ。
双子の相似性は環境によって形成されることがすでに立証されている。
君は生まれてからすぐに僕と引き離されて、リスボンの祖父家に暮らしていたじゃないか。
残念ながら僕はずっと松方家にて育った。
条件は満たされている。証明完了、だね。」
よく喋る奴だ。
滴はいつもペラペラと僕のよく分からない事を話している。勝ち気な性格で黙ってしずしずと歩いていれば美人で清楚な女子高生で通るのに。
「だいたい君は自分を卑下しすぎだよ。
君だって優秀な松方家の血を引いているはずだ。
確かに僕に適わないところはあるけれどね、君のカリスマ性には勝てないよ。」
カリスマ性なんかあるんだろうか。そんな事ない。
たいてい、誰かがいつも僕の事を噂して笑っている毎日。
話しかけてくる海くんくらいしか友達なんかいない。
滴こそ生徒会で会長をやっているから、必ず人垣に囲まれている。
どうしてだろう…やっぱり僕は滴に適わない。
「なんとか言い給え、『沈黙の黒騎士』様」
悪戯っぽく笑う滴。
それは僕を指しているらしいあだ名。
確か高二の時に仕方なくやった劇の役だった気がする。
その時舞台に上がった僕を見て、女の子たちは悲鳴を上げたり泣いたりしていた。
……余程、役のイメージが崩れたんだろう。
あれは本当に申し訳ないことをした。
「…………はぁ」
ため息ばかりの毎日だ。