ユメノオワリ
初めまして。神堂蒼焔と申します。今回初投稿になります。作品自体は前に書いた内容を少しいじってから投稿しました。まだいろいろと至らない点などあると思いますがよろしくお願いします。何か感想、意見等ありましたら是非! 次の作品投稿はあると思いますが時期は未定です。
「夏恋、もうちょい離れて歩け」
暁は腕にしがみつく少女を無理やり剥がす。
「もう、どうしてくっついちゃダメなの?!」
少女は抗議の声を上げる。
「お前と一緒にするな。人間と妖怪は考え方が違うだろ」
暁はすぐに答えを返した。
「そんなことないもん。たいして変わらないもん」
夏恋は頬を膨らませている。そう、この少女、猫目夏恋は猫の妖怪、すなわち化け猫であることがつい昨日発覚したのだ。そしてこの少年、結城暁は昔から妖怪に好かれやすい体質だった。暁が妖怪の存在を知ったのは中学生に上がったばかりのとき。ちょうど人間が猫に変身してるところを登校中に見てしまったのだ。暁は疲れているだけだと思いその後もいつも通りの生活を送っていた。がそれから妖怪というものを目撃することが多くなった。もちろん最初は架空の生き物だと思っていたがこれだけ目の前に現れてしまっては……
そして昨日、路上で倒れていた白い猫を見て見ぬふりは出来ず家で看病していたらうっかりなのか、わざとなのか分からないが猫が暁の目の前で変身した……のが夏恋だったのだ。しかもクラスメートである。妖怪関係は慣れていたとはいえ、突然のことでびっくりしているところに妹の優愛が顔を出して来たと思ったら、「ね、猫の妖怪!」と飛びついていた。兄妹そろって猫が好きなのだがこれは何か違うと思わざるを得なかった。そしてあっという間に優愛も仲良くなったのである。ちなみに名前呼びなのは夏恋が呼んで欲しいとしつこいから。
「優愛が妖怪を信じてるとは思わなかったけどな……」
猫ならなんでもありなのか、という結論に至ったが。その後、優愛が張り切って作った料理を平らげて夏恋を送って帰らせた。
「なんで家の前にいるんだ……」
そして今、絶賛登校中なのである。
「だって一緒に行きたかったんだもん」
夏恋はくっつくことを諦めて隣を歩き出す。
「たいして喋ったことも無いクラスメートと?」
「それはこれから増やしていけばいいの。接点も出来たし」
夏恋は何やら嬉しそうだ。何かあったのだろうか。
「なんでそんなに嬉しそうなんだ?」
折角だから聞いてみた。
「んー? だって好きな人と一緒に登校出来るとは思ってなかったから」
「……え?」
「あーあ、言っちゃった……キャー、恥ずかしー!」
夏恋は紅く染まっている頬に手を当てて叫んでいる。
「……」
暁は喋れなかった。あまりに唐突すぎて。
「暁?」
夏恋が振り返ってきて顔を覗き込んできた。暁はとっさに顔を背ける、が遅かった。
「どうしたの? 顔赤いよ?」
「う、うるせーな。いきなりなんなんだよ」
暁は顔を背けたまま言い放った。
「何って、告白だけど」
「そうじゃねえよ。そんなに接点無かったのにどこに好きになる要素があったんだってことだよ」
暁が言うと、夏恋は少し考える素振りをして暁に背を向けた。
「覚えてないの?」
「何を?」
その言葉に。少し怒ったような表情で振り返ってきて言った。
「本当に覚えてないの?」
「覚えてるも何もお前と関わった記憶なんてないぞ」
クラスメートとはいえ、ほとんど関わりのない人間との記憶なんて曖昧なもの。暁は、それを嫌と言うほど知っている。
「人間の姿じゃなくて猫の方だよ。暁が中学入って間もないとき」
「……公園で倒れてた?」
昔のシーンが脳裏をよぎる。途端に夏恋の表情が明るくなる。
「そう! あのときお腹空いて倒れてる私を家で看病してくれたんだよ」
そういえばそんなこともあったような……今回もそんな感じだったよな……
「……お前一人暮らしか?」
夏恋はきょとんとしたがすぐに頷いた。
「あ、でも猫がいっぱいいるから」
そう言って夏恋は笑った。
「猫って、お前の仲間か?」
「うーん、仲間もいるけどほとんどが普通の猫かな」
「拾ってるのか?」
「うん、まあ。その表現は好きじゃないけど」
「……どうせバイト代とかも猫缶に費やされてるんだろ」
「う。だ、だって平気で猫捨てる人間がいるんだよ! ほっとけないもん!」
どうやら人間の行動に怒っているようだ。
「でも、暁みたいに優しい人間もいるし、この世界も悪くないかなって」
夏恋は真っ直ぐに暁の目を見つめてくる。目を逸らそうとも思ったが、それだとなんか負けた気がするので暁も真っ直ぐに見つめ返すことにする。
「……暁、顔真っ赤だよ? 大丈夫?」
夏恋はくすくす笑っている。なんだか楽しそうだ。
「お前な……まあ、いいや。今日暇か?」
唐突の切り返しに戸惑う。
「え? うん、大丈夫だけど?」
「買い物ついでに猫缶の安い店教えてやる。付き合え」
夏恋の足が止まる。暁は気にせず歩き続ける。
「……それってもしかして、デート?」
「んなわけあるか」
歩き続けたまま即答した。夏恋は駆け足で暁に追い着いた……が、そのまま抜かして振り返る。
「えーっ、つまんないっ! デートしよ!」
前に立つ夏恋の、その表情に。真剣さを紡いだ、その言葉に。
暁は可笑しくなって笑った。
「なっ、なんで笑うの!? わ、私変なこと言った……?」
暁の対応におろおろし始める夏恋。暁はひとしきり笑うと止めていた足を踏み出す。そして。
「なあ、夏恋」
慌ててついてくる夏恋に話しかける。
「何?」
「俺が猫好きになった時期って分かる?」
暁の問い掛けに。夏恋は首を横に振った。
「ううん、分かんない。いつなの?」
夏恋は聞いてきた。
「あれは四年前の春、中学に上がった頃の話だ」
暁は空を見上げて何かを思い出すように。
「あのとき看病した白い猫に一目惚れしたからだよ」
「……え?」
ポカーンとする夏恋に手を伸ばす。
「ほら、行くぞ」
暁は夏恋の手を取り、駆け出した。走る二人の頬は少し紅かった。