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だから私は婚きおくれ


《クリステ》大陸の西に位置する小国。


小さいこの国はとても寒い冬があること以外は小さいながらも恵まれた国だ。


森林に囲まれ、鉱物や、肥えた土地にクリステの人々は生かされていた。


そしてクリステは、とても濃度の高い魔力が渦巻く土地でもあった。


それは魔力を多く持つ者が多く生まれることを意味する。


特に王家にその恵みはもたらされた。


)を溺愛するあまり昨年フィリア達に何も言わず退位し、妻と末の王子を連れ世界津々浦々の旅に出た。


-------新婚旅行の埋め合わせだと言って。




供を付けずに旅立ったのは許せるが、後継者も決めず退位したのは許せない。


しかもトンズラをこいたのだ、父は。


おかげで城内、城下、国中が、世界中がパニックに陥った。


最終的には新たな王を決めるために成人した兄弟姉妹がくじ引きをして事なきを得たが。






そのカルタスの妻でありフィリア達の母でもあるマリアは正妃でありカルタス唯一の妻である。


美しく、全てに通じた賢妃と呼ばれていたが…この人はとんでもなく抜けていた。


何も無い所で転ぶ。


フィリアの姉、ルゥーシャを生むときは直前まで身ごもっていることに気付かなかった。


母の珍行動を並べ始めたらキリがない。


何度大丈夫かコイツと思ったことか。


世間の評判がこれ程ずれると笑うしかない。




両親を始めとしてフィリアの家族は王族として、人として、どこかおかしい人物が多い。


11人の兄弟姉妹は皆そうだ。



フィリアも他国へ行けばお転婆の婚き遅れ娘であるから、人のことはとやかく言えないのだけれども。


礼儀作法はその気になれば完璧であるし、教養は一通りそつなくこなせる。


容姿もとりわけ美人というわけではないが整っているし、童顔なのも相まって親しみやすい。







でもフィリアは結婚が出来ない。


クリステが恋愛結婚推奨国というのもある。


愛のない歪んだ家庭よりもましだといった風潮がある程度だけれど。


過去に愛のない婚姻をむすんだ家が潰れたあたりからそういった傾向がある。

よっぽどその家が酷かったのだろうなどとフィリアは思っている。


そうでなければ税さえ治めれば貴族が平民と結婚出来るなんてことがあるはず無い。


ここで勘違いしてはいけないのが、そういった結婚が法によって定められているわけではないことだ。


親族が何かしらの圧力を掛けることのないように王家がその婚姻にお墨付きをだす訳である。


その代わり愛人を持つ人は社会的に疎まれるが。


勿論そういった家には王家の間蝶が様子を見ているから成せるわざだが。


そんな国は珍しいだろう。


前王は身分関係なく自由に結婚出来る国をつくりたかったようだが。


そんな親を持つフィリアが政略結婚を強いられる訳が無かった。












ただ今思うとその方針は鬼の所業に思える。


王宮の奥にある黄薔薇宮で過ごした少女時代を思いだし、フィリアは遠い目をした。



彼処は軽く女の園だった。

舞踏会もあるにはあったが、度を越した美人の姉と並ぶのが嫌で避けていた。


そんなことをしていたら、人々の間にフィリアが病弱だという噂や、おいおいどこぞのお伽噺だといった美化された像があたかも本当のように信じられていた。


病弱って何。昨日も木登りして怒られたわよ!!


今日も兄様と手合わせしたわよ!?


それと私の容姿が絶世の美女な訳がない!!


ちょっと可愛いレベルでしかないのに…姉様の妹だからって美人とは限らないのよ…。


なんて言って回る訳にもいかないし、期待に応えられないのが申し訳なくなり、フィリアとしては更に出歩かなくなった。



(つまり城を抜け出して遊びに行くことは多々あった)


貴族の子女の一般教養であるダンスも楽器も刺繍も出来なかったこともある。


それでもそのお伽噺を信じた哀れな若者から花を贈られることもあった。


だがそれも十六の時の成人の儀で儚くも砕け散ったようだったが。


そしてこの成人の儀がフィリアの婚活にトドメをさしたのだ。










成人の儀で始めて公の場で素顔をさらしたフィリアはあれ?といった不思議そうな視線を受けながらも前を向いて進んだ。



これで心置きなく、良心に咎められることなく婚活が出来ると思っていた。










「フィリア・クリステリア」


神官の声が広大な広間に朗々と響く。


「はい」


込み上げる笑いのために震える声を必死に隠しながら、神官のありがたーい御話を聞き流していると、おかしな単語が混じっているのに気づく。


「---------魔力値五十億と桁違いの強さを持つ貴方が-----------」


今、おかしな数値が聞こえたような?


フィリアは内心、首を傾げた。


五十億て。


時の大賢者様が確か十二億だった。


うーわ私ったら軽く飛び越えちゃってる☆


聞き間違えだと判断したフィリアは脳内でふざけだした。


そのくらい異常な数値なのだ。


国民平均値が五万で、世界平均値が三万八千といわれているといえばこの異常さがお分かりになるだろうか。


成人の儀をするためには様々な数値を調べる為に十六になるとステータス画面が表示できる。


暇になってきたのもあり式中だが表示したフィリアは固まった。





_________________________


フィリア・クリステリア


16歳


女性


体力 15000


攻撃力 5000


魔力 5000000000


魔防 500000



特記事項


クリステの加護


王族の加護


約束


精霊の友






___________________________


何この魔法チート。


兵器レベルじゃないか、怖っ。


そう思ったフィリアは悪くない。


その反応は周りの方が顕著だった。


世界最強の嫁。


怖すぎる。


怒らせたら塵にされそうだ。


どんな鬼嫁だよ。



そう思われても仕方がない。


フィリアだって思う。


思うんだけども、ズザザザザザ…と音をたてて後ろに引くのはどうなのか。










クリステでは十六の成人になったら王族は皆、女でも国に仕え働かなくてはならない。


フィリアの場合はそりゃあこんだけの魔力があるなら魔道師になる。


でも真面目に修行してきた人の恨みが怖い。


必死にやってきた人と、お遊びでちらっとやってただけの人の差が約五十億。


うわ、むごい。



身分を隠して顔も隠して働こう。


幸い魔道師の制服はフードつきだった。


ちょっと強いだけの新人として働かせて貰おう。


出会いはもう諦めた。


結婚せずとも働けば食べていける。


仕事に生きよう。


齢十六の少女は一瞬にして枯れた。

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