だって穴が無いから
フィリアは油断していた。
そう、油断していたのだ。
この王宮の隅に位置する彼女の宮に向かってくる人影など知らずに…。
フィリアは呑気にも鼻歌を口ずさみながらくるくると回っていた。
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フィリアはとても機嫌が良かった。
今ならきっと大嫌いな芋虫を見つけてしまっても笑っていられるくらいには。
実は先程、とても辛口の侍女から滅多に無いデレを頂いたのだ。
喧嘩をしていた旦那と仲直りでもしたのか今日の彼女は雰囲気が柔らかかった。
はりつめていた糸がほっとゆるんだかのように。
それを自らのことのように笑う主を見て
ありがとうございますと小さく微笑んだ彼女はとても愛らしかった。
「アメリア可愛かったなぁー。」
元々、主従である前に幼い頃からの友なのだ。
それに彼女のデレは超貴重。
テンションはうなぎ登りだ。
くるくる。
くるくる。
くるくる。
いくらでも回れる。
一人であること、ここが滅多に人の来ない自分の宮であることも手伝ってフィリアはおおいにはしゃいでいた。
そんななか、庭木がガサガサと揺れた。
アメリアか、愛犬のケロベロスだろうとあたりをつけて彼女は気にも止めなかった
--------のを後に彼女は海の底より深く反省することとなる。
ガサッ。
身体中に葉っぱをまとわりつかせて、見覚えのある顔が現れた。
「え。」
嘘でしょう!!と許されるなら叫びたい。
がちり。
フィリアはまるで石のように固まった。
身体は一切動いてないのに回っていた反動でドレスの布が揺れた。
その上彼女の顔は驚愕に彩られたままピクリとも動かない為その光景はとてもシュールだ。
そんな彼女をよそにそのひとは、ちらりとフィリアを視界に入れると軽く一礼をしてまた駆け出していった。
歌いながら回っていたのを見られた。
そのショックで、彼が立ち去り暫くたってもフィリアは動くことを忘れていた。
…穴があったら埋まりたい。
むしろ穴を掘らせろ。