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背中合わせの女王  作者: 雲居瑞香
番外編(結婚後)
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フォジュト子爵【2】

フォジュト子爵の心の叫び(続き)をお楽しみください。








 大叔父オルシャーク大公に謀反の話を聞かされたダリミルは、胃の痛い日々を過ごしていた。筆頭宰相補佐官であるダリミルは、謀反計画を進めるにはうってつけの地位にいた。しかし、ダリミルは積極的に大叔父の計画に手を貸すことはなかった。それを問われれば「怪しまれるから積極的に動けない」と言い訳した。


 謀反計画と同時進行で、オルシャーク大公は地下賭博場を運営していた。謀反の為の資金を集めるためだ。そこでは人身売買が横行し、犯罪者や酒や薬の中毒者などが入り浸っていた。中には貴族もいるのだから始末に負えない。


 表だって女王に進言すれば、オルシャーク大公の目に留まる。オルシャーク大公は、すでにダリミルの両親に手をまわしていて、ダリミルが裏切れば両親と、もしかしたら姉たちも殺されるかもしれない。親類縁者であろうと、自分に反抗するものは許さない。オルシャーク大公はそんな人だった。


 そのため、ダリミルは市民からの意見文の形を取って、女王に現状を少しずつ知らせた。フィアラ大公邸に投函したこともあるが、何度かフィアラ大公ウルシュラがエルヴィーンと仲よさげに話しているのを見かけ、心が折れると思ってやめた。



 そして。女王エリシュカは臨時貴族議会を開くこととなった。地下賭博場のことに言及し、女王自らこれをつぶすと言った。これは、エリシュカからオルシャーク大公への宣戦布告であった。



 さて。ここで一つ問題が起こった。いつものように議場でエリシュカと言い争ったウルシュラが、単身、敵地と言える賭博場へ偵察に向かおうとしたのである。妙に行動力にとんだ女大公は、自分の眼で見て現状を確かめたいらしい。


 ダリミルは、オルシャーク大公から「そのまま行かせて、そこで捕らえろ」と指示された。賭博場にいるところを、彼女がその賭博場の出資者である、という証拠として現行犯逮捕するつもりなのだろう。


 ここでウルシュラを逮捕したら、謀反の犯人はだれにするのだろうか、と言う疑問は残るものの、ダリミルはオルシャーク大公の思い通りにならないように裏から手をまわすことにした。


 フィアラ大公の馬車と事故を起こせ。オルシャーク大公が雇った傭兵にそう指示した。しかし、直接彼らに命令したわけではなく、人を介しての命令であったため、どこかで行き違いがあったらしい。フィアラ大公の馬車が傭兵たちによって襲われた。


 フィアラ大公の馬車の後ろを、やはり馬車で突けていたダリミルは、あわててフィアラ大公の馬車に駆け寄り、頭を打った様子の彼女を救出した。本当は、彼女の馬車と接触事故でも起こし、簡単ないさかいでも起こしてほしかったのだが、説明が足りなかったようだ。


 傭兵たちはダリミルが連れていた護衛に散らされ、ダリミルは一度、宮殿に戻った。そこに、ウルシュラが襲撃されたという知らせを受けたらしいエリシュカが駆けつけてきた。もちろん、エルヴィーンも一緒で、ダリミルは彼にウルシュラを引き渡すこととなった。その際、



「……」

「……」



 エルヴィーンとにらみ合う、ということをしてしまい、「……何をにらみ合っているのですか、あなたたちは……」というツッコミをエリシュカから頂くことになった。


 何となく体よく追い払われたような気がしたが、とりあえずダリミルは、視察に行くと言って宮殿を出たので、再び宮殿を出て本当に視察に向かった。


 もちろん、後からオルシャーク大公に怒鳴られたが、当初の計画からそれてはいないので、それ以上問い詰められることはなかった。







 そして、ついに謀反決行の日が訪れた。その日、ウルシュラは休日で、エリシュカも午後から王都郊外の孤児院へと視察に向かう。


 宮殿が空になった。残っているのは、バシュタ公爵だけ。ダリミルはバシュタ公爵を拘束する役目についていた。その後は、いつも通り政務をおこなう。


 役目通り、ダリミルはバシュタ公爵を拘束した。


「すみません。宰相。しばらく待っていてください。必ず、出して差し上げますから」

「別にでなくてもいいんだがな」


 いつもあまりやる気のないバシュタ公爵はそうのたまった。彼を連れて行ったのは、貴人拘束用の地下牢だ。貴人用のため、ベッドやシャワー室完備のなかなか住み心地のよさそうな部屋である。


 バシュタ公爵を拘束した後、ダリミルはいつも通りに仕事を続けた。ある意味、地下牢にいるバシュタ公爵は安全なはずだ。


 貴族たちの前で宣戦布告をしたエリシュカが、この状況に対して何の対策も取っていないはずがない。なんだかんだで女王と仲の良いフィアラ大公も女王に同調するだろう。


 あの2人は聡明だ。見ていて気が付いたが、あの2人は、互いに互いの足りないところを補っている。だからこそ、あの2人が一緒になると、強い。


 ダリミルは、これはオルシャーク大公にとって負け戦だと考えていた。







 果たして、ダリミルの読みは当たっていた。オルシャーク大公のもくろみは潰え、エリシュカが勝った。ダリミルがバシュタ公爵を迎えに行くと、すでに彼はエリシュカの兄マクシムに助けられた後だった。つくづくタイミングの悪い男、ダリミル。


 まあ、助かったならいいだろう。何食わぬ顔で謀反の後始末をしていたダリミルだが、女王に呼び出されて執務室に向かった。そこにはエリシュカをはじめ、先代女王シルヴィエ、先々代女王ヘルミーナがいた。


 ばれているだろうと覚悟はしていたが、地下賭博場や行方不明者、謀反計画などの情報を流していたのはダリミルである、とエリシュカは気づいていた。


 何故、親類であるオルシャーク大公に逆らってまで情報提供を行ったのか聞かれた際、思わずウルシュラへの愛を語ってしまった。彼女に引かれた。自分でも愛が重い自覚はある……。



 だが、目の前で目下のところ彼女の婚約者(候補)となっている男にすがられた時は、ショックで死ねると思った。



 絶望感を体中から発していたせいだろうか。謀反計画に参加していたのは確かなので、よくて終身刑か身分剥奪だと思ったのだが、どうやら配置換えで済まされた。


 しかし、その配置換えがとんでもなかった。オルシャーク大公が処分を受けたことで空になった内務省長官のポストに送られたのである。


 同時に官吏の大異動が行われ、フィアラ大公ウルシュラが副宰相となった。適任ではあると思うが、いかんせん、彼女は若すぎやしないだろうか。あ、彼女のことを考えていたら、悲しくなってきた……。彼女はエルヴィーンと婚約したばかりなのである。


 そして、問題は自分もである。今までいた宰相補佐官と言う地位は、ほかの補佐官たちのなかにも平民出身者がいて、官僚試験を突破してきたエリートが多かった。しかし、内務省は貴族特権・縁故により官職をもらったものが多い。つまり、貴族としてのプライドが異様に高いのである。


 内務省長官と言う地位は慣例として、八つの大公・公爵家の当主がつくことが多い。しかし、ダリミルはしがない子爵でしかない。当然、反発を買った。


 同じく、若い副宰相として苦労中のウルシュラに助けてもらい、二重の意味で心が折れそうになりつつも何とか政務をこなし、春が来た。


 ダリミルのもとにも、ウルシュラとエルヴィーンの結婚式の招待状は来た。しかし、彼は行かなかった。花嫁姿のウルシュラは見たかったが、ウエディングドレスに身を包んだ彼女がほかの男と結婚すると思うと、立ち直れなくなりそうだった。だから、行かなかった。


 結婚の話は己にも降り注いだ。今年29歳になるダリミルなのだが、そろそろ結婚しなさい、と両親にも姉にも言われた。ここまではっきり言われては、姉の子供を養子に取る、と言う最終手段は使えなさそうだ。


 と言うわけで、早速お見合いが設置された。場所はニェメチェク公爵家。侯爵の直系の孫娘ミヒャエラとの縁談が持ち上がっていた。年はダリミルより8歳年下なので、21歳になるのだろう。ちなみに、彼女の一つ年上の兄ラディムは、女王の近衛騎士をしている。


 ミヒャエラはめったに社交界に出てこない変わった令嬢だ。そのため、これまでも縁談を断られているらしいが、女王、フィアラ大公など、変わった女性に耐性のあるダリミルは、変人であることをあまり問題にしなかった。


 問題は、自分がウルシュラへの未練を振り切れるかである。


 ミヒャエラは可愛らしい女性だった。20歳を越えている女性にこの呼び方は正しいとは思えないが、少女のようだった。大きな淡い紫の瞳をしており、おとなしそうだ。



 しかし、そのおとなしそうな外見からは想像できない、変わった令嬢だった。



 とりあえず、自己紹介を含めてあいさつをしたのだが、ミヒャエラは口を開いたかと思うと、言った。




「風のいたずらに花は歌う。時を告げる鐘に合わせて、動物たちはステップを踏むの」

「……」




 いや、確かに教会の鐘は鳴っているけど。思わず沈黙してしまったダリミルだが、とりあえず話を続けようと思い、ひきつる顔に笑みを浮かべた。


「あー。独創的な詩ですね?」

「……」


 ミヒャエラはまっすぐにダリミルを見つめた。じっと見られ、ダリミルはたじろぐ。


「そう言えば、ミヒャエラ嬢は、女王陛下やフィアラ大公とともに、女王候補だったのですよね」


 とりあえず、会話を自分が理解できる領域に持って行くべく話を逸らした。ダリミルの問いにミヒャエラはふわりと微笑んだ。あ、ちょっとかわいい。


「エリシュカとウルシュラは、友達。2人とも優しいから、そう言ってくれるの」

「……いえ。おそらくお2人は、本心からおっしゃっていると思いますが」


 正直に言おう。変人同士、お似合いである。類は友を呼ぶというのは事実だったらしい。


「……フォジュト子爵も、優しい方ですね」


 心の中で結構失礼なことを考えていたにもかかわらず、優しい、と言われてダリミルは戸惑った。だが。



 この子とは、気は合うかもしれない。直感的にそう思った。








ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


物語上、彼はかなり割を食っているので、幸せになれるといいですね。


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