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背中合わせの女王  作者: 雲居瑞香
第5章
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星空のノクターン【9】

今回は説明回です







 とりあえず、反乱に加わった者はすべて縄をかけ牢屋に放り込んでおくことにした。彼らを捕まえる前に、反乱に参加しなかった、女王を崇拝する軍人や騎士たちを解放する方が先だったか。もちろん、ヘルベルトには魔法封じの手錠をかけて牢屋に放り込んである。


「それで、ウルシュラ。その髪はなんですか。どうしたのですか?」

「えっ? あー……切りました」


 向かい合って早々、聞かれたことが自分の髪形についてだったウルシュラは驚いた様子だった。確かに、だれもが反乱についての質問が来ると思った。


 ここは女王の執務室だ。反乱の後始末はバシュタ公爵と、宮殿の中でせっせと反乱に加担したものをあぶりだしていたフォジュト子爵に任せ、エリシュカ、ウルシュラ、ヘルミーナ、シルヴィエは女王の執務室に来ていた。その前に、薄汚れていたエリシュカとウルシュラは着替えており、ウルシュラもドレス姿に戻っていた。


「そうですか……淑女たるもの、慎みを持たねばなりません。その髪の長さは貴族の女性らしからぬものですよ」

「わ、わかっています。すみません」

「謝るのなら、最初からやらなければいいのです」

「……はい」


 うん。相変わらずウルシュラは祖母の前だと別人だ。借りてきた猫のよう、と表現してもいい。


 エリシュカ誘拐の現場にいたラディムとカレル、そしていつの間にか巻き込まれていたエルヴィーンは護衛として女王たちと同じ部屋にいた。

「そんなこと言わなくてもいいじゃないですか、ヘルミーナ様。ウルシュラさん、その髪型、かわいいわよ」

「あ、ありがとうございます……」

 先々代女王からは注意が飛び、先代女王からほめられ、ウルシュラは居心地悪そうに身じろぐ。まあ、気持ちはわかる。


「それで、順を追って説明していただけますか? 私は孫娘から『助けに来てくれ』としか伝言を受け取っていませんから」


 ウルシュラに視線が集まった。ウルシュラは微笑もうとして、失敗した。顔が思いっきりひきつっている。それを横目で見つつ、エリシュカが説明を始めた。



「ええっと。まず、わたくしとウルシュラは、初めから一緒に謀反の対策を立てていたわけではないんです」

「!?」

「へえ」

「そうなのですか」



 驚いたのは3人の護衛である。比較的聡いカレルでさえ驚いているのだから、それくらい、エリシュカとウルシュラの行動は計画的だったのだろう。


「そうなんです。事前に謀反計画の情報はつかんでいましたから、とりあえず、謀反阻止が2人の間で決まったんです。でも、2人でこそこそ計画を立てていれば怪しまれると思ったんです。もともと、ウルシュラは立場があまりよくありませんから、怪しまれるような行為は避けるべきだと考えました。最低限の情報交換は、念写本で行っていましたから、やることがかぶることはありませんでした」


 念写本、と言うのはエリシュカとウルシュラが連絡を取るために使用している日記帳のような本の事である。それはついになっていて、一つはエリシュカが、もう一つはウルシュラが持っている。一方が念写本に何か書くと、それがもう一方の念写本に浮き出る、と言う魔法道具の一種だ。魔法が衰退しつつある現代では、かなり珍しいものである。


「そうしているうちに、地下賭博場で人身売買が行われている、と言う話を耳にしました。おそらく、謀反の関係者、つまりオルシャーク大公ですけど、彼が関わっている、と考え、情報が入ってきた時点で緊急議会を開き、地下賭博場を女王命令で一斉検挙する、と告げたんです」


 その時点で、エリシュカはそこまで読んでいたのか。相変わらずの慧眼に恐れ入る。


「この国では、後ろ盾となる貴族がいれば、賭博を許可しています。実際、取り締まれないだけなのですが……しかし、法外の賭博場を検挙するとなれば、その賭博場の責任者となっている貴族があせる、と思ったんです。オルシャーク大公が直接後ろ盾となっていたとは思えませんが、彼が人身売買に関わっていたこともわかっていたので、焦って謀反を速めるのではないか、と考えたのです」


 それで、実際に謀反が早まったのか。すべて、エリシュカの手の上だったということである。ちなみに、偵察に行こうとしたウルシュラを止めた時の喧嘩は、本気の喧嘩だったらしい。


「わたくしは、事前に宰相であるバシュタ公爵に、オルシャーク大公に謀反の疑いで拘束されたら、おとなしく従うように指示していました。オルシャーク大公の罪状は、全て兄のマクシムが管理してくれています」

「わたくしのもとへも、いくらか証拠書類が送られてきています。分散しましたか。賢い方法です」


 ヘルミーナがテーブルに置いた分厚い封書をたたきながら言った。これをヘルミーナに送ったのはウルシュラだろう。少々疎遠とはいえ、孫が祖母に手紙を送ることは不自然ではない。


「ほかの、謀反に関わっていないと思われる省庁の長官たちにも、謀反に反対しなくてもいいから、賛成もしないでくれ、と釘を刺しておきました。その後、タイミングよく孤児院への慰問を頼まれたので、馬車に乗って出かけたのですが、誘拐されてしまいました」


 大事なところが省かれている気がする。エルヴィーンはそう思ったが、エリシュカの代わりにカレルが説明を始めた。


「護衛は5人でした。少ないかとも思いましたが、多すぎても人目を引くかと思いまして。私とラディムもそのメンバーの1人でした。王都の外れまで来たときに、護衛の一人であるサムエルが突然、馬車の馬を切りつけ、御者を殺したのです。あわてて止めようとしたのですが、何分、唐突なことで……そこに彼の……と言うか、オルシャーク大公の手下ですね。男たちがやってきて、私たちは情けないことに、数の違いで負けてしまいまして、女王陛下を誘拐されてしまったのです。おひとりにしてはいけない、と思い、私はついて行かせていただきましたが」


「彼らは周到に魔術が効かない牢獄タイプの馬車を用意していたんです。おかげで、中から開かなくて……しばらくしたら、ウルシュラが助けてくれましたが」


 エリシュカがちらっとウルシュラを見る。説明役がエリシュカからウルシュラに移った。


「私がおこなっていたことは、大体ご存知かと思います。私は、とにかく先々代女王陛下のお力をお借りしようと思って、その証拠書類を送付していました」


 ウルシュラがヘルミーナの前の封筒を示した。ヘルミーナがうなずく。

「そのようですね。頼ってくれてうれしかったですよ」

 そう言われて、ウルシュラは何ともいない表情になったが、すぐに説明を再開した。


「私は、謀反が起これば犯人役に仕立て上げられる可能性が高いと思っていました。何しろ、前科がありますし……。とにかく、自分が犯人に仕立て上げられないように、エリシュカ……女王を護るように人員を手配することにしました」


 バシュタ公爵はマクシムが何とかする。だとしたら、問題は女王陛下が誘拐された時。それと、彼女が宮殿にいるときに謀反が起こった場合。結局、どちらも起こったけど。

「まず、誘拐された時のために、女王には発信機を付けさせていただきました」

「発信機?」

 シルヴィエが首をかしげた。エリシュカが首元からネックレスを取り出す。金の鎖に赤い石が付いただけのものだが、魔法道具らしい。


「この石を90度まわすと、特殊な魔力の波動が放出されるそうです。まあ、魔力のある人にしか使えないのですが……ウルシュラはその波動を追って、わたくしを見つけてくれたそうです」


 ニコッと笑ってエリシュカが説明してくれた。ウルシュラが迷いなく馬を進めていた理由はそれか。最も、ネックレスをしている人には魔力、魔力の波動を追う人には知覚系魔法がなければ使えない方法らしいが。もし、誘拐されたのがウルシュラだったら、エリシュカには見つけられなかったそうだ。知覚魔法がないから。


「できれば、地下賭博場に乗り込んで、謀反が起こる前に止められる証拠でも見つけたかったんですけど、女王に止められまして」


 ウルシュラが恨みがましくエリシュカを睨んだが、女王はケロッとした顔で温かい紅茶を飲んでいた。

「仕方がないので、裏工作を行っていました。ヘルベルトには国境の警備を任せたはずなんですが、戻ってきていました。誤算です」

 どうやら、大まかな作戦を決めたのはエリシュカで、その作戦を実行レベルまで持って行ったのがウルシュラらしい。彼女の話しから、彼女がどれだけ裏工作に奔走していたかわかる。


「オルシャーク大公が女王も私も宮殿にいない時を狙って蜂起することはわかっていましたから、私が宮殿を出る前には、うちの部署の官吏や叔父たちに細かい指示を出しておきました。それで、昨日、ちょうど女王が孤児院に向かったと聞いて、そろそろだな、と思いまして……」

「わたくしのもとに『助けてくれ』という手紙を送ったのですね」

「……そう言うことです」


 ヘルミーナの締めに、ウルシュラがうなずいた。助けを求めたことは否定しないらしい、まあ、実際に助けを求めたのだが。


 ウルシュラはヘルミーナが来たときに「遅いです!」と言っていたが、あの時間を指定したのは彼女らしい。バシュタ公爵が出てくる時間を指定したのもウルシュラだ。つまり、時間稼ぎをしている、と感じたあの時のエルヴィーンは間違っていなかったということだ。


「とりあえず、宮殿で混乱が起こった時のために、軍に所属しているツィリルに近衛騎士団に潜入するように頼んでおいたんです。オルシャーク大公なら、女王の身近なところから切り崩していくだろうと思って。それで、ツィリルにもオルシャーク大公の近く、と言うか、人質に取られた女王の近くにいられるようにしてもらいました」


 ツィリル・ヴァツィークはイルコフスキー男爵の次男。つまり、ウルシュラの従弟で、ヘルミーナの孫である。騎士学校を卒業したばかりで、何故か海軍に入った変わり者。今、レドヴィナの海は凍っているので、海軍所属の彼はたまたま王都に帰ってきていたらしい。それで従姉の謀反対策に巻き込まれた。ちょっと不憫である。


 それからいくつかヘルミーナやシルヴィエから質問があったが、大体の疑問は解消されたようだ。


 ちなみに、ヴェセルスキー公爵別邸を無断使用したことをシルヴィエに告げると、彼女は笑って「あなたたちの役に立てたなら、兄も本望でしょう」と答えた。強い。


 その別邸においてきたサムエルだが、朝のうちにウルシュラの私兵が回収していたようで、牢屋に放り込んだ、と言う報告があった。他の私兵はそのままヘルミーナを迎えに行ったらしい。すでに、ウルシュラの私兵は私兵のレベルを越えている気がする。


 そこまで思い出して、エルヴィーンはふと思った。先代女王シルヴィエは、矢を放って拮抗状態(若干ウルシュラが押されていた)の魔法戦を止めた。熱魔法と冷却魔法がぶつかり合っていたのを爆発させて。あれは、どういう仕組みだったんだろう。


 どうやら、エリシュカも同じことを思ったようで、彼女が尋ねていた。それにエルヴィーンも耳を傾ける。


「ああ、簡単よ。矢の先に魔力を集中して、魔法の中心を射抜いただけ」


 どうやら、魔法には核となる部分があるらしく、その部分を壊すと魔法は自動的に止まるらしい。あの時、シルヴィエが撃ちぬいたのはヘルベルトの熱魔法だったそうだ。ウルシュラが押されていたためだろう。そのため、残留熱とウルシュラの冷却魔法がいい具合に化学変化を起こして爆発。力を加えている側のウルシュラが吹き飛ばされそうになった、と言うことらしい。





 これは、文句を言ってもいいのだろうか?







ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


上手く説明できていない気がするので、そのうち書き直すかも…。

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